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番外編40:フィーナの昔話3

 この話は昔々の物語。

 ドカチーニとフィーナの冒険譚。

 フィーナが語る思い出話。




「ユークリット。今夜は夕食の相手が決まっているかしら?」


 フィーナさんから食事のお誘いが掛かる。

 食堂をぐるりと見回すが、今日はドカチーニさんが居ない。

 俺は、心の中で『ベスとアンです』と言いながら、口ではこのように答える。


「いえ。まだ決まっていませんよ。」

「では、あたしと食べましょう?」

「はい。喜んで。」

「ベスとアンへ今夜はフィーナさんと食事をする事を伝えてきますね。」

「ええ。ドカチーニの執務室で二人分の賄いを頼んで待っているわよ?」

「執務室ですか?」

「そうよ。マリーが執務室で食べろって言って譲らないの。」


 ベスとアンへ「フィーナさんと夕食を食べる」と断りを入れて厨房へ入る。

 執務室は厨房の奥だ。


 厨房では最近、マリーがスープを作る事が多くなった。

 上品で美味しいのだが、肉体労働者の俺には少し塩気が足りない。

 港湾施設の筋肉達が喜んで食べているのを見ると、魔力で動く彼らと俺とでは必要な塩分量が違うのかも知れないな。

 マリーのスープは筋肉達へ飛ぶように売れる。



 執務室に入ると、俺の椅子も用意されていた。

 マリーがフィーナさんの分だけでなく、俺の分まで賄いを用意してくれる。

 俺が「ありがとう」と言うと、マリーからは「仕事ですから」とだけ返ってきた。


 対面に座るフィーナさんを見れば、可愛くお怒りのご様子。

 治療師モードになっていないフィーナさんはただの小柄で可愛いお婆さんだ。

 頭は白髪が混じっているが、それ以外に若々しさを失っていない。

 俺が席に着くなり、フィーナさんの口が開く。


「ねぇ、ユークリット。聞いてくれる?」

「ドカチーニさんの事ですか?」

「そうよ!彼ったらね……」

「是非聞きたいですね。昔の話ですよね?フィーナさんはドカチーニさんと二人で迷宮へ挑んだのですよね?その後はどうなったのですか?」


 フィーナさんにはチョロインさんになってもらいましょう。

 今日の代償は、マリーの作ったスープです。

 フィーナさんの瞳が恋する女の子の瞳になりました。



………………



 あたしとドカチーニは迷宮へ潜る為に、迷宮の斡旋屋から出て、迷宮へ向かったの。

 そうしたら後ろから受付のお姉さんがあたし達を追って走ってきたわ。


「あなた達、ポジションの護符を選んで行かないの?」

「ぽじしょん?」


 ドカチーニまで『はてな』って顔で首を傾げているの。

 受付のお姉さんが「はぁぁぁぁぁぁ」と息を長く吐いてから、あたし達を迷宮の斡旋屋にある個室へと誘ったの。

 勿論、あたし達二人はお姉さんへついて行ったわ。



 個室に着くとお姉さんは長椅子にあたし達を座るようにとうながしたわ。


「話が長くなるかも知れないけど、最後まで聞いてね。『元もぐり』の君。冒険者からは何も聞いていないの?」

「はい。冒険者のヒトは俺達『もぐり』には何も教えてくれません。二人以上で通路に居ると怒られるだけです。」

「冒険者諸君はきっちり、規則を守ってくれていて、ありがたいわ。君達二人のように完全な新人だけで迷宮に潜るヒトが久し振りで私も完全に忘れていたわ。大体はパーティーの先輩が教えてくれる事だからね。」

「何でしょうか?」



 またドカチーニの言葉が敬語になっているわ。

 こういう大人のヒトが好みなのね。



「まずは一番重要な事よ。破ると神殿が色々とうるさいの。迷宮はなぜあるのでしょうか?」

「そこにあるから?」

「はい。はずれです。神殿の見解では『神の与えた試練』です。」

「神殿の見解ですか?」


 あたし達二人は神殿が大嫌いだから、ちょっと過剰に反応したかも知れないわね。


「あくまで神殿の見解よ。でも全く関係ないとも言えないわ。とにかく地上の常識がまるで通用しないの。『元もぐり』の君なら幾つか覚えがあるでしょう?」

「はい。あります。」

「冒険者から神の言葉を聞いた事はある?」

「ほとんど覚えがありません。」

「そういう事。迷宮に潜る冒険者は神殿が秘匿している神の言葉を色々と知る事になるけど、迷宮関係者以外に話す事を禁じられています。君が『もぐり』の仲間に会っても神の言葉を教えては駄目よ。」

「はい。気を付けます。」



 ドカチーニったら、完全に顔が赤くなっているわ。

 あたしに対しては、こんなに赤くなる事なんて無いのに!


