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吾輩は金魚である。名前はまだ無い。

作者: 蜂蜜

この短編はコメディです。多分きっとおそらくメイビー。

金魚の飼育法についての説明があります。間違っている可能性があるので、注意してください。

それについての指摘は受け付けません。


以上の点と、作者の拙いコメディに付き合ってくださるという方は、読み進め下さい。


それでは、どうぞ。

 ──皆様は、金魚すくいをやった事はあるだろうか?1回200円でポイを1つ渡され、大きな水槽(?)に沢山泳いでいる金魚をすくう。

 何匹もすくえることもあれば、1匹もすくえないこともある。すくえなかった時も、おじさんが1匹プレゼントしてくれる。あの金魚すくいだ。


 そういう自分も、小さい頃はよくやったものだ。地域のお祭りに行った時は、必ずと言っていいほどやった。そうして1匹の金魚を家に連れて帰り、小さな水槽に入れて飼うのだ。


 残念ながら、長い期間生かしてやることは出来なかったが、その度に涙を流しながら、家の庭に埋めてやっていた。


 それから20年後には、今度は自分が埋められることになったのだが。

 会社の帰りに車にひかれ、呆気なく死んでしまった。

 別に、車の運転手が酔っ払っていたとか、自分がフラフラしていたとかでもなく、ただただ運が悪かった。


 車は制限速度で走っていたし、俺も酒は飲んでいなかった。ただ、雨の後という事で、水溜まりで車がスリップしてしまったのだ。

 車は運悪く、丁度近くを歩いていた俺の方に向かってきてしまった。

 それだけだ。


 そして、目が覚めたら水の中に居た。

 意味が分からなかった。夢かと思い、頬をつねろうとしたが、つねれなかった。何となく腕だと思われる器官が動いた感覚はあったが、そんだけだった。


 そして、混乱している間に突然お腹の辺りに、なにか押し付けるような感触。驚いて叫ぼうとするが、口からはコポコポと泡が出てくるだけ。俺はここでようやく自分が人間でない事に気付く。

 我ながら鈍いにも程がある。


 そのまま水中から引きずり出される。苦しい。これはもう疑い用がない。

 自分は、俺は恐らく、転生とか言うのをしたのだろう。

 しかも、魚類に。

 それも、簡単に囚われる様な軟弱な魚類に。


 直ぐに殺されない所を見るに、観賞用だろうか?それとも、新鮮なままにする為に、このまま水槽に入れられ、その時を待つのだろうか?


 そして次に瞬間に、俺は何に転生してしまったのか知ることになる。


 網の様な物に入れられて運ばれる。5秒程して、静かに水面へと付けられる。俺は急いで抜け出した。助かった。外にいる時は、本当に苦しかった。呼吸出来ないのはあんなにも辛いのか。

 というか、完全に無意識の内に泳いでいたが、ちょっとビックリした。多分人間が無意識にバランスをとっているのと同じなのだろう。知らんが。


 そんな事を考えながらも、前を向く。

 仲間が居た。後ろ姿だが、本能で分かる。あれは仲間だ。それが前に後ろに、上にも下にも居る。


 それは、金魚だった。一種類ではないが、沢山いる。

 ヒレをヒラヒラさせ、時折口から泡を吐き出すその姿は、とても愛らしい。



 どうやら俺は、金魚に転生したようだ。


 ──────


 ──吾輩は金魚である。名前はまだ無い。


 金魚生を始めて2ヶ月、随分と順応してしまった。娯楽も何も無い毎日だが、住処は保証されているし、食事もでる。なまじ意識が人間であるが故に、仲間達の泳ぎを見ているだけでも時間を潰せる。


 友達を作ろうかとも思ったが、やめた。動物は人間よりもよっぽど死にやすい。若くても、朝起きたら浮いていた、なんてこともある。俺らはまだ小さいから余計に、だ。

 この2ヶ月でも、3匹が旅立ってしまった。


 そんなこんなで、起きて仲間達が減っていないかを確認し、ご飯を貰い、仲間の泳ぎを眺め、ご飯を貰い、その場でプカプカ浮いてみたりし、ご飯を貰い、寝る。

 そんな風に毎日を過ごしていた。


 そうして更に1ヶ月が過ぎた頃、唐突に変化が現れた。突然住処が揺れたかと思うと、暫くして急に止まる。遠くから何かが閉まるような音が聞こえたかと思うと、住処が小刻みに揺れ始める。


