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ノーテラーレジェンド  作者: 存在しない語り手
第2章【五人の有志、それぞれの思い】
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4節・野村 忍 : 真の友情とはお互い笑い、泣き、ぶつかり、喜ぶ事だという事を理解しながらもあの光にはまだ手は届かない

家の外に出たヒカルは門の前で待っているバンビとカイのもとへと向かった。



「お母さんへの挨拶は終わったようじゃの」


「ああ、訳は話さなかったが薄々俺がこれから危険な事をするのに気づいていたようだ、その上で俺を送り出してくれたよ」


「そうか......きっと断腸の思いで君を見送った事じゃろう」


「そうだろうな、でも俺は死なない、必ず口裂け女を倒して帰っていつもみたくお小言を言われるさ」


「君のお母さん......一目見ただけでもわかる優しさと温かさを感じた、親のいない俺も少しだけ母親がいる気分をお裾分けしてもらったよ」


「カイさん......」


「今回君に依頼した身でこんな事を言うのもおかしいが君のためにも、お母さんのためにも全力で君をサポートさせてもらう、改めてよろしく頼む」


カイのその言葉にコクっと頷くヒカル。


「さて、君を入れて口裂け女討伐の有志は4人になった」


「4人?俺の他に後もう1人いるのか」


「ああ、君と同じ高校2年生で名前は『赤土 陸』という少年だよ」


(赤土......)


ヒカルはその名をどこかで聞いたことがあるような気がした。


「これからリクの家に迎えに行くが、約束の時間の11時にはまだ早いのぅ......メシでも食いに行こう」


「はい、先生!」



実正町の食事処にて......



「ここのビフテキ美味しいですね、先生」


「そうじゃろ、久々に来たがビフテキを売りにしてるだけあるわい!それにしても......」


バンビはビフテキを頬張りながらヒカルの方に視線を向けた。

ヒカルの皿にはまだ半分あまりのビフテキが残っており、チマチマと食べ続けていた。


「まだ高校生じゃと言うのに食が細いのぉー」


「俺は少食な方なんだ」


「何事の前でもそうじゃが食事はとっておいた方がいい、生きるか死ぬかの戦いの前なら尚更な」


そう言ってバンビはカップに入ったコーヒーをズズッと啜った。


「ところで、リクとかいうのは何か武術の心得はあるのか?」


ようやくビフテキを食べ終えたヒカルが口をナプキンで拭きながら尋ねる。


「いや、特に君やカイのように武術を習っている訳ではないがリクは喧嘩自慢での、小学生の頃から高校生に打ち勝ってしまうほど腕っ節が強いと聞いておるよ」


(喧嘩自慢か......似たような奴がものすごく身近にいるが......)


そう思いながらアイスコーヒーの入っていたグラスの氷をストローでカチャカチャと鳴らす。


「ヒカル!おいヒカルじゃねぇか!」


突然やたらと大きな声で自分の名前を呼ぶ声にヒカルは咄嗟に通路の方を振り返った

バンビとカイもその声量に驚いてヒカルが振り返った方向に目をやる。


そこに立っていたのは親友を見つけて嬉しそうな笑みを浮かべているノムだった。


「ノム......!何してるんだ......!」


「何してるんだって、メシを食いに来たに決まってるじゃねぇか!あ、こんちは!」


ノムは一通りまくし立てるとカイとバンビに挨拶をして頭を下げた。


(な......なんじゃこの馬鹿に元気のいい少年は......)


「ハハ......ヒカル君の友達かな?」


カイが少し困惑気味に尋ねた。


「ハイ!野村 忍です!俺たち無二の大親友でーす!!」


店内に響く程の大声で自己紹介をして強引にヒカルと肩を組んだ。

その光景に周りの客はクスクス笑いを浮かべている。


「まったく、俺に恥をかかせるな」


周りからの視線を感じたヒカルは少しだけ慌てた様子でノムの手を振りほどいた。


「おっと!恥とはなんだ恥とは!」


「今立て込んだ話をしている、早く自分のテーブルに戻れ」


ヒカルは強引にノムを両手で押しのけて自分の席に戻るように促す。


「立て込んだ話って口裂け女がどうとか赤土なんとかって奴がどうとかの事か?」


「聞いていたのか......」


「店に入った瞬間にお前を見つけたからすぐ後ろの席に座って聞き耳を立てさせてもらったぜ!」


自信満々に答えるノム


(う〜む、聞かれておったのなら致し方ない......こうなれば事情を全て説明して納得してもらう他あるまい)


(これ以上復讐に無縁な人間を巻き込む訳にはいきませんからね......)


