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ノーテラーレジェンド  作者: 存在しない語り手
第2章【五人の有志、それぞれの思い】
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3節・青水 海 : 恩義ある師への忠誠心で魂に鎮座する人、そして母の言葉を胸に刻む


「バンビ......それって......」


「もちろん本名ではなくあだ名じゃ、私の本名など知る必要はなかろう」


(またメンドくさそうなのが......)


いきなり本名ではなく素っ頓狂なあだ名を名乗られて心の中でそう呟いた。


「ハハハッバンビ先生が自己紹介をすると大体皆そんな顔をするよ、申し遅れたね、俺の名前は青水 海(あおみず かい)、もちろん偽名でもあだ名でもない本名さ」


その名前にヒカルは聞き覚えがあった。


「ん?青水 海......ひょっとして道場に飾ってある賞状の......!」


「流石察しがいいね、そう、俺は君の通う聖南高校の卒業生さ、珍しい名前だから印象に残るというのもあるだろうが覚えていてもらえてるなんて光栄だよ」


「生徒会長でありながら元柔道部主将で個人・団体共に全国優勝を攫っている......名前は知っていたがこうして顔を見るのは初めてだ......」


「カイは君より四つ歳上になるのかな?

なんにせよ文武両道、品行方正、模範的な青年として評判なんじゃよ、ホッホッホ!」


「いえ、自分はそんな大層な人間では......」


バンビの褒め言葉にただひたすら照れ笑いを浮かべながら謙遜するカイ。


「......」


なぜこんなにもすごい実績を持ち、落ち着いてて大人の雰囲気のある人がこんな変わった老人を先生と呼び慕っているのかただただヒカルは疑問に思ったがそれよりも気になっている疑問を二人に投げかけた。


「さっき......あなたは『口裂け女』と言っていたがそれは俺が倒した口が頰まで裂けた女の事か?」


「そう、君が倒したその女の事を我々はそう呼んでおるんじゃ」


「今回ここを訪ねたのは口裂け女の事を話したいのと、君にある依頼をするためなんだ」


「依頼......?」


「単刀直入に言おう、我々と一緒に口裂け女を『討伐』して欲しいのじゃ」


バンビのその依頼にヒカルの中でまた新たな疑問が生まれた。


「討伐......?だってあの女は、口裂け女は俺が確かに倒したはず......」


その質問にカイが答える。


「口裂け女は全部で三体いる、長女、次女、三女の三人姉妹で君が倒して警察に引き渡したのが口裂け女の『長女』だ」


「それじゃあ、今岐阜県内で一連の事件を起こしているのは次女と三女......さっきカイさんが言っていた被害者の証言した犯人像が全て一致しているという話は......!」


「それは本当だ、確かな筋から情報を得た。

我々が警察というのは嘘だが」


「なんという事だ......あのレベルの化け物が二体も野放しに......」


ヒカルは絶望と悔しさを織り交ぜた表情で拳をグッと握った。


「私の息子は口裂け女三姉妹の中で最も凶悪な三女に殺された......

だから私は息子の仇を討つために口裂け女を殺す『有志』を探し始めたのじゃ。

そんな中で君が長女を倒したという情報が入ったので君の実力が本物かどうかカイに尾行させた上でここを訪ねた」


「そうだったのか......」


「先程の背後から私を捕らえた動きを見て君が月風煜本人で、口裂け女の長女を倒した実力の持ち主だと確信した......!」


「俺は口裂け女に直接的な私怨はないが恩義あるバンビ先生のために口裂け女を殺す決意をした。」


「......」


「まだ高校生の君にこのような危険な事を頼むのは忍びないし情けない事だ......しかし口裂け女の次女、三女は二人で戦ってどうにかなる相手じゃない......勝手を承知の上で俺からも頼む、どうか口裂け女の長女を倒したその力を俺たちに貸してくれ!」


