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絶世の美男子?

 奴を濡れたままの背広姿で病室のベットに寝かすのはまずいので、俺の貫頭衣をとりあえず着せてある。

 奴の着ていた背広一式はブーメランパンツを除けば物干しざおで風に吹かれている。

 部屋に帰ったついでに俺も貫頭衣を着る事にした。

 奴とのペアルックは御免被りたいが、考えてみればこの世界ほとんどの庶民が同じ格好だ。


 槍の訓練は、俺と奴が知り合いという事で、奴が目覚めるまで待ってもらっている。

 ドカチーニさんが「起きた時心細いだろうから傍についていてやれ」と俺に言う。

 彼の優しい言葉に恐怖するのは俺の被害妄想か?

 ドカチーニさんは鬼ではあるが面倒見が良いしな。

 ここは優しい言葉を素直に受けとっておこう。



 病室前の廊下がマリーとの遭遇イベントの多い場所なのだが、裸だと彼女はこちらを見ようともしない。

 彼女との親密度を上げる為には貫頭衣を着る事が必須だな。

 『マリーとの親密度上昇必須アイテム・服』と心の中のメモ帳に書いておこう。


 俺をいつもガン無視しているマリーに挨拶をして病室に入る。

 色々と試してみる必要があるな。

 今日は明るくフレンドリーにいってみよう。


「よう。マリー。入らせてもらうぜ!」

「………………」

 つんといつものすまし顔。


 いつも通りのガン無視だ。

 どうやら明るくフレンドリーな挨拶では好感度の上昇は確認されない。

 それとも隠しパラメーターで少しは上昇しているのかな?


 

 俺は病室に入室して奴が目覚めるのをベットの隣で待つ。

 奴は苦しむ様子も無く、静かに寝ているようだ。

 しばらくは大人しくしていた俺も男の顔を眺め続ける趣味は無い。

 このまま何もせずに待つのは暇なのでアルフィアさんと話をする事にした。

 男の顔を眺めているよりもずっと有益だ。


 彼女と話を始めると、すぐに話がはずむ。

 廊下を歩き続けるベスからは「扉は必ず開けておいて下さい」と睨まれながら頼まれた。


 確かに廊下の扉を開けた方が病室の風通しが良くなる。

 窓の木戸も扉も開けておいた方が気持ち良い。

 きっと廊下にも良い風が入るだろう。


「ベス。自分の部屋の扉も開けておいて良いからな。風が通る方が気持ち良いだろう?」

「そういう意味ではありません!!」

 おお?何故か怒りが増したぞ?

 ベスは『ぷいっ』と横を向いてそのままアンと一緒に廊下を再び歩き始めてしまう。

 マリーがすまし顔でこちらを見ていたので声を掛けてみたがガン無視は変わらなかった。



 俺を無視する廊下の少女達は放っておいて、病室の女性へと集中しよう。

 アルフィアさんはこの異世界に来てから知り合った数少ない大人の女性の1人だ。

 ショートヘアーが良く似合う、元気一杯の後輩といったイメージを感じるヒトだ。

 年は俺と同年代だろうが、わずかに若そうだ。

 こんな体なのに元気なところが若さを感じるのかな?


