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ノーテラーレジェンド  作者: 存在しない語り手
第1章【篇首】
2/8

2節・それぞれの不安

翌朝、通学路にて......


ヒカルは昨晩 自分達の目の前で起きた現実離れした出来事の事を考えていた。

あの化け物はまだこの南方町にいるのだろうか、そしてまたどこかで殺戮の限りを尽くしているのだろうか

何よりも、レイラの身を案じる為とはいえ殺人鬼を取り逃がしてしまった事をヒカルは悔やんでいた。


紙袋とはいえ、剣道の達人であるヒカルの太刀筋を受け止め、たった一撃でガラス製の容器の入った紙袋を切り裂く人間とは思えないほど恐ろしい力


そんな力を持つ化け物を取り逃がしてしまった事に対して自責の念に駆られていた。


そんな暗い気持ちで俯いて歩いていると後ろからポンっと誰かに自分の背中を叩かれる感触を味わった。


「よう!ヒカル!」


この軽薄な声の主は親友のノムだった。


「ノム......」


「何だよヒカル、朝っぱらから人生に疲れたサラリーマンみたいな顔してよぉ!」


暗いヒカルとは対照的に通行人がみな振り返るような大きな声で笑いながらヒカルの背中をバシバシと叩く。


「背中を叩くな、大きな声を出すな、恥ずかしい」


これでもかと背中を叩き続けるノムの手を鬱陶しそうに振りほどく。


「なんだよぉ〜つれない奴だなぁ、俺はお前が人生楽しくなさそうな顔してるからこうして話しかけてやってんのよぉ〜」


「お前はいいな、人生楽しそうで」


そう言うとヒカルはノムを横目に再び歩き出した。


「本当にどうしちまったんだよお前、何か悩みがあるのか?」


いつもの軽い口調とは違う真剣な声色と表情で語りかけるノムにヒカルは少しだけドキッとした。


「普段からお前は口数が少なくて物静かだが、今日のお前はなんというか...思いつめた顔してるからよ、本気で心配してるんだ」


「......」


自分が何を考えているかまでは知らないだろうが、誰にも言えない悩みを抱えているのを一瞬で見透かされた事でやはりノムは親友なんだなと再認識した。


「何かあったら俺に言えよ、例えば...お前が完璧すぎて嫉妬した奴に絡まれてたりしたらよ、俺は別に退学なんて屁でもねぇし、一応空手の有段者の端くれだからよ、そんな奴俺がぶん殴ってやるからな!」


ブンブンと力強くノムの拳が空を切る。


(こいつにもしも昨晩の事を言ってしまえば、相手が刃物を持った化け物だろうが自分の身を顧みずに向かっていってしまう......

危険な目に合わせる訳にもいかないし、余計な心配はかけたくない......)


「別に何もないさ、少し眠くて体が火照っていただけだ。そんな事よりも早く行こう」


「そうか...ならいいけどよ」


ノムは少し訝しげな顔でヒカルを見つめ、足早にヒカルを追いかけた。



(確かにノムの言う通り、少し思いつめていたのかもしれないな......俺が気を張らずとも殺人鬼は近いうちに警察がきっと捕まえてくれるだろう...)



二人が学校に到着し、教室に着くや否や教室中が黄色い歓声に包まれた。



「ヒカルくぅんおはよ〜!」


「こっちを向いてヒカルくぅん!」


「ヒカル君ってばぁ〜!」


ヒカルは鬱陶しそうに女子たちをかき分けて一言


「朝からメンドくさい、どいてくれ」


「キャアーーーー!!」


「ヒカル君のかっこいい声が聞けたわー!!」


「朝からヒカル君とお話しちゃったぁ!ルンルン!」


ヒカルの冷たい態度にがっかりするどころかますます興奮する女子たち。


「相変わらずすごい人気だな!」


ケラケラと笑いながらヒカルを茶化す。


「やれやれ、毎朝毎朝本当にメンドくさい......」


そう呟いて席に座ろうとすると今朝の自分と同じようにうつむき気味にドアを開け、教室に入るレイラの姿が見えた。


「レイラ......」


(無理もない。いくら普段気が強くて少し我儘でも、あんな怖い目にあったんだ)


レイラ「あ......」


レイラがヒカルに気づいた。

何かを言いたげな感じではあるが言葉を切り出せないのか、黙りこくったままだ。


ヒカル「レイラ、話したい事があるなら聞くぞ」


自分が何を考えているかを察してくれたヒカルの心遣いとその言葉に安堵し、レイラはコクリと静かに頷いた。



体育館裏にて......



