責任と友達
「俺の友達が、本当にすまなかった!」
俺は僧侶の女の子セシリアに頭を下げて謝った。俺は見ていただけとはいえ、女性のズボンを下ろし、押し倒した痴漢強姦の罪を犯したのは俺の友達だ。
それに俺ならあの時、止めることもできただろうから。
「いえ、大丈夫ですよ。私には実害はありませんでしたから。それに被害者は彼女ですから」
「やっぱり、あの時、切っておくべきだった……」
セシリアがそう言うと物騒な事を言っている被害者女性アンジェリカの方へ視線を向けた。
「アンジェリカ、君にも迷惑をかけた。公衆の面前であんな……」
「ん、アンタはそんなに気にしなくていいわよ。まぁ償ってくれるって言ったんだから償いはしてもらうけどね」
「アンジェ、アルベルトさんは何もしていないんだから、少しは遠慮してくださいよ」
「分かってます。しかし向こうから償うと言われましたので」
アンジェリカはセシリアと俺で態度が明らかに違うな。当然ではあるんだけど、セシリアに対して他人行儀?礼儀正しい?って感じだな。
「セシリアさん、これは俺が決めたことでもあるんだ。それにあいつは俺の友達。アイツを止められなかった俺にも責任はある」
「そうですか。でしたら私からは何も言いません」
セシリアがそう言うと本当に何も言わなくなった。
「ちょっと、俺のパーティメンバーにこのこと伝えに行ってくるよ」
「アンタも逃げるんじゃないよ」
「逃げんよ」
そう言い、俺は俺のパーティメンバーの元へ向かった。
俺のパーティメンバーは少し離れていたところにいる。この様子を見てニヤけながら見ていたところを見るに俺達の会話はあまり聞こえなかったらしい。
「おぉ、やっと来たか!それで?どうなったんだ?」
「あんなヤツの為に謝らなくたっていいと思うがなぁ」
「仕方ねぇんじゃあねぇの?アルベルトだし」
最初に喋ったのは剣士のクライス、次が弓士のアーチ、最後が魔法使いのソラ。
俺含めた四人は同期で、一番長く行動をしたパーティメンバーだ。
「本当に申し訳ないんだが、俺、今日からこのパーティを抜ける事になった」
「「「はっ?」」」
俺の言葉に全員が唖然となって黙り込んでしまった。
「……そりゃあ、どういうことだ?なんでオメェはパーティから抜けるんだ?」
最初に言葉が出たのはアーチだった。
それに続き、他二人からも同じ様な事を聞かれた。
「ジークの責任を俺が代わりに取る事にした」
俺は事の顛末を三人に話した。
ジークが女性二人に痴漢・強姦未遂を犯し、止められたのに見ているだけだった俺も一緒に償おうとしたこと。
話をつけた後、ジークは既に逃げ出していたこと。だから代わりにジークの責任を負う事にした事。
「アイツっ!」
クライスはそう言うとギルドを飛び出していった。
「アルベルト、それはオメェとは関係ねぇことだろ!なんでオメェがアイツの代わりにならニァいけねぇんだ!」
アーチが立ち上がり、そう言うと此方に指を指す。
「……」
魔法使いのソラは懐から出した魔法触媒用で、何かの魔法を発動させていた。
「アーチ、あれでも俺の友達だ。友達が目の前で過ちを犯したのを見ていたのに止めなかった俺にも責任はある。それにアイツはそもそもそんな度胸はなかった筈なんだ」
俺はアーチにそう答えた。
「アイツは今までのストレスで精神が参ってしまったんだ。アイツをあそこまでにした責任は当然やったヤツにもあるし、ああなら前に助けられなかった俺ににも責任がある。それに」
「友達なら助けるのは当然だろ。友達が罪を犯したなら友達が代わりになって待ってやるのも当然だ」
「……ハァ、オメェはそう言うヤツだったな」
そう言った後、アーチはあっさり引き下がった。
「……みつけた」
その時、ソラが呟いた。
「(取り敢えずデバフ超豪華盛りを掛けて、遠距離魔法をお見舞いした後、呪いの装備を送って、それから……)」
俺は何も見なかった。
「んで、これからどうすんだ?」
「まだ、何をすれば良いのか、わからないんだ。慰謝料はジークが払うべきだとは思うんだが、そもそもアイツ、金そんなにもってなかったから俺が代わりに払うべきかーー」
「ーー代わりに払う必要はねぇよ」
そう言ったのギルドを飛び出したクライスだった。そして彼の手には剣と麻袋だった。
「ジークを探しにいったんだが見つからなかった。けどアイツがギルドに預けてた荷物はまだあったからよ。足りねぇだろうけどこれを使いな。それにアルベルトが代わりに払う必要はねぇよ。払うのやった本人じゃなきゃぁ意味がねぇよ」
確かに誰かが代わりに払うのじゃ意味がないか。
「しかし、良いのかな?これ、アイツの全財産だろ?」
「良いんだよ。そこまで価値はねぇし、払うのはジーク自身だ」
「そうだぜ。アイツがまたひょっこり現れたら払わせれば良いんだよ。どんな事をさせてもな」
最後の言葉で二人クライスとアーチ、あと別件でソラが悪い顔をして笑っていた。
「……たったのこれだけか」
「確かに900Gは予想していたとはいえ少ないな」
一般人なら生活を極力切り詰めればなんとか一ヶ月を飢えはするけど生きられる。ただし来月からは生きているかわからないくらいの金だ。
「アイツ、本当に追い詰められていたんだな」
俺は頭がおかしくなってしまった友達の事を思いながら心の中で「ごめん」と端金を手に被害者女性二人の元へ向かった
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ある御伽話にこんなのがあった。
主人公が王様に無礼を働き、死刑にされそうになる。しかし主人公は「2日後にある妹の結婚式に行かせてくれ。結婚式が終われば貴方の元に戻って来る」と。王様はある条件をつけてそれを許した。「ならば貴様の大事な者を差し出せ。貴様が戻って来なければ、其奴を殺す」と。主人公は自分の友達を身代わりになる様に頼んだ。その友達は了承し、主人公は妹の結婚式へと向かった。
俺はこの物語を見て本当の友達こういう者の事を言うのだなと考えた。これが理想なのだと。
俺は理想に生きたい。悪人よりも善人でいたい。他人がそれは理想、夢物語、実現不可能と言われようと。そんな俺の考えに『友達とは』についての考えがあれだ。
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