 こちらの世界に来てからと言うもの女性との縁が確実に薄くなっている。

 シーリンさんの俺への扱いを考えると、アルフィアさんが俺の心のオアシスになりそうだ。

 いつまでも『たすきおじさん』が心のオアシスでは近々俺の心が干上がるだろう。



 アルフィアさんとちょっとした世間話を楽しんだが、奴はなかなか目覚めない。

 彼女との会話中に「ヒトに動かしてもらいながらの方が手足の回復が速い」と言う話題が出てきた。


 現在アルフィアさんの左半身はほとんど動かない。

 肩と股関節が動くが他は全く動かない状況だ。

 アルフィアさん曰く、フィーナさんが言うには「動かす場所に魔力を通す気持ちでヒトに動かしてもらうのが治す為の一番の近道よ」との事である。


 俺は奴の目覚めを待つだけなのは暇なのでアルフィアさんのリハビリを手伝う事にした。

 アルフィアさんにリハビリの手伝いを申し出ると「リハビリ」の単語自体は通じなかったが「私が手足が動かす為の手伝いをします」と言えば通じた。

 アルフィアさんがつぶやいた「頭を丸めているヒトなら男のヒトでも安心ね」の言葉に少し引っ掛かりを覚えたが、すぐに忘れた。

 彼女も乗り気だ。

 自分の右手1本では一番大変だという左ひざのリハビリを中心に行う事にした。



 まずは左ひざの屈伸運動から。

 大義名分を持って女性の足へと触れるこの機会を俺は逃さない。

 ふくらはぎをしっかりと抱えてリハビリを手伝おう。


 彼女には上半身をベットへ寝た状態でひざの屈伸運動をやってもらう事にする。

 俺の瞳は自然と彼女の股下へと向かう。

 穿いているのか穿いていないのか……観測して確定する事は出来ない。

 俺の観測を阻む様に貫頭衣が絶妙な暗がりを作り出す。

 俺が膝を上げ過ぎると、彼女は右手で股下がめくれないようにとしっかり抑える。

 無理に観測しようとすると彼女に気付かれそうだ。



 こうなったら、彼女との肌と肌の接触を楽しむ事にしよう。

 彼女の再生したばかりの生まれたての御御足おみあしは赤ちゃんの足と同じようにもっちりすべすべだった。


 リハビリの間、アルフィアさんとの会話は更にはずむ。

 彼女の話は自分の冒険譚だ。


 前回の『銀色の月の満月の夜』の話。


 信じられないような体験話を楽しそうに話している。

 「三本角の討伐と裏切り」「走り蜥蜴とかげとの死闘」「銀色の月の魔族との出会い」「五日間の決死行」どれも面白おかしく冒険譚を語る。

 (※第16・17部分の番外編5・6:とある小隊の銀色の月満月の夜の話)


 どの話も笑い話にならないような悲惨な話ばかりなのに、彼女は笑って話す。

 特に「左手足を切断されて目が覚めたら山のように水と食料が置いてあった」と大笑いしながら話をするところと「体を治して銀の月の魔族にもう一度会わないと気が済まない」と言った時の瞳の輝きが気になった。

 しかし「あたしは戦う気は無いけどね」と巨人との対戦だけはやらないつもりらしい。


 楽しそうに話しながらリハビリをしている俺達を、病室の前を通りすぎる度に冷たい視線で見つめていく赤と青の瞳に俺が気付く事は無かった。


 この時、一度でもあの冷めた瞳に気付く事が出来たのならば、俺にとっては最悪な結末とも言える『ベスとアンに無視をされる』事を回避出来たのかも知れない。

 だが俺は久し振りの(まともな)女性ヒロインとの会話に心が躍っていた。



 アルフィアさんとの幸せな時間は突然終わりを告げる。

 奴が目覚めた「ここはどこだ?オレの服はどこにやった?」と叫んでいる。

 俺は彼女のリハビリを中断して、奴の両肩に自分の両手を置き目と目を合わせてなだめる。

「落ち着け。俺だ。信じられないかも知れないが、ここは俺とお前が望んだ異世界だ!」

「誰だお前は?オレはお前のような見苦しい坊主は知らないぞ!」


 日本での本名を名乗る。


「坊主頭だから分からなかった。それより会社は無断欠勤でお前の首を検討しているぞ?」

「やはり、サプライズ強制有給休暇消費異世界企画じゃなかったのか……」

「お前に『ここは異世界だ』と言われてオレが信じると思うか?永訣の朝を忘れたのか?」


 それはそうだ。

 俺に言われただけでは、奴も信じたくは無いよな。

 逆の立場だとしたら、俺も奴と同じ事を言うだろう。


 俺はアルフィアさんにお願いして、先程の話に出てきた『気配を消す魔法』を使ってもらう事にした。

 だが「一度認識から外れないと発動しない」との事なので、奴に一度目を閉じてもらう。

 俺も『気配を消す魔法』がどういうものか知る為に奴と一緒に目を閉じる。


 「十数えて目を開けて」と言うアルフィアさんの言葉を信じて10数えて目を開けた。

 アルフィアさんの姿が見えているのにアルフィアさんと認識出来なかった。

 左腕と左足、スプラッター状態になった右ひざから下だけが認識出来た。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

