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番外編36:フィーナの昔話2

 この話は昔々の物語。

 ドカチーニとフィーナの冒険譚。

 フィーナが語る思い出話。




 夕食時、フィーナさんがいつもの食卓で俺を手招きしている。

 いつも隣に立っているマリーが居ない。

 このまま彼女を無視する事は出来ない。

 とりあえず、俺はフィーナさんの座る食卓へと足を向けた。



「ユークリット。今夜は夕食の相手が決まっているかしら?」


 俺は、心の中で『ベスとアンです』と言いながら、口ではこのように答える。


「いえ。まだ決まっていませんよ。」

「では、あたしと食べましょう?」

「はい。喜んで。」


 フィーナさんには日頃から俺達3人がお世話になっています。

 彼女の誘いを断る事など出来ません。

 これから何かが起こるのでしょうか?

 既に心の中が敬語になっています。

 どうやら、私は緊張か動揺をしているようです。


「ベスとアンへ今夜はフィーナさんと食事をする事を伝えてきますね。」

「ええ。二人分の賄いを頼んで待っているわよ?」

「お願いします。」



 俺の周りには『大魔王』が多すぎます。

 俺が逃げようとしても逃げる事は許されません。



 ベスとアンへ「フィーナさんと夕食を食べる」と断りを入れて食堂へと戻ってきました。

 今日は2人が魔王になる様子はありません。

 フィーナさんとの食事は二人に承認されたようです。


 フィーナさんが俺を食事に誘う時はマリーとドカチーニさんが居ない時です。

 むしろドカチーニさんが居ない時に、理由を付けてマリーを厨房へと送り出します。

 最初のうちは一歩もフィーナさんから離れなかったマリーも、フィーナさんが診療所を開いてからは、顔見知りも増えたのか、安心してフィーナさんから離れるようになりました。



「ねぇ、ユークリット。聞いてくれる?」

「ドカチーニさんの事ですか?」

「そうよ!彼ったらね……」

「是非聞きたいですね。昔の話ですよね?フィーナさんはどうやって冒険者試験の耐久力試験で満点を取ったのですか?」


 ドカチーニさんの愚痴を延々と聞かされるよりものろけ話の方が何倍もマシです。

 フィーナさんの会話を誘導しましょう。


「そうね。あたしが冒険者試験に合格したのもドカチーニのお陰なのよ。」


 誘導成功です。

 この一点だけはフィーナさんもチョロインさんです。

 ドカチーニさんとの昔話を振るだけでフィーナさんの瞳が恋する女の子の瞳になりました。

 誘導の代償として、スープが冷えきる迄フィーナさんの昔話が続きますが、安い代償です。



………………



 この前はどこまで話したかしら?

 確か「フィーナ」の名前をドカチーニからもらった所までよね?

 ユークリットは耐久力の試験で、あたしが満点を取った話を聞きたいのよね?

 その時のドカチーニも恰好良かったのよ?



 あたしが成人するとすぐに二人で冒険者試験へと行ったわ。

 ドカチーニは先に成人していたみたいだけど、あたしを待っていてくれたのね。

 あたしは筋力も敏捷力も全く無かったから、耐久力一本勝負だったの。

 他はどうやっても良い点を取れそうに無かったわ。


 耐久力の試験は満点を取るのが一番大変な試験ですって?

 そうね。

 普通のヒトならそうかも知れないわ。

 だけど、あたしはその頃から回復魔法の使い手なのよ?

 普通のヒトとは逆で、あたしが満点を取れるとしたら耐久力の試験しか無かったの。



 朝一番、まずは『上体起こし』から始めたわ。

 耐久力試験の基本的な順番ね。

 あたしは回復魔法が無いと上体起こしは二回が限度だったわ。

 そんな事でどうやって満点を取ったのかですって?


 決まっているでしょう。


 一回上体を起こす度に回復魔法を掛けるのよ。

 他のヒトと違って時間だけが勝負よ。

 何度だって魔力が続く限り上体を起こせるわ。

 時間はぎりぎりだったわ。

 あたしには耐久力の試験の中で、この試験が一番の難関だったの。

 この試験で満点を取れなかった時点で今回の審査を諦めると決めていたくらいよ。



 ドカチーニにお昼に起こすように頼んで寝る事にしたの。

 一人で若い女の子が寝ていたら危ないですって?

 そうね。

 ドカチーニもそれを危惧きぐしたわ。

 結局あたしが寝ていたのはドカチーニの背中よ。

 彼が順番待ちの列に並びながら、ずっとあたしをおぶっていてくれたの。

 彼の試験が始まると起こされるから、常に彼の試験も見れたわ。

 あたしが見た試験は全部満点を取っているのよ!

