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番外編50:フィーナの昔話5

 この話は昔々の物語。

 ドカチーニとフィーナの冒険譚。

 フィーナが語る思い出話。




「ユークリット。今夜は夕食の相手が決まっているかしら?」


 フィーナさんからいつもの食事のお誘いが掛かる。

 俺は、心の中で『ベスとアンです』と言いながら、口ではいつもの答えを返す。


「いえ。まだ決まっていません。」

「では、あたしと食べましょう?」

「勿論です。ベスとアンへ今夜はフィーナさんと食事をする事を伝えてきますね。」


 俺にはフィーナさんから夕食を誘われた時は必ず一緒に食べる義務が生じた。

 ベスとアンにはすぐに了承される。

 今度は「アルフィアさんと食事を取る」と言ってみようか?

 二人はこころよく送り出してくれるだろうか?

 いや。

 やめよう。

 ろくな未来が想像できない。



 前回と同じくドカチーニの執務室での食事。

 マリーが二人分の賄いを用意してくれる。

 俺が「ありがとう」と言うと、マリーからは「仕事ですから」といつもの返事だ。



「ねぇ、ユークリット。聞いてくれる?」

「ドカチーニさんの事ですか?」

「そうよ!彼ったらね……」

「是非聞きたいですね。昔の話ですよね?フィーナさんはドカチーニさんと二人で迷宮へ挑んだのですよね?しばらくはコボルドを倒し続けたのですよね?」


 フィーナさんにはいつものチョロインさんになってもらいましょう。

 フィーナさんの瞳が簡単に恋する女の子の瞳へなりました。

 最近は私もフィーナさんの変化が楽しくなってきたりしています。



………………



 しばらくは同じ場所でコボルドだけを倒す日々が続いたわ。

 勿論、ねずみも小遣い稼ぎになるのもあるけど、貧民街のヒト達の為にもなっていると思って持てる限り鼠も持って帰ったの。



 簡単にその頃していた一日の行動を話すわね。



 まず、木の上で起きたら迷宮の斡旋屋へと向かいます。

 受付のお姉さんへと、ペアのパーティー申請をして、護符を預かります。

 受付のお姉さんが言っていた通り、一番の護符は必ず売れ残っていたわ。

 次に人気が無いのが五番ね。

 あたし達二人は、例え他が余っていても、必ず一番と五番を選ぶようにしていたの。


 迷宮の斡旋屋に仕事の依頼は無いわ。

 ひたすら迷宮に潜って『神の試練』を探す事だけが依頼と言えば依頼よね。

 迷宮の斡旋屋が斡旋するのはヒトよ。

 掲示板には『何番出来るヒト居ませんか?面談あり』とか『何番が出来ます。拾って下さい』のような掲示物ばかりだったわ。


 迷宮に潜ると鼠を倒しながらコボルドが湧くのを待つの。

 ニ対一だと必ずコボルドは逃げ出して行くから、ドカチーニが二つの区画を行ったり来たりしながら鼠を倒して行くの。

 無理をしない事と運べる荷物の量から、コボルドを三匹倒したら、その日の迷宮での活動はお終い。


 迷宮の斡旋屋へと護符を返して、貧民街に行くと鼠を売って、食料と水を確保して木の上に戻る生活を続けたわ。



 そうそう。

 銀色の月満月の夜に護符に仕掛けられた凄い事を知ったの。

 護符にはね、どれだけの時間迷宮へ潜っていたのかを知る機能があったのよ。

 確かに『神が作った』と言われても納得出来る物よね。


 どうしてそんな事を言ったのかと言うと、各ポジション別で上から十人までが、満月の夜に迷宮から魔族や魔物があふれ出る可能性を考慮して、城外へ出ての遊撃を免除されるの。


 勿論ただ迷宮に居るだけの不正をしようとする冒険者も居たけど、真面目に迷宮に潜る冒険者は護符が欲しいでしょう?

 だから不正をしようとする冒険者はいつの間にか迷宮の斡旋屋から消える事になるの。

 消えた冒険者がどうなったのかは、あたしは知らないわ。

 あたしは知りたくも無かったのよ。

 あなたは知っているかしら?

「ヒトを殺したら迷宮に捨てな。まさに事件は迷宮入りだ」

 と言う格言があるのよ。

 怖ろしいわよね?


 あたし達はそんな訳で『銀色の月満月の夜』に城外へと出る事は無かったわ。

 ペアで不人気の一番と五番を取り続けて、毎日迷宮に潜っていたから。

 自然と十番以内に入っていたのね。



 あたしの装備はコボルドから奪った短い槍と革の鎧よ。

 ドカチーニの体に合う鎧は特注になってとても高いの。

 彼には革の前掛けと、革の手袋を最初に買ったわ。

 親指以外の指は全部同じ場所に入れる手袋だったけど、彼はいつも手を怪我をしていたから、あたしは絶対に必要だと思ったの。


 その後に、彼が欲しがっていた『両手持ちの剣』を買う為には、三回は銀色の月が満月を迎えたわ。

 両手持ちの剣を手にしてから、コボルドは完全に彼の敵では無くなったわ。

 ここで初めて、あたし達は受付のお姉さんに情報を買う事にしたの。



 あなたに「一度に三ヶ月も話を進めて良いのか」なんて言われても、あたし達はずっと鼠とコボルドを倒していただけよ?

 本当にそれだけの毎日だったの。

 話しても良いけど、本当に最後まで聞くの?

