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 番外編35:マリーのスープ

 この話は金色の月が満月になった翌々日の話。

 マリーとフィーナの散歩の話。

 ベルガーが飲んだスープの話。




 おれの名は『ベルガー』。

 誇りある熊族。

 普段ここで料理人をしている。


 まだ辺りが薄暗い夜と朝の狭間の時間。

 今朝はいつもと違う。

 おれが好む静けさは無い。


 裏庭ではユークリットが夜間行軍中。

「目がぁぁぁ目がぁぁぁ!」

 静寂を破りユークリットの悲鳴が聞こえる。


 しばらくして聞こえたドカチーニの声も大きい。

「次は水泳の時間だ!泳げるようにならんと海に落ちた時に死ぬだけだぞ?」

 海に物が落ちる音が聞こえた。

 ユークリットは海で水泳か?


 マリーがシーリンの洗濯が終わるのを待つ間、おれの仕事を手伝ってくれる。

 彼女はいつもおれの背中を背もたれにして、おれが勝手に離れると怒る。

 少しだけ仕事がやりにくい。


 本来彼女はおしゃべりで、色々な話をしてくる。

 基本一方通行で、おれは聞き役。

 そんな彼女が今朝は珍しく、おれに愚痴をこぼしてきた。



「ユークリットってヒト。本当に野蛮人ね。」

「そうか?」

「だって、私の前で平気で裸になるのよ?」

「そうか。」

「服を着ないで左腕にだけ金属鎧を付けているのよ。ベルガーは彼の事どう思うの?」

「変態。」

「そうでしょ!?私が洗濯物を干している間ずっと裸で土下座したままいびきをかいて寝ていたのよ!」

「そうか。」

「裸のままで私に『おはようございます』なんて挨拶してくるから、無視してあげたわ!」

「良く無い。」

「そうでしょ!」

「マリーが良くない。」


 マリーがおれの背中から離れて、正面に立った。

 彼女はおれの顔を見つめながら聞いてくる。


「ベルガー。どうして?どうして私が悪くなるの?」

「挨拶されたら挨拶を返すのは礼儀。」

「私は野蛮人に挨拶なんて返さないわ!」



 シーリンが厨房へ帰って来る前に、マリーが洗濯籠を持って裏庭へと出て行く。



 おれは彼女を怒らせたのか?