 ネモが大きな悲鳴をあげる。


 俺も悲鳴をあげそうになったが、先にネモの悲鳴を聞いて少しだけ冷静さを取りも出した。

 ネモの悲鳴を聞いてアルフィアさんが魔法を解いた瞬間のあの感じは、擬態した昆虫を見つけた感じと説明するべきだ。

 奴の様子を見てみても同じように『あんぐり』と口を開けている。


「もしかして、左腕と左足、見えてた?」

「はい。右足はぐちゃぐちゃな状態になっていました。」

「どういう事かな?普段は服や装備も含めて気配消せるから、消えると思ったのだけど?」

「確かに服は認識出来ませんでした。」

「やっぱり、魔法を理解するのは難しいわ。もっと修行が必要ね。」

 少しアルフィアさんの表情が曇る。



 ネモの悲鳴を聞いてすぐにマリーが、遅れてベスとアンが病室に入ってくる。



「ここは本当に異世界なのか?」

「あぁ、残念ながら異世界だ。ただし、俺やお前が望んだ異世界では無い。」

「さっき『ここは俺とお前が望んだ異世界だ!』と言ったばかりだろうが!」

 奴は自分の額を俺の額にこすりつけながら文句を言ってくる。

 いつでも『頭突きをかますぞ』と言う奴の威嚇行為だ。


 こいつは俺が目と目を合わせて平気で話が出来る数少ない人間の1人だ。

「ああ確かに言ったな。だが、この世界に来て半月経った今でも俺には無双もハーレムも出来そうにない。」

 奴に負けないように俺は奴の額を押し返す。

 奴がぱっと額を引いて、ベットの上に立ち上がり高々に宣言する。



「やはりそうか。お前はただの水先案内人!勇者のオレを導く者でしか無いようだな!」



 その角度、アニメだと黒い線や光の線が入るぞ?

 股下には気を付けろ!

 俺は男のぶら下がった物は見たいと思わないし、少女達には尚更見せたくない!


 見ろ!!とっさにベスとアンの目を俺の腕で覆って護れたが、マリーが顔を真っ赤にして目をそらしているじゃないか!


 だが良く考えたら奴はブーメランパンツを穿いているはずだよな?

 あれを脱がすのは、さすがに俺も嫌だったので穿かせたまま貫頭衣を着せたはずだ。

 奴の股下をじっと見てみるが、男であってもそこを観測して確定するのは難しそうだ。

 今現在、本当に奴は穿いているのか履いていないのか?

 俺は答えを知っているはずなのに観測するまで確定しそうにない事は男も女も同じだな。



「オレの名はネモ!異世界ハーレムを築きあげ彼女達と共に、表の勇者が魔王と死闘を演じている所を、裏で世界を牛耳る真の大魔王を人知れず倒す男よ!」



 『ネモ』か。

 やつのゲームネームそのままだな。

 発想が俺と同じかよ。



「一応、この世界では俺も『ユークリット』と名乗っているよろしくな『ネモ』。」

「お前のゲームネームかよ。発想がオレと同じだな。」


 差し出した俺の手に奴の手が重なる。

 久しぶりの和解だ。

 だが握手と共に奴の顔が下衆げすゆがむ。


「そう言えば、お前のフィアンセがお前を必死に探していたぞ?」

「フィアンセ?」

 俺のすぐ後ろから聞こえる驚きの声。

 ベスとアン、2人と目が合うがプイと横を向かれてそのまま廊下へと向かって歩き始めてしまう。

 本当に2人のコンビネーションは完璧だな。



 それはそうと。

 俺も生まれてから『フィアンセ』なんて居た覚えが……忌まわしい子供の時にしか……

 生まれた病院から幼稚園、小中高大学、就職先まで一緒だった隣に住む女一人しか……

 あいつか?

