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僕と彼女の2週間戦争・戦中

 次の日から、午前は荷揚げ屋、午後は倉庫整理の毎日が始まった。

 倉庫整理が終わるとほぼ日没なので銭湯へ行くのを朝一番にする。

 ベスとアンの2人と一緒に居られる時間が減るが、仕方が無い。

 お父さんには仕事を優先しなくてはならない時もある。

 2人の代わりに自然の流れでホルスたんと一緒に居る時間が増える。


 銭湯を朝一番にかえて良かった事がある。

 洗い場でも湯に浸かっても筋肉達が不自然に俺へと寄って来なくなったのは嬉しい変化だ。

 ゆっくりと目をつぶりお湯に浸っても『だるまさんがころんだ』が始まらなくなった。

「お前がそこまで覚悟を決めたのなら、俺達も潔く諦める。」

 と俺の坊主頭を眺めながら涙を流す筋肉達の言葉は最後まで意味が分からなかった。


 それはそうと、ホルスたんはいつ銭湯に入っているのかな?


 ちっ違うぞ!

 エ□い意味で言った訳じゃないぞ?

 純粋に、どこで体を綺麗にしているのか不思議なだけだぞ?

 そう言う意味では、シーリンさんもフィーナさんもマリーもどうしているのだろうな?


 女性陣に聞いても、誰も答えてくれない。

 言葉は返ってこないが、冷たい視線は返ってくる。


 俺が知っているのは、ベスとアンには俺がベルガーさんから桶でお湯を買って、てぬぐいを使い体を拭いている事だ。

 基本的には昼間に行われるから問題無いが、何かの拍子に間違って部屋に入ると、ベスの罵声とアンの涙による攻撃を受けて当然のように部屋から追い出される。

 間違っても 「隠すほど立派なものは持って無いだろ?」 とは二度と言わない……


 アルフィアさんはマリーが体を拭いてあげているらしい事も突き止めた。

 もし、ネモが彼女の体を拭いているなんて事になっていたら、俺の魂が死ぬところだった。



 新しい月を迎えて、ドカチーニの斡旋屋の様子が大きく変わった。


 

 午前中にドカチーニさんは斡旋屋で必要となる物の買い出しに行っている。

 それを俺が知ったのはつい最近だが、ドカチーニさんの買い出しにフィーナさんが同伴するようになった(番外編21:ドカチーニの斡旋屋内フィーナ診療所(前編))。

 俺は「あの親父ドカチーニも一応斡旋屋の仕事していたんだ」と思う一方で「毎日デートとは良い身分だなおっさん」と決して本人の目の前では言えない事を思っていた。


 一番の変化は、午後からフィーナさんの診療所が本格的に始動しだした事だな。

 診療所で問題があるとしたら、本物の病人よりも、午前中に仕事を終えた港湾施設の筋肉達が自傷をしてまでマリーに軟膏を塗ってもらいに来る方が、圧倒的に多い事だな(番外編22:ドカチーニの斡旋屋内フィーナ診療所(後編))。

 午後、閑散としていた食堂がいつでも騒がしい状態へと変わった。

 港の筋肉達には、銭湯と同じで必要無いのに筋肉を強調するのはやめて欲しい。

 他のヒトには、俺も必要時以外でもマッスルする筋肉達の一員にしか見えないでしょうが。


 シーリンさんとベルガーさんは、午後が完全な休憩時間となったようで食堂としての斡旋屋は完全に休業状態となった。

 ベスとアンのおやつはベルガーさんに頼んで昼食時に用意してもらう事にした。

 ドカチーニさんだけ斡旋屋の食堂へと残って、用心棒を兼ねて留守番をしているようだ。


 そんな中、朝日が昇る前に厨房に行くと年相応のマリーを見る事が出来るとの噂が流れる。

 どこから仕入れたのかは分からないが、診療所に集う筋肉達の噂話だ。

 その話を聞こうとするとベルガーさんが「そっとしてやれ」と言うので、俺はそれ以上聞く事をやめた(番外編15:ベルガーの一日・番外編20:精霊の話)。

 ベルガーさんは優しい港町の熊さん。

 そんなベルガーさんの言う事なら俺は最大限に尊重してやりたいと思う。


 斡旋屋の事を語る時はリハビリ組を語らねばなるまい。

 ベスはアンに手伝ってもらいながら毎日頑張っている。

 右手は完全にくしをつまめるようになったし、左手の指も動き始めた。

 残念な事に足にはまだ変化らしい変化は生まれていないが、きっと大丈夫だろう。


 アルフィアさんも毎日リハビリを続けている。

 フィーナさんに言わせれば、今まで診てきた患者の中でもかなり優秀だそうだ。

 残念ながら、彼女はまだ自分で動く事は出来ていない。

 だが、彼女は「確かな手ごたえはあるから」と陽気に笑ってリハビリを続けている。


 ネモ?誰だっけそいつ??

