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第7話 ダブルネックタートル

  木の影から出てきた魔物がダブルネックタートルでない事はすぐにわかった。


  二足歩行に大きな斧、筋肉質な体に2本のツノ。鎧を纏った人体に牛の頭。ギリシャ神話に出てくるミノタウロスと特徴がそっくりだ。


  「この状況…大丈夫なのか?」


  頭の中ではそう思いつつも、俺の足はその場から離れることを許さなかった。


  体が熱い。血が騒ぐこの感覚、怒りの感情なのか?しかし俺は何に対して腹を立てているのだ…


  獲物を狙うかのようにゆっくり近付くミノタウロス。しかし、その巨体は隠密に向いている訳もなく、体が木の枝に当たる度に揺れる音が森に響く。次第にダブルネックタートルもミノタウロスの存在に気付き戦闘態勢をとる。


  ギュルギュル!


  聞いたことも無い音で先に威嚇をしたのはダブルネックタートルだ。甲羅から伸びる2つの顔はそれぞれ鋭利な牙を持っており、噛む真似をしながら威嚇をしている。

 だが、ミノタウロスはそんなのお構いなくゆっくりと近付く。次第にダブルネックタートルが威嚇をしながら少しずつ後ずさり始めた。

 それは抗うことの出来ない自然の摂理。ミノタウロスの方が格上であることを表していた。


  ゆっくりと、まるで弱者を弄ぶかのように斧を振りかぶるミノタウロスは、刹那の瞬間と言っても過言ではないスピードでダブルネックタートルの首を切り落とした。あの巨体の首が一刀両断、断面が綺麗に見えるほどの見事な切り口だった。

 

  威嚇をする以外は全く抵抗のしなかったダブルネックタートル、恐れて何も出来なかったのか、はたまた勝ち目がないから諦めていたのだろうか。だが、そんな事はどうでもいい。今、俺の目の前に広がる光景はミノタウロスが一撃でダブルネックタートルを仕留めたという現実だ。


  あんな魔物に太刀打ちできるはずがない。


  頭では分かっているが、何故か体は言うことを聞かない。ここにいたら危ないのに動くことが出来ない。体が震えているが、これは恐怖ではない。武者震いだ。自分の体の事は自分が良く理解しているつもりだ。それなのに俺の体のコンディションは、戦うのに絶好の状態になっていると感じる。剣を使って戦ったことは無いが、最高の戦いが出来るという自信がどこかから溢れ出てくる。だが、頭の中は逃げることでいっぱいだ。


  そんな俺が、踏み出した一歩は…

 ミノタウロスのいる方向だった。


  俺が茂みから出ると同時に揺れる草木の音でミノタウロスにこちらの存在を気付かれてしまった。


  人間が好物なのだろうか。先程よりも殺気に満ち溢れた雰囲気が溢れ出ている。


  もう一歩前に出たら確実に殺られる。本能までもが警告を出すが、体は言うことを聞かない。


  カサッ…


  俺の足が全ての警告を無視して一歩前に踏み出した瞬間、ミノタウロスが思いもよらぬ速度で駆け寄ってきた。


  確実に俺を仕留めれる間合いに入ったのだろうか、なんの躊躇いもなく振り下ろす斧のスピードは先程の比ではない。

 到底、俺の目では追うことの出来ないスピードの斧をどういった訳か、手持ちの剣で受け流した。

 力の籠った一振を、鮮やかに、全ての威力を地面に向けた。


  斧が突き刺さった地面の周囲には地割れが発生する。


  これは俺の動きじゃない!


  「ちっ、外したか」

  「え!喋った?」


  ミノタウロスのボソッと呟いた一言に俺は反応した。


  「なんだ人間。この我と会話が出来るのか?」


  目を光らせる程興味を持ったミノタウロスは攻撃の手を止めた。


  「なんだ、気のせいか?」

  「いや、しっかりと聞こえているぞ」

  「…貴様要件はなんだ。何故我の前に姿を現した。あのまま木陰に隠れていれば見逃してやったものを」


  コイツ、隠れている俺に気付いていたのか。なんと答えればいいのだ…


  既にミノタウロスの気迫に押されていた俺は言葉が出なかった。


  「もしや、我を討伐しに来たのではないだろうな?」


  俺は全力で首を振った。


  「なんだ違うのか。久しぶりに強者に会えたと思ったのにな」

  「いや、俺は今日冒険者になったばかりの新人だが…」

  「何だそれは?俺をバカにしてるのか?それなら先の剣術はどう説明するつもりなのだ?」

  「それは勝手に体が動いていただけで…」

  「…嘘は、なさそうだな。とりあえず今回は貴様の言葉を信じよう。さて、ここで一つ提案があるのだがな、」

  「断ったらどうなる?」

  「殺す」

 

  ミノタウロスの殺気は本物だ。それに生き物を殺すことになんの躊躇いもないあの様子なら、断ったら本当に殺られそうだな。


  「わかった、話を聞こう」

  「俺は魔物の住みやすい世界を作りたいと思っている。それは人間の絶滅ではなく、共存という形で成し遂げる。。それには貴様のような魔物と会話の出来る者の協力が必要不可欠だ。詳しい計画は後で話すとして、どうだ?協力するか否か」


  もちろん俺に拒否権はない。それにミノタウロスの言っていることは人間にとってもメリットはある。計画が気になるが、とりあえずここは話に乗っておこう。

 

  「わかった協力しよう。それで俺は何をすればいいのだ?」

  「まずは協力の証としてこれを飲んでもらう」


  ミノタウロスは鎧の中から赤色の玉を取り出した。大きさはビー玉ぐらいだろう。


  「これは裏切りの紅血(こうけつ)と言ってな、飲むと対象者の血液に混ざり裏切りをさせないようにするアイテムだ」

 

  明らかにヤバいやつだ。大体血に混ざるとか即死案件だろ。


  「ちなみに裏切るとどうなるのだ?」

  「裏切った場合は血が鋼鉄の針になり全身を串刺しにする」


  なんていうエグいアイテムなんだよ!これ用済みになったら絶対トドメ刺すやつだろ。


  「ちなみに飲むのを拒んだら…」

  「殺す」


  即答か。仕方ない、舌の裏か歯茎辺りに隠してやり過ごすとしよう。


  俺はミノタウロスから裏切りの紅血を受け取ると、間違っても飲み込まないように、慎重に、口へ運んだ。


  シュワ〜

 

  何かが溶ける音がした。


  「な、なんだこれは!」

  「人間は姑息な生き物だからな。飲み込むふりをする奴の対策として口に入れた瞬間、カプセルが唾液で溶けるようにしてあるのさ。どうだ今の気分は?」


  最悪だ。ミノタウロスの方が一枚上手だったようだ。人間の姑息さ、ずる賢さをよく理解した上で避けられない方法を考えたんだ。


  俺の体を巡る血は徐々に何者かに侵食されていった。


  「…体が熱い」

  「そろそろ効いてきたか?」

  「なんだこれ!心臓が破裂しそう…」

  「悪いな人間よ。貴様が今飲んだ血は人間を魔物化させる代物だ。主成分は我らが主『オーガロード』様の血を使用しているからどう足掻いても助かる道はない」


  くそっ!なんでいきなりこんな事になるんだ!熱い!溶けそうな程熱い!!

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