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地獄の6日間・槍の鍛錬

 現在、俺は鬼教官ドカチーニと向き合っている。

「十分な休憩は取ったか?」

「最高の休憩でありました。サー!」

「これから日没まで魔力が尽きても槍を突き続けるぞ。」

「イエス・サー!」

「お前が休憩中に木人形を用意しておいた。それを使え!」

「イエス・サー!」

「なお、その白いシーツは特別に追加装備として認めてやる。」

「サンキュー・サー!」

「もう追加装備は認めんぞ。但し裏庭にあるものなら自由に使え。」

「イエス・サー!」

「現地で必要な物を調達する事も冒険者として大事な事の一つだ。」

「イエス・サー!」

「お前が自分なりの工夫で槍の柄を目標とした事は認める。俺が柄の修理をしておこう。」

「サンキュー・サー!」

 訓練場には、柄が傷ついた槍の代わりに木人形が用意してあった。

 槍を訓練する為に、右手に持つ食料袋だけは地面に置くことを認められた。



 先日習った、槍の基本動作を木人形相手に行う。

 一突きするだけで分かる。

 全装備を背負ったまま槍を突くのは、今までと違った難しさがあった。

 これまで訓練してきた事と同じ様に突くには、背中の装備が非常に邪魔になる。

 体を動かす度に荷物が一拍遅れて動き出し、止まる時は体と一緒の場所には止まらない。


 『慣性の法則』名前だけは知っているが、ここまで厄介なモノだったとは。


 一突き一突き考えながら突き、自分が動き終わった後の荷物による余分な慣性は筋肉の踏ん張りで無理矢理止めるのが一番だと体で理解した。


 もう一つの厄介ものが、白いシーツ。

 意外と体にまとわりついてくる。

 戦闘中は左半身は全部露出させた方が良さそうだ。

 実際にやってみないと分からない事が多いと再び確認する。


 後は何かに気付く度に少しずつ修正を行いながら、ひたすら反復運動で体に覚えこませる。

 槍を突く精度は全然上がらない。

 当たり前かも知れないが、先日の訓練の時よりも更に精度が落ちている。

 白いシーツを右半身に寄せた事で、左腕鎧も太陽の直射日光を浴びて熱くなる。

 俺自身も暑さで気力体力共に限界を迎えそうだ。



 昼食に使った食器を片付けに来たシーリンさんが使う井戸水が冷たそうでうらやましい。

 彼女の水着姿を想像して気を紛らわそうか。


 俺がシーリンさんに着せるのならば、スポーツタイプのワンピースだな。

 特注の貫頭衣に合わせて、色は濃い藍色だ。

 勿論、背中が大きく開いていて、お尻の割れ目もピッチリ出ているハイレグで。

 胸の豊胸パットがずれて、プールの隅で人から見られないように直している姿を想像する。

 彼女は「絶対に剥がれないヌーブラと宣伝していたのに」と呟く。


 最近のヌーブラは高性能のようだが、おれの妄想の中ではずれてもらわないとな!

 良し!なんか元気が出てきた。

 『俺の槍は天を突く槍だ!』

 ぎりぎりアウトかセーフな言葉も心の底から萌え上がってくる!!

 今回は倫理的にはかなりアウトだな!


 おっと。

 彼女とそれなりに距離があるのに気付かれた?

 あの笑顔は危険な笑顔。

 これ以上はシーリンさんの方を見ない方が良いな。

 『深淵を覗く者はまた深淵に覗かれている』だったっけ?

 正確な言葉は思い出せないが、どこかの哲学者様の言葉を信じよう。

 『シーリンさんの笑顔を覗く時は俺の心もシーリンさんに覗かれている』

 今までの経験から可能性は否定できない。



 いやいや、余計な事を考えるのはやめよう、ユークリット。

 とにかく今は槍の上達だけを考えよう。

 緑小鬼の隊長との一戦を思い出せ。

 この訓練が明日の俺の命につながっている。

 それだけを胸に刻んでおけば良い。



 緑小鬼の隊長との一戦。

 あの時の正解はどう動くべきだったのだろう?


