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銀色の月新月の日

 木戸の外から朝一番の鳥の声が聞こえる。

 いつもの時間に起きた俺だが、今日は朝の運動もせずに銭束の本数を数えている。

 シーリンさんに預けてあった銭束は全て昨夜のうちに下ろしてある。


 昨夜も銭束の数を数えた。

 今朝数えても昨夜と数が変わらない。

 銭束は46束しかない。

 家賃プラス貴重品預かり代、7100文には遠く及ばない。


 ベスとアンが起きるが、昨夜の事をまだ怒っているらしい。

 朝の挨拶はしてくれたが、無視を貫く方針のようだ。



 朝日が昇る時間。

 俺は失意のまま、食堂へと向かう。

 今日の食堂はいつもと違い、正面の大扉は開いていない。


 ドカチーニさんとシーリンさんはいつものカウンターの中では無く、食堂の食卓の1つに座っていた。

 ベルガーさんが食卓の隣に立っている。

 ドカチーニさんの口角がぐにゃりと上がる。


「ユークリット。家賃は出来たか?だが、その前にお前が未払いの銭を払ってもらおう。」

「未払いですか?」

「ベルガー。説明しろ。」

「金色の月満月の夜に二千百文。冒険食四百五十文。水袋一分一朱。」

「あとはわたしがベスとアンの生活費を立て替えています。三百四十文です。」

「はあ?」

「分からんか。ベルガー少しは分かるように説明しろ。まあ良い。俺が言おう。」

「私も、冒険食450文と水袋代1分1朱は払って居なかった覚えはありますが、2100文は一体どこから出てきたのでしょうか?」

「子供達の食費だ。かなり割引してやっているぞ?」

「一鍋六百文。地下の保存食千五百文。」


 思い出した。

 地獄の行軍ですっかり忘れていたが未払いだ。

 子供達に配った鍋までは分かるが、持ち出した保存食まで俺に付けられていたのか。


「ベルガーさん。あの時はありがとうございました。水袋代は少し待って下さい。」

 俺はその場でベルガーさんへと銭束を21本渡した。

 続けてシーリンさんに銭束4本を渡す。

「シーリンさんもベスとアンの面倒を見ていただきありがとうございました。お釣りは要りませんので取っておいて下さい。それと私の金銀を全額下ろしてもらっても良いですか?」

「銭束の方はありがたく頂戴しますね。金銀はすぐに手配しますからお待ちください。」


 シーリンさんが厨房へと入っていく。

 銭束なら受付で済ませている事を考えると金銀(両・分・朱)は別の所で保管をしているのだろうな。

 ドカチーニさんが楽しそうに口角を上げて俺に迫ってくる。

 その顔を一度鏡で見る事をお勧めしますよ?

