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 番外編32:もふもふ

 これは番外編14:魔力売りの少女の話。

 ユークリットとホルスが戦争いじのはりあいをしていた時の話。 

 荷物が少なく、午後が暇になった時のユークリットとの話。




 港湾施設で働く、荷揚げ屋さん達が換金所へと向かっているわ。

 今日は荷物の量が少なかったのね。

 わたしは売れ残りで決定ね。

 最近は売れ残っても、午後から残飯箱を漁りに行けるようになったのが本当に嬉しいわ。


 船と倉庫を繋ぐ通路に午前の間は日陰が少ないの。

 わたしは当然日陰に入れるほど強くは無いので、日向で半日を過ごしたわ。

 のどだって乾いてからからよ。

 今日は店じまいと思った所で、わたしの前につんつるてんのお兄ちゃんが現れたの。

 つんつるてんのお兄ちゃんが現れるだけで、わたしは何かが起こりそうでどきどきするわ。



 つんつるてんのお兄ちゃんがたすきを三本、わたしに差し出しながら言ったの。

「魔力は要らない。癒しが欲しい。何も言わないで耳をもふもふさせて欲しい。」

 わたしは『もふもふ』が何の事だか分からなかったわ。

 それでも、つんつるてんのお兄ちゃん……は長いから呼び方を縮めて……お兄ちゃんが変な事をするはずが無いと信じて、わたしは受け入れたの。



 たすきを三本受け取ると、お兄ちゃんがわたしの耳を触りだしたの。

 わたしは獣人の血が少し混じっていて、少し丸みを帯びた三角型の獣の耳と鋭い牙を持っているわ。

「もふもふぅ。もふもふぅ。」

 お兄ちゃんがだらしない顔をして、わたしの耳をぷにぷにと弄り回すの。

 わたしも気持ち良いけど、周りの目が恥ずかしいわ。


 牛のお姉ちゃんも、倉庫の陰から、わたし達を見て何かつぶやいているみたい。

 なんか、怖い顔して、こっちを見てるの。


「もふもふぅ。もふもふぅ。」

 全然飽きる様子も無く、お兄ちゃんがわたしの耳を弄るの。

 わたしは気持ち良すぎて、声が出そうになるのを我慢するのも限界。

「お兄ちゃん。まだ……?」

「まだ。癒しがまだ足りない。もふもふぅ。」

「あんっ。」


 さっきのお兄ちゃんの指の動きが気持ち良すぎて思わず声が出ちゃったの。

 お兄ちゃんの顔が変わったわ。

 その瞬間からお兄ちゃんが『にたぁ』っと悪いヒトが浮かべるような顔をしているのよ。

 少しだけ「怖い!」と思ったら、次の瞬間に、『もふもふ』が激しくなったの。


「ここか?ここがええのんか?もっともふもふするからな!気持ちが良い時は遠慮なく声だしてくれ!ほぉれふぉれほりぇ!!もっふもふぅ!」


 わたしは口を押えて声を出すのを我慢しているけど、ちょっとだけ声がどうしても漏れてしまうの。

 お兄ちゃんはわたしの我慢した声が漏れるのが嬉しいみたい。

 ますます『もふもふ』は激しくなる一方よ。



 お兄ちゃんの『もふもふ』はわたしの限界まで続いたわ。

 終わった時、わたしは「ぜぇぜぇ」と息も絶え絶えになったの。

 お兄ちゃんはわたしの耳しか触っていないのに、体中が熱くなっているのがわかるわ。

 お兄ちゃんが満足して『もふもふ』を止めてくれた時には魔力補給をした時と同じくらい、わたしは疲労していたわ。

 自分で立ち上がれないくらい腰が抜けたの。


 ヒトは気持ち良くても疲れるのね。

 勿論、わたしはこんな経験は初めてよ。

 今お兄ちゃんはわたしが回復するまで膝枕ひざまくらで優しく頭を撫でてくれてるの。

 わたしの頭をお兄ちゃんは大事そうに撫でてくれているの。

 それも凄く気持ちが良いわ。

 時々耳に触られると、まだ敏感になっていて、また声が出ちゃいそうになるけどね。