 俺の記憶から排除したいくらい羨ましい程、アルフィアさんのリハビリで楽に稼いでいる。

 確実に1日2朱、約500文を簡単に稼ぐのだ。

 更に、奴は普段の生活費まで彼女に面倒を見て貰っているらしい。

 本当に羨ましい。

 アルフィアさんの御御足おみあしに触り続けられるのも羨ましい。

 ネモと立場を入れ変えたいがアルフィアさんを筆頭にベスもアンも絶対に許してくれない。


 俺が見る限り、奴は現代日本と比べてたら相対的に美男子度が落ちているようではある。 

 それでも、この異世界も『ただしイケメンに限る』が付くのは変わらないようだ。


 テーブルトークでもテレビゲームでも自由に能力を振り分けられる時。

 魅力度がステータスにある場合は最低の能力値をそこへと持っていく人が多いと思う。

 俺もそのうちの1人だった。

 だが異世界に来た今、実際には絶対にやってはいけない行為だと、俺は強く思い直したね!



 俺に溜まった毒を吐いたところで、湾岸施設の荷揚げ屋に話を移そう。

 俺の方は、毎日倉庫整理を手伝わせてもらえる訳では無い。

 倉庫に運ぶ港全体の荷物量によっては必要とされない日もある。

 そんな日は、荷揚げ屋の仕事も早めに終わるので斡旋屋に帰り、訓練の日々だ。


 荷物の少ない日は収入が300文を切る時だってある。

 500文を大きく越える日など無いのだから、このままでは生活費が足りなくなる。

 そう思いながらも、良い案はなかなか浮かばない。

 そこには『簡単に職を変えたくない』そんな俺の気持ちが強い事もあるのだが。


 午後が暇な日、俺は『ホルスたん流荷物持ち変え術』や『槍の稽古』をして過ごす。

 そんな午後の余暇にシーリンさんとベルガーさんとお茶を楽しんだりもした(番外編23:午後の余暇(精霊の話編))。



 基本的には荷揚げ屋でホルスたんと荷物を運ぶ量を競い合う毎日が続いた。



 そうだ。

 俺に取って忘れてはいけない日があった。

 冒険者登録の本登録をした日だ(番外編17:ユークリットの能力値)。

 まさか、冒険者のステータスが『体力テスト』とは思わなかったよな。


 俺の能力値は各30点満点で、筋力29点、敏捷力29点、耐久力24点となった。

 ついでだから他のヒトも俺が知った限りで言おう。

 ドカチーニさん、シーリンさん、ベルガーさん、全て30点。

 フィーナさん、耐久力30点、「他は内緒よ」と教えてくれない。

 アルフィアさん、敏捷力30点、他は「二十二点以上は取っているよ」との事。


 フィーナさんの「他は内緒よ」とは、きっと冒険者の証の角が欠けていると俺は推察した。

 彼女が冒険者試験の耐久力テストをどうやって30点取ったのか聞いてみたいものだ。

 俺には自分の事が無くても、耐久力テストが一番満点を取りにくいテストだと思うからな。


 一流冒険者と呼ばれるヒトの多くは30点満点が最低1つはあるものらしいし、超一流になれば全部満点もそれほど珍しく無いらしい。

 逆に言えば『それだけの能力があるから一流だよね?』と俺は言いたいが。


 俺は今のところ、冒険者として生きる気は無い。


 違うな。


 俺は今のところ、冒険者として生き残れる気がしない。



 完全に狙って取ったとは言え、この能力値ならば、他から冒険者の勧誘も来ないだろう。

 ヒトは平穏に街の中で暮らすのが一番だ。



 本登録した日は荷揚げ屋を休んだのだが、夕飯時にホルスたんがやってきた。

 彼女が無言で俺の手首を握ったまま離してくれない。

 その日はベスとアンとの夕食をあきらめて、彼女と夕飯を食べたんだよな。

 アンが氷のように冷たい視線を俺に向けながら、ベスと2人分の食事を運んで行ったな。


 しばらく無言のまま、並んだ食事にも手を付けないホルスたん。

 気まずい空気が流れる中、俺は食堂で起こった信じられない光景の方へと心を奪われた。

 その時の『勇者』と言われた男の行動は忘れられない(番外編16:おれ三十路で勇者になるが魔王を一目見て諦めた)。

 彼がシーリンさんに対して行動を起こす度に俺はホルスたんに気付かれないように、深刻な顔を装いながら、心の中で笑い転げたのだ。