 もしも水中に居なければ、一瞬で酔いそうな揺れだ。金魚で良かった。仲間達は不安そうにしていたが、俺はそうでもなかった。

 ぶっちゃけ、転生とかいうビックリ現象を体験した為、生半可な事では驚かなくなっていた。


 体感3時間程だろうか?それぐらいの時間揺れは続き、漸く止まった。それからは、また大きく揺れ、止まり、静かになった。仲間達はまだ少し不安そうだったが、少しすれば、すぐまた泳ぎ始めた。俺達は育ち盛り、動いていたいお年頃なのだ。


 かく言う俺も泳いでいる。この3ヶ月で随分上達し、自由自在だ。俺は前世では泳ぐのは苦手だったから、こうやって自由に泳げるのはとても嬉しい。


 それからご飯を1回挟み、今度は仲間達の泳ぎをぼんやりと眺めていた頃。何やら声が聞こえてきた。なんだろう水の中だから聞こえづらいが、どこか賑やかな感じがする。


 ·····ま・さ・か。


「きん··す·い、いか··すかー」


 途切れ途切れだったが確かに聞こえた。なるほど、そりゃあ殺されないよ、というかむしろ大切にされるよ。商売道具だもんなぁ!


 あー、うん。まぁうん。改めて自分が金魚なんだと実感しますねー。いやしかし、こう、なんというか、自分を使って金を儲けられるというのは何か、複雑ですねぇ…。


 今までの(あるじ)に愛着がある訳では無い。いつも上から飯を入れてくれていただけだし、顔も水のせいでよく見えなかった。しかし、いつもご飯をくれていた、というのは、言ってみれば親のようなものなので、両親に売られるような感じがして、胸に来るものがある。


 仲間達は気にしていない様子だった。当たり前だろう。俺は日本語が分かるが、アイツらには分からないだろうから。


 そんな風に、現実逃避気味に考えていたせいで、“それ”に気付くのが遅れた。


 ザバァ!


 ん?


 あ、


「わーい、すくえたー!」


 しまった。やってしまった。そらポイが近くに来たにも関わらず、動かない金魚なぞ、簡単にすくわれるに決まっている。


 ていうか狭い!

 なんだこれ!?え、いやええ!?やばい。今まで自分が相当広い所に住んでいた事が分かる。


 そこから更に狭いところへ入れられる。

 どうやら(文字通り)お持ち帰りされるらしい。


 先の声的に、俺をすくったのは女の子だろうか?俺に幼女趣味はない為、歓喜する事はない。そもそも見えないから関係ない。


 いやそんなことはどうでもいい。

 主が変わるのは正直どうでもいい。ちゃんとした家があり、毎日ご飯をくれるのならなんの問題もない。


 それより今だ。そう、俺は今かなりやばい。金魚生最大の危機だ。


 家が揺れている。


 いや、正確にはビニール袋か。家につき、水槽へと入れられるまではこのままなのだろう。


 それもまぁいい。許そう。今までがとてつもなく恵まれていたのだ、移動ぐらい許容しよう。そして、次の家も妥協しよう。


 だから、だからさぁ、


 袋を振り回すのをやめろォ!!!!!


 正確には横にゆらゆらさせるのをやめろォ!!いつ袋が破れるのか気が気じゃないんだよォ!!

 後袋が変形するのもやばい。挟まりそう。袋の隙間に。そんなことになれば、俺の貧弱ボディはポッキリ折れてしまう。少なくとも(ヒレ)は折れる。だからやめてくださいお願いしますなんでもしますからぁ!


 俺の願いは叶わなかった。


 ──────


 死ぬかと思った。これ程までに生を喜んだ事はないだろう。なんか最近言動が若返っている気がする。あれだろうか、精神は肉体に引っ張られるとかいうあれだろうか。魚肉だけど。


 金魚的に、俺はまだ幼稚園だかそんくらいだろうか?きっとそのせいだろう。


 因みに、俺は今虫かごの中に居る。当たり前だろう、常に家に金魚用の水槽を携帯していたら、その人は相当な金魚好きだ。

 だが、正直汚い。1万歩譲って俺の目が汚れていると考えても汚い。狭いし。俺がまだ小さいからいいが、大きくなったらやばいだろう。


 主のくれた家に文句は言いたくないが、早めにまともな家を買って欲しいものだ。後ご飯。今日はまだ夕飯を貰っていない。食べなくても大丈夫だとは思うが、人間の感性的に、3食食べないと落ち着かない。


