5. 伝説のお話
その少女と少年の出会いは、王立魔法学院でした。魔法を学びたい人々が集まるこの学院は、皆さんの知る今の学院と何ら変わりません。二人はそこに新入生として入学してきたのです。
庶民の家の出身で、魔法があまり得意でなかった少女は、学年首席で入学した少年に教えを請い、切磋琢磨して成長していきました。実技の授業にはペアとして臨み、放課後は勉強や修行を共にして過ごしていたと、学院の記録に残されています。
事件はそんな中で起こりました。学院長の強固な魔法で守られる学院に何者かが侵入したのです。侵入者は何かを探すように学院を破壊して回ったと言います。後にその者は赤眼であったと伝えられました。
学院長はこの事件で少年を庇い、犠牲になりました。これは学院史上最も大きな事件となったのです。
もう一つ大きな問題が発生していました。戦闘の衝撃で少年が自らに掛けていた魔法が解けてしまいます。金色に見せていた少年の眼は赤く光っていました。
事件の終結後、人々は少年の忌むべき赤眼が招いた厄災であると噂するようになりました。居場所を失った少年は学院を去りました。
その後、学院の復興は進み、少女は首席で卒業します。平穏な時が流れていました。
数年が経った頃、魔導士として仕事をしていた彼女の下にとある連絡が入りました。郊外で大規模な爆発が起こったというのです。
現場に向かうと、崩れ去った廃墟がありました。その中心に立っていたのは、成長したかつての学友の少年でした。周りに他の人影はなく、その男が破壊したのであろうことは明白でした。
さらに、彼は破壊を続けようとします。現場は人気のない郊外でありましたが、王都への侵攻を許せば被害は計り知れないものとなるでしょう。その悪逆を阻止するため、激闘を繰り広げ、ついに杖から具現化した剣で彼の胸を貫いたのです。
無事に悪魔のような所業は彼女によって阻止されました。人々は悪の魔導士を打ち滅ぼした女性を、救国の乙女として褒め称えました。それが今もこうして伝説として残されているのです。
救国の乙女は、後に学院での事件以来代理が据えられていた学院長の座に就きます。学院が昔と変わらぬ形で続いているのも、彼女の偉業の一つなのです。
やがて年老いて隠居を決意するまで、学院で魔法を学ばんとする青少年たちを見守り続けました。そして天寿を全うしたのです。
これがこの国に伝わる救国の伝説、救国の乙女ミラ・ソレイユと魔導士アレクサンドル・セレーネの物語です。