 今朝はシーリンが洗濯をする時間も長い。

 かまどに居る火の精霊が心配気にこちらを見ている。

 仕事がやりやすくなったのに、おれの仕事ははかどらない。



 裏庭が静かになる。

 シーリンが厨房へ入って来る。

 彼女は下ごしらえの手伝いをしてくれた。



 朝食の下ごしらえを終える。

 シーリンは斡旋の受付に。

 おれは朝食の準備に取り掛かる。

 途中、マリーが洗濯から帰る。

 彼女は厨房を通る時におれに言った。


「今日はフィーナ様と街に出るの。ベルガー。また話を聞いてね?」

「あいよ。」


 満足そうな顔でマリーが厨房を去る。

 なぜマリーの機嫌が直ったのかは分からない。

 マリーの一言に安心した。

 おれは料理を続ける。

 竈に居る火の精霊も元気になった。

 二人で協力して朝食を次々に作る。



 昼食の下ごしらえの時間。

 マリーは厨房に来なかった。

 きっとフィーナと買い物をしている。

 最近、彼女が背中にいないと少し寂しい。



 夕食の下ごしらえの時間。

 マリーが厨房にやって来る。

 今日の彼女は忙しそう。

 俺に「ただいまベルガー」とだけ言うと裏庭へ行く。

 もう夕方だ。

 洗濯物を取り込みに行ったのだろう。

 その後、彼女は洗濯物を持って厨房を抜けて行く。



 マリーが厨房の手伝いに来たのは次の日の朝。

 俺に「おはようございます」と丁寧に挨拶。

 いつもと違い、すました顔で入ってきた彼女。

 厨房におれしか居ない事を確認。

 マリーはいきなり怒り出した。


「聞いて。ベルガー!」


 マリーがいつものように俺に背中を預ける。

 いつもと違い背中に飛び込んでくる感じ。

 おれの返事を待つ事無く、彼女は語り始める。



「昨日はね。フィーナ様とのお出掛けだったの。」

「聞いた。」

「そこにネモの野蛮人が付いて来たのよ?」

「そうか。」

「彼が立派な執事に見えたのが意外だったけど、自分に腹がたつわ!」

「どうして?」

「だって、私が見てきたネモはユークリットと変わらない野蛮人よ!」

「そうか?」

「そうよ!フィーナ様の命令とは言え、小さな下着一枚の裸へ簡単になるのよ!」

「そうか。」

「淑女の前で、ひどいと思わないの?」

「そうだな。」



 おれも服は着ていない。

 マリーには言わない。

 その方が良い。



「どこに行った?」

「まずは仕立て屋ね。そこでネモが執事として及第点をあげられる行動を取ったのよ!」

「褒めてるのか?」

「悔しいけど、斡旋屋での行動からは納得いかないけど、褒めざる得ない行動だったわ。」

「そうか。」

「ネモの事なんてどうでも良いの!今度私にね新しいメイド服が届くのよ。」

「そうか。」

「ベルガーは楽しみにしてくれないの?」

「楽しみだぞ?」

「本当に?」

「本当だ。」


 答え方が悪かった。

 ちょっと彼女を悲しませた。

 熊族は服を着ない。

 興味が無かった。

 失敗した。


「そんなに楽しみにしているなら、フィーナ様の次にベルガーへメイド服を見せに来るね!」

「楽しみだ。」

「待っていてね。」


 良かった。

 楽しそうな声に戻った。

 新しいメイド服を着た時は誉めよう。



「仕立て屋の後はね、皇室の公園に行ったのよ。今度こそはフィーナ様と二人っきりよ!」

「そうか。」

「ドレスとメイド服だったから、フィーナ様とは手を繋げなかったけど、庶民には行けないようなところに行けたのよ。どこだと思う?」

「どこだ?」

「ベルガーが当ててみて。」

「別邸か?」

「正解!そうなの。もう三年もスーンプ城下に住んでいるのに、私も行ったのは初めてよ。」

「そうか。」

「フィーナ様はクノー山の家に引っ越しされてから、あまり外へ出歩かなかったの。私はそんなフィーナ様をお慰めする為に庭に花を植えたの。フィーナ様も喜んでくれたわ。」

「そうか。」

「皇室の別邸のお花畑には全くかなわなかったけどね。」

「残念だな」

「そんな事無いわ。フィーナ様が言ってくれたのよ。『皇室のお花畑は広くて立派だけど、お花一本一本はマリーの花畑の方が元気で綺麗だわ』って。もう最高に嬉しかったわ。」

「そうか。」

「ドレスとメイド服を着ていなかったら、思いっきりフィーナ様に抱き着きたかったわ!」

「そうか。」


 口調までフィーナそっくりだった。

 本当に良く見てるな。

 シーリンが洗濯から帰って来た。

 まだまだマリーは話をしたそう。

 珍しく俺の背中から離れない。

 それを見てシーリンは食堂へと向かう。

 彼女も朝は忙しい。

 

 おれは火をおこさないと。



「マリー。火を熾す。立ち上がるぞ?」

「待って。今、立ち上がるから。」


 マリーが背中から離れる。

 この瞬間は少し寂しい。

 マリーは料理が好き。

 多分間違いない。

 おれは火を熾しながらマリーに頼む。


「今朝は時間が足りない。マリー。スープを作って欲しい。」

「私は……洗濯もしないといけないし、フィーナ様を護る仕事もあるわ。」

「そうか。」

「マリー。その心配は無いわよ。あたしは朝食をドカチーニの執務室で取る事に決めたわ。それにたまにはマリーの食事を食べたいじゃない?久し振りに作ってくれないかしら?」


 フィーナが厨房に来た。

 彼女が厨房に来るのは珍しい。

 彼女は裏庭に行く時も表玄関から出てぐるりと回る。



「ドカチーニは大丈夫か?」

「大丈夫よ。彼に文句は言わせないわ。」

「そうか。おれからも頼む。」

「良かったわ。それなら執務室でマリーのスープを待っているわ。扉は開けたままで良いかしら?マリーがお料理しているところを久し振りに見たいわ。」

「良いぞ。」

「ありがとう。マリー。楽しみにしているわね?」

「はい。フィーナ様。精一杯作らせていただきます。」

「マリー。頼む。おれはシーリンに報告がある。」



 俺は食堂に行く。

 シーリンは受付にいる。

 今朝の斡旋の準備をしている。

 間も無く朝日が昇る。


「シーリン。今朝のスープはマリーが作る。」

「分かりました。斡旋を受けに来たお客様にはしっかり伝えておきます。」


 彼女は理解が速い。

 おれの言いたい事をすぐ分かってくれる。



 安心して厨房に帰る。

 スープはマリーに全て任せた。

 おれはパンと魚を焼くだけだ。

 マリーが楽しそうにスープを作る。


「ねぇベルガー。私が味付けまでして良いの?」

「任せた。」

「ありがとう。最高に美味しく作るわね。」

「楽しみだ。」


 おれは執務室を見る。

 フィーナも嬉しそうにマリーを見てる。

 いつもより厨房が楽しい。

 二人には内緒だが、精霊達も勢揃い。

 朝日が昇る寸前にスープは出来た。

 マリーは裏庭へ洗濯に行く。


「フィーナ。朝食を用意するか?」

「あらあら。まだ早いわよ?マリーが来ていないじゃない。」

「そうか。」

「そうよ。せっかくだもの。マリーと一緒に朝食を食べたいじゃ無いの。」

「そうか。」



 執務室には椅子が一つしかない。

 おれは厨房でマリーが使う踏み台兼用の椅子を執務室へと置く。

 執務室の机には少し低いか?