 主達は祭りから帰ってきたら風呂に入ってそのまま寝てしまった為、晩御飯は期待出来ないだろう。仲間達もいないから、暇を潰す事も出来ない。実に暇だ。俺が連れて帰っていた金魚達も、こんな気持ちだったのだろうか?······いや、ないな、ない。ああない。だって、俺らまだ幼稚園生だぜ?怖くて「暇だ」とか思ってる暇なんてねぇだろう。


 そう考えると、俺は割と幸せなのか?

 わからん。全くわからん。うーん、なんか考えるの面倒くさくなってきたな。いいや、寝よう。うん、そうしよう。


 ─────


 起きた。いつものノリで進んだ。壁にぶつかった。


 いてぇ!


 ぉぉぉ、痛い。しくった、ここは水槽じゃなかった、虫かごだった。頭を打ったせいで上手くバランスが取れない。きっと今の俺は無様にもがいているだろう。


「大丈夫!?」


 案の定心配された。そらそうだろう。俺だって主の立場だったら心配する。


 安心させようと前を向く。

 そこには巨大なモザイクがかかった肌色の何かがあった。


 うわっ


 やべぇ、そっか、俺金魚だから、人間ってすげえでかいのか。前の主は上にいたし、ここに来る時は常に生命の危機だったから、ちゃんと見たのは今が初めてか。


 俺が大丈夫なのが分かったのか、主1の口であろう部分が変形する。笑ったのだろうか?まぁ心配が無くなったのならそれでいい。早く朝飯を頂きたいものだ。


 しかし、主1は何もせずに立ち去ってしまう。

 そんな、俺の、俺の朝ごはんは?まさか、夕飯に続いて朝食も抜き?


 おおう···。


 きっついなぁ···。


 金魚的には大丈夫でも、俺には大丈夫じゃねえんだよなぁー。あーなんか食いてえなぁー。


 ~12時間後~


 ·····はっ!主達が帰ってきた!ご飯♪ご飯♪


 ~30分後~


 ···今思い出したけどさ、金魚って普通新しい住処だと不安で食欲があれになるから、断食した方がいいんだっけ。後本当は、バケツとかに入れた方がいいんだけど、きっと主1(女の子)がゴネて、主2(お母さん)が折れたんだろうなぁ。


 ネットって便利だね!(激怒)


 そうか、つまり俺は後一日は飯が貰えない、と。

 辛い!非常に辛い!声を大にして言いたい、俺は不安じゃないから、早く飯をよこせ!、と。


 ぐすん。早く明後日にならないかなー。


 ─────


 主が変わって1ヶ月が経ちましたが、俺は元気です。


 この1ヶ月の間に、家が虫かごから水槽にランクアップし、ご飯も貰えるようになった。


 虫かごから水槽に変わり、また断食された時は死ぬかと思った。

 改めて食の大切さを実感した。


 それもそれとして見てくださいこの水槽!虫かごとは大違い!

 下には砂利が敷き詰められ、中心ではフィルターがボコボコと泡を吐き出している。壁は綺麗に透き通っており、向こう側が良く···良く··まぁ見える!

 そこに文字通り紅一点の俺!完璧ですね!


 いかに虫かごが酷かったかが分かりますねぇ。


 今まで暇だったのも、フィルターのボコボコを見てれば大丈夫だし、その音を聴きながら眠るのも良い。


 いやぁー良いですね、充実してる感じがします。うん。

 そういえば、仲間達は元気だろうか?俺は元気だが、もしもちゃんとされていなかったらどうsあっ主!主ーご飯ー!


 ~金魚食事中~


 むぐむぐ、ふぅー、美味しかった。毎回同じなのに、なんでこんなに美味しいんですかねぇ?ん?ああ仲間達のだったね。まぁ大丈夫だろう。金魚すくいをやるようなのなんて、小学生位迄だろうし、それぐらいの子達なら、「可愛いー」って言って大切にしてくれるだろうし。


 ま、俺の主に勝る者はいないだろうが。(ドヤ顔)


 お腹がいっぱいになったら眠くなってきた、寝るか。


 それでは、おやすみ!