「迷宮に潜る冒険者が神の言葉を秘密にする代わりに良い事もあるわ。迷宮内で怪我をしたら教会の回復魔法が安く優先して掛けてもらえるのよ。」 


 再び二人で怪訝な顔になったのだと思うわ。


「庶民には教会の回復魔法には縁が無いから分からないかな?みるみる傷が治っていくわ。お世話にならないのが一番だけど、怪我をした時は回復魔法をお勧めするわね。」

「はい。分かりました。」

「良い?一番大事な事は、迷宮の外では神の言葉を使わない事だからね!気を付けてね。」

「はい。分かりました。」



「では次ね。迷宮は『神の与えた試練』です。では冒険者が潜る目的は?」

「生きるため?」

「はい。はずれです。『神の与えた試練』を探す為です。全国各地に迷宮は大小ありますが、未だに一つも発見されていません。」

「神殿が勝手に『神の与えた試練』と言っているだけじゃないのですか?」

「そう言うヒトも多くいるけど、ヒト前で言っては駄目よ。良い?ここが大事よ!あなた達は知らないと思うけど、神殿が本気になったらヒト一人くらいは簡単に居なくなるからね!迷宮の冒険者になるのなら、ヒト前で神殿を批判したら絶対駄目よ!」


 あたしもドカチーニもその事は良く知っているわ。

 でも他人には言わない。

 そのヒトを巻き込む事になるから。


「神様は試練を乗り越えるためにヒト族へ祝福を授けてくださったの。これは迷宮内でしか発動しない祝福よ。神殿の言う『神の与えた試練』の根拠の一つになっているわ。」

「どんな事でしょうか?」

「ポジションよ。」

「ぽじしょん?」


「ポジションの説明の前に少し問題を出しましょう。」

「お願いします。」

「はい。パーティーは全員で何人まででしょうか?」

「六人までです。」

「はい。正解!ではなぜ六人まででしょうか?」

「分かりません!」

「素直でよろしい。私も詳しくは知らないけど、色々試していく中で六人で動くのが『一番効率が良い』という事になったの。昔のヒトは本当に色々試したみたいで全部話すと長くなるから。今回は説明するのをやめるわね。」


 今度は受付のお姉さんへとドカチーニが逆に質問をしたの。


「戦えるヒトは五人なのに、なぜ『ぱぁてぃ』は六人なのでしょうか?」

「はい。良い質問ですね。それはこれから話すポジションで分かると思います。」

「よろしくお願いします。」



「ポジションは全部で六種類あります。それぞれに神が与えてくれる『祝福』が違います。」

「あたしでもつける『ぽじしょん』はあるのですか?」


 受付のお姉さんが困った顔をしたわ。

 あたしの冒険者の証を見たのだから当然とは思うけど。


「はい。あなたは耐久力には優れているので『センター』外で神の言葉を漏らさない為に『五番』と冒険者に呼ばれているポジションが向いていますね。耐久力に優れたヒトの身体強化魔法は防御力が高くなる傾向があるので、あなたに向いていると思います。」

「『せんたぁ』『五番』ですか。」

「はい。ただ、鎧込みの防御力の祝福となりますので、現在は有効では無いですね。」


 あたしの場合は回復魔法で無理矢理取った耐久力満点。

 果たしてあたしに身体強化魔法の防御力はあるのかしら?



「次は『パワーフォワード』外では『四番』。ここまでが前衛よ。」

「どんな祝福があるのですか?」

「『四番』の祝福は『攻撃力』。純粋な攻撃力が上がるの。」

「どんな風に上がるのですか?」

「それはこれから自分が経験して覚えていってね。ただ『ペア』や『ソロ』のヒトには人気があるから取るのが大変なポジションね。」

「取るのが大変なのですか?」

「はい。そうです。そこは後でまとめて説明するわね。」



「次に『スモールフォワード』外で使う名称は『三番』。祝福は『敏捷力』。色々出来る器用なヒトに向いたポジションね。前衛にも後衛にもなるわ。時には斥候としてパーティーから離れて単独で行動する事もあるみたい。冒険者の中には一番難しく重要なポジションと言うヒトも居るから、自分で覚えていってね。」

