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ノーテラーレジェンド  作者: 存在しない語り手
第2章【五人の有志、それぞれの思い】
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2節・バンビ : 嘘と言う名の真実、信じるか信じないかは

『遺体で発見されたのは実正町に住む小学2年生の赤土千里ちゃんと黒鳥町に住むトラック運転手の相田哲夫さんの2名と......』



(そんな......!あいつは確かに俺が倒して警察に捕まったはずだ......警察に連行されるのを俺とレイラは間違いなく見ていた......!)


衝撃的なニュースを聞いてしまい、ヒカルの思考がぐるぐると駆け巡る。


まず思いついたのが脱獄の可能性だが、仮にそうだとしたらそのニュースが真っ先に報道されるはず。

それに実正町から黒鳥町まで電車でも最低2時間以上はかかるので同時刻に殺人を行うのは常識的に考えて不可能だ。


これらの事から模倣犯が複数いて、それぞれ違う場所で犯行に及んだのではないかとヒカルは考えた。



(何という事だ......証拠が残る事も考えず自分の犯行をまるで誇示するかのように遺体の口を裂くという残酷な事をする犯罪者の中でもとりわけ頭のおかしい殺人鬼が岐阜県内に最低でも2人はいるという事か......くそっ!)


ヒカルは居ても立っても居られなくなり、自室を飛び出して勢いよく階段を駆け下りた。


扉を開けて居間に入り、寝息を立てる母親の顔を見つめながら強い決意を固めた。



ヒカル(母さん......何があっても母さんや、ノムやレイラだけは絶対に守ってみる!!)



終わったかのように思われた猟奇殺人事件は以前と変わらず起こり続けている これにより、岐阜県内の全ての小中学校が連日集団下校を行うようになった。


しかし集団下校を行った所で日を追う毎に殺人鬼の犠牲者は増え続けるばかりで

死者5名、負傷者22名に達した頃、遂に岐阜県内の全ての学校が学級閉鎖になるという異例の事態となった。


そして学級閉鎖1日目の昼頃......


『私.....あのニュースが流れた日から怖くて窓から外を見る事もできないの......』


電話越しに弱々しいレイラの声が聞こえる。

あの女に恐怖心を植え付けられ、殺人鬼の話題に対して異常な程過敏になってしまったレイラは二箇所同時殺人事件が報道された日からこの日まですっかり怯えきってしまい、自室に引きこもるようになってしまっていた。

そんなレイラを心配したヒカルは毎日レイラに電話をかけ、安否を確認しているのだ。


「......」


『ヒカル......私......一体どうすればいいの......?』


「大丈夫、きっと学級閉鎖中に警察が......」


『捕まえてもどんどん人が殺されていってるじゃない!!!!』


つんざくようなレイラの怒鳴り声がヒカルの耳に響き渡る。


「......!」


『ご......ごめんなさい......ごめんなさい......ヒカルに八つ当たりしちゃうなんて......私どうかしてたわ......』


「レイラ......きっとお前はここ最近ずっと眠れていなくて疲れているんだ、少し横になった方がいい......」


『ええ、そうするわ......心配かけてごめんなさい......ありがとう、またね』


消え入りそうな声が聞こえると同時に電話が切れる。


(レイラ......かなり精神的に参っているな......このまま殺人鬼を放っておくと俺の身の回りの人間が殺されるのは時間の問題だ......しかし、犯人を突き止めて倒そうにもどうやって証拠や手がかりを集めればいいのか......)


ヒカルが思い悩んでいると玄関からチャイムの音が鳴った。



ピンポーン!