「ありがとうベルガー。あなたは本当に優しいわね。マリーの事をこれからもよろしくね?」

「任せろ。」

「頼もしいわ。あなたの仕事ぶりを見ていても良いかしら?」

「好きにしろ。」

「ええ。好きにするわね。」



 朝食の時間は食堂が凄い事になった。

 スープの注文が凄い事になっている。

 おれはスープを食堂へと運ぶ。



「おまたせ。」

「マリーちゃんは?」

「洗濯中。」

「マリーちゃんが今朝のスープは作ったのでは無いのか?」

「マリーが作った。」

「配膳は?マリーちゃんでは無いのか?」

「おれだ。」


 食堂全体から非難の声が上がる。

 ほとんどが「マリーに配膳させろ」だな。

 マリー……フィーナに頼むか。


「少し待て。」



 おれは執務室に行く。

 マリーへとフィーナから食堂の配膳をして欲しいと頼む。

 彼女は承知してくれた。

 ただし「三人分のスープを残しておく事」と条件付きだ。



 マリーが洗濯から帰って来る。

 フィーナがマリーに食堂の配膳を頼む。

 マリーは食堂の配膳をしてくれた。

 その後の食堂が宴会をしているように騒がしい。

 朝食でこんなに騒がしいのは珍しい。

 


 スープが残り三杯になる。

 スープの売り切れを告げる。

 食堂の騒ぎは収まる。

 マリーもフィーナの食事を配膳する。


「フィーナ様。お食事を遅くさせて申し訳ありません。」

「あらあら。良いのよ。マリー。朝食は三人分用意してね。ベルガーはあと一脚椅子を運んで頂戴。」



 おれはいつも厨房の床にじかに座る。

 厨房にもう椅子は無い。

 おれは食堂から椅子を持ってきた。

 裏庭にいるドカチーニを呼びに行く。

 おれは裏口に向かう。

 そこでフィーナがおれを呼ぶ。


「あらあら。ベルガー。どこに行く気なの?」

「ドカチーニを呼ぶ。」

「違うわよ。最後の一食はあなたの分。一緒に朝食を食べましょう?」

「おれで良いのか?」

「あたしはあなたを誘っているのよ?」

「そうか。」

「そうよ?」



 おれは言葉に甘えて席につく。

 おれもマリーのスープを飲みたい。

 おれには踏み台兼用の椅子で高さが丁度良い。



 三人での食事が始まる。

 彼女のスープはおれのと違い上品だ。

 同じ材料と調味料でここまで変わるのだな。

 料理は奥が深い。




 三人での食事。

 おれはスープとは違う温かさも一緒にもらった。

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。



 長い後書き(言い訳)になります。


 この世界の多くの住人は暦をあまり気にしません。

 ですが、作者は気にします。

 小説内 7/20 金色の月満月の夜

     7/21 新たなる異世界人(ネモ漂着)

     7/22 地獄の6日間・夜間行軍から水泳編(7/21夜)~無我の境地

     同日 番外編31:フィーナ様とのお出掛け


 どうにもなりません!ネモが病室にてがっつりアルフィアのリハビリに励んでおります。

 同日にネモはフィーナとマリーと共に執事服を仕立てに行っています。

 その上、銀色の月の満月の夜・衛兵たちの戦争後編(ネモ視点)において、『二度目は街へと替えの執事服を作りに行った時だ』との記述。

 ぎりぎり7/21にネモが銭湯へ出掛ける空白時間がありましたが、かなり厳しい……


 こんな事に気が付いてくれる読者様が居たら、居た方が嬉しいと思える事ではあります。

 ですが、自分で見つけてしまったネモ双子説。

 自分で見つけてしまったので一応、報告いたします。


 そろそろ毎日更新を矛盾なく行う(努力目標)事に作者の実力では限界が来ているのかも知れません。

 せっかく意味の無い話を土日で行い、読者様から頂いた貴重な一日を「無駄な事に使ってしまったな」と結果的とは言え、自分でも後悔する事に費やしてしまい、今週は本編に全く手が付けられておりません。

 平日は、毎日、毎日、番外編を書くので精一杯になってきております。

 自分で矛盾点を見つけても直す時間も足りません。

 このままのペースでは、本編の量を番外編が上回る事にもなりそうです。


 それでも毎日更新したい作者のわがままに付き合って頂けたら幸いです。

 本編の再開が少しでも早くなるよう努力していきます。



 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。


 

 本当に色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                            2018/11/09 何遊亭万年

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