 魔力補給をするより疲れたけど、なんか嬉しい時間。

 わたしは気持ち良くてうとうとしてきたの。

 その時ね。

 わたしの頭を撫でていたお兄ちゃんの顔つきが急に真剣な表情へと変わったの。

「悪いけど、もう一回耳を触るけど良いか?」

 とわたしに聞いてくるの。

 正直、耳が敏感になっていて、次のもふもふには耐えられそうにないわ。

「もう、もふもふはしない?」

 わたしが聞くとお兄ちゃんは「もふもふはしない」と約束してくれたの。

 わたしが「良いよ」と言うと、お兄ちゃんは両手を使ってわたしの耳を広げるように持ったの後、耳の奥を覗き込んだわ。

 その後にお兄ちゃんがわたしに聞いたの。

「なぁ。最後に耳かきしたのはいつだ?」



 最後に膝枕してもらったのも耳かきをしてもらったのも、事故で両親が亡くなってからは一度も無いわ。



「分からない。」



 わたしはお兄ちゃんにそれだけ答えた。

「ちょっとだけ、待っててくれな!」

 わたしに言うとお兄ちゃんが倉庫に走って行って、何かを取ってきたの。

 それは『耳かき』だったわ。



 お兄ちゃんは「痛かったら、痛いって言えよ」と言って、わたしの右耳を掃除し始めたの。

 最初は耳の穴の周りを優しく撫でるように何度も何度も耳かきを回していたわ。

 そのうち耳の中で「こりっ」と何かががれるような音がしたわ。


 するとお兄ちゃんは耳の穴の中の一ヶ所を集中して少し押す感じで耳かきを使い始めたの。

 耳の中で何かが剥がれていく音が聞こえてくるわ。

 もふもふと違った感覚だけど、これもとても気持ちが良いの。

 何かが剥がれる音が聞こえる時の耳の感覚がたまらないの。


 私には少しだけ耳かきが今までよりも奥に入ったのが分かったわ。

 そこから左右に少しずつ少しずつ動かしながら、慎重に剥がされていくのが分かるわ。

 お兄ちゃんはわたしが痛くならないように細心の注意を払ってくれているわ。

 筋肉質のももはお母さんの膝枕と比べたら凄く堅いけど、お兄ちゃんのぬくもりがわたしにはとても嬉しかった。

 普段は悲しくならないように、なるべく思い出さないようにしているけど、今日は駄目ね。

 どうしても、お母さんとお父さんを思い出しちゃう。


 耳の穴を一周くるりと回ったのね。

 またお兄ちゃんが、少し強く押しながら、耳かきを何回も何回も耳の中を回すの。



 それを何度も何度も繰り返して、少しずつ少しずつ耳かきが奥に入って行くのが分かるの。

 耳の奥で剥がれる音が聞こえる度にわたしもどんどん気持ちが良くなるの。

 半刻くらい掛けてお兄ちゃんは同じ事を繰り返した後、わたしに言ったの。


「最後の仕上げだ。痛かったらごめんな。」


 最後の一瞬、一番敏感な所から「べりっ」と剥がれた感じがしたわ。

 とても痛かったけど剥がれた後はとてもすっきりよ。

 耳かきで耳の奥から何か大きな塊が出てくるのがわたしにも分かったわ。

 お兄ちゃんは少しずつ少しずつ慎重に大きな塊を耳の外へと出してくれたの。



 最後に完全に耳の外に大きな塊が出た時は凄く気持ち良かったわ。

 なんか耳も良く聞こえるようになったみたい。

 とてもすっきりしたわ。



 お兄ちゃんにお礼を言おうとして、顔を見ると、わたし以上に「すっきり」って顔をして、何か黒い塊を色々な方向から眺めているの。

 多分あれが、あの黒い汚い塊が、わたしの耳の中にあったのだわ。

 恥ずかしい。

 そんなにじろじろ見ないでお兄ちゃん!


「凄いのが取れたな。記念に取って置きたいくらいだ……」


 凄く幸せそうな顔をしてお兄ちゃんが言うのよ。

 絶対にそんな事はさせないわ!

 それだけは断固阻止よ!!