 彼は最高に恰好良いわよね?



 あたしが魔力を回復したら、今度は『持久走』をしたの。

 あたしが常に全力で走れば、満点は見えていた試験ね。

 持久走の試験で常に全力疾走出来る事が凄いですって?

 あたしが素の身体強化魔法で持久走を全力で走り抜けられる訳無いでしょ!?

 勿論回復魔法を使ったわ。

 四肢には痛み止めの魔法を掛けて、走っている最中は心臓と肺に回復魔法を掛けまくりよ。

 走りながらだから、回復魔法を掛けるのも、いつもより大変で難儀したのよ。

 走り終えて満点を出してから、痛み止めの魔法を解いた時の手足の痛みは忘れられないわ。

 痛みはとても大切よ?

 体の限界を教えてくれているの。



 持久走の後は魔力回復の為に、またドカチーニの背中にお世話になったの。

 その間も彼は順調に各試験を満点で合格していったわ。

 彼は最高に格好良いわよね?



 最後が『十間往復走』ね。

 あたしにとっては、これ以上に満点を取りやすい試験は無かったわ。

 持久走と違って、走りながら回復魔法を掛ける必要が無いのよ。

 だから、今回は痛み止めの魔法を掛ける事も無かったわ。

 全身にだって回復魔法を掛ける余裕があるもの。

 いつまでも続くあたしの『十間往復走』に、審査員が音を上げたわ。

 あたしへ「満点を越えています。次のヒトを試験したいので止まって下さい」と言うの。

 あたしも時間内で十間走りきるのが大変になっていたから丁度良かったわ。



 こうして、あたしは耐久力試験で満点を取って冒険者試験を合格したの。

 あたしに他の試験の点数を聞きたいの?

 絶対教えないわ。

 恥ずかしいもの。


 代わりにドカチーニの点数を教えるわ。

 勿論、彼は全試験で満点よ。

 あたし達が冒険者試験を受けた時は全試験で満点を取ったのはドカチーニだけだったわ。

 彼は最高に恰好良いわよね?



 試験を二人で合格した日は木の上でお祝いをしたわ。

 お祝いと言っても、特別な物は何も用意出来無かったけどね。

 あたし達は冒険者へと登録した後もしばらくは木の上で生活したのよ。

 理由は貧乏だったからだけどね。


 明日、迷宮の斡旋屋に行くのに、ドカチーニから注意された事が沢山あったわ。

 下手だとは思うけど、その時の彼を再現してみるわね。



「フィーナ。明日、迷宮の斡旋屋へ行くけどな。お前は回復魔法は使えない。使えるのは痛み止めの魔法だけという事にする。」

「どうして?」

「回復魔法を使えると分かれば、冒険者の間で確実にお前の取り合いになる。そして回復魔法が使える事が広まると神殿に見つかる可能性が高くなる。」

「そうね。分かったわ。」


「次に、新人を一度に二人入れるような隊にまともな隊は無い!」

「どういう事?」

「大体新人を使い捨てるような隊ばかりだ。中にはまともに新人を育てようとする隊も居るけど、俺が『もぐり』で見てきた限り、そんな隊は滅多にいなかったな。」

「分かったわ。気を付ける。」


「まだあるぞ。新人は武具をあまり持っていないよな?」

「そうね。あなたも小刀一本だけだものね。」

「新人に武具を貸す隊にろくな隊は居ない!」

「どうして?自分の隊が強くなるのだから、普通は新人の武具を用意するでしょう?」

「ああ。その通り。用意はするのさ。大量の借金を新人に押し付けてな。」

「そういう事ね。」

「そういう事だ。」


「まともな隊に入ろうとすれば、二人はばらばらの隊に所属する事になると思う。」

「あたしは嫌よ。」

「俺もだ。」

「それならどうするの?」

「しばらくは二人でやっていこう。」


「……あたしは少し不安だわ。」

「俺は下手に隊へ所属するよりも、半分『もぐり』のように二人きりの方が良いと思うぞ?」

「どうして?」

「二人きりの時なら、俺が怪我をして回復魔法を使っても他のヒトにはばれないだろう?」

「確かにそうね!」


「俺も迷宮の斡旋屋に行くのは初めてだからな。自分の身は自分で護る気持ちは持てよ?」

「分かったわ。あたしも気を付けるから。」

「何があるか分からないから本当に気を付けろよ?」

「それじゃあ、手を繋いで行っても良い?」

「……分かった。明日だけだぞ?……」

「約束よ。話は終わり?」

「大体終わりだな?」

「それじゃあ明日の為に今日はもう寝ましょう。」

「ああ。おやすみ。」

「おやすみなさい。」



 あらあら、そんなに褒める程、ドカチーニの真似が上手だった?

