第4話 ギルド
「さて!暗い顔はここまで!カイトさんここが冒険者ギルドです!」
ここに来るまでの道のりで気持ちを入れ替えたのだろうか。まるで先程までの神妙な面持ちが嘘だったかのように彼女は笑った。
しかし俺はモヤモヤした気持ちをまだ整理しきれていなかった。
少し引きつった笑顔で彼女に返すと、
「そんな顔じゃ駄目ですよ!ギルドに入る時はもっと、こう!テンションを上げて!」
なんだ!ギルドとはそんなにやばい所なのか。
先程の門番の態度や、彼女の行動を見ている俺は猛烈な嫌悪感に襲われた。
クレアは生まれた場所が違うだけでこんなにも苦労しないといけないのか。街に入るだけでバカにされ、ギルドに入る時は無理やりにでも笑顔にならないといけない。だが、それがここでのルールなら致し方ない。
「もう大丈夫!さぁ入ろうか!!」
俺は心に決めた。このギルドをぶち壊してやると。馬鹿みたいに同じ鎧を着たあの騎士共、次に奴らが仕掛けてきたらクレアには申し訳ないが、もう我慢はしない。目に入った奴は八つ裂きにしたいたと俺の血が騒いでいる。
ガチャン
俺は滾るようなこの気持ちをグッと拳に押さえ込み、ギルドに入って行く彼女の後ろについて行った。
「おぉ!クレアちゃんじゃないか!!」
彼女に第一声を浴びせてきたのは、ギルドの入口近くのテーブルで昼間からビールを飲んでいた小太りのオッサンだった。
「なんだと!?クレアちゃんが来たのか!」
オッサンの一声でギルド内の人達は一斉にこちらを注目した。
『歓迎』。この状況を一言で現すとするのならこれしかない。
覚悟を決めた俺が目にしたギルドの対応は何とも拍子抜けなものだった。フレンドリー、お気楽、能天気な人達がこぞって集まったような感じだ。
数名のギルドメンバーがクレアの元に近付き再会を祝している。
「おや、その隣の方は…」
「ま、まさか!?クレアが男を連れてきたの!」
「これは急いでマスターに報告しないと!!」
賑やかなメンバーは俺を置いてどんどん話を進めていく。クレアも反応に戸惑っていたところで若い女の人が止めに入った。
「はいはい、皆さんそこまでですよ。クレアさんはマスターに用事があるのですから」
どうやら彼女はギルドの案内人のようだ。戦闘服と言うより接客用の服みたいなもの身にまとっている上、同じような服装の女性がカウンターにいたり、お酒をついでいた。
俺とクレアは彼女の案内でマスターのいる部屋まで案内される。部外者の俺は中に入ることができなかった為、案内してくれた彼女と一緒に廊下で待つことにした。
「そういえばお兄さん、ここら辺では見かけない顔ですが旅のお方でしょうか?」
「はい。ここら辺をブラブラしていたのですが、近くの森でたまたま彼女に出会いましたので一緒に付いてきました」
いくら話し相手のお姉さんが美人であろうと、初対面の人にここまで来た経緯を話すことは出来ない。俺はバレない適度の嘘を混ぜて返事をした。
「そうでしたか。ちなみに冒険者カードはお持ちでしょうか?」
「いえ、ギルドに立ち入ったのは今日が初めてなので持ってないです」
…なんだよ冒険者カードって!!
「それではここでお作りになられませんか?」
え?そんな簡単に作れるものなのか?
俺は少し悩み、一つだけ質問をする事にした。
「カードはどのギルドで作っても問題ないのですか?」
冒険者カードがどんなものかは大体想像出来る。たぶん一種の身分証明書的なものだろう。このギルドに来るまでに街の様子をチラッと見ていたが、時代で言うと中世の雰囲気によく似ていた。
これは俺の勝手な考えだが、魔法が発展したこの世界では文明の発展は二の次になっているのだろう。実際、街中では馬を引いている人を見かけたぐらいだ。それに魔法があれば多少のことはなんとかなるだろう。
そう考えると、冒険者カードには身分証明以外にも旅の記録や行ってきた事まで分かるのではないかと予想できる。そんな大事なものをこうも簡単に作って良いのか迷うのは当然だ。もしかしたら作るギルドによって特典があったりする可能性もあるかもしれない。
…正直、冒険者カードを作るかどうかは彼女の回答にかかっている。
俺は息を呑んで彼女の言葉を聞いた。
「はい!何処で作ってもお変わりありませんよ。寧ろ冒険者カードは早めに作っておかないとクエストも受けられないですし、色々と不便な事が多いんですよ」
彼女は親切に冒険者カードの事を教えてくれた。カードはクエストを達成する事によってランクアップするそうだ。初めは皆、白の冒険者カードで始まり、緑、赤、青、紫の4色を経て銅、銀、金、白金の順で昇格すると、最後にはその人に見合った宝石をモチーフとした冒険者カードになるそうだ。割合的には4色の冒険者が半数程を占め、金銀銅が3割、白金と宝石が1割ずつだそうだ。
更に冒険者カードは通行証の代わりになったりするので色々と便利だが、一つだけ問題点があった。それは半年に1回ある更新だ。この更新でカードがランクアップされるのだが、クエストの達成回数が一定数に満たないと強制的に破棄され、3年間の発行停止処分を受けるそうだ。その為、冒険者以外の人は便利だからといって気軽に作ることは出来ない。
だが、俺の返事はもう決まっている。
「お姉さん。その冒険者カード、すぐに作ってください!」
この世界のことはよく分からないが、チャンスがあるのなら掴みに行くべきだ。現在、所持金0の俺にとって仕事が貰えるのは喉から手が出る程のチャンスだ。仕事の内容は見てないから知らないが、とりあえず善は急げだ。
「はい!ありがとうございます!」
彼女は笑顔で返事すると、マスターの部屋からクレアが出てきた。
「お待たせしましたカイトさん。それでこの後はどうしますか?」
「クレアさんお疲れ様です。こちらの方はこれから冒険者カードを発行致しますので、それに伴って簡単な検査を行って頂く予定です」
「え?検査だと…聞いてないぞ!」
「まぁ〜、それは致し方ないですね。では私は彼の検査が終わるまでギルドで待っていてもよろしいでしょうか?」
「検査って何をするんだ!?」
「勿論です!皆さんもお話したいことあるみたいなのでゆっくりしていってください」
クレアと案内人は俺の言葉をスルーしながら会話を進める。
「それではカイト様。これより簡単な検査を行いますので、マスターの部屋にお入りください」
案内人は検査に必要な道具を取りに別の部屋に向かった。マスターと初対面の俺を残して…
コンコン
「失礼しま〜す」
恐る恐る扉を開くと、そこには誰もいなかった。
「はじめまして。冒険者カードを作らせて頂く為参上しました」
どっかで誰かが見ているかもしれないと思った俺は、とりあえず要件を口にしながら中に入ることにした。