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番外編47:フィーナの昔話4

 この話は昔々の物語。

 ドカチーニとフィーナの冒険譚。

 フィーナが語る思い出話。




「ユークリット。今夜は夕食の相手が決まっているかしら?」


 フィーナさんから食事のお誘いが掛かる。

 すでにお怒りですね。

 感情がシーリンさんほど上手く笑顔で隠せていませんよ?

 今日もドカチーニさんが居ないのですね?

 もう彼が食堂に居るかどうかを調べたりはしません。

 俺は、心の中で『ベスとアンです』と言いながら、口ではいつもの答えを吐く。


「いえ。まだ決まっていません。」

「では、あたしと食べましょう?」

「はい。喜んで。ベスとアンへ今夜はフィーナさんと食事をする事を伝えてきますね。」



 俺は、心の中で『あの親父どこへ行きやがった!』と口には出せない言葉を飲み込んで、ベスとアンへと「フィーナさんと夕食を食べる」事を告げた。

 二人には「私達と食べて下さい!」とわがままを言って欲しいのだが、フィーナさんと食べる時には、むしろ喜んで送り出されているような気がしてならない。



 前回と同じくドカチーニの執務室での食事。

 マリーが二人分の賄いを用意してくれる。

 俺が「ありがとう」と言うと、マリーからは「仕事ですから」とだけ返ってきた。



「ねぇ、ユークリット。聞いてくれる?」

「ドカチーニさんの事ですか?」

「そうよ!彼ったらね……」

「是非聞きたいですね。昔の話ですよね?フィーナさんはドカチーニさんと二人で迷宮へ挑んだのですよね?迷宮の中はどんな感じなのですか?」


 フィーナさんにはいつものチョロインさんになってもらいましょう。

 思惑通りフィーナさんの瞳が恋する女の子の瞳になりました。

 後はチョロインさんになっている内に逃げ出すだけです。



………………



 実を言うとね。

 あたしは一年以上迷宮の近くに住んでいたけど、迷宮の入口に来たのは初めてだったの。

 ドカチーニから話は聞いていたけど、十間(約18メートル)の立方体が一区画の大きさ。

 それがいくつも繋がって迷宮が出来ていると言うのよ。


 木の上で話を聞いていた時は「凄いなぁ」なんて言っていたけど実感が無かったのね。

 幅が十間もある地下へと続く階段を見るだけで、正直言うとあたしは足がすくんだわ。

 地面にどこまでも潜って行く巨大な穴が真四角で開いているのよ?

 神殿が言う事はともかくとして、確かに『神が作った』と思えたわ。



 ドカチーニがあたしの前を歩いて階段を降りて行くの。

 最初は階段を結構な段数降りたわ。

 外の光が届かない所まで来ても迷宮の中は薄暗いけど見えないほど暗くならなかったの。

 あたしはドカチーニに聞いたのよ。


「どうして迷宮の中は明るいの?」

「勘違いするな。明るい訳じゃ無い。区画は真四角だが区画の中には物影が存在する。魔物が隠れて居たりするから気を抜くなよ?」

「質問の答えになっていないわよ?」

「どうして明るいかは俺にも分からん。それでは駄目か?」

「いえ。十分よ。『神が作った』と言われて多くのヒトが納得する訳だわ。」

「これから俺達が向かう所は、犬みたいな顔をしたヒト型爬虫類の魔族が出る場所だ。」

「名前は知らないの?」

「俺が『もぐり』の頃は冒険者は『犬蜥蜴人いぬとかげじん』と呼んでいたな。」

「魔族が住んでいるの?」

「住んでいるか……実際に自分で見ないと実感が湧かないと思うが魔物や魔族が湧く。」



 あたしにはドカチーニが何を言っているのか分からなかったわ。

 ドカチーニと一緒に突き当りの区画に来て、彼が大きなねずみを何匹も退治している間に、魔族が湧いたの。


 本当に湧いたと言う表現しか出来なかったわ。


 後で迷宮の斡旋屋の受付のお姉さんに聞いたのだけど、この魔族の名前は『コボルド』。

 短い槍と革の鎧を装備した、もっとも弱い魔族の一人。

 それでも、今のあたし達にはとても強敵だったの。

 だって、武器はドカチーニの小刀が一つ。

 防具は庶民が着る貫頭衣を着ているだけよ。



 コボルドはあたし達の武装を見ると襲って来たわ。

 ドカチーニが右手に小刀を構えてコボルドと対峙たいじしたの。


 けど対峙出来たのは一瞬だったわ。

 だって間合いの広さが全然違うのだもの。

 相手は槍よ?

