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異世界初デート

 これからベスとアンのくしを買うという名目でシーリンさんと初デート。

 但し時間は、長くても約1刻半。

 約3時間程の時間しかない。

 まずはベスとアンの櫛を買うとして、俺も自分のブーツを買いたい。

 城門の外に出た時、ひるに噛まれまくるのはもう勘弁だ。


「シーリンさん。ベスとアンの櫛もですが、私も冒険用の革製長靴を買いたいです。」

「困りましたね。革靴を作るには足の採寸などが必要になるため、今日は少し時間が足りそうにありません。わたしが信用する店を教えますのでまた今度行ってみてくれますか?」

「分かりました。今日はベスとアンの櫛を手に入れます。」

「それが良いでしょう。では少し遠回りになりますが、靴屋の前を通ってから櫛を買いに行きましょう。そのくらいの時間はあると思います。」

「よろしくお願いします。」



 デートとしては順調な滑り出しだ。

 学生時代にしかデートをした事が無い俺にとっては寄り道デートしか知らない。

 それも今となっては記憶の底に封印したい思い出だ。


 大人がどういうデートをするのか、マニュアル本でしか知らない。

 それが三次元で実践された事は当然のように一度も無い。

 脳内で二次元嫁とは散々デートを重ねたが……


 とにかく今日は学生の寄り道デートの気分で行く。

 十代にかえった気持ちで今日のデートを楽しもう。



「行き先は河岸の市では無いのですね?」

「そこでも良いのですが、わたしは人込みが苦手なので小さな個人商店を使っています。」

「私も人込みは苦手なので丁度良いです。」

 遠い昔に読んだデートマニュアルに書いてあった『さり気なく女の子に同調すべし!』を一切の嘘無く同調できた。


 順調な滑り出しだ。



 靴屋は異原いはらへと行く城門近くにあった。

 軍事用の靴を専門に扱っている店のようだ。


「冒険用との事でしたので、ここが一番だと思います。ただ、お値段も張ります。」

「だいたい幾らくらいですか?」

ももまである革製長靴でしたら最低でも五両は覚悟して下さい。」

「結構しますね。高いのだと幾らくらいですか?」

「天井知らずですね。素材次第で百両にも千両にもなるそうです。」

「素材の違いって事は、走り蜥蜴とかげの皮とか使っているのですか?」

「そんなところです。もっと希少で強力な蜥蜴を素材として使っていると高くなります。」

「なるほど。とりあえず、一番安い素材で作ります。蛭さえ防げれば良いです。」

「まずはそうするべきですね。ですが妥協してはいけませんよ。装備品の一つ一つが命に関わる事をお忘れ無く。では大分遠回りをしましたが櫛を買いに行きましょう。」



 櫛を売る店への移動途中で渡し船に乗ってトモウェイ川を渡る。

 その店へ行くのに港橋まで戻りぐるっと回るのは時間が掛かりすぎる為、渡し船を使った。

 渡し賃は1人4文。

 渡し舟に乗るのは俺にとって人生初の経験だ。


 シーリンさんは自分の分を出そうとしたが「案内してもらっている身ですから」と二人分の料金を俺が出した。

 女の子(俺の脳内ではシーリンさんも十代に変換中)の分も銭を出すとデート気分が高まるのが不思議なところだ。

 シーリンさんから「ありがとうございます」の感謝の言葉も聞けて、短い時間だが船上デートも楽しめて、渡し賃8文の価値は十分過ぎるほど元が取れた出費だった。


 何よりも俺がデートしたら見たい事ベスト10に入っている「ボートの上から手を伸ばして水を触る女の子」が三次元で見られただけでも幸せだ。

 これで脳内二次元嫁とのデートにリアリティーが出ると言うものだ。


 ありがとうシーリンさん。



 櫛を売っている店は女性専門店と言った感じの店であった。

 俺が見る限り、独り身の男が1人も居ない。

 女性客かカップル客か。


 俺のような独り身の男には地獄の光景。

 店に居る全員が俺の坊主頭を一目必ず見る気がする。

 一目見ると、みんな納得した表情になるのが不思議だ。

 その後は、店の空気へと俺が馴染んでいく。

 現代日本で俺がこの手の店に入ると思い切り浮いていたのに。


 これは、俺がシーリンさんと一緒に居るからか?

