第6話 エクストラスキル
衝撃的な情報をみた案内人は迷った末に、この情報を秘匿することにした。
一方、カイトが向かったギルドの広場ではクレアが多くの冒険者に囲まれていた。
「あ!カイトさん!」
俺を見たクレアは冒険者との会話を中断してこちらに駆け寄ってた。
「検査の方はどうでしたか?」
「順調に終わったよ」
「それは良かったです」
彼女は何故か安堵した表情を見せた。
「よおっ!新人」
クレアから冒険者カードの検査を受けたと聞いた冒険者の1人、ローガンがカイトに話しかけた。
見上げるほどの巨体に力強い眼力。装備は特に身につけてないが、古強者のオーラが出ていた。
「俺は金ランクの冒険者、ローガンだ。クレアから話は聞いている。ここまで彼女を護衛してくれたらしいな。礼を言っておきたいと思ってな」
そう言うとローガンは、ポケットから銀色の硬貨を10枚ほど出した。
「こ、これは…」
「なんだお前、これだけじゃ不満だったか?」
「い、いえ。心遣い感謝します」
「なんだ、偉く真面目な奴なんだな。それじゃついでに一つだけ為になる事を教えといてやる」
ローガンはギルドの受付横に貼られている貼り紙を指さした。
「あそこに貼られているのは依頼書だ。あれを受付の嬢ちゃんに持っていけばクエストが受託される。討伐系の依頼なら敵を仕留めた時点で冒険者カードに記録されるからそれを確認すると良いだろう。パーティでクエストをやる時は、全員で受託を受ければ誰が敵を倒してもカウントされるから覚えておくといいぞ」
一つだけと言いながら色々と教えてくれたローガン。歴戦の冒険者としての務めなのか、それともただ親切なのか、ローガンは要件を言い終えるとギルドから出ていった。
「あの人、あの見た目だからよく勘違いされるんですけど根はすごく良い人なんですよ」
どうやらただの親切な人だったようだな。いつか一緒にクエストやってみたいな。
「カイトさんお待たせしました!」
ローガンと入れ違いで案内人がクエストの依頼書を持ってきた。
「カイトさんの能力ならこのクエストが最適です」
「最近森での目撃情報が多発するダブルネックタートルの討伐?」
「本来、ダブルネックタートルは海や湖に生息しているのですが、繁殖時期になると餌を求め森に出ることがあるのです」
「繁殖時期にってことは、毎年の事だと思うのですが対策とかされてないのですか?」
「ダブルネックタートルは単体で行動する習性があるので、数匹森にいる程度なら問題ないのですが、今年は集団で活動している目撃情報がありまして、森へ採取に行ったり、近くを通る人々が怯えているみたいなので、このようなクエストが依頼されたのでしょう」
「他の人は受けないのですか?」
「実は、報酬効率があまり良くないので受ける人がまだ決まってないんです」
俺は報酬の欄に目を向けると、銅貨30枚と書いてあった。
ん〜、価値がよく分からないな…
「お兄ちゃん何見てるの?」
突然近くを通った10歳ぐらいの少女が声をかけてきた。
どうでもいい事なのだが、俺は子供が苦手だ。自制心の欠けている子供は何をやりだすか分からない。まだ落ち着いている子は良いが、急に泣き出す子や無駄にテンションが高い子など悪魔の子に見える。ってか、親もしっかり抑えとけよって思う。
だから、俺はこの少女の言葉が聞こえなかったフリをして依頼書をまじまじと見つめた。
「どれどれ〜、銅貨30枚?」
やはりこいつもまだ自制心が欠如しているか。
俺は鬱陶しいと思ったが、問題を起こす訳にもいかない。それにここで手を出したら俺も自制心のなっていない餓鬼と思われる。それだけは避けないといけない。
だが、この少女はここで思わぬ発言をした。
「リリカね、この前お金について習ったんだよ!確か、銅貨が100枚で銀貨1枚になって、銀貨1000枚で金貨になるって習ったんだよ!どう?偉いでしょ!」
ナイス!リリカ!!
子供が苦手な俺だが、ここは心の底から感謝する事にした。いや、感謝させていただきます。
「偉いね〜お嬢ちゃん」
そういって少女の頭を撫でると、満足気な表情で走っていった。
あ、でも銅貨1枚がどれぐらいの価値か分からないな…
結局答えの分からなかった俺だが、折角オススメされた依頼なのでとりあえず受けてみることにした。
「ありがとうございます!それではダブルネックタートルの討伐依頼を受託致します」
案内人は受付嬢に依頼書を渡すと、大きい業務用のハンコを依頼書に押した。その瞬間、俺の冒険者カードが光を帯びた。時間にして10秒ほどだっただろうか。俺は慌てて冒険者カードを服のポケットから取り出したが、特に変わった点は無かった。
そういえば、クエストの進行状況とかどうやってみるのだろう?
