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 番外編33:シーリンの嫉妬

 これは僕と彼女の2週間戦争・決戦と終戦の間の話。

 ドカチーニ小隊が銀色の月の満月の夜への準備の話。

 シーリンがユークリットへと嫉妬した話。



 俺がベスとアンを引き連れて、ホルスたんとの決戦を覚悟した夕食。

 結局、ホルスたんが何をしに来たのか分からず終わり、ドカチーニさんとの夕食になった。

 4人で食べる夕食は久し振りで、途中からはベスとアンの機嫌も良くなり、楽しい時間を過ごした。


 食後、ドカチーニさんとアルフィアさんの病室へと向かう事になる。

 ベスとアンも付いて来たがったが、満月の夜の話なので遠慮してもらった。

 俺は先に、ベスを寝床にしっかりと寝かすと、後の事をアンに頼んで病室へと向かった。



 ドカチーニさんとは病室の前で待ち合わせ、俺は病室の扉を4回ノックをした。

 本当にどうでも良い事だが、俺はベートーベン作曲『運命』の『ジャジャジャジャーン』がノックだと聞いて以降はノック4回派だ。



「どうぞ。」



 アルフィアさんの声が帰って来る。

 扉を開けて、ドカチーニさんを先に入れると、俺が扉を閉めた。

 ドカチーニさんのアルフィアさんへの聴取が始まる。


「アルフィア。夜遅くにすまんな。お前達の小隊が最後どちらに向かったかを教えてくれないか?」

異原いはらへの城門から半里(約2キロメートル)くらいの所にある大きな岩の事は知ってる?」

「どっちの方向だ?」

「城門を出て、川と川の真ん中を真っ直ぐ北へ行ったところかな?」

「ああ。あそこか。お前はあそこから右腕一本で帰ってきたのか?」

「それはもっと城門に近づいてからよ。その岩の所で右足は駄目になっていたけど。」

「本当に良く帰って来てくれた。俺はそれだけでも嬉しい。」


 ドカチーニさんが右手を差し出して握手を求め、アルフィアさんはそれに応じた。


「俺のこだわりでしか無いのだが、お前の小隊の遺品を取りに行こうと思っている。奴らがお前を捨てて行ったのは噂で聞いているが、俺に取っては大切な店子たなこだった。お前にとっては裏切り者かも知れないが、その後の奴らの足跡を少しでも知りたい。」



 アルフィアさんが、小隊の足取りを説明する。

 彼女を残して行った小隊は、東から来た首長蜥蜴とかげを追って西へと向かって追いかけて行ったらしい。

 それ以上の事は分からないとの事だ。



「ありがとう。思い出したくも無い事を思い出させたな。

「お役に立てたのなら嬉しいわ。」

「夜遅くに邪魔をしたな。よし、ユークリット行くぞ。」



 ドカチーニさんが俺を引き連れて、部屋を出て行く。

 一体俺は何をしに来たのだ?

 病室の扉を閉めると食堂へ再び向かうドカチーニさんへと疑問に思ったので尋ねてみる。


「どうして私がついて行く必要があったのでしょうか?」

莫迦ばか野郎。女性一人の部屋へ夜遅くに男が一人で訪問したらまずいだろうが!?」


 良く日焼け(?)した肌でも顔が赤くなっているのが分かりますよ?

 普段は鬼のようなのに、時々可愛い事言うよな、このヒトは。



 食堂が終了するのを食卓で待って、シーリンさんとベルガーさんが合流。

 俺の正面にシーリンさんが、ドカチーニさんの正面にベルガーさんが座る。

 持っていく装備品などの簡単な銀色の月の満月の夜の打ち合わせをする。


「今回の主な任務は探索だ。必要時以外は走り蜥蜴一匹戦う気は無い。ユークリット。お前には槍の代わりに大型の背負い袋を頼みたい。」

「ベルガーさんが背負っている背嚢はいのうですか?」

「いや。それとは別に用意する。相変わらず俺のお古で悪いが、これからも必要となるだろうから、そのままお前が使ってくれ。」


 シーリンさんが食卓の下、笑顔で俺の膝を軽く蹴ってくる。

 シーリンさんは食堂で仕事をする時は硬い革製の編み上げブーツを履いています。

 そんなブーツの爪先で蹴られるのは、軽くとは言え、それなりの威力があり痛いですよ?