「ごめんなさいね、ヒカル......朝からこんな所まで付き合わせちゃって......」


「何か言いたそうだったからな、まぁ、その何かというのは言わずもがな......」


「ええ、他でもない昨日の事なんだけど......」


言い淀んだ後に少し視線を下げるレイラ、昨日の事を思い出すのが怖いのだろう。


「大丈夫、今は俺がいる......話してくれ」


ヒカルの言葉に背中を押されたのかレイラは再び重い口を開く。


「あのね......あの後私、眠るのが怖くて殆ど一睡もできなかったの......もし眠ってしまったら意識のないうちにあいつがやって来て殺されちゃうかもしれないって思うと......目を瞑ろうとしても瞑れなかったわ.......」


「......」


「外に出るのも怖くて......本当は今日は学校をお休みするつもりだったの......でもたまたまパパとお家を出る時間が同じで学校まで送ってもらえたからここにいるの......その......ヒカル......帰りだけ......帰りだけでもいいから私と一緒に.........」

「そんなに改まって頼まれなくたって一緒に帰るつもりだったさ」


ヒカルがレイラの言葉を遮る。


「え......!」


「昨日あんな事があったのにお前を一人で帰すわけにはいかない、これからは帰りだけじゃなく朝も一緒に学校に行こう」


「ヒカル......本当にいいの?」


「ああ、今日から登下校は常に一緒だ

ただし、これから寄り道したり一人で行動したりするのはダメだ、いいな?」


「はい......!」


(万が一にもいつものように冷たく断られたらどうしようって考えたけれど......やっぱりヒカルはヒカルだわ......普段は冷たい所があるけど心根は優しい.....愛してるわ、ヒカル......)


レイラの顔はトマトの如く真っ赤になっていた。



そして放課後......



時刻は17時を回っていた。

空は赤みがかり、カラスが鳴く

すっかり人気のなくなった通学路を二人は歩く。


「......」


いつもならレイラが一方的に喋り続けてヒカルがそれを聞き流すという光景が見られるのだがレイラはただただ黙ってヒカルの袖を掴んで歩くだけだ。


(やはり、昨日の事があってからすっかり怯えてしまってる......当たり前だ、誰だってあんな体験をしてしまえば怖いに決まっている)

いつもの気が強く、グイグイと周りを我儘に引っ張っていくレイラとは打って変わって自分の袖を掴み、怯えながら歩くレイラの姿にいたたまれなくなったヒカルは沈黙を破ってレイラに語りかけた。


「大丈夫、もうお前にあんな怖い思いをさせたりはしない、何があってもお前は必ず俺が守る......だから安心しろ」


「ヒカル......ありがとう......!」


ヒカルのその言葉でレイラは安心した。

そうだ、怖がらなくてもいい

今はヒカルがいる。

何かあってもきっとヒカルは自分の事を守ってくれる。

そんな安心感と信頼がヒカルの強さにはある。

レイラはそう考え、必要以上に怖がる事をやめてまたいつものように明るく口を開いた。


「あ〜ヒカルがそう言ってくれたらなんだか怖がってたのが馬鹿らしくなっちゃった!

喉が渇いたから喫茶店でも行きましょうよ!」


「やれやれ、俺は今朝寄り道するなと言ったはずだぞ」


いつもの冷たく引き離す感じではなく、少し優しい口調でレイラのその言葉にツッコミを入れる。


「いいからいいから!」


先程まで弱々しくヒカルの制服の袖を掴んでいたその手でグイグイと腕を引っ張る。


「やれやれ、わかったから腕を引っ張るな」


またいつものレイラに戻った事に少し安心し、今日ぐらいは我儘に付き合ってやるかとヒカルは考えた。


レイラに引っ張られる勢いで小走りで道路の角を曲がったその時に二人の背中に悪寒が走ると同時に背後から冷たく凍りつくような声が聞こえた。



「あ......」


「......!」






「私綺麗?」


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