銀色の月の満月の夜・衛兵達の戦争中編(ネモ視点)
オレが装備を馴染ませる為に、防具を着続ける事にした日。
アルフィアは「日当はそのまま払うから、あなたは裏庭で少し戦闘訓練した方が良いわ」と言うので、2~3日、オレは元より華麗な剣捌きを更に磨きあげた。
木人形を相手に、斬って斬って斬りまくる。
実際は木刀を使っているのでオレが本気を出さない限り、木人形を斬る事は出来ないが。
おっと、動いているだけが訓練では無い。
オレは日陰でイメージトレーニングにも実際に動くよりも多くの時間を割いている。
腰に下げた細身の長剣は未だ重い。
戦闘訓練如きで使うべきでは無いとオレに主張してくる。
午後に一日だけ、あいつが槍をただ突くだけの地味な事を続けているのを見た。
木人形は俺が使っているのであいつは宙を突くばかりだ。
俺の華麗なる三段突きや、V字斬り、回転斬り等の数々の華麗な剣捌きを見習うべきだ。
そして銀色の月の満月の夜の当日の朝を迎えた。
この日の為に借りた火熨斗と呼ばれる原始的なアイロンで、背広は上下とも皺の1つ無くピシッと伸ばしてある。
元々皺の寄りにくい背広ではあるが、念には念を入れた。
シャツはどのみち鎖帷子で見えなくなるため、昨日までは着ていなかったが、今日は決戦の日、当然鎖帷子の下に着用する為に着る。
次に靴下、トラウザーズ(ズボン)を着用、ベルトを締め、帯刀する。
そして、鎖帷子。
こいつが重い。
こいつを頭からかぶり、ネクタイを締める。
その上に背広を羽織り、2人の嫁達に戦勝を祈願した祝福のキスをしてもらう。
オレが部屋を出たところで、ユークリットと連れの子供が居た。
こいつオレの出待ちでもしていたのか?
「なんの用だ?」
オレは一応、要件を聞いてみた。
「この子が、お前の無事を祈って、握手をしたいと言うんだ。」
青い瞳の一言もしゃべった所を見た事の無いユークリットの子供だ。
「そういう事なら、握手をしてやらんでもない。」
青い瞳の子供と握手をした瞬間にオレに凄い力が湧いてきた。
握手をし終えると、青い瞳の子供はオレにニッコリと笑ってあいつの元へ戻る。
あいつはあの子の頭を撫でてやりながら「ありがとう」と言っていた。
「フィーナさんと歩く道は必ず地獄になる。死ぬなよ。」
あいつが一言だけオレに声を掛けて自室に戻っていく。
「お前もな。」
あいつの部屋の扉が閉まった後に、誰にも聞こえない小さな声でオレは呟いた。
部屋に戻るあの子の『ゆるふわで膝まである金髪の後ろ姿』がブラックたんとホワイトたんの妹的なキャラに見える。
「……シャイニング・ルナルナ?……」
彼女はまさに『シャイニング・ルナルナ』だ。
劇中、ブラックたんとホワイトたんがピンチの時に自分のパワーを2人に与えて窮地を救ってきたサポートキャラ。
その『シャイニング・ルナルナ』からオレもパワーをもらった。
これは、間違いなくオレが英雄となる前兆だ。
彼女との出会いにオレは運命を感じた。
食堂の入口でブーツの紐を編み上げ、革手袋を装着して裏庭に向かう。
今朝、そこでフィーナ様の部隊結成式がある。
そこで10人の女性に逢う事になる。
間接的とは言え俺の部下になる女性達だ。
裏庭への扉を開けて、オレは愕然とした。
そこには食卓が1つだけ置いてあり、立食パーティーの様相だ。
それは良い。
それは良いが、部隊にはおばちゃんしかいない……
おばちゃん達は、普段着の上に革製の薄い前掛けを全員が装備していた。
だが、おばちゃんの中にオレは再び運命を見る。
あいつと一緒に居た巨乳獣人が居る!?
オレの異世界ハーレム要員候補最初の1人だ!
獣耳で無いのが残念だが白黒ツートンカラーのポニーテールに角と尻尾を持つ牛の獣人だ。
凛々しい顔つき、引き締まった細い体、不釣り合いな巨乳!
三次元でこのような逸材が本当に居るとはな。
神よ!異世界に来れて本当に感謝します!!