バンビとカイが頭を下げる。

二人に依頼される前からヒカルの中で答えはもう決まっていた。


「確かに俺は警察でもヒーローでもないただの高校生だ.......赤の他人の息子の仇打ちだの、恩義だの、俺からしたらどうでもいいしメンドくさいだけだ」


「......」


「だが......」


「この町には俺の大切な人がいる......うるさい奴も、騒がしい奴も、鬱陶しい奴も......全てが俺にとって大切な人で、日常なんだ」


「......!」


二人は下げていた顔を上げる。


「だから、その大切な人たちを、日常を守るため『だけ』に俺は口裂け女を倒す、そしてまたメンドくさくて煩わしい奴らに囲まれる......そんな日常を取り戻す」

そう言うとヒカルは竹刀袋から竹刀を取り出して決意を表すかのように掲げた。


「ヒカル君、すまない......!」


「ありがとう......!」


バンビとカイはヒカルのその決意に敬意を払い、感謝の気持ちを言葉にした。


「......では行こうかヒカル君、お母さんに挨拶をしておいた方がいい......この家を出ればこれから君は死と隣り合わせの生活が始まる......確実にこの家に生きて帰って来られる保証はないからの......」


「ああ、伝えてくるよ」


ヒカル達は扉を開けて客間から廊下へ出た。

そして台所を少し覗きながらバンビとカイはこれから帰る旨を母親に伝えた。


「奥さん、我々はそろそろ御暇させていただきますので、ご協力ありがとうございました。」


バンビは軽く会釈をすると玄関の方に向かった。


「お忙しい中お時間を取らせてしまい申し訳ありません」


ペコペコと頭を下げるカイ。


「あらまぁ、おかまいもしませんで。」


「いえいえ、長居してご迷惑をお掛けする訳にはいきませんので......!」


「そうですか......また何かありましたらいつでもいらしてくださいね」


そう言って母親はニコッと微笑みかけた。


「はい!ありがとうございました!」


カイは元気よく挨拶をすると深々と頭を下げて靴を履き、玄関から外に出た。


「まだお若いのにあんなにしっかりした青年がいるんだね、お前も見習うんだよヒカル」


「ああ......」


ヒカルは元気なく返事をする。

普段からあまり元気がある方とは言えないヒカルだが母親はこの返事でヒカルが何かを隠している事に気付いた。


「ヒカル、お前母さんに何か言いたい事があるだろう?」


「......」


「言ってごらん」


問い詰めるような口調ではなく、まるで自分の全てを包み込むように優しい母親の声にヒカルは重い口を開いた。


「母さん......俺、しばらくこの家を出るよ」


「え......!」


「どうしても......やらなきゃいけない事が出来たんだ......」


少し目線を下に反らしながら話すヒカル。


「......それはどうしても今やらなきゃならない事なのかい?」


母親の質問にヒカルは無言で頷いた。


「そうかい......」


「母さん、俺は......」


この家を出て連続殺人犯を倒しに行くなんて言ったら、母さんはどんな顔をするのだろう

その先に踏み込むのが怖くてヒカルは自分の気持ちを言葉に出せずにいた。


そんな息子を見て母親は一度溜め息を吐いて

からこう言った。


「わかった、行っといで」


「え......!」


それはヒカルにとって予想外の言葉だった。


「お前が今何をやろうとしてるか大体察しはつくけど、今は理由は聞かないし止めもしない......止めたって是が非でも行ってしまう事ぐらいわかる、私はお前の母親だものね......」


「母さん......」


お見通しだった、自分が何を考えているかなんて


「引っ叩いてお小言を言うのは帰ってきてからにする、だから必ずちゃんと帰って来るんだよ!」


「......ありがとう、母さん」


そう言い残すとヒカルは扉を開けて外に出た。






「やっぱり血は争えないって事さね......まっく誰に似たんだろうね、ねぇあんた?」


母親はポツリと呟きながら家族3人が写っている写真を眺めた。


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