転生した勘違い男(ジーク視点)
「ジーク、俺のパーティーに入らないか?」
「……はっ?」
アルベルトの発言にジークはアルベルトの顔を見た。ジークの目には既に絶望の色はない。
そりゃそうだ。何故なら中身はもうジークでは無いのだから。
(ここは……あぁ、そうか。俺、転生したのか)
ジークの身体を乗っ取った、転生した何かは前世が本来転生する者と同じ世界、正確にはモデルとなった世界の日本人男性だった。
前世で若くして死に、死後神に、自身の死は神のミスという事で、この男は物語の世界に転生する事になった。
そして転生して最初に見た光景がこのアルベルトに誘われている時だった。
男は状況把握の為に周囲をキョロキョロと見る。机を見て、自身が座っている椅子を見て、自身の手と格好を見て、辺りを見渡し。
最後に隣椅子を数個空けた所にある二人組の女の子達に視線が行き、そこで目を見開いて止まる。
(あれは、アンジェリカとセシリアじゃねぇか)
彼女達はこの世界を舞台にした物語『「足手まといは去れ!」と言われてパーティーを追放されたが前世の記憶が覚醒して最強冒険者に! ~「戻ってこい」と言われても今更遅い!俺は美少女達と一緒最強を目指す~』のメインヒロイン。主人公のハーレムメンバーだ。
(あいつら(アンジェリカとセシリア)とコイツ(アルベルト)がいるって事は、今はアルベルトの「戻って来い」ってところか?)
ジークは俯いてブツブツと呟きながらそう考えていた。
(前世の記憶が戻るのはもっと前のはずだったんだが、まぁ、いいか)
因みにこの男が前世の記憶を取り戻したのはアルベルトが喋った後なので、この男はアルベルトがなんて言っていたのかはあまり覚えていたなかった。
その上、彼が見た書籍の方ではこのシーンで、メインヒロインの二人は一切書かれていなかった為アルベルトがジークをパーティに誘うこの場にはいないと思っていたから、この場にいるのを、「俺とパーティを組んでいるあの時(「戻って来い」のところ)だからだろう」と思っている。
全ての考えがまとまったジークが立ち上がり、二人のヒロイン達の方へと向かった。
「パーティーに戻って来いとか、今更遅い!俺はコイツらとパーティー組んでるし、こっちの方がいい!」
そう言って二人達の肩に手を置いた。
「はぁ!?いきなり何?気安く触らないで。何馴れ馴れしくしてんのよ!」
「うわっ!」
とヒロインの一人アンジェリカが立ち上がり、ジークの手を払い除ける。
すると男はそれにより、酔っていたこともあったのかバランスを崩し、前、アンジェリカの方に崩れた。
崩れる時、男は咄嗟に目の前にあった物につかむが、その物も一緒に床に落ちた。
「……」
そこにいた全ての人間が無言になった。
その落ちた物はアンジェリカのズボンだった。
男がズボンがなくなったところに目が行くとこう思った。
(そういえばジークってラッキースケベ能力が備わってたな。でも主人公なんだからちょっとは怒られても問題ないだろ。てか、ラノベでもアンジェリカは紐パンを履いてたけど、やっぱりアンジェリカって紐パンだったんだな。いい物が見れた!)
最低である。
しかし、そんな最低野郎には報いがある。
アンジェリカは腰に差した剣を抜きジークに剣を突き刺そうとした。
「……、死ね、この変態が!」
「待って、アンジェ!此処で剣を抜くのは流石にマズイわ!貴方もいつまでズボン掴んでるんですか!」
側にいたセシリアがすぐにアンジェリカを止め、男の腕を掴んでアンジェリカから離れさせようとした。
男もその声にアンジェリカが自分を本気で殺そうとしているのを見て、慌てた様子で立ち上がろうとした。
しかし、
「うわぁっ!?」
「えっ?」
今度は、男はセシリアを押し倒した。
「っ!」
「(ニヘッ)」
男がセシリアを押し倒した時、男の頭は豊満なセシリアの胸にあった。そしてそれをすぐに理解した男は思わずにやけてしまった。
(セシリアの胸、大きいとは思ってたけど、本物は柔らかくて大きくて、柔らかいな!此処重要!」
「貴様!何をやっている!この変態変質強姦魔!」
「ちがっ、俺はっ、これは不可抗力で!」
「死ねぇ!」
アンジェリカが本気で本当に自分を殺そうとしていることが理解できた男は思った。
(なんでこんなに怒ってんだよ!ラノベじゃこんな事してもちょっと怒るだけで、こんな事しなかったじゃないか!」
本気で自分の何が悪いのか、全く考えていなかった。
(殺されるぅ!)
そう思い、男が目を瞑る。
ーーキィィン!
金属同士がぶつかり合う音が響いた。
(なんだ?何が起こった?)
男が目を開ける。するとそこには、
「何のつもりだ!」
「コイツは俺の知り合いだ。目の前で殺させるわけにはいかねぇよ」
自分を連れ戻そうとしていた(男の勘違い)男アルベルトが自分殺そうとしてくるアンジェリカの剣を剣で受け止めていた。
アルベルトは刃を合わせていたのを押して、離す。
「流石にコイツが悪いってのは俺でもわかる。だからちゃんと謝罪も、償いもさせる。絶対だ」
(俺、なんも悪いことしてないだろ!何言ってんだコイツは!)
「そんな事は知らん!信用もできん!ソイツいきなり私達を仲間扱いして、猥褻行為をしてきたのだぞ!だから、斬り殺す!」
(ヒェェェ!コイツ、マジでなんでそんなに怒ってんの!?ラノベじゃちょっと照れてただろ!ヤバい逃げないと)
男は押し倒していたセシリアから退き、その場を逃げ出した。
「ハァ、ハァ、ここまで来れば、ハァ、ハァ、大丈夫だろ」
男はそう息を落ち着かせなが声を漏らす。
あの後、男はギルドを飛び出し、街を飛び出して、近くの森までやってきた。
「おかしい、おかしいぞ。本当ならあんな事にはならなかったはずだ。なのになんで、あんな事になってんだよ。
俺は主人公なんだぞ?主人公ならラッキースケベくらいでなんであんなに怒るんだよ。平手食うくらいあって殺されそうになるのなんて、変身暗殺少女くらいだぞ」
そんなことを漏らしながら考えた。何が原因であのようなことになったのかを。
「まさか、俺以外に転生者がいたのか?俺が本来得られるはずだったモノを横取りされた?」
男は自分が悪かったとは全く考えていない。自分が原因だと、自分が悪いとは思っていない。だから何が原因だったのか、そもそも男の勘違いから始まったと言うことに男はこのままでは一生気づかないだろう。
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