最初の償いと最初の見せ所 前編
朝の三刻になり、俺はギルドの受付で、アンジェリカとセシリアの二人を待っていた。
数分待って、漸く二人がギルドの駆け込んできた。
「セーフ!」
「ハァ、ハァッ」
アンジェリカは少し息を乱した程度だが、まだまだ体力が有り余っている感じだ。逆にセシリアは息も絶え絶えで、急いでいたせいか、髪を梳かしきれず、何本か束になって跳ねている。
「なんだ、もう来てたのか」
「アル、ハァハァ、ベルト、さん、ハァ、遅れ、ハァハァ、ましたか?」
「いや、時間ピッタリだ。セシリアさん、あまり無理しない方がいい」
見ていてわかる。セシリアは完全に一般人並み、もしくはそれ以下の体力しかないのだと。アンジェリカ?アイツは体力オバケだな、絶対。
「クエスト、先に受注しておいたぞ」
「おぉ、ナイスアルベド!」
「アルベルト、な」
「アルベルト、それで、どんなクエストなんだ!」
「Dランク駆除のゴブリンだ」
「えぇー、ゴブリン〜?」
「……ゴブリンですか……」
二人ともから不評の声が聞かされた。ただしアンジェリカの不満そうな顔とセシリアの嫌そうな顔で、何が不評なのか二人で違うのだろうとわかる。
「ゴブリンってあの弱い奴だろ?ソイツ倒して意味があるのか?」
「あのなぁ、ゴブリンってのはーー」
「アンジェ、ゴブリンと言うのは女を見ればすぐに盛り出して、ミスならなんでも犯そうとする、ウサギですら犯そうとする、世界の女と言う種の敵なんですよ。そんな卑しく、穢らわしい存在は確かに単体では弱いですが、暗く狭い場所ではその数と小ささを生かして、男を殺し、食べ、女は生捕にして苗床にする。決して油断して良い存在ではないんですよ」
「は、はい。ワカリマシタ」
「その通り、ゴブリンってのは油断すれば足元を掬われるモンスターの代表格だ。それに今回のクエストはゴブリンにとって有利なフィールド、洞窟でのゴブリンの駆除になるからな」
俺が受注したクエストはDはD+、Dランクの中でもCランクにも匹敵する難易度のクエストだ。
ゴブリンは暗視に優れている上に身体が小さいので、今回の駆除場所の狭い洞窟は奴らにとって最高の戦場にして住処だ。
その上、今回確認されたゴブリンは外で三体一組のゴブリンが十五組も見られた。これらは全て斥候だから本隊のゴブリンはそれはもう数えるのも面倒臭い程はいるだろう。
ゴブリンが三体だけで、明るい開けた場所ならゴブリンのランクはEランクで、一般人でも解決できる難易度しかないが、これは場所が変わるだけでE+へ、数が倍になればDへ、とどんどん難易度が上がって行く。
そして今回のクエスト、本来ならDランクが複数のパーティ同士が組んで行うべきもクエストなのだが、今回は俺がついてるから、俺とアンジェリカ、セシリアの三人で十分だ。
「クエストの発注元は隣村のエスト村だ。俺なら走って行けば一刻も掛からずにいける。アンジェリカ」
「ん?なんだ?」
「強化魔法を自分に対して使えるよな」
「当たり前だ」
「ならアンジェリカは問題ないな。セシリアは……」
「……使えないです」
「だよな」
強化魔法は自身の身体や物に対してその力を上げることができる魔法だ。
自身と他では魔力の扱い方が違い、一部の例外を除き、接近戦を得意とする戦士タイプの者は体内の魔力操作を得意とする反面、体外の魔力操作は苦手な為、自身への強化(戦士タイプにとってこれは必須)はできるが、外に放つ魔法は扱いづらい。
逆に魔法使いタイプは体内の魔力操作を苦手とする反面、体外の魔力操作は得意な為、自身への強化は扱いづらいが、外に放つ魔法が使える(魔法使いタイプはこれができなければ魔法使い失格)。
アンジェリカは剣士の格好と体力オバケなところからお察し、戦士タイプなので体内魔力の操作は得意なはずだ。
逆にセシリアは僧侶の格好と体力があまり無さそうなところをみるに、魔法使いタイプなので、体内魔力の操作は不得意なのだろう。
「じゃあ、アンジェリカは俺についてきて。セシリアさんは、……アンジェリカに負ぶってもらって」
「また、ですか……」
最も早く発注元へ行ける方法を言ったつもりなのだが、セシリアはすごい不満そうだ。