 ドカチーニの防戦一方よ。

 相手の槍を受けそこなう度に右腕に傷を作っていくの。

 あたしはもう見ていられなかったわ。

 目を両手で塞いでしまって戦いを見ていなかった事は今でも悔やんでいるわ。


「ぎゃぁぁぁぁぁ」


 と叫び声が聞こえたので、あたしは心配になって目を開いたら、いつの間にかドカチーニが左腋に相手の槍を挟んで、小刀を相手の左目に突き立てていたの。

 その後は一方的だったわ。

 ドカチーニが相手の顔を何度も何度も小刀で刺すのよ。

 正直言って怖かったわ。

 内緒だけどドカチーニの事がよ。



 戦闘が終わった後、彼の右腕は傷だらけだったわ。

 誰も来ない突き当りの区画を彼が選んだのは、あたしの回復魔法を使う為だったの。

 回復魔法で彼の傷は治ったけど、彼が本当に心配だったわ。

 あたしの回復魔法をあてにしないで怪我をしないで欲しいと思ったの。


「ドカチーニ。あたしの回復魔法をあてにしないでね?」

「悪いな。なるべく使わせないようにとは思っているが、まだまだ俺も修行が必要だ。」

「無理しないでね?」

「ああ。それよりも見ろ。短いけど槍と革鎧と二朱も手に入ったぞ。革鎧は俺には小さいけどお前なら着られるだろ?」


 正直言うと、あたしはコボルドが着ていた鎧なんて着たくなかったけど、命には代えられないと思って着たの。

 コボルドは小柄なのに、あたしには鎧がぴったりだったのが少し腹立たしかったわ。

 そこにドカチーニが追い打ちを掛けてきたのよ?


「俺の見立てた通り、こいつの鎧はお前にぴったりの大きさだったな!」


 あたしの為に頑張ってくれたのは分かるけど、余計に腹が立ったわ。

 武器と防具が手に入って、あたしは戦いが少しは楽になると思ったの。

 だけどドカチーニが一度、大路おおじまで帰ると言うのよ。

 あたしには迷宮の事は何も分からないから彼の指示に従ったわ。



 コボルドを退治する前に倒した鼠も袋へと入れたの。

 迷宮のすぐ外にある貧乏人と呼ばれるヒト達に一匹四文で売れると言うの。

 少しでもお金になるならと思って、あたしも頑張って運んだわ。



 大路へと帰る途中、一匹のコボルドに偶然遭遇したの。

 だけど、今度のコボルドはあたし達を見ると逃げて行ってしまったのよ。


「あぁ。やっぱり駄目か。」

「どういう事?」

「あの魔族は基本的に臆病で勝てそうだと思った時以外は逃げ出すって話だ。」

「良く分らないのだけど?」

「昔の俺みたいな『もぐり』にとっては死ぬほど怖い存在だったけど、武装した冒険者には立ち向かっても来ない雑魚ってところだな。冒険者になった事だし、あの魔族の名前を教えてもらいに、これから迷宮の斡旋屋へと行こうな?」


 あたしの気のせいかも知れないけど、少しドカチーニの鼻の下が伸びていた気がしたわ。

 受付のお姉さんは美人ですものね!