 脚気かっけのテストですか?

 違いますよね?

 その顔はお怒りの笑顔です。

 分かっていますよ、シーリンさん!

 シーリン笑顔マイスターの私にはね!

 貰い物をした時はお礼を言わないといけませんよね?


「ドカチーニさん。ありがとうございます。大事に使わせて頂きます。」

「おう。大事に使ってくれ。」

「あうち!!」

「なんだ?『いえすさー』と同じでお前の故郷の挨拶か?」

「いえ、何でもありません。選択肢を間違えただけのようです。」


 シーリンさん膝蓋骨しつがいこつを蹴るのは止めて下さい。

 とても痛いです。

 私がどこへ膝を逃がしても、シーリンさんは正確に蹴りを入れています。

 脚の先に目があるのでしょうか?

 シーリンさんの上半身が全くぶれません。

 白鳥が水面上と水面下で全く動きが違うように、食卓の上と下では全く動きが違います。


「シーリン。機嫌が悪いようだが、ユークリットが荷物持ちは反対か?」

「いいえ、館長。荷物持ちをさせる事、それ自体は賛成です。ですが最近はユークリットに館長のお古を与え過ぎではありませんか?わたしが知る限りでも、革袋付き帯革おびかわから始まって、小刀、貫頭衣、左の腕鎧、そして今度は背嚢ですよ。全部館長が大事にしてきた物ばかりでは無いですか?」

「ちょっと待て!最初の帯革はともかく、俺はこいつなら大事に使ってくれると思うから渡しているだけだぞ?なぜそんなに怒る事がある?お前も何か欲しいのか?」

「いいえ、館長。そういう事ではありませんが……」

「今度、何か考えておく。だが女性へ贈り物など思いつかん、どうしたものか?」


 おっ。

 シーリンさんの蹴りが止まりました。

 さすがドカチーニさんです。

 私が『シーリン笑顔マイスター』を名乗るのはまだ早いかも知れません。


「今度、フィーナに相談してみるか?」

「………」


 青筋を立てた(実際は立っていない)笑顔のシーリンさんが、机の下で私の弁慶の泣き所へ硬いブーツの爪先をませるように蹴ってきました。

 私は痛みで声も出ません。

 ドカチーニさん。

 どこかで選択肢を間違えたようですよ?

 


 食卓の下では激しい攻防……俺の防戦一方ではあった……が繰り返される。

 その一方で、食卓の上の話し合いは順調に進んだ。

 俺の他、3人の装備に変更はない。

 今回の俺が荷物持ちへと変わっただけだ。

 背中に背負った12本の投げ槍が大きなバックパックへと換装された。

 左腕に金属製の鎧、ベルトポーチの後ろには小刀を差して、腰の周りに5つの水袋をぶら下げる。

 後は黒い貫頭衣を着て、草鞋を履き、槍を1本持つだけだ。


 あれ?

 本当だ。

 俺の荷物、自分が買った物よりも、ドカチーニさんから貰った物の方が多いぞ。

 シーリンさんは「冒険者たるもの自分の物は自分で用意しろ」と言っているのだろうな。

 これ以上甘えない為にも、出来るだけ早く自分のブーツを買いに行こう。



 話し合いが大体終わった所で、ベルガーさんが珍しく自分から口を開いた。

「部品も探してくれるか?」

「巨大戦闘人形のか?」

「そうだ。」

「良いだろう。シーリンもユークリットも部品を見つけたら報告してくれ。」

「分かりました。」

「よろしく頼む。」

「ただ、最後に赤い月が満月になったのは大分前だからな。あまり期待はするなよ?」

「ああ。分かってる。」



 話し合いが終わり、食堂の後片付けが始まった。

 最初ドカチーニさんが「四人でやってしまおう」と言った提案を、シーリンさんが「色々と教えながらユークリットと二人でやりますから」と答えて、ドカチーニさんとベルガーさんを先に上がらせた。

 俺には嫌な予感しかしない。

 俺の予感は良い事も悪い事もほとんど当たらないから大丈夫だよな?