「また、とは?」
「この街に来る間に何度かアンジェに負ぶってもらってたんですけど。その、とても揺れまして……」
まぁ、人に負ぶってもらってたら、当然揺れるのは当たり前だし、アンジェリカのことだから強化した状態で走ってそうだから尚更揺れるだろうな。
「なら、俺が負ぶって行こう。俺なら揺れを少なくして走れる」
「……走って行かずに歩きや馬を使って行きませんか?」
「このクエストは緊急性の高いクエストだ。歩いて行ったんじゃもしもの時に手遅れになる。それに隣村なんだ馬を使う程の距離じゃないし、馬を使うより走っていった方が早い。」
あと、馬って借りるのでも結構取られるから走って行った方が安いんだ。低ランクなら使わない方が良い。
「安心しろ。護衛のクエストで、何度も護衛対象を負ぶって目的地まで届けた事はあったが、揺れで文句を言われた事はないから」
これでも護衛のクエストでたまに負ぶって目的地まで届けたことがあるのだが、それで揺れに関して文句を言われた事はない。揺れに関しては、ね。
「……わかりました」
渋々と受け入れたセシリアだった。
「じゃ、乗ってくれ」
俺そう言い、乗りやすいように屈んだ。
「お願いします……」
元気なくお願いするセシリア。
「あんまり喋るなよ。舌噛むから」
「ん!」
俺がそう言うとセシリアは口をキュッと閉じた。
「アンジェリカ、準備は良いか?」
「いつでも良いぞ」
「よし、じゃあ行くぞ!」
そう言って、一歩を踏み出し、前へ飛ぶように進んだ。
「んー!」
口を閉じているからセシリアは悲鳴にならない悲鳴を出していた。
俺は片足ずつのジャンプのような走りをしているから揺れは多くない。ただしスピードが出ているので、普段超スピードを体感した事がない者はこのスピードに驚く。
だから揺れに関しては文句を言われないが、速度に関しては文句を言われる。
「もう少し!スピードを落とせないんですか!」
「無理だ!走っている意味が無くなる!」
こんな感じで毎回文句を言われるのだ。
「セシリアさん、この辺で少し休憩しよう」
流石に、長い時間あのスピードで走っていては抱えられているセシリアに負担がかかりすぎるので休憩することにした。
「や、やっと、止まりました……」
俺の背からフラフラと降りる姿に「無理させすぎたかな」と思ってしまったが、急がないといけないので、彼女にはもう少し我慢してもらおう。
「アースメイク、ウォータークリエイト」
魔法で土から殆ど石を削り出しようにしか見えないコップを作りだし、それに魔法で作り出した水を注ぐ。
「セシリアさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
「アンジェリカもいるか?」
「私はいらない」
「そうか」
ならあとは自分のだけとまた土からコップを作り、水を注ぐ。
「アルベルトさんって、魔法使いだったんですか?剣士かと思ってました」
「両方かな?正確には魔法剣士なんだけど」
「魔法剣士、珍しいですね。ところで、これ、土魔法で作ったんですよね?まるで磁器ですね、これ」
「まぁ、土魔法で作れる硬度はそのあたりが限界だけどな。土魔法はまだ修行中なんだ」
「他にも使えるんですか?」
「全部の属性を上級までなら習得してるよ。まぁ熟練値に偏りはあるけど」
「全ての属性が使えるんですか!?それも上級までなんてすごいじゃないですか!じゃ、じゃあ、剣術の階級は?」
「剣術は、今は確か王級じゃなかったかな?」
「剣術の方が階級が高いんですね!凄いです!」
Bランクなら魔法使いタイプなら階級は王級、戦士タイプの剣士なら剣術の階級は王級を持っていてもおかしくない。その理屈から考えて、俺はBランクの中ならそこそこ上、上の中ほどの実力だろうか。
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誤字脱字を教えていただければありがたいです。
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魔法と剣術の階級について、設定まとめに載せます。