立食パーティーはフィーナ様からの挨拶から始まった。
「みなさん。今日は装備も報酬もわずかな、あたしの為に集まってくれてありがとう。」
「何を言っているんだい先生。あんたのおかげで街のヒトがどれだけ助かってるか分かりゃしないよ?」
「そうだよ。先生。本当はもっと志願者が居たんだろ?どうしてあたし達なんだい?」
「言っても怒らない?」
「怒りゃしないよ。それより本当の事を知りたいね。治療している時みたいにはっきり言ってくれた方がすっきりするわ。」
「そうね。言ってよ、先生。」
「元気なヒトを年寄順よ。例外はここにいるホルスちゃんだけ。衛士補にしたかったのだけど、担当者に認めてもらえなかったの。」
「よろしくね。ホルスちゃん!」
「ああ。あたいもよろしく。」
彼女はおばちゃんパワーに押されているようだが『ホルス』と言うのか。
オレもみんなに挨拶をしよう。
「今回、衛士補を務めるネモだ。みんなよろしく。」
「あんた初陣なんだろ?無理しないでいなよ。」
「あんた細いねぇ。男はもっと食べて筋肉付けないと!」
「先生が年寄から集めたって事はきつい戦場になると踏んでいるのよ?初陣で大丈夫かい?」
「あたし達より先に逃げだしたら衛士補の名が泣くわよ?大丈夫かい?」
おばちゃん達が好き放題言ってくれる。
ちょっとオレを莫迦にした感じも見て取れる。
だが今日のオレは『シャイニング・ルナルナ』からもらったパワーがある!
「心配ならオレの実力を試してみるか?」
「じゃああたいが試してやるよ。あんた程度ならこのままでも余裕さ。」
「ホルスと言ったな。良いぜ、勝負だ。漢として勝負の方法はお前に任せよう。」
「女だと思ってあたいをなめるんじゃないよ!腕相撲だ!そこの食卓で勝負だ!」
「あらあら。みんな、食事が落ちないようにみんなでお皿を持ってね。」
食卓の皿が一時片付けられて勝負のリングが整った。
オレは革手袋を外すと食卓の上に肘を置き、指でクイクイと彼女を挑発する。
すぐに彼女はそれに応じて、がっちりと手が握られる。
彼女の手のひらは意外に大きくて厚かった。
それ以上に薄い革の前掛け如きでは、存在を隠し切れない彼女の胸は、机の上でスライムが2匹現れたようにプルンプルンと揺れていた。
お前を必ずオレの異世界嫁に加えてやるぜ。
まずはこの勝負イベントに勝って好感度アップだ!
「いつでも良いぜ。お前のタイミングで来な?」
「女をなめると痛い目見る事を教えてやるよ!」
いきなり凄い力で俺の腕が倒されるが、残り30度を残したところでピタリと止まった。
いや、オレが止めた。
オレの思った通りだ。
シャイニング・ルナルナからもらったパワーでオレは今、超人となっている。
「それで終わりか?ならば返させてもらう!」
一気に逆転してホルスの手の甲を食卓へと叩きつける。
周りからはオレに対する歓声が湧いた。
おばちゃんしか居ないのが残念だ。
勝負がついたところで、料理が食卓に並び直される。
得たものは無いと思ったが、ホルスのオレを見る目が少し変わったか?
少しは好感度アップの効果があったようだな。
「参った。改めて挨拶をさせてくれ、あたいは『ホルス』。お前、なかなか良い男だな。」
「良い男なのは当然だ。俺は『ネモ』。今日はよろしく頼む。」
「あんたはあたいを女と思って手を抜かず思いっきり相手をしてくれた。最初はなめられたと思ったけどな。あれだけの実力差があれば余裕を見せる事も理解できる。あんたはあたいの実力を見抜いていたんだね?負けたのは悔しいけど何より反省するべきは、あんたの身体つきを見て、外見だけでなめちまったあたい自身さ。」
「ごちゃごちゃ言っているけど、勝負に男も女も無いのは当たり前だろう?」
ホルスの顔に驚愕が走る。
「そう言えば、あんたもユークリットと同郷って言ってたな。良い国なんだろうな。あんた達の国は。」
「そうだな。本当ならばすぐにでも帰りたい気持ちもあるが、オレが夢にまで見た世界に来れたのだ。やれるところまでやってみるさ。嫁達も一緒だしな!」
「あはっ!良い男にはみんな嫁が居るんだね!あたいも良い旦那を見つけないとね……達?」
「あぁ。オレには現在嫁が2人居る。2人共、オレを追って来てくれた最高の嫁達だ。」
「あんたの国も一夫多妻なのかい?」
「どうだろう?女の事情は良く分らんが、旦那が何人も居る奴が居ても俺は驚かないぞ?あいつらは男同士が絡み合っている姿を想像して『尊い』とか平気で言うやつも居るしな。」
「あはっ!本当に自由な国なんだね!あたいもいつか行ってみたいよ。」
「オレの国へとお前が来れば、きっと一躍有名人だな。」
「あんた口が上手いね。あたいが信じちまうだろう?そうだ!あんたはユークリットの嫁の事を知っているのかい?どんな嫁だったんだい?」
少しだけ頬を染めてホルスの質問があいつの事に変わった。
あいつはやはり絶対許さん。
オレの異世界ハーレム要員予定第1号に手を付ける気か?