「まずは食器洗いから始めましょう。満月も近いので明かりも必要無いと思いますよ。」

「分かりました。食器の洗い方から教えて下さい。」


 良かったです。

 シーリンさんは笑顔です。

 どうやら怒りの感情は見られません。

 裏に意図が全く見えてこない能面な笑顔なのは気になりますが、私に害はなさそうです。

 やはり、私の嫌な予感は当たりません。

 しかし、どうしたのでしょうか?

 心の中が敬語になってしまいます。


 シーリンさんは現代日本でいうところの『へちまのたわし』を2つと桶を用意して裏庭へと出て行きました。

 私には食器置きを運ばせます。

 食器を洗った後に、食器置きへ並べて乾燥させるのだそうです。



「まずは大きな桶に水を張って、大方の汚れを落とした後に、仕上げに小さい桶の水を使い綺麗にします。私が食器を持ってきますから、あなたは大きな桶に水を張っていて下さい。」

「イエス・マム!」

「その言葉は懐かしいですね。前にあなたからその言葉を聞いたのはフィーナさん達が引っ越しをしてくる時でしたか?」


 シーリンさんの笑顔から懐かしさなんて感じません。

 言葉と笑顔が一致しません。

 全くシーリンさんの笑顔から感情が読み取れません!

 シーリン笑顔マイスターとしては失格です。


「あの時は、魔壁蝨まだにに噛まれた後始末はさせられる、御者が出来ないからとわたしに御者をやらせる、裸でお客様の前に平気で現れる、本当に大変でしたね?」


 シーリンさんの笑顔から怒りが感じられません。

 言葉と笑顔が一致しません。

 全くシーリンさんの笑顔から感情が読み取れません!

 怒りすら感じられないとは。

 シーリン笑顔マイスターとしては完全に失格です。


「手が止まっていますよ?水を張っていただかないと仕事になりません。お願いしますね?」

「イエス・マム!」


 急いで大きな桶へ水を張りました。

 洗濯場の溜池へと水を溜める事を考えれば、どうという事は無い作業です。

 私が水を溜めている間にシーリンさんも食器を運び終わり、大きな桶へと入れていきます。


 私はへちまのたわしを使って出来る限りの汚れを落とすとシーリンさんへと渡します。

 シーリンさんは食器を受け取ると最後の仕上げをして食器置きへと並べます。

 ひたすら食器洗いを繰り返し、食器置きが一杯になると次の食器置きと入れ替える。

 そんな事を無言で続けました。

 無表情の笑顔と言う、有り得ない表情がとても怖くて声の一つも掛けられません。


「さすがに二人でやると早いですね?ありがとうございます。また手伝って下さいね?」


 シーリンさんの笑顔から感謝の気持ちが全く伝わってきません。

 言葉と笑顔が一致しません。

 全くシーリンさんの笑顔から感情が読み取れません!

 シーリン笑顔マイスターの称号を返上すべきかも知れません。



 食器洗いも終わり、食堂の掃除へと移る。

 俺は食卓を拭き、シーリンさんは土間を掃き掃除だ。

 彼女から離れる事によって、動揺も治まり、心の中の敬語も無くなった。

 全ての片づけが終わり、就寝の挨拶をして部屋に帰ろうと思った時、それは起きた。



「ユークリット。正座。」


 シーリンさんが、食卓の椅子に座っていきなり言い出します。


「シーリンさん。ここは土間……」

「正座。」


 椅子に座るシーリンさんの笑顔からは感情が読み取れません。

 シーリンさんの目の前に正座をします。

 ですが、私はここで終わるとは思えません。

 先手必勝です!