 大路と呼ばれる、冒険者が良く通る道には魔物は滅多に居ないの。

 たとえ湧いても「通る冒険者にすぐに駆逐されるから」とドカチーニが言っていたわ。

 あたし達の初日の冒険はこれでお終い。

 むしろ情報を集める為に再び迷宮の斡旋屋へと向かったの。

 迷宮の斡旋屋へと向かう前に行った貧民街で鼠はあっという間に完売だったわ。

 全部売ったのだから、自分達が鼠を食べない事にほっとしたの。



 あたし達は迷宮の斡旋屋へと帰るとポジションの護符を返したわ。

 そこへと受付のお姉さんがやってきて祝福してくれたの。


「初心者だけの冒険者がしっかりと成果を出して、無理をせずに帰ってきた事を祝福します。手に入れた装備から見てコボルドを倒したようね。」

「あの魔族はコボルドと言うのですね。」


 ドカチーニがまた敬語になっていたわ。

 なんか納得いかないわよね?


「そうですよ。あの魔族は自分が有利な時以外は逃げると言われているので、意外と討伐する事は困難なの。それに見た所、返り血は沢山浴びているけど、無傷のようね。とても優秀な初回の迷宮探索だったと思うわ。今後はあなた達の担当をさせてもらいたいけど良いかしら?」

「はい!お願いします!」

「良い返事だけど、有料よ?」

「どのくらい金銀が必要になるのですか?」


 鼻の下が伸びたドカチーニに代わってあたしが質問したわ。


「情報次第ね。」

「少し彼と相談したいのですが時間をください。」

「分かったわ。受付に居るから、決まったら声を掛けてね?」

「はい。」


 あたしはドカチーニの手を引いて一度誰も座っていない食卓へ座ったの。


「ねぇ。あたしは迷宮の事を知らないから聞くけど、この後の予定とかはあるの?」

「俺が考えているのは、少しずつ魔族から装備を奪っていく事くらいだな。」

「今回、二朱の金銀とわずかな銭を手に入れたけど、使い道は考えているの?」

「いや。全く考えていないぞ?」


 あたしはある程度この答えを予想していたわ。


「あたしの考えを言っても良いかしら?」

「ああ。」

「一朱で食料を手に入れましょう。久し振りにかえる以外も食べたいわ。残りの一朱で情報を買いましょう。あとはドカチーニの鎧が欲しいわ。」

「俺も欲しいけど、俺くらい大きな体になると、魔族にもなかなか居ないな。居たとしても二人では倒せる相手では無くなるぞ?」

「それなら、しばらくはコボルドを倒してお金をためましょう。」

「ニ対一だとコボルドは逃げて行くぞ。どうやって倒す?」


 あたしも怖いけど、これしか無いと思ったの。


「今日の突き当りの区画にいる魔物を退治したら一つ戻った区画で待ち伏せするの。」

「なるほど。コボルドが湧いたら俺が一人で討伐へと行くのか。だがそれをするとお前も一人になって危険になるが良いのか?」

「あたしも一応冒険者よ。鎧だってもらったし、頑張るわ。」

「そうか。それなら明日試してみよう。」



 受付のお姉さんには、あたしが報告に行ったわ「今日は情報を必要としません」って。

 その後、久し振りにまともな食事を取って、木の上の家へと帰ったの。



………………



「フィーナさん。これから個人的に気になる質問をしますが良いですか?」

「今の話で何か気になる事があったかしら?」

「先日は『迷宮で知った神の言葉を外部に漏らしてはいけない』と言っていましたが?」

「あらあら。ユークリットったら聞き上手ね?あたしからそんな機密情報を聞き出すなんて。魔族の正式名称を外へ漏らしたら駄目よ?」


 悪い予感しかしません。

 私の悪い予感は当たった事の方が少ないのですが……

 心の中が敬語になっています。


「そうね!ユークリットも迷宮の冒険者へとなれば良いのよ。ちょっと暇な時に迷宮へと行ってみなさい。」

「勘弁してください。ベスとアンに心を殺されます!」

「大丈夫よ。二人には『あたしのお使いへ行った』と伝えておくわ。」

「怪我をして帰っても、返り血を浴びて帰っても私には地獄しか無いですよ!?」



 結局『この執務室で聞いた昔話は一切他言しません』と誓約書を書かされるだけで、俺は事なきを得た。

 代償は『あたしが夕食に誘ったら必ず共にする事』の一文。

 俺に取っては今までと何も変わらないから全く問題無い。




 ……俺は彼女との食事の度に段々と底なし沼の深みにはまっている気がしてならない……

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