 ─────


 それはいつもの様に、フィルターの泡を食べようとし、ミスって水面に叩きつけられた時の事だった。


「金ちゃーん、お友達だよー」


 命名:金ちゃん


 どうやら俺の名前は金ちゃんらしい。

 いやそんなことよりもお友達だと?まさか、新しい金魚か!?嫌だ!主にご飯を貰うのは俺だけで十分だ!


「ほらほらーエビさんだよー」


 なんだエビか。じゃあいいや。


「後貝さんとー」


 貝?へぇ貝も入れるのかー


「それとドジョウさんだよー」


 多いな。いや、多くない?一気にそんな入れるの?大丈夫?ちゃんと育てられる?


 そんなツッコミも届かず、俺の同居人は増えた。


 ─────


 今日はマイハウス(水槽)のイカれたメンバー(同居人)を紹介するぜぇ!


 その2つの鋏はなんのためにある?無論!ご飯を食べやすいサイズに切り分けるためだァー!エビA!


 少し小柄で力がないがその分機動力は折り紙付き!回避盾系甲殻類!エビB!


 いっつも壁に貼りついてるが、何かおもしろいものでもあるのか?!ニート系軟体動物!貝A~O!


 頼むから下にいる時に(物理的に)絡んでくるのはやめろォ!!!!!絡まり系準絶滅危惧種(割とガチ)ドジョウ!


 紅一点とは何だったのか!エビの存在によってただの金魚へと成り下がったこの水槽の(ヌシ)!金ちゃん!(俺)


 よし、自己紹介は終わったな、みんな、帰っていいぞー。ん、なんだよエビA、なんか不満か?え?鋏の用途?いいじゃん別に、俺よく知らないんだし、俺ならこう使うなーと思った結果なんだから。あぁ?しゃあねぇなぁ、じゃあ詳しくおしeあっ主!主ーご飯ー!


 ~金魚休憩(ティーブレイク)中~


 もぐもぐ、あー美味しかった。やっぱり主がくれるご飯は最高に美味しいな。うん?ちゃんと話を聞け?悪かったって。でも、お前だって食ってたじゃねぇか。あっおい!逃げるな!くそっ、あんの海人()(エビ)都合が悪くなったら逃げやがった!待ちやがれコノヤロウー!


 ─────


 ファミリー(笑)が増えて半年がたった。エビは案外優秀だった。ゴミとかを食べてくれるからありがてえ。面と向かっては言わないが。


 そしてこの半年で、水槽は大きくなり、インテリアに海藻が追加された。


 ご飯が待ちきれない時はこれを食べている。結構美味しい。しかもヒラヒラしているから、眺めてれば暇つぶしにもなる。エビの数十倍優秀だ。

 それをエビに言ったら鋏で殴られた。なんだよ、助言をしてやったのに、解せぬ。


 貝達は相変わらずあまり動かない。ほんと、何してんだろ?まぁアイツらのことはいいや。そんなことよりドジョウだ。あいつが厄介すぎる。

 仮眠のために底に行く。絡みつく。ご飯が底に落ち、食べに行く。絡みつく。床の砂利のプランクトンらしき何かを食べに行く。絡みつく。

 何かあると直ぐに(物理的に)絡んできやがる。

 愛情表現だと思えば可愛いが、あの力で絡まれると結構キツイ。早急にやめて欲しいものだ。


 ま、賑やかになったのは嬉しいからいいんだがな。エビを弄ってれば暇も潰せるし。後エビを追っかけてれば時間潰せるし。それにエビをつついてれば娯楽になるし。後エ(ry


 ─────


 俺がここに来てから遂に1年が経ちました。


 時間が経つのは早いねー。そしてどうやら今日は去年俺がすくわれたあのお祭りがあるらしい。もしかしたら仲間を連れて帰ってくるかもしれない。


 まぁそれも悪くないか。賑やかになるのは正直嬉しい。あーあー、早く帰ってこないかなー。


 ~5時間後~


 つん!つんつんつん、つん!つ、あ!主!主ーご飯ー!


「ごめんね金ちゃん。ご飯はちょっと待ってね」


 なん………だと……?


 くっ、主が帰ってくればご飯を貰えると思っていた俺が甘かった。くっそー、こうなったらエビを。あれ、エビが居ない!エビーおーいエビーおーい、お、


「ほーら金ちゃん、お友達だよー」


 !?