 あの頃はドカチーニがあたしの全てだったからかしら?

 彼との思い出であたしの中は一杯よ?



 次の朝、あたし達は迷宮の斡旋屋に行ったわ。

 約束通り二人で手を繋いで入ったの。

 斡旋屋の中は朝だと言うのにお酒を飲んで酔っている大人が沢山いたわ。

 今のドカチーニの斡旋屋とは比べ物にならない治安の悪さね。


 それでも不思議と受付は女のヒトだったわ。

 ドカチーニがあたしの手を『ぎゅっ』と少し力強く握ったの。

 彼もきっと緊張していたのね。


「二人での登録をお願いします。」

「迷宮は初めてですか?」

「冒険者としては初めてです。」

「君は正直ね。冒険者の証を見せてもらえるかな?」



 二人で受付のお姉さんに証を見せると、彼女は怪訝な顔をしていたわ。

 ドカチーニはともかく、あたしの証を見れば怪訝な顔になるのも分かるわ。

 あなたにあたしの冒険者の証は絶対に見せないわよ?



「本当に二人で潜るの?」

「はい。」

「彼には分っていると思うけど、通路で一緒に行動して良いのは二人までよ。」

「はい。そこは気を付けます。」

「私にあなた達を止める権利は無いけど忠告はするわ。本当に二人で行く気?」

「はい。」


「……そう。神の言葉を伝えます。あなた達二人の『パーティー』は『ペア』と呼びます。」

「ぱぁぁてぃぃ?ぺあ?」

「神の言葉よ。パンやスープと同じ。迷宮に潜る冒険者達へ神が加護の祝福をした言葉。もう一度言うから覚えてね。冒険者は『もぐり』以外にはこの言葉を使うわ。迷宮に潜る自分達の隊の事を『パーティー』その中で二人組の事を『ペア』。滅多にいないけど一人で潜るヒトは『ソロ』よ。迷宮で使われる言葉は神の言葉が多いの。少しずつで良いから覚えてね?」

「はい。分かりました。」

「君は『元もぐり』のようだから、多くは説明しないけど、ペアは『もぐり』と同じように行動すれば他のパーティーから文句を言われる事は無いから気を付けてね。」

「はい。分かりました。」

「今から行くの?」

「はい。今から行きます。」

「そう。頑張ってとは言わないわ。生きて帰っていらっしゃい。」

「はい。ありがとうございます。」



 こうしてしばらくは二人で迷宮に潜るようになったの。



………………



「二人きりで迷宮に潜っていたのですね。それにしてもドカチーニさんが敬語で話すのは似合いませんね?今のドカチーニさんからは想像がつきません。」

「あらあら。あなたの言葉で思い出したくない事まで思い出してしまったわ。」

「すみません。私が何か悪い事を言ってしまいましたか?」

「大丈夫よ。ユークリットのせいじゃないわ。ドカチーニが敬語だったのはね。『受付のお姉さんが美人で緊張した』って言っていたの。あたしに向かってよ?あたしには緊張しないの?確かにあたしは美人では無いですけどね?許せないと思わない?」

「……はい……確かに……許せませんね……」




 これ以外に怒れる魔女フィーナの前で俺が答えられる選択肢はあっただろうか?

 きっと無かったはずだ。

 この時は最善の答えを導いたはずだ。

 だが、この一言のお陰で俺は後に『魔王と魔女の戦争』に巻き込まれる事になったのだ。

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。



 時間……足りません。

 ネタ……出てきません。

 更新……だけはしたいです。


 と言う私のわがままで、本来は本編で行う予定だった『迷宮の冒険』。

 その話を番外編で若き日のドカチーニとフィーナに少しづつやってもらう事としました。



 日常7割、冒険3割と言っていたのに、9割以上日常な事の解消にも繋がりますし、何と言っても時間の管理が必要無く(私が)自由に番外編を書けます!


 幸い『番外編10:フィーナの昔話』は他の番外編と違い一文字引っ込んでおりません。

 当時は本当に単なるミスでしたが、これを機に『準本編』として『フィーナの昔話』を番外編時の不定期連載で『迷宮の冒険』編にしようと思います。

 番外編ではありますが、サブタイトルを一文字引っ込めない形です。



 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。


 

 色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                            2018/11/10 何遊亭万年

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