 直接ドカチーニさんには言えませんが。


「さて、来月の家賃をいただこうか?ユークリット。」

 手元に残った銭束は21本。

 まずは銭束を1本、ドカチーニさんに差し出す。

「まずは貴重品の預かり料です。お納めください。」

「ふむ。預かろう。それで家賃はどうなったのだ?」

「シーリンさんが戻って来るまで待って下さい。」


 シーリンさんが戻って来るのを待って、まずは1分1朱を水袋代としてベルガーさんに渡した後、2両をドカチーニさんに渡す。

「お前達の家賃は七千文だが?残りの千文は何だ?お釣りが必要か?」

「いえ。普段からベスとアンを見ていただいているお礼を含めて2両をお納め下さい。」

「ほう。なかなか良い心掛けだ。お前の気持ちをありがたく受け取っておこう。」

「来月もよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく頼む。」



 今月は無事、来月分の家賃を納める事が出来た。

 銭では足りなくて、金銀を使っているところが俺としては負けた気分だ。

 自室に帰ろうとする時にネモとすれ違う。

 奴も家賃を納めに来たのだろう。

 だが俺達は目を合わせる事無く、すれ違い、お互いの道を行く。



 部屋に戻るとベスとアンは起きていて、ベスのリハビリを始めていた。

「だたいま。」

 部屋に入ると同時に俺は挨拶をするが2人の機嫌はまだ悪いようだ。

 それでも俺はベスのリハビリへと参加しながら2人に朝食の事を聞いた。

 リハビリ参加の拒否はされなかった。

「今日新月だろ?朝食はどうする?」

「ここの食堂もおやすみなの?」

「いや。聞くのを忘れた。そう言えば満月の日も宴会騒ぎだったしな。どうするんだろう?」


 ベスが俺と会話してくれた事に少しほっとする。

 俺はベスのひざを屈伸運動させている。

 だがアルフィアさんの時のような高揚感は無い。

 むしろ、俺は他の事を考えながら、ベスの膝を曲げ伸ばししていた。



 家賃は一応7000文。

 貴重品預かりが100文。

 計算が面倒なので一日に必要になる銭が200文掛ける30日で6000文。

 色々な事を考えて最低14000文は欲しいな。


 そうなると1日500文稼がないといけない訳か。

 今、荷揚げ屋で稼げる金額は300文前後。

 残りの200文をどうやって稼ぐかだな。



「ユークリットさん。ベスとアンを連れて食堂に来てもらえますか?」


 外からシーリンさんの声が聞こえる。

 俺は、ベスを腕に抱えて、アンに貫頭衣を掴ませて食堂へと向かう。

 ベスも最初は顔を真っ赤にして嫌がったが、無理矢理抱きかかえると大人しくなった。



 食堂には、斡旋屋にいる全てのヒトが集まっていた。

 4人掛けの食卓には、それぞれが分かれて座っていた。

 食卓の上には中央にパンが置かれ、スープを飲む為の食器が1人ずつ前に並べてある。


 ベルガーさんがカウンターに鍋をおいて傍に立っていた。


 1つ目の食卓にドカチーニさん、シーリンさん、フィーナさん、マリー。

 珍しくと言うよりも初めてフィーナさんの隣に座るマリーを見た。

 彼女は少し落ち着きが無い感じできょろきょろと周りを見ている。


 2つ目には、アルフィアさんとネモがカップル並びで座っていやがる。

 しかも何故かブラックさんとホワイトさんまで対面に座っている。

 驚く事は、彼女達(?)の前にまで食器が並べられているところだ。

 周り……特に女性陣はあえて無視している節がある。

 アルフィアさんの瞳にはいつもの元気さは感じられず、光彩をかなり失っていた。


 俺は3つ目のテーブルに腰掛ける事にした。

 いつもならベスとアンが隣り合って座るが、今日は俺の隣にアンを座らせた。


 俺達が到着するとベルガーさんがスープを配り始める。

 ブラックさんとホワイトさんにまで配る事を忘れない。

 プロだ。

 配り終わった後のベルガーさんを俺達の食卓に呼んで、アンの隣に座ってもらった。



 全員が座ったところでドカチーニさんが立ち上がり挨拶を始める。

「新たな月を迎えるにあたって館長として挨拶をしたい。今月の新月も冒険者は帰って来ていないがアルフィアの小隊以外は多分無事だろう。冒険者は現在アルフィア一人だが……」

「あらあら。アルフィアちゃんは現在はあたしの患者よ?冒険者では無いからね?」

「……冒険者は現在、出払っているが、このメンバーで来月も仲良く過ごしてくれ。本来ならば一日休みになるところをベルガーの好意で賄いが出る。これ以上は長くなるのでベルガーに感謝をして食事をいただこう。いただきます!」