 あのシーリンさん相手にあれだけ露骨に攻めるのだから正しく彼は『勇者』だった。

 どうやら『魔王ドカチーニ』の姿を目にして以来、すっかり一般人に戻ったようだ。

 だが、一般人となった後も彼は斡旋屋へと夕食を食べに来ている。

 俺にとっては、今の彼こそ『本物の勇者』に見えて仕方が無い。


 あの日のホルスたんは、結局何をしに来たのか分からなかったな。


 シーリンさんが『勇者』の顔へお盆をひっくり返した後からの、見事な空中キャッチに2人で拍手を贈った後、ホルスたんは機嫌良く夕食を食べ始めた。

 俺も『ほっと』して共に夕食を食べ始める。

 せっかくのベルガーさん特製スープは冷めていた。

 俺は猫舌ですから問題無いですけど。


 そのうちにホルスたんが「今日はなぜ荷揚げに来なかったのだ?」と俺に聞いてくる。

 俺が「冒険者の本登録をしてきた」と言うと、彼女は途端に機嫌が悪くなったな。

 いつものように「ふんっ」と鼻を鳴らして、一気に食事を食べきると、銭を食卓に叩きつけて帰ってしまった。



 その後、『勇者』の行動を笑っていた俺にも『魔王達』が待っていた。

 赤い瞳の魔王と青い瞳の魔王だ。

 何をされる訳でも無い。

 何もされないだけだ。

 何をしても相手にされない。

 これほど怖ろしい攻撃は異世界で初めての体験だった。

 さすがは『魔王達』の攻撃だった。

 泣きそうに思いながら「明日になったらきっと良くなる」と信じてその日は寝た。

 その日見た夢が(番外編19:魔人イグシア)あまりに恐ろしくて悲鳴を上げて起きた。

 夢に2人が出てきた事を告げると、機嫌が直ったのだから悪夢も役に立ったと思おう。



 夕食を共にした翌日からホルスたんとの戦争いじのはりあいが無言のまま激化した。

 彼女とは仕事を通して少しずつ仲が良くなってきたと思っていただけにショックだ。


 お互いが競うように荷物を1つでも多く運ぶ。

 俺と顔を合わせる度に彼女は「ふんっ」と鼻を鳴らして、すれ違う。

 完全に無視をされないだけでも『魔王達』に比べたら優しい子だよホルスたん。


 俺にとって女性は神秘の塊だ。

 ホルスたんも女性であり神秘の1つである事は変わらない。

 彼女はいったい、何を考えて、何に怒っているのだろうか?


 あの『勇者』が一般人へと戻った夕食から先。

 荷揚げの仕事が早く終わり、倉庫整理が無い時でも。

 荷揚げの仕事も多くて、倉庫整理をした後でも。

 どちらの時も帰り道は、俺の3歩後ろを歩いてドカチーニの斡旋屋まで彼女がついてくる。

 後ろを振り返って話し掛けても、彼女からは「ふんっ」と返ってくるだけなのが困る。



 数日続いた堂々としたストーカー行為に対して、俺はホルスたんと話をつける事に決めた。

 まずは『魔王達』許可を取らないと、二度と受けたくない攻撃が我が身を襲う。

 自室と言う名の『魔王の城』へと俺は単身乗り込んだ。



 今、俺は自分の力だけで『魔王達』に挑んでいる。

 つまりはいつもの土下座ですね。


「アンからホルスタンさんの話は聞いています。私達を放っておいてお楽しみでしたね?」

「先日の話はお許しください。」

「つまり、本日はホルスタンさんと私達三人とで夕食を食べたいという事ですか?」

「ベス様。名は『ホルス』、『たん』は敬称でございます。」

「ホルスさんと食事を取りたい理由を教えてくれますか?」

「仕事からの帰り道、ずっと後ろをつけてくるのですが、一言もしゃべりません。彼女との決着をつけるべく、本日夕食を共にしたいと思いました。」

「私達が同席する意味があるのですか?」


 だって、お前ら、ホルスたんと2人で俺が食事を取ったら『魔王』と化すじゃん。

 勿論、口に出しては言えませんが。

 何と言おうかと黙ったまま頭を下げ考え続けているとベスから声が掛かる。


「分かりました。今回だけですよ?彼女のところへと連れて行って下さい。」

 アンも首を縦に振っている。

 何とか2人の了承を得たな。




 今夜はホルスたんと決戦だ!

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