 だがあれは幼稚園時代の話だぞ?『おままごとで遊べば誰でもやる行為』だよな?


「おいおい。自分のフィアンセを忘れたのか?仇名は『眼鏡を掛けた貞子さん』だったか?」


 眼鏡を掛けていると分かるだけあいつの方がマシだろうが!!

 いやいやいやいや。

 あいつの事は記憶の底に封印だ。

 俺は奴からあいつの事は何も聞いていない。

 俺は奴からあいつの事は何も聞いていない。



「そんな現実には有り得ない事より、皆にお前を紹介しないとな。」

「お前はフィアンセの行動は聞かなくて良いのか?」

「フィアンセ?二次元になら幾らでもいるが、一体誰の事だ?心当たりが多すぎるぞ?」

「けっ!この浮気者が。1クール毎に嫁が変わるってか?俺には現在は嫁が2人居るが浮気はしないぞ?俺が増やすのは厳選尽くされた嫁のみだ!厳選された嫁でハーレムを作る!一度嫁と決めたのならば、ただの1人だとてオレは捨てたりはしない!!」

「止めよう。この話題は不毛だ。まずはお前の事を、みんなに紹介してお礼を言いたい。」

「そうだな。この話題は不毛だ。助けられたのは本当のようだしオレも礼がしたい。」

 久しぶりに奴と意見が一致した。



「まずはこちらがアルフィアさん。今は怪我をしていて右腕しか動きません。迷惑を掛ける事などないように頼みます。」

「ネモだ。よろしく頼む。」

「アルフィアだ。こちらこそよろしく。」


 右手同士で握手をする二人。

 俺は少しだけいつもと『何かが違う』違和感を感じたが、分からないので次に行く。



「こちらがマリー。無口な少女。だが『メイド』だ。」

「何!メイドだと!?それでお前とはどういった関係か教えてもらおうか?」

 奴は自分の額を俺の額にぐりぐりとこすりつけながらマリーとの関係を聞いてくる。

「挨拶をしても、ガン無視される仲だ。今のところはな。」

「その言葉信じるぞ!マリーちゃん。オレはネモ。メイドは大好きだ。よろしくな!」

「マリーです。よろしくお願いします。」

 その後はネモが何を言っても、いつものすまし顔でガン無視状態だ。

 やはり『何かが違う』と俺の中の何かがうったえるが分からない事は気にしない。



 途中廊下でベスとアンに声を掛けて診療所に居るフィーナさんにも移動してもらう。

 秘密の地下室に居るベルガーさんも呼びに行く。

 元から食堂に居たドカチーニさんとシーリンさんも含めて、斡旋屋にいる全員へと声を掛け食堂へ集まってもらった。

 アルフィアさんとマリーは病室に居る。

 斡旋屋は丁度客が居ない午後の時間帯のようだ。

 客は誰も居なかった。



 ベスとアンの機嫌が凄く悪いのだけは分かる。

 2人は俺と目を合わせようともしない。

 俺は『良いですけどね。俺も目と目を合わせるの苦手だし』と心の中で強がっておく。



 ネモが「挨拶をするのに半乾きで良いから背広が欲しい」と言うので取ってきてやった。

 今日も太陽は良い仕事をしていて洗濯物はほとんど乾いている。


 食堂に集まったみんなの前で堂々と着替えるネモ。

 観測の結果、穿いている事で確定したが、俺にとっては本当に意味の無い確定事項だ。

 ブーメランパンツを穿いているおかげか、初対面だからか、シーリンさんからのお盆攻撃は発生しなかった。



 背広に着替えたネモが食堂に集まったドカチーニの斡旋屋のメンバーの前で挨拶をする。

「オレの名はネモ!2年後には魔法使いとなり、真の大魔王を倒す男だ!この度はオレを助けてくれた事に感謝する。だが数年後にはオレを助けた事に誇りを持つ事になるだろう!」

 奴は固有の名前が付いたアニメファンならほぼ知っている独特な立ち方で自己紹介をした。

 確かにその立ち方は格好良い『但し8頭身イケメンに限る』が付属するがな!