「この子はねー、金ちゃんより小さいから、ミニちゃんって言うの!」


 何!?主英語が出来るのか!流石主!賢い!


 じゃなくて


 そうか、やはり来たか。新しい金魚!そう言えば、仲間に会うのは久しぶりだなぁ。


「はい!」


 バシャン!


 仲間が水槽へと飛び出してきた。大丈夫?痛くなかった?俺は心配になって話しかける。


『だ、大丈夫です…』


 大丈夫だそうだ。ならばよかった。そして主はご飯を入れて去っていく。主母に、「手は洗ったのー?」と言われたからだ。主は普段、帰ってきたら手を洗い、うがいをしてからこちらに来る。つまり、今日は俺たちを優先してくれた訳だ。


 流石主!優しい!そして真面目!


『あ、あの…』


 ん?ああミニちゃんか。主への愛が溢れてしまった。すまんすまん。


 俺の名前は金ちゃん!よろしく!


『よ、よろしくお願いします…』


 ちょっと気弱な感じかな?


 まぁいいや。これから仲良くなればいい。さて、エビは、と。


 とんとん


 ん?


 ばこっ!


 ぐふぅ!


 くっ、エビめ、殴りやがったな!野郎ぶっ殺してやらぁ!


『あわわわわわわわ…』


 ミニちゃんは慌てていた。


 今日も一日は過ぎていく。


 ─────


 ミニちゃんが来てから半年。エビが死んでしまった。エビの中でも小さいものだったから、寿命が短かったのだろう。俺のおふざけにもついていけなくなってしまっていた。


 ···うん。やっぱ、結構来るな。もし俺に涙を流す器官があれば、とめどなく溢れていただろう。ドジョウもこちらの事を慮っているのか、絡みが優しい。慰めるような感じだ。


『金ちゃんさん…』


 ミニちゃんも心配そうだ。半年も一緒にいれば直ぐに慣れるというもので、すっかり馴染んでいた。そんなミニちゃんも、今は俺の事を慰めてくれている。


 頭で(頭で)撫でてくれたり、周りを泳いで励まそうとしてくれる。

 主もさっき、「エビさんがいないよー··:」と涙声で言っていた。


 流石主!エビの事も忘れない!優しい!


 ··─ツッコミもない。寂しい。悲しい。辛い。転生してからの初めての友達。俺の弄り(物理)にも何も言わず、付き合ってくれた。俺のつまらないボケにもツッコミをくれた。


 それが、もう、ない。


 ·····今日はもう、寝るか。


『金ちゃんさん!私は─』


 ごめんな、今は1人になりたい。


『金ちゃんさん···』


 ─────


 夢を、見た。

 金魚が夢を見るなど有り得ないと思うが、見たものは見たのだ。


 そこには、エビが居た。俺が話しかけようとすると、近づいてくる。

 そして殴った。


 ぐふぅ!


 え!?なんで!?いや、え!?


 エビは、まるでお前らしくないとでも言うかのようにこちらを一瞥すると、そのまま振り返って行ってしまった。


 俺は呆然としていたが、俺の頬を伝っているものに気付いて驚いた。別に人間の体になっている訳でもない。金魚の体で流している。


 俺はそれを拭おうとヒレを動かそうとし、


 そこで目が覚めた。


 俺はボーっとしていたが、こちらを心配そうに見つめるミニちゃんに気づき、



 おはよう!ミニちゃん!



 元気よく挨拶した。

 朝起きたら挨拶。これは基本だ。それは()()間でも変わらない。


 ミニちゃんは驚いたように目を見開き(見た目は変わりません)、小さく微笑んで(人間の目には同じに見えます)、言った。


『金ちゃんさん、2時間しか寝てませんよ』


 ─────


 不思議な夢を見てから更に半年。俺は今日も元気に朝を迎えていた。


 おはよう!ミニちゃん!


『おはようございます!お姉様!』


 うんうん。いい挨拶だ。さて、今日は主はいつ起きてくるかなーっと。


 ···ん?ちょっと待って?今ミニちゃんなんて言った?


『おはようございます!お姉様!』


『お姉様!』


『お()様』


 俺は雌だった?(衝撃の事実)

 マジかー、俺、TS転生ってやつだったのかー。へー。


 めっちゃ恥ずいやつ!


 マジかよ!俺、ずっと男だと思ってたんだけど!?どうりで貝達がちょっと引いてるわけだよ!