「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」


 しばらくは全員が席に座って食事を取っていた。

 しかし、いつの間にか席を移動したり、立ちながら話をしたりと自由に食事をしている。

 俺とベス、アン、そしてアルフィアさん以外は立食パーティーのようになった。


 俺にとって1つ嬉しい事に、このメンバーに酒を飲むヒトが少ない。

 ネモは飲まない事を知っていたが、皆さん飲まないのだ。

 イメージ的にはドカチーニさんは酒豪だが、一滴も飲まない。

 飲むのはベルガーさんとアルフィアさんくらいだった。


 俺にとって1つ悲しい事に、アルフィアさんは酒癖が悪かった事を知る。

 直接名前を呼びつけられた俺はベスの事をアンに任せて、アルフィアさんの席に向かった。

 唯一のまともなヒロインからの御呼出しだ。

 俺はウキウキ気分で真っ赤に燃えているベスの赤い瞳を振り切る。

 向かう途中で氷のように冷たい視線をアンの青い瞳に感じたが気にしない。



 そして今、アルフィアさんの『からみ酒』に捕まっている。

 肉体同士の直接な『からみ酒』なら大歓迎しても良かったが俺は現在土間に正座している。

 アルフィアさんから出てくる言葉はベスとアンの事ばかりだ。

「ベスちゃんとアンちゃんの事をどう考えているの?」

「実の娘のように大事に思っています……」

「何言っているの?娘じゃ駄目でしょ!」


 俺はアルフィアさんにまで2人を娘にする事を否定されてしまいました。


「娘じゃ駄目なのですか?」

「駄目に決まっているでしょ!!」

「それならせめて義兄妹きょうだいでもとは思っているのですが……」

「うーん。ぎりぎりね。けど障害が多いよ?あなたに全ての障害を乗り越える気があるの?」


 二次元スキーの仲間達の障害は凄いだろうが、実際に邪魔をされる事は無い。

 だがそれはネモがこの世界へとやってくる前までの話だ。

 奴に義妹いもうとが出来ると知られたら……

 障害はかなりの大きさになるな……

 いざとなればネモを海に沈めるより異原いはらに捨てた方が死体の処理が楽そうだな。


「ええ。かなりの障害になる事は覚悟しています。あらゆる手段を用いて邪魔をされる事が想定されます。」

「そう。覚悟はあるのね?でも駄目です!義兄妹きょうだいもあたしが認めません。」

「どうしてもですか?」

「どうしてもです!!」

「アルフィアさんが私と仲良くして下さるのなら、義兄妹きょうだいもあきらめます!」


 アルフィアさんと話をしているといつの間にか、俺の冒険用の小刀を持ったアンが後ろに立っていた。

 そのアンにベスが指示をする。

「そろそろ髪の毛が伸びてきたようですから、煩悩と共に髪を剃り上げましょうね?」

「おお。丁度伸びてきたと思っていたんだ。一度坊主にすると気持ち良くて、髪を伸ばす気になれなくてな。アン、頼むな。」


 アンがたどたどしい手つきで、俺の髪の毛を剃り上げる。

 俺は剃られる時のジョリジョリ感が好きになってしまった。

 週1でお願いしたいくらいだ。


 貫頭衣に髪の毛が落ちるのも嫌だったので当然のように全裸になる。

 一応、酒の席だし当然全裸だって許されるはずだ。


 許してくれないヒトが一人居ました。

 こめかみに直径20センチメートルほどの木製のお盆が直撃しました。

 遠くから「せめてそれで隠しなさい。後でしっかり洗って返して下さいね。」と声が聞こえてくる。


 大事なところを一応お盆で隠して、アンに頭を剃ってもらう事にしました。

 俺がアルフィアさんと話そうとする度に、ベスが「アン」と言います。

 すると何故かアンの手元が狂って頭に傷が増える為、黙って剃ってもらう事にしました。




 ネモをちらりと見るとドカチーニさんとベルガーさんがブラックさんとホワイトさんに興味を示したようで、奴が嫁自慢を延々と繰り広げていた。

 奴がこの世界に来た事を喜ぶ俺と、嫌がる俺。

 俺は来月からの異世界生活に楽しみが増えた事だけは変わらない真実だと感じていた。

 ここまで私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。


 今回の区切りはここまでとさせていただきます。


 次の区切りまでは今までで一番短くなりますが一応書き終えました。

 続けての投稿となるかどうかは、章が上手く分けられるかどうかに掛かっております。

 初めての章分けです。

 「上手くいくように」と共に願ってくれると幸いです。

 上手く章分けが出来なかった時は、一話だけ番外編を挟もうと思います。


 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。


 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。



 色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                            2018/10/23 何遊亭万年

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