 即座に土下座へと移行しました。


「この度は誠に申し訳ございませんでした!」


 シーリンさんは足を組んだまま、ブーツの爪先で私のあごを支点に頭を持ち上げて、最後に『顎クイ』をしてきます。

 最近『顎あごクイ』は二次元で定番のようですが、私は『顎クイ』を足でやるヒトを見るのは初めてです。それを自分がやられるとは……あれ?何か最近で同じ事をやられたデジャヴを感じます。

 夢の中で二次元嫁にでもやった記憶がうっすらと残っているのでしょうか?

 しかし、私が二次元嫁に対して、足で『顎クイ』なんてやるとは思えません。


「すぐに土下座をするのは悪い癖ですね?何が悪かったのか分かっているのですか?」


 シーリンさんが、私と目を合わせて聞いてきます。

 はい。

 勿論、分かっていません。


 しかし『顎クイ』は最近の定番です。

 私の封印されし知識の中には王道少女漫画も入っています。

 封印されし、我が記憶の扉を開けばきっと私が取るべき選択肢が出てくるはずです。

『封印されし忌まわしき記憶の扉よ。今一度だけ、お前の封印を解く。私に選択肢を!』


 王道少女漫画に見られる『顎クイ』された側の定番行動(偏りかなりあり)。

1・そのままキスをされる

2・恥ずかしがって顔を背ける

3・突き飛ばして逃走


 心の動揺が治まった!

 これだけでも忌まわしき記憶の扉を開いた価値があるというものだ!

 あれ以上の恐怖は俺の人生で、そうそうはあるまい……


 1番は確実に有り得ない。

 命の危険が増すだけなら挑戦する価値がある。

 だが確実に俺の命が断たれる。


 まず行動すべきは一番現実的な2番だな。


 俺は顔を背けようとするが、シーリンさんは爪先を巧みに使い常に自分の方へと俺の顔を向けさせる。

 目だけは背けようとするが、シーリンさんの行動が目の端に映る。

 編み上げた髪からすっと銀色のかんざしを抜いた。

 それが俺の目に向かって近づいてくる。


「視線を逸らせていると大変な事になるかも知れませんよ?」


 なにも感情を感じない声を出し、なにも感情を感じない笑顔が近づいてきます!

 全身の細胞が「逃げろ」と訴えてきます!


 3番です!選択肢は始めから3番しかありませんでした!!

 完全に鍵を掛け密室状態にした自分の部屋へ「この漫画、面白いから読んで」と書かれたメモと共に、何度鍵を変えても、置かれていた数々の王道少女漫画の恐怖が蘇ってきます!

 置かれた漫画は全て読まさせて頂きました。

 とても面白かったです。

 ありがとういつもありがとう。

 だが忌まわしき記憶の扉を、封印を、解くべきでは無かった!!



 俺が脱兎の如く逃げ出そうとした瞬間、目の前は真っ暗になり、体と意識が離れた。

 脳が急速に活動しなくなっていく。

 完全に気を失う前に聞こえた言葉は真実か空耳か……


「………優秀な暗殺者は殺された事すら相手に気づかれない者……」




 翌朝、俺は食堂の土間の上で目が覚めた。

 斡旋屋の受付へ今日の仕事を斡旋してもらいに行った時。

 シーリンさんの俺へと接する態度に普段と変わった様子は全く無かった。

 どこからが夢でどこまでが現実なのだろう?

 シーリンさんの笑顔からは全く判断する事が出来なかった。

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。



 2018/11/05 皆様の日頃よりのアクセスのお陰で、累計1万PV、累計ユニークユーザー2200人を達成出来ました。

 私の妄想に累計で、これだけの人が付き合って下さった事に心より感謝いたします。



 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。


 

 色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                            2018/11/07 何遊亭万年

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