 現代日本の時のように「なにあの人?」みたいな空気で俺が見られる事は無かった。



 「ぼーっ」と立って全く動かない俺にシーリンさんが助け船を出してくれる。

「櫛の種類はベスとアン違う物を選ぶと良いと思います。」

「私は色違いの同じ物にしようとしたのですが。」

「二人は髪の毛の質が全然違いますよ。ベスは綺麗に真っ直ぐで、アンはゆるっふわっといった髪の質です。ベスには櫛の歯が細く多い物を、アンには逆に歯が太く少ない物を選ぶと良いと思います。」

「なるほど。髪の毛の質で櫛も変わるのですね。1人では気付けませんでした。」


 俺は櫛の歯が違っても、なるべく似たようなデザインの物を探した。

 あの二人は色違いのペアルックを好む。

 赤と青で揃えられたら完璧だ。


 2人の櫛を探している間に、ふとシーリンさんを見ると銀色のかんざしを見ていた。

 こちらの世界では王女編みの事をなんと言うかは知らないがいつも編み上げているからな。

 編み上げた髪に差すと、シーリンさんの茶髪に銀色は映えそうだ。


 今日のお礼にかんざしをプレゼントしようか。

 シーリンさんに「二人のデート記念だよ」と言ったらもう一度血反吐を吐かされそうだが。


 2人の櫛は何とか決まった。

 多分竹製で黒いのは漆塗りか?

 ワンポイントの赤い花と青い花、歯の太さが違うが全体的に見るとお揃いの品に見える。

 値段はどちらも1朱。

 先程シーリンさんが見ていた銀色のかんざしは2朱だった。

 値段からして銀製と言う事は無さそうだが、安くても良い感じの品だ。

 3品を購入して店を出る。



 大分日が傾いてきている。

 名残惜しいがそろそろ時間だ。


 ドカチーニの斡旋屋へと戻る事にする。

 時間短縮の為に再び渡し船に乗った。


 その船上でシーリンさんに銀色のかんざしを渡す。

「日頃の感謝の気持ちと今日のお礼です。受け取ってください。」

「こんな高価な物をありがとうございます。ベスとアンにはばれないようにしないといけませんね。すねられちゃいそうです。」

 そう言って、シーリンさんはかんざしを編み込みに差す。

 思った通りにシーリンさんの茶髪には銀色が映えた。


 ああ。

 いつもと違って笑顔が怖くない。

 少しだけプレゼント作戦が成功したようだ。

 遠い昔に読んだデートマニュアルに書いてあった『プレゼントは渡すタイミングが重要!』をクリティカルに達成出来た気分だ。

 トモウェイ川を渡ってドカチーニの斡旋屋に着く頃には制限時間一杯だった。

 シーリンさんがご機嫌だったので会話もはずみ楽しい帰り道になった。



「シーリンさんはいつも髪を編み込んでいますよね?」

「そうですね。本来の髪型が気になりますか?」

「気になりますが、今の髪型が似合っているので良いです。それよりも編み込みの下に鬼の角が無いかの方が気になりますね。」


 後から考えたら、シーリンさんの機嫌が良かったから油断していたんだと思う。

 まさに口が滑ったと言うべきか。

 自分の首がギシギシと鳴っているような固さで、横を歩くシーリンさんへと顔を向ける。


 駄目な笑顔だ。


 笑顔魔人様は笑顔自体は変わらないけどお怒りのようだ。

 俺の頭の中には『おしおきだべぇさぁ』とぎりぎりセーフを狙ったアニメファンには有名過ぎるセリフが、偉大なる男性声優の声でよみがえる。


 隣を歩いていたはずのシーリンさんが俺の目の前で瞬時に現れた。

 驚いて、俺の歩みが止まる。

「この銀色のかんざし、ユークリットさんにも似合いそうですよね?」

「そうですか?私は坊主ですし、かんざしを差すようなところは無いですよ?」

 俺は、顔には乾いた笑いを浮かべて、体中には冷や汗を浮かべて、シーリンさんに答える。

 シーリンさんは満開の笑顔でおっしゃった。


「大丈夫ですよ。左の耳の穴から右の耳の穴に通せば良いではないのですか?」


 自分の髪から、かんざしを抜き俺の左耳の穴にそっと添える。

 すっと俺の耳の穴にかんざしが入り、『チクリ』とかんざしが鼓膜に触った痛みを感じた瞬間、入ってきた時と同じように、すっと引き抜かれた。


「冗談です。」


 彼女は自分の編み込みにかんざしを戻しながら、笑顔で俺に言った。

 シーリンさん。

 やっぱりその笑顔超怖いです。



 シーリンさんは自分の仕事に戻りましたが、私は私で自分の部屋を片づけています。

 先程の恐怖で動転していて、心の中の敬語が止まりません。

 今日の楽しかったデートの大半が先程の恐怖で塗り替えられてしまいました。


 自分の部屋を占拠しているベットとブラックさんとホワイトさんには物置の隣の部屋に引っ越してもらい、奴の体液の染みが無いか雑巾で部屋の隅々まで拭きながら確認します。

 奴の髪の毛1本、汁1滴すらも見逃してなるものですか!