 そんな事になったらわたしが恥ずかしさで死んじゃう。


「お兄ちゃん。わたしにも見せて?」

「おう。凄いのが取れたぞ。左の耳も凄いのが見えるから取ろうな?」

「はい。良かったらお願いします。」


 計画通り、お兄ちゃんからわたしの耳の中にあった塊を取り返したわ。

 少しくさくて、すぐに捨てちゃいたいけど、左耳の塊が取れるまで我慢よ。



 左耳も右耳の時と同じように慎重にお兄ちゃんが耳を掃除してくれるの。

 だけど、右耳よりも固くこびりついた所があったのね。

 途中でわたしが「いたっ」って言っちゃったの。

 そうするとお兄ちゃんが本当に申し訳なさそうに「痛かったか?ごめんな」って言うのよ。

 つんつるてんのお兄ちゃんがわたしの本当のお兄ちゃんなら良いのに。


 金髪双子が本当にうらやましいわ。

 二人が本当に、うらやましいけど、二人には運があった。

 二人が本当に、うらやましいけど、わたしには運が無かった。

 本当に、ほんのちょっとの違いだったと思うわ。

 だけど、今だけは、わたしのつんつるてんのお兄ちゃんよ。

 二人に絶対内緒だけど、お兄ちゃんにも内緒だけど、心の中で今だけは本当のお兄ちゃん。


「最後の仕上げだ。痛かったらごめんな。」


 左耳も塊が最後に剥がれる時がとても痛かったわ。

 今度も耳かきで耳の奥から大きな塊が出てくるのが分かるの。

 こちらの耳の塊もお兄ちゃんは少しずつ少しずつ慎重に耳の外へと出してくれたの。



 またお兄ちゃんが幸せそうな顔をして、わたしの耳から出た黒い塊を色々な方向から眺めて、うっとりとしているわ。

 言いたくないけど「変態ね!」言いたくないけど……


 さて、わたしはわたしの最後の作戦に移らないとね。

 お兄ちゃんには悪いけど、こんな汚い塊を取って置くなんて、絶対に断固阻止よ!!

 わたしの耳の中にあった『恥ずかしい塊』取り返し作戦の開始よ。


「お兄ちゃん。わたしにも見せて?」

「ああ。こっちのも凄いぞ。どちらが大きいか比べてみような?」


 わたしに左耳から出てきた塊も渡してくれるお兄ちゃん。

 心の中で謝って、わたしは急に立ち上がると両耳の塊を持って海に向かって走ったわ。

 そして、海にわたしの両耳から出てきた塊を投げ捨てたの。



 わたしが投げ捨てた後、振り返ると「ぽかーん」と口を開けて呆けたお兄ちゃんが居たわ。

 だけどお兄ちゃんは、怒るなんて事はしないで、わたしを呼ぶの。

「最後の仕上げがあるから戻ってこい。しっかり耳の穴を綺麗にするからな。」

 もう一度、わたしはお兄ちゃんの膝枕の上へ戻れたわ。

 とても嬉しいわ。

 とても温かいわ。

 今日も暑くて死にそうなくらいなのに、お兄ちゃんの膝枕は暑くなくて温かいの。


 わたしの耳の中からはまだまだ薄皮が剥がれて出て来たわ。

 大きいのから小さいのまでじっくり丁寧に、わたしが痛くならないように時間を掛けて耳を掃除してくれたの。

 なんか、遠くの小さな音まで聞こえるようになったわ。

 わたしの耳が良くなったみたい。


 倉庫の陰に隠れてぶつぶつつぶやいている、牛のお姉ちゃんの声もしっかり聞こえるようになったもの。

 もしかして、牛のお姉ちゃん?

 わたし達の事を今までずっと見ていたのかな?

 何を言っているのかは、お兄ちゃんには内緒にしておいてあげるね。

 牛のお姉ちゃんは、わたし達の、通路で魔力を売っている子供達の恩人だもの。



 今日はわたしの楽しい時間はこれでお終い。

 わたしのお兄ちゃんと一緒の時間はお終い。

 わたしは、もっと一緒に居たいけど、金髪双子に返してあげないとね。

「ありがとう。つんつるてんのお兄ちゃん。」

 わたしがお礼を言うとお兄ちゃんも幸せそうな顔をして答えるの。

「こちらこそ。おかげですっきりしたよ。また『もふもふ』させてくれよな?」

「また膝枕して耳掃除もしてくれる?」

「それもしような!今日はありがとう。」

「お礼を言うのはこっちだよ。ありがとうつんつるてんのお兄ちゃん。」


 何度もお互いにお礼を言いあうのが、わたしは可笑おかしかったわ。

 本当に変なヒトよね?

 わたし達みたいな魔力売りの子供にも平等に接してくれるの。

 こんなヒト、荷揚げ屋の大人達の中で、他にはいないわ。



 お兄ちゃんが帰って行ったわ。

 金髪双子の元に……

 毎日荷物が少なければ良いのに。

 あっ。

 それだと、お兄ちゃんもわたしも困るか。




 わたしは夜寝る前に自分の耳を『もふもふ』してみたが、お兄ちゃんに『もふもふ』されていた時みたいに気持ち良くはなれなかったの。

 またやってくれないかな……

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。


 この度、『番外編28:ホルスの不可避な旅』 と 本編の『僕と彼女の2週間戦争・開戦』において、決定的な矛盾を生じさせました。

 本来直すべき事なのでしょうが、お目こぼしをお願いします。


 出来る事なら本編を直したいところですが、直すのは本来ならば番外編であるべきか?

 と悩んでいる事と、直している時間が無い事。

 自分の中で結論が出て、時間が出来次第、矛盾点を直したいと思います。

 それまでは、目をつぶっていて下さると幸いです。


 他にも矛盾点はあるかも知れませんが、自分で気付いてしまったので一報です。



 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。


 

 色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                            2018/11/06 何遊亭万年

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