 そうね。

 正しい判断よ。

 次の話を話す方があたしだって楽しいわ。



 受付のお姉さんに情報が欲しい事を伝えると、すぐに個室へと案内されたわ。

 あたし達が最初に迷宮の事を聞いた個室ね。

 ドカチーニの鼻の下が伸びた顔は見たく無いから、あたしが主にお姉さんと話をしたの。


「コボルドの次の相手ね。ペアだと言うのに短期間で装備も立派になったわね。」


 あたしの装備はコボルドが落とした物だからドカチーニの方を見てお姉さんが言ったわ。

 彼女はドカチーニに「大剣を見せて」と言って、預かるとその重さにびっくりしていたの。


「これだけの大剣を使えるのならば、少しは強い相手でも大丈夫そうね。ところであなた達は罠を見分ける事が出来るのかしら?」

「罠ですか?俺の行った事がある所では見た事が無いです。」

「そうね。迷宮が『神の与えた試練』と呼ばれる理由には階層が深くなればなるほど試練が増す事もあるわ。下の階層へ行くのはペアでは危険だし、斡旋屋の立場からすれば、本来ならばそろそろフルパーティーへと参加してもらいたいのよ?」

「しばらくは二人でやって行きます。今の階層にはコボルド以上の敵は居ないのですか?」

「勿論居るけど、知っての通り迷宮内では区画によって湧き出る魔物が変わるの。普段から湧き出る魔物も強くなるのだけど、それでも大丈夫かしら?」

「そこへ行って戦わないと分からない。」

「そうね。今回の情報は場所と出現する魔族と魔物で良いかしら?」

「それでお願いします。」

「ありがとうございます。それでは情報料は一朱となります。」


 あたしは大事な物を入れる袋の中から一朱を出して、お姉さんに渡したの。

 受付のお姉さんに情報を買ったあたし達は早速護符を受け取って試しに迷宮へ潜ったわ。



 迷宮の一番浅い所では、蝙蝠こうもり百足むかでねずみ、水場でかえるが出現するほとんどの魔物だったわ。

 時々魔族のコボルドが現れるのが脅威だったの。

 お姉さんに魔物の名前を『神の言葉』で教えてもらったけど、その当時はあまり覚えていなかったわね。

 勿論、今もあまり覚えていないですけどね。

 そしてこの辺りが『もぐり』達も比較的安全に迷宮へと潜れる場所だったのね。

 これからあたし達二人が行く所は、もう少しだけ大路を奥へと行った所。



 迷宮の雰囲気が変わった事にはすぐに気付いたわ。

 そこから小道へと入って、あたし達にとってはその場所の初探索が始まったの。


 大した事では無いのだけど、鼠を捕食するふくろうが現れたわ。

 羽の音を少しもさせずに鼠を空からさらっていったわ。

 あたしは梟を見たのは初めてだったから少しだけ興奮したわ。

 後は蜥蜴とかげも出てきたわ。

 蜥蜴と言っても城壁の外にいる大きな蜥蜴じゃなくて、街にもいる普通の蜥蜴よ。

 街にいる蜥蜴に比べたら何倍も大きいけど、あたし達へと自分から襲ってくる事は無いわ。


 一番問題はコボルドの出現頻度が上がった事ね。

 ドカチーニも一対一なら全く問題ないけど、コボルドが逃げた先で合流をして二匹になったりすると結構面倒ね。

 あたしが護りに徹している間に、ドカチーニがもう一匹を倒せるかが問題になるの。

 一匹倒せばコボルドは逃げて行くから問題の先送りではあるのだけどね。


 言い忘れていたわね。

 今回のあたし達の目標は『ゴブリン』。

 神の言葉を使わなければ『緑小鬼』なんて呼ばれている魔族よ。

 物影に隠れて襲ってくる事が多いと言う事だから区画内に物が存在したら常に確認してからの移動になって、移動するだけでも今までの数倍は疲れたの。



 初めてのゴブリンとの遭遇は正直言って悪かったわね。

 あたしが後ろから頭を殴られたの。

 物影を注意していたと思ったけれど、まだまだ確認が足りなかったのね。

 だから、あたしにはその後の迷宮での記憶が無いわ。

 あたしが目覚めたのは迷宮の外。

 神殿嫌いのドカチーニが迷宮の教会とも別名がある教会で回復魔法をあたしへとお布施を払って回復してくれてから。


 後でドカチーニに聞いたら「ゴブリンは倒した」と言っていたけど、戦果を何も持って帰っていなかったのよ。

 余程慌ててくれたのだと思うわ。

 だってね。

 あたしの持っていた槍も置いてきてしまったのよ?

 あたし達が迷宮に潜って初めての大赤字だったわ。

 


………………



「ねぇ。ユークリット。その時にどうやってドカチーニがあたしを運んでくれたと思う?」

「そうですね。背中には大剣を背負っていたのですし、普通に考えたら前に抱えて運んだのだと思います。」

「あらあら。そこは女の子と話しているのよ?『お姫様抱っこ』と言いなさい。」


 俺は「女の子」と言われて疑問に思ったが、夢見るチョロインさんの目を覚ましてはいけない事に口から言葉が出る寸前に気付いた。

 目の前の彼女は今『フィーナと言う名の女の子』だ。


「そうですね。『お姫様抱っこ』ですよ。間違いありません!」

「あなたもそう思うでしょ?だけど、ドカチーニは否定するのよ?」

「きっと恥ずかしいだけですよ。私だって『お姫様抱っこ』をしている事を想像したら恥ずかしくなりますよ。」

「あらあら。誰の事を想像したのかしら?」

「言えません!!」

「やっぱり男のヒトは恥ずかしいのかしら?素敵な事なのにね。」




 今日はフィーナさんがチョロインさんのまま和やかに食事が終わった。

 俺も気を失ったフィーナさんを『お姫様抱っこ』で必死に運ぶ若き日のドカチーニさんの様子が鮮明に頭に浮かび、怪我をしたフィーナさんには悪いが、彼の姿を見たかったと思った。

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