 失敗は分かる。

 あの時、俺は相手の攻撃を受け流そうとしてしまった。

 そんな行動は一切やった事が無いばかりか、訓練すらした事が無い。

 今考えれば無謀な事をやろうとしたものだ。

 この左腕鎧に感謝をしないとな。

 今現在は灼熱地獄で俺を苦しめているが、戦闘になればこれほど頼りになる相棒は居ない。

 

 『では正解の動きとは?』

 槍を突いて元の位置に戻る。

 やっている事が単調な分だけ、余計な事を考えると突きの精度が落ちる。

 俺は元の位置に戻った時にだけ少しずつ考えを進める。


 最初はお互いにらみ合って居られたのだ。

 あの時は……そう、まずは相手の瞳に合わせるように槍を構えた。

 俺は、穂先の延長を木人形の胸から頭の瞳の位置へと移動させた。

 次の一突きは、その位置から胸に向かって突き、穂先を瞳の位置に合わせた場所へ戻した。


 そうだ。


 あの時は穂先を相手の瞳に合わせる為に、左手の位置はそのままで、右手で微調整をしていたんだったな。

 そう考えると、邪魔だと思ったこのシーツも右手の動きを隠す効果を期待出来るかもな。

 同じ突きをもう一度。

 最初から胸に槍を向けていた時よりも、明らかに突く為の難易度が上がった。

 狙った場所から大きくずれる。

 ただでさえ低い突きの精度が更に落ちる。


 睨み合ったところまでは上出来だったのだ。

 その後が問題だったのだな。

 あの時、俺は一歩下がった。

 下がって、出来もしない相手の攻撃をいなそうとしてしまった。

 もっと自分の気持ちを正直にぶちまければ『怖くて一歩下がった』のだ。


 木人形からの距離を緑小鬼の隊長と戦った時と同じだけ取ってみた。

 遠い。

 今、俺が突きを練習している距離より1歩分遠い。

 もう一歩入り込まないと、俺が有効に攻撃出来る距離にならない。

 当時の答えが少しだけ見えた。

 出来るかどうかが分からないのであれば、緑小鬼の隊長が長剣を振りかぶって攻撃してきた時に、胸に向かって突きを入れるべきだったのだ。

 俺は槍を突く訓練しかしていなかったのだから。

 当時の俺は勿論、今の俺だって、『一歩前に出る』そんな勇気はありませんが。



 俺にはこれが正解かどうかは正直言って分からない。

 だが、槍を最初に構える位置、穂先の延長線上は、相手の瞳へと向けて構える事にした。


 次に相手をイメージする。

 今までは槍を正確に突く事だけを考えていたが、それだけでは駄目だ。

 このままでは相手が攻撃をしてきた時に、再び一歩下がってしまう。

 そのまま詰め寄られて相手の間合いに入ってしまう。

 また、あの恐ろしい格闘戦を行いたいのか?ユークリット!


 俺は二度とごめんだね。


 格闘戦にならない為には普段から、相手が攻撃をする為に一歩踏み込んだ瞬間に槍を相手の胸へと突くイメージを持たないといけない。

 槍の達人は距離を関係なく攻撃も防御も出来るそうだが、今の俺には無理だ。

 とにかく、相手の間合いに入らない事。

 いや、相手を間合いに入らせない事か?

 俺も自分が攻撃したら一歩下がる相手よりも、カウンターを狙ってくる相手の方が怖い。

 正解かどうかは分からない。

 だが自分がやられて怖いと思う事を相手にやろう。



 木人形は動かない。

 だが俺は木人形を緑小鬼の隊長とイメージを重ねて槍を突く練習を再開した。

 相手が攻撃を仕掛けてくるのに合わせて槍を突く。


 俺の突きが木人形に当たる事は無くなった。

 周りから見たら「せっかく木人形があるのに莫迦ばかみたい」と思うかも知れない。

 だが俺の脳には、緑小鬼の隊長が一撃目に放った攻撃が、残っている。


 何度も何度も当時のイメージを脳内で再生させて、相手の攻撃に合わせて槍を突く。

 半分以上寝不足で朦朧とした頭を使い何度も同じ事を繰り返す。


 何度も同じイメージを繰り返していた中で、たまたま会心のイメージで突きを放った。

 相手は振りかぶりながら一歩前に出ているのだ。

 その振りかぶりに合わせて突けば、相手が攻撃してくる前に止める事が出来る。


 その動きはただの理想で不可能な事かも知れない。

 だが俺は、その理想を現実とするべく、そのイメージを頭に描いて槍を突き続けた。



 暑さと疲労と寝不足で、頭にあるイメージだけを再生しながら無心で槍を突いていた。

 頭の中は同じイメージを繰り返すだけで、体も自然とそれに合わせて動いていた。

 起きているのに寝ているような、寝ているのに起きているような不思議な感覚。



「ユークリット。もう良い。一時休憩だ。」



 ドカチーニさんに槍を直接つかまれて動きを止められる。

 俺は『ハッ』と気付き、現実へと帰ってきた。


「よもや、『寝ながら歩く』より先に『寝ながら槍を突く』をこなすとはな!槍投げの威力も凄いが、お前は槍の天才だな!まだまだ不格好だが、気を失っていると俺が気付けない程、きちんと突いていたぞ!もともとが不格好だから気付かなかったのかも知れないがな!!」