「はい。分かりました。」



「次が後衛として大人気な『シューティングガード』外の名称は『二番』。これぞ『神の祝福』と言うヒトが多いこのポジションの祝福は『命中力』。飛び道具が味方に当たらないの。敵に当たるかどうかは冒険者の腕前次第だけど。乱戦の中、味方を気にせずに遠距離攻撃を出来るのは強みね。範囲系の魔法で無ければ、攻撃魔法だって味方に当たらないわよ。」

「どういう理屈なのですか?」

「神の祝福と言う理屈よ。」

「……分かりました……」



「そして、一番人気が無い……と言うより役立てる事が出来るヒトの少ない『ポイントガード』外では『一番』と呼ぶわ。祝福は『消費魔力の軽減』。魔法使いは冒険者でも数が少ないから……『ペア』ましてや『ソロ』では必ず最後まで余るポジションね……」

「余るのですか?」

「貴族や士族が冒険者を雇って迷宮に入る時、魔法使いが居ない場合には、このポジションを取る事が多いわ。『消費魔力の軽減』は疲れにくい事にも繋がるから。冒険者の中には、それを揶揄やゆして『司令塔』なんて呼ぶヒトもいるわね。」

「最後のポジションを説明したら『余るポジション』について説明するわ。」



「最後のポジション『シックスマン』外での名称は『六番』。『番外』と呼ぶヒトもいるけど『六番』が主流ね。祝福は『筋力』。シックスマンの使い方はパーティーによって様々ね。荷物持ちになったり、上がった筋力で重武装した前衛になったり、魔法使いが居ないパーティーでは一番の代わりになったり。怪我をしたヒトの代わりに戦ったり。役割は本当に様々よ。」



 受付のお姉さんの説明が長いわ。

 ドカチーニはもう完全に飽きて聞いている振りをしているだけね。

 せめて顔に視線を持って行きなさい!

 胸じゃなくて!

 あたしへの嫌味かしら?



「説明が長くなって一度では理解出来ないわよね?簡単にまとめると、ポジションの祝福には六種類あって、基本的にパーティー内での重複は認められないの。本当は出来るけどパーティー毎平等にする為ね。」



「ぽじしょんが余ると言う話はどういう事ですか?」

「各迷宮事にポジションを示す『護符』の枚数が決まっているの。迷宮内で冒険者が死んだり護符を無くしたりすると『護符』は必ず迷宮の入口へと帰って来るのよ。」

「何故ですか?」

「神の祝福と言う話よ。」

「……分からない事は全て神の祝福なのですね……」

「その通りだけど、外でそれは言わないでね?」

「はい。分かりました……」

「ここの迷宮では『ソロ』用に一組。『ペア用』に二組。残りをフルパーティーの護符として使っているわ。フルパーティーとは六人パーティーの事よ。すでに護符が無い時は、無いまま潜るか、その日は諦めるかのどちらかを選ぶの。」



「説明は分かったかしら?」

「ほとんど分かりません!」

「素直なところは好ましいわ。」


 受付のお姉さんが少し申し訳なさそうに二つの護符を並べたわ。


「それでね。今日は『一番』と『五番』の護符しか余っていないの。」

「護符が無いよりはずっと良いですよね?」

「そう言ってもらえると助かるわ。護符の効力は迷宮内でしか発動しないから気を付けて。」

「色々と説明ありがとうございました。今度こそ行ってきます!」

「前にも言ったけど、頑張れとは言わないわ。生きて帰っていらっしゃい。」

「はい。」

「最後に一番大事な事をもう一度だけ言うわ。『絶対、迷宮外で神の言葉を軽々しく使わない事。』。あなた達の命に関わるからね!」

「はい。絶対にそこは守ります。」


 神殿の怖さは身をもって知っている。

 二人で受付のお姉さんへとお礼を言って部屋を後にした。


 迷宮へ今度こそ出発よ!


 あたし達は意気込んで再び迷宮の斡旋屋を後にしたの。



………………



「あらあら。せっかくマリーが作ってくれたスープが冷めてしまったわね。」

「いえ。冷めても美味しいですよ。また昔の話を聞かせて下さいね。」

「ええ。是非聞いてちょうだい。それにしてもドカチーニは帰りがおそいわね?」

「……本当ですね……」

「昔の話をしていたら、今日のドカチーニの事を思い出したわ。聞いてね?ユークリット。」

「……はい……何でしょうか……」



 ああ、俺は結局フィーナさんの愚痴から逃げる事は出来なかったようだ。

 恋する乙女から醒めたフィーナさんの顔が魔女に見えたのはきっと目の錯覚だ。

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