「誰だ......こんな時に......」


「はーい!お待ちくださーい!」


母親が玄関の扉に向かおうとする。


「母さん!俺が開けるから母さんは居間に戻って!」


「なんだいこの子は、そんな大きな声出してらしくないねぇ」


扉に手をかける母親を止める。

万が一扉を開けた先に殺人鬼がいたらと考えると行き過ぎだとはわかっていながらも警戒せざるを得なかった。


いつ襲われてもいいように慎重に慎重を期してそろりと扉を開くとそこにはスーツを着た二人の男が立っていた。

一人はやや小柄な体格に見た感じ60歳前後の老人

もう一人はスーツの上からでもわかるガッシリとした体つきに坊主頭に近いほどの短髪の眼鏡をかけた若い青年だった。


「こんにちは、月風煜君だね?」


青年がヒカルの名前を呼ぶ。


「はぁ......そうですが、どちら様でしょうか?」


ヒカルが尋ねると青年と老人は手帳のようなものを取り出してヒカル達の目の前に差し出した。


「申し遅れました。我々こういう者です。」


その手帳は警察手帳だった。

そしてその警察手帳にはそれぞれこう記されていた。


老人の方には『捜査一課警部 田嶋光二』

青年の方には『捜査一課巡査長 清水空』


「警察の方達でしたか、その......うちの息子に何か?」


少し不安そうに母親が尋ねると青年が答える。


「最近岐阜県内で多発している連続殺傷事件の事でヒカル君にお聞きしたい事がありまして伺わせて頂いたのですが......」


続けて老人が話し始める。


「ヒカル君、以前君が口が頰まで裂けた女を倒したと噂で聞いているがそれは本当かね?」


「......確かに倒しましたが、それが?」


「もしかすると、その女が今回の連続殺傷事件にも関連している可能性があると見てね、もう少し詳しくその女と戦った時の様子などを教えてもらえないかと思ってな」


「え......!でもその女は今刑務所に......!」


母親が驚く、それと同時に青年が口を開く。


「いえ、お母様、その女が直接事件に関与している訳ではありませんが犯人に襲われて生き延びた被害者の証言が一致する点がありまして、犯人は長身の女で口が頰までバッサリ裂けていたと」


「......!!」


「ヒカル君がその女と対峙したという事実が我々にとって貴重な情報なのです。ぜひご協力をお願いしたいのですが。」


「わかりました。ではこちらへどうぞ......」


「失礼します。」


二人の男はペコリと頭を下げると靴を脱いで母親に案内されながら客間へと向かう。


「母さん、少し込み入った話になりそうだから席を外してもらえないか?」


「でも......」


「大丈夫、何があったかを話すぐらい一人でできるさ」


「そうかい......じゃあ母さん居間でお茶とお菓子の準備をするから何かあったら声をかけとくれよ」


「ありがとう」



客間に向かう母親を見送った後でヒカルは客間の扉を開いて二人を招き入れる。


「こちらです。」


一般家庭の客間にしては少し広めの部屋に老人が感心する。


「ほぉー......こりゃまた随分と立派な客間だ、高そうな壺が置いてある。」


バタンと扉を閉める音がしたその瞬間にヒカルは目にも留まらぬ速さで背後から老人の首に腕を回し、頚動脈の位置にカッターナイフを突きつけた。


「!!!!」


「動くな。」


冷酷な目つきと冷酷な声でカッターナイフの刃をピタッと当てる。


「なっ.....!ヒカル君!どうしたと言うのだ?」


老人が狼狽える。


「あんた達は警察じゃない、本物の岐阜県警の警部なら俺があの女を倒した事を噂でしか知らないのはまずありえないはずだ。」


「......!!」


青年は老人を人質に取られてなす術なく立ちすくむ。


「先日からコソコソと俺の様子を伺っていたのはあんた達だな?何が目的で俺を尾行した?何が目的でこの家に来た?答えろ。」


「フ......フフ......ハハハハハ!」


この危機的な状況でとち狂ったのか老人が笑い出す。


「何がおかしい?」


今にもカッターナイフで頚動脈を切りつけそうなヒカル。

老人と青年はスッと両手を上げて自分たちに抵抗の意思がない事を示すと


「ホッホッホ!今の動き、尾行に気づく洞察力、そして我々が本物の警察ではないと見破る聡明さ......確信したわい!『口裂け女』を倒したのはこの少年じゃ!」


「そのようですね先生、そして君こそが剣道の全国大会で優勝をさらった月風煜君で間違いない。」


「......!」


老人はヒカルの腕からスッと離れるとズレたネクタイを締めなおして再び名乗った。



「では......改めて名乗らせて頂こう、私の名は『バンビ』皆からはバンビ先生と呼ばれておるからそう呼んでくれたまえ!」

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