冒険者カードの使い方が全く分からない俺は表面、裏面を見たり、スマホみたいにタッチしてみたが、特に反応はなかった。
「冒険者カードは魔力を込めないと反応しないですよ」
受付嬢はニコリと微笑みながら教えてくれた。
「そうでしたか!ありがとうございます!!」
チクショォォォ!魔力の込め方が分からない!!
と言う気持ちはそっと心の中にしまった。聞きたいのは山々なんだが、18歳の冒険者がそんな初歩的な事を聞いてもいいのか悩みどころだ。変に疑われたりするのもアレなのでここは本でも読んで学ぶとしよう。
「それではカイトさん最後に1つ、このクエストの期限は特にないのですが、繁殖時期が過ぎると依頼をキャンセルされる事もありますので早めに討伐する事をオススメします」
俺は案内人のアドバイスを受けてギルドを出た。
クレアは村の任務を終えたので、ギルドの人に護衛をしてもらいながら帰るそうだ。
「それではここでお別れですね」
「はい。あの時は本当に助かりました!また何処かでお会いしたらお礼させてください」
「礼はさっき頂いたので大丈夫ですよ」
「いえ、それでは私の気が収まらないのです!」
「わかりました。それじゃ次合った時にはご飯をご馳走してもらいますね」
「はい!楽しみにしてます!」
そう言うと彼女はギルドの人と街を出ていった。
…とりあえず武器と防具揃えるか。
俺は目に付いた武具屋に立ち寄った。
「いらっしゃいませ」
店内は思ったよりも広かった。コンビニぐらいの広さはあるだろうか。鍛冶師が居ないとこを見ると、どうやら搬入した商品を並べて売っているようだ。
俺は店員に軽く会釈すると近くの剣を見た。
乱雑に置かれている剣は銀貨1枚か。横のショーケースは…銀貨30枚!?高い!良い剣なのだろうか。とにかく剣の価値など全く分からない俺は一番安い剣を手に持った。
「お客様〜」
呼んでもないのに店員が近寄ってきた。
「お客様ご予算は幾らぐらいでしょうか?」
なんだこの失礼な店員は。
「とりあえず安いのを1本買おうと思っているだけです」
素っ気ない態度で反応した。ちなみに防具は一式で銀貨15枚するので買うことは出来ない。
「ちなみにあちらの新作は〜」
なんだ?押し売りか?悪いが俺は節約家だからな、そんな話には乗らんぞ!
「この剣で大丈夫です。お会計お願いします」
少し表情が歪んだ店員。しかしすぐ気を取り直して会計をした。
「それではこちらの剣1本で銀貨3枚です!」
「は?銀貨1枚じゃねぇのか?」
しまった。つい思ったことが口に出てしまった。
「あぁ〜、お客さんその価格は冒険者価格なので、一般の方は3倍の料金になるんですよ〜」
あからさまなぼったくりだ。特に表記されている訳でもないのに店員は慣れた感じで対応している。
「これで良いですよね!」
胸糞悪く感じた俺は冒険者カードを店員に見せつけ銀貨を1枚だけ渡した。
「チッ」
こいつ!舌打ちしやがった
「はい、冒険者カードは本物でしたので銀貨1枚で大丈夫です。またのお越しをお待ちしてます」
誰が二度とこんな店に来るか!
と心の中で思いながら俺は店を出ていった。
「はぁ〜、気分が悪いな。今日は初日だし、とりあえずダブルネックタートルって魔物の様子だけでも見に行くか」
俺は森へ向かうことにした。
出る時は普通に通してくれるんだな。
入る時はうるさかった門番も、出る時は特に目を合わせることなく通してくれた。
「ダブルネックタートルは森の反対側の湖に生息しているから奥まで行かんとあかんのか〜」
森に入って20分ほど歩くと、ようやく1匹目の魔物を発見した。
「木の実を食べているあの魔物…四足歩行で背中に甲羅、そして2本の頭、間違えなくダブルネックタートルだ!」
それにしても…ちょっと大きくないか
亀の魔物を想像していた俺は、大きくても1m程度だと思っていたが、あの巨体は少なくとも甲羅だけで2mはあるだろう。亀なのに何故か伸びる首は、木の上になっている木の実に届くほど長い。
あんなのどうやって倒すんだよ…
巨体を前になすすべのないカイト。今日は一旦引こうと振り返った瞬間、ダブルネックタートルの奥の茂みからもう1匹別の魔物が出てきた。
読んで頂きありがとうございます!
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