 どうやら本当に奴は体液を部屋に撒いてはいないようだな。



 新しいベットを自室に運び込み、シーツを掛けて、ベスとアンを呼びに病室へ向かう。

 自室を片付けているうちに心の中の敬語もいつの間にかおさまった。



 再び腕の中にはベスをお姫様抱っこ。

 俺の腰の辺りにアンが右手でつかまってくる。

 アンがにっこり笑っている。

 ベスは俺の腕の中、ほっぺたを赤くしてそっぽを向いている。

 ゆっくり歩いて今度こそ3人で自室へと帰った。


 俺は両手がふさがっているのでアンに頼んで扉を開けてもらう。

 おそるおそる中を確認するアン。

 アンがほっとした息を吐く。

 久しぶりに俺達3人は自室へと戻った。



 ベスを新しいベットへ大切に寝かして、2人に今日買ったおみやげを渡す。

 アンが青い瞳を輝かせて喜んでいるのが分かる。

 ベスには俺が手に持って、櫛を見せていた。

「私にも握らせて。」

 ベスの右手にそっと櫛を置く。


 ベスは一生懸命櫛を握ろうとしているが、なかなか手は動かない。

 5分ほどかけて、それでも櫛を右手で持った。

 触ったと言った方が正しいのかも知れないが、俺に取っては『持った』だ!

 持ち上げる事はまだまだ出来ないが確かに右手で櫛をつまんでいる。

 ベスが『どや』と赤い瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべる。


 最高の気持ちで二人に声を掛けた。

「少し早いけど、14歳の誕生日の祝いだよ。大切に使ってくれよ。」

 俺には二人の喜ぶ顔が更に増したように感じた。



 俺が最高の時間を得ている時にネモが現れる。

 全くもって無粋な奴だ。


「おい。俺の嫁達はどこへやった?」

「物置の隣の部屋だ。今日からそこがお前の部屋だ。」

「ちっ。この部屋は割と気に入っていたのにな。」

「悪いがここは俺達3人の部屋だ。」


 俺の言葉を聞いたネモの瞳から血の涙が流れる。

 本当に器用な奴だ。

「オレもお前と同じ3人部屋だ!」

 扉を開けっぱなしにして、物置の隣の部屋へと入っていった。

 扉越しに「ブラックたん。ホワイトたん。ただいま」とネモの声が聞こえる。

 俺は自室の扉を閉めて、久し振りにいつもの筋トレを始めた。

 その間、アンがベスの運動を手伝っていた。




 今日は久し振りにゆっくり眠れる。

 俺は再び3人で過ごせる喜びを動かす筋肉と共に全身で感じていた。

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。


 長い後書きになります。


 後書きはいつもブックマークをいただいたお礼になっていますね。

 ここはもう読者様にあきらめてもらい、私のわがままを貫き通す事にします。


 ブックマークをありがとうございました。

 確実に私の『やる気』へと変換されております。


 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 お礼が遅くなりましたが、おかげ様で週間ユニークユーザーが300人を越える事が出来ました。

 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。


 同じローファンタジーの週間ユニークユーザーが300近辺を見渡せば総合ポイントが凄い人達だらけになってきました(ローファンタジー週間ユニークユーザー多い順28P目)。

 ブックマークは3桁、4桁が当たり前。

 そんな人達に混じって私の作品の名前が「ちょこん」と載っている。


 嬉しい気持ちと共に、

 「やはり毎日更新しか私にやれる事はないな」

 と自分の未熟さを思い知りました。


 それと共に、そんな凄い所へと私の拙い妄想しょうせつを載せてくれた読者様一人一人に感謝の気持ちしかありません。



 さて、最後に私にとっての残念なお知らせです。

 この後書きが載ると今回の本編の4分の3が消化された事になります。


 前回同様、次の本編の制作が全く間に合いそうにありません。


 再びの番外編地獄が巡ってきそうな予感ですが、その前に少しでも本編を作りたいです。

 「私は番外編の方が好き!」

 と言ってくれる人が1人でも居る事を信じて、確実に間に合わないであろう本編制作に邁進しようと思います。


 色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                            2018/10/19 何遊亭万年

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