 一応ほめられているのだろうか?ドカチーニさんの機嫌が良い。

 俺は途中から半分以上気を失って、寝ていたも同然な感じで動いていただけなのに。



「よし、半刻休憩だ。きちんと休め!」


 その言葉を聞くなり、背中の荷物を放り投げ、病室に行こうとしたところでドカチーニさんに止められた。


「今後、病室に行くことを禁じる。ベスが心配なのだろうが、お前も休め。契約期間は、まだ三日目だぞ?後三日あるんだ。この半刻を全力で休め。しっかり休息を取って魔力を回復するんだ。これからやる夜間行軍に備えろ。今日も徹夜だぞ。何、お前ならすぐに寝ながら歩けるようになる!そうすれば行軍しながら魔力回復出来るぞ。それが出来るようになれば病室にも行かせてやれる。約束しよう。」



 俺には魔力が無い事を言えたらどれだけ楽か。

 何度同じ事を思って、その度に止めているだろうか?

 だが魔力ゼロを証明する為に正式に魔力検査をする方が問題が大きくなりそうだ。


 3人で指切りをしたのを思い出す。

 ベスもアンもそれぞれで頑張っている。

 俺もここでやらねばならない。



 まずは炎天下、正気を失いながら動き続けたため、ほとんど脱水症状に近い状態だ。

 空になった水袋を岸壁がんぺきの階段で降りて行き海の水を汲む。

 それに真水を上手くブレンドして簡易のスポーツドリンクを作る。

 味はひどいが、今までの自分の経験から適切な塩分濃度のものを作って飲んだ。


 裏庭にあるものは何でも使って良いとの事だが、流石に井戸を使う訳にはいかないだろう。

 真水の補給は洗濯場の溜池でぎりぎり許されるか?

 いざとなったら、あの水を飲むのか?

 海の水よりも覚悟がいるのは、俺の気持ちの問題なのだろうな。

 しかし、冒険に簡単な『ろ過装置』を持っていけたら、便利そうだ。

 後で何とかならないかを考えてみよう。

 

 前回の休憩では食事もろくに取っていない。

 最後に食事を取ったのはいつだ?

 そんな事も思い出せないくらい、意識も混濁してきている。

 思い出せるのはシーリンさんの水着姿……あれは俺の妄想だ!!

 とにかく今は食料を腹に詰め込んで、行動食をベルトポーチへと補充する。

 行軍中は、この行動食が本当に役に立つのは昨夜思い知っている。



 日が傾き、夕方をこれから迎えようとするこの時間。

 俺が冒険食を食べている間にシーリンさんとマリーが洗濯物を取り込んでいる。

 二人共忙しそうだ。

 シーリンさんは建物の中へ消え、マリーは花に水をやる。


 冒険食を食べながら2人の仕事を見終えて、ドカチーニさんに起こされるまで寝る。

 『おやすみ3秒のびたよん。』

 今回もぎりぎりセーフかアウトだなと思う間もなく眠りに落ちた。



 体感時間で一秒と経たずにドカチーニさんに起こされた。

 頭がすっきりしている事を考えるとある程度の休息はとれたのだろう。




 訓練はまだまだ続く。

 俺は気合を入れ直して、これからの夜間行軍へと備えた。

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。


 連日となる、いつものお礼を失礼します。

 この度またブックマークをいただけました。

 今日ふと気が付いたのですが、ここでお礼をしてもブックマークを付けて下さった方がこの後書きを読んでいるのかは分からないのですよね。

 それでも私のやる事は変わりません。


 ブックマークをありがとうございました。


 最新話を読んで下さっている読者様になら今日お礼出来ますし、

 まだ途中を読んでいる読者様でも、

 ここまで読んで下されたのならばお礼が出来ます。

 ブックマークを付けて下さった方に私のお礼が届く事を祈ります。


 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 日頃よりのアクセスをありがとうございます。


 後書きでお礼をしても、ブックマークを付けた読者様が見ていない可能性に今頃気付く、色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                             2018/10/15 何遊亭万年

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