「あいつの嫁は俺にも把握しきれん。あいつに直接聞いてくれ。1クール……じゃ分からないか。3ヶ月に一度嫁が変わる浮気者だ。」
「そうなのか!?あいつは嫁の為に頭まで丸めている奴だぞ?」
「俺がこっちに来た時には坊主だったから、なぜあいつが坊主にしたのかは知らんが、3ヶ月に一度嫁が変わっているのは事実だ。それだけは知っている。」
「あの浮気者が!!坊主頭は一体なんなんだ!?」
おおっ?ホルスがなんか分からんがあいつの事で怒っているぞ。
ここは俺のハーレム参加への布石を打たせてもらおう。
「その点、オレは一度嫁と決めたら、何があっても絶対に捨てたりはしない。全ての嫁を愛する漢だ。オレの所へ来るか?但し審査基準も厳しいぞ?」
「せっかくの誘いだがお断りだ。あたいは夫一人妻一人が理想だ。」
「そうか。どうしても良い男が居ない時には、オレが居る事を思い出してくれ。嫁になれば誰一人として、寂しい思いはさせる気は無いぞ?」
「あはっ!冗談として受け取っておくよ。ありがとう。」
この場は隊の結成式だ。
ホルスとだけ話している訳には行かない。
人間関係を上手くやるには立場が上だからこそ、こちらから挨拶に行くのが定石の一つだ。
オレは食べ物をつまみながら話を続けるおばさん達一人一人に挨拶をして回った。
かなり好感触だ。
おばさん達が言うには「衛士補のヒトから挨拶に来るとは思わなかったよ。見かけによらず実力もあるようだし、今日はよろしく頼むね」と少しは打ち解けられたようだ。
ホルスとの腕相撲で勝った事も影響しているようだ。
彼女は陰から夫を支える良い嫁になりそうだ。
必ずオレのハーレムへと入れてみせる!
昼を過ぎた頃から、食堂の方が騒がしくなってきた。
冒険者達が騒いでいるのだろう。
男の声しか聞こえない。
オレは裏庭で本当に良かったな。
食卓に食べる物が無くなると、フィーナ様がオレ達の隊が行う事の説明を始めた。
「あたし達の隊がやる事は他の女性で編成された隊と基本的には同じ。前線への補給よ。」
「先生。任せてくれよ。慣れたものさ。」
「そこは任せるわ。だけどあたしのわがままでもう一つやって欲しい事があるの。」
「あたいが怪我人を前線から運び出すんだろ?」
「やってくれるの?城壁の上に上がるから怪我をする確率がかなり上がるわよ?」
「そこに運ぶ怪我人が居るんだろ?それなら、あたいのやる事は一つさ。」
「ありがとう。頼むわね。みんなは前線に物資を運んで空になった大八車に怪我人を載せて、あたしの所へと運んで頂戴。皆が思っている通り、配置場所はかなり酷い所よ。死なないでね。生死を分ける判断の時には必ず生きる事を優先して。逃げ出して良いからね。」
「任せておくれよ。先生。危ない時に逃げるのが上手いから元気で年を取っているんだよ!」
オレには笑いながら胸を張るおばちゃん達が歴戦の勇者に見えた。
いや。
勇者はオレで無くてはいけない。
この戦はオレがハーレムを作る為の第一歩だ。
「オレは何をしたら良いんだ?」
「あなたはホルスちゃんの護衛ね。何かあったら身を挺してホルスちゃんの盾になりなさい。大丈夫よ。死なない限り、あたしが治してあげるわ。そうそう。千切れた腕や脚、腹からこぼれた内臓は出来るだけ拾ってきてね。それが有ると無いとだと魔力の消費量が全然違うの。」
おいおい。
なんか怖ろしい事を平気で言っているぞ。
想像しただけでグロ過ぎて、オレの脳内でモザイクが掛かるぞ?
さすが異世界ってところか?
まぁ、オレ自身には無用の心配だろうがな。
彼女が言っているのは、オレ達が運ぶ怪我人の事だろう。
「分かった。出来るだけ全てを運ぶ。ホルス頼むな。」
「よろしくな。ネモ。」
その後は初めての編成となる隊の隊員同士が親睦を深める。
出発の時間になるとマリーが持ってきた携帯食を各自に配る。
太陽が斜めから照らす時間になると、フィーナ隊が担当する持ち場へと出発する。
今回、マリーは留守番だ。
マリーはフィーナ様から「アンちゃんと協力してベスちゃんとアルフィアちゃんを護りなさい」と言い渡されている。
アン……シャイニング・ルナルナは、戦力にはならないだろうから、実質マリー1人で斡旋屋を護る事になるな。
オレ達、フィーナ隊はユークリット達より一足先に斡旋屋を出る。
あいつらは斡旋屋の戸締りをしてから最後に出発するらしい。
死ぬなよユークリット。
お前が死んだら俺の異世界生活がつまらなくなるからな。