 恥ずい!すごく恥ずい!穴があったら入りたい!


 すかさずドジョウが絡みつき、穴のようになる。


 違う、そうじゃない。


 今のは例えであり、決して穴に入りたい(物理)訳ではないのだ。

 しかし、1度絡みついたドジョウは簡単には離れない。


 くっ、流石ドジョウ!なんて力だ!これでは、主からの朝食を貰えないじゃないか!まずい!そろそろ主が起きてくる!このままでは主に会えnあ!主!主ーご飯ー!


 するっ


 当たり前のように拘束を抜ける俺。


 そのままご飯を強請りに行く。


 主は寝惚け眼を擦りながらもこちらに来てご飯を入れてくれる。


 流石主!優しい!そして可愛い!


 それでは、いただきまーす!


 ~金魚補給中~


 やっぱり美味い。流石主、いつものご飯も主が入れてくれるというだけで美味しさ100倍だ。


『はぁ、まったくお姉様は』


 ミニちゃんがなんか言ってるけど無視だ。俺はご飯の余韻を味わうのに忙しい。


 そのせいで、俺はミニちゃんが悲しそうな、寂しそうな目で俺を見ているのに気づかなかった。


 ─────


 俺が雌だったという衝撃の事実の判明からまた半年。俺は死にそうになっていた。どうやら、エビがいなくなったのが思ったより響いていたらしい。


 だが、実は結構満足している。元々終わるはずだった人生の延長だ。たったの2年と半年だが、随分と濃い金魚生だったように感じる。


 親友と呼べるような存在も出来たし、大好きな主も居た。可愛い妹も出来たし、なんだかんだでドジョウも好きだった。


 前世とは比べ物にならない程騒がしかったが、その分楽しかった。


『お姉様···』


 ミニちゃんが泣きそうな顔でこちらを見ている。ドジョウも俺が硬い砂利の上に落ちないように抱えてくれている。現在俺は、体のバランスを保てず横倒しになっている。水槽の前では主が涙を流しながらこちらを見ており、主母がそれを慰めている。


 本当に、いい主にすくわれたものだ。

 優しく、賢く、そしてらなにより可愛い。将来はきっといい女性になるだろう。


 金魚ごときが何を言っているという話だが、考えるだけタダなのだから無問題だ。


 おっと、そろそろ限界のようだ。


 体から力が抜けていく。ヒレももうほとんど動かせない。エラの動きも悪くなってきた。


 エビよ、俺もそっちに行くぞ。俺に弄られるために待っていやがれ。


 じゃあなミニちゃん。ドジョウ。直ぐにこっちに来たら許さないぞ?


 最後に2人にそう言い、浮上を始める。もう、泳いで等いない。沈めなくなったが故に、上に向かっているのだ。


 ──ごめんな主。こんなに早く死んじまって。ま、ミニちゃんもドジョウも居るから大丈夫だろう。元気に過ごしてくれることを願うだけだ。


 そう最後に考え、俺の意識は闇へと溶けた。




 ――――――――――――――――――


 吾輩は金魚である。名前は金ちゃんだ。


 この世で最も優しく、賢く、可愛い、この世で最も大切で、大好きな主から貰った、この世で最も大事な宝物だ。


 映画や小説では、ペットが主人へと凄まじい忠誠を見せたり、どんなに離れても戻ってきたりと、「そんな馬鹿な」と思うような事がある。


 俺もそんな創作物を見た事があるが、毎回有り得ねぇと思っていた。


 今となってはそんなこと言えないが。本当に、転生先が金魚だったのが悔やまれる。犬とかなら恩返しとかも出来たのに。


 ──生き物は、自信を愛してくれたものをまた愛してくれるだろう。それは俺が感じたことで、実際にした事だ。


「なんでも愛するなんて無理だよ!」というのなら、せめて身近な人を愛しましょう。それは必ずしも愛情である必要はありません。


 人間だけでなく、全ての生き物が、楽しく幸せに生きていくことが出来るように俺は、願っています。


                          fin.

(私にとっては)長かった。

金魚って可愛いですよね。特にご飯を強請りに来るところが!

こう、ヒレを振りながら、上を向いてパクパクする所とか!

あ、最後の部分については何も言わないでください。上手い言い回しが思いつかなかったのです。


ネタとかちゃんと出来てましたかね?とても心配です。


読んで下さりありがとうございました!

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