バンビとカイがヒソヒソと話し合う

ただでさえ復讐に無縁なヒカルを自分たちの都合で戦いの渦中へと誘ってしまったのにそこからさらにヒカルの友人まで巻き込んで死なせてしまうような事があったら......

2人にとっての最適解は事情を包み隠さず話して納得して帰ってもらう事だけだった。



バンビとカイは全てをノムに話した。

岐阜県内の連続殺人事件の犯人である口裂け女三姉妹の事、そしてその三姉妹をヒカルを含む4人で殺しに行く事、復讐の動機、戦った末に命を落とす危険性がある事、伝えられる事を全て伝えた。



「なるほどな、要するにこれからヒカルはこの人達と一緒に口裂け女とかいう奴を退治しに行くって事か」


「にわかには信じ難い話だが、今俺たちが君に話した事は全て事実だ」


「フーン......」


「これでわかっただろ?だからお前は早く家に帰......」


「やだね!」


「なっ......!」


ヒカルの言葉を遮りケラケラと笑いながらノムは言った。


「俺も行くよ!面白そうだし家にいても暇なだけだしな!それに俺結構強いから戦力になると思うぜ?」


「話を聞いてなかったのか?遊びじゃないんだ、殺されるかもしれないんだぞ」


ヒカルは鋭い目でノムを睨みながら強めの口調で言い放った

しかしそれはあくまでも親友の身を案じての事だった。

当然ノムはヒカルのその気持ちを理解した上でいつになく真剣な表情で自分の思いを言葉にした。


「そんな事わかってるよ、ふざけてる場合じゃないし町中が今どんなにやばい状況かぐらい馬鹿な俺でも理解できる」


「わかってるなら尚更帰れ、俺はお前に死んで欲しくないんだ」


「ヒカル君......」


カイとバンビはヒカルの心中を察していた

親友を危険な目に遭わせたくないのは至極当然の事だからだ。


「そんなの俺だって同じさ、親友に死んで欲しくないのはお前だけじゃない

俺だってお前に死んで欲しくないんだ」


「ノム......」


「だから誰が何と言おうと俺はお前についていく、大丈夫、俺は絶対死なねぇよ」


いつもの冗談やおふざけではないノムの本気の思いにヒカルは


「わかった、俺は全力でお前を守る

だからお前も全力で俺を守ってくれ」


「あったり前だろ!俺たち親友なんだからよ!」


そう言ってノムは再び強引にヒカルの肩に腕を回した。


「恥ずかしいからそれだけはやめてくれ」


今度は払いのけずに諦めたかのように溜め息を吐くヒカル。


「なんだよしらける奴だな〜!」


その2人のやりとりをバンビとカイは微笑ましく見守っていた。


「若いっていいのぉ」


「彼ならこの戦いに同行させても大丈夫そうですね」


「ああ、軽そうに見えて心根はしっかりとしておる......きっと心強い味方になってくれるじゃろう」



そして4人は店を出て実正町にある赤土陸の自宅へと向かった。



「......さて、ここがリクの家じゃ」


「ここが......」


赤土と書かれた表札がかかったその家は木造1階建てで所々ベニヤ板で補強した形跡があるお世辞にも綺麗とは言えない外観だった。


「とりあえずリクを呼ぼう、ごめんくださーい」


バンビは戸を叩いてリクの名前を呼んだ。


「変じゃの......返事がないわい」


「間違いなくこの家の筈なんですが......」


「土壇場でビビって逃げ出したとか?」


「まさか」


約束の時刻に家を訪ねた筈なのにそこには誰もおらず、二進も三進もいかない状態になった。


「......ひょっとするとあの場所におるのかもしれん」


「ああ、あそこですね」


「おいおい、全然何の話をしてるのかわからないぞ!あの場所ってどこだよ?」


2人だけで話を進めるバンビとカイにノムが疑問をぶつける。


「そういえば君達にはリクが何故我々に同行するのか、その理由を伝えておらんかったな」


「理由......」


「リクはな、1週間ほど前に口裂け女によって自分の......」


バンビがリク加入の経緯を話しかけた瞬間ヒカルたち4人の後ろから怒声が聞こえた。



「ちょい待ちぃ!!余計な事言わんといてや!!」



4人がその声に振り返るとそこにはやさぐれた様子の少年が立っていた。


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