「なに!魔法使いだと?早速魔力を計ろう。」


 ドカチーニさんが例の魔力計(?)を用意する。


「握力計か?」

 俺と同じ事を聞いてやがる。

「魔力計だ。俺は約80だったぞ?常人で30から40との事だ。」

「オレなら計測不能になるな。」

 と言って握ったそれの針はほとんど動いて居なかった。

「二十有るか無いかか……魔法使いはあきらめろ。素質があっても大成しない……」

 ドカチーニさんがネモの肩に手を置いてきつい真実を告げる。


 そこに珍しくベルガーさんが自分から口を開いた。

「彼はユークリットと同郷。魔力補給を受けると危険かも知れない。」

「ふむ。その可能性はあるな。シーリン、ベルガー、裏庭に行くぞ。ネモとユークリットもついて来い。一応魔力補給を試す。」



 裏庭に着くとシーリンさんがネモに魔力補給をする。

「なんだ。この力は!これが俺の隠された能力。これならば魔王も一撃で倒せる!」

「ああ。分かった分かった。とりあえずこの石を思いっきり投げてみろ。」

 ドカチーニさんが呆れ顔で裏庭の余った石を1つネモに渡した。


 海に向かって思いっきり投げるネモ。

 石は100メートル以上は飛んだ。


「ふむ。十分凄いが秘匿するほどでも無いな。」

「一安心だ。」

「そうですね。これくらいならごまかしがききそうです。」

 ドカチーニさんの言葉にベルガーさんとシーリンさんも同調する。

「魔法使いは無理でも良い冒険者にはなれるぞ?」

「オレが魔法使いになるのは2年後だから。まだ覚醒前でこの能力!素晴らしい!!」


 1人ハイテンションになっているネモを呆れた感じで見ている現地人3人。


「彼には私が後で伝えておきますから。容姿にしか長所が無い男ですから、彼の事は多めに見てあげて下さい。」」

「「「容姿が長所?」」」


 3人が首をかしげている。アルフィアさんも別段ネモの容姿を見て変化無かった。

 もしかして、この世界ではネモの容姿は特別優れている訳ではないのか?

 後で、フィーナさんとベス、アンにも聞いてみよう。



 斡旋屋の食堂へ戻るとフィーナさんの方から声を掛けてきてくれた。

「ユークリット。ネモと知り合いのようだけど、彼は貴族なの?とても仕立てが良い服を着ているけど貴族って感じはしないのよね。もしかして彼は地元で執事でもしていたの?」

「いえ。私の知る限りでは一般人ですよ。私と同郷の一般人です。」

「あらあら。それはちょっとまずいわね。あの服は貴族関係者が見たら貴族服か執事服に見えるわ。仕立ての良さは貴族服なのだけど形は執事服に近いのよね。貴族服はもちろん貴族しか着れないし、執事服はメイド服と同じで貴族に仕えるものしか着る事が許されていないの。」


 なるほど。


 背広は庶民が着る貫頭衣とは大きく違う。

 貴族服・執事服どちらを言われても「そうじゃない」とは言い切るのは難しいだろう。

 どちらかと言えば思い切り執事服に分類されそうだ。

「ネモはあの恰好しかしません。どんな時もです。」

「仕方ないわね。彼を呼んでちょうだい。あたしの執事にするわ。当分の間は無給だけど。」

 フィーナさんは「診療所に居るから」と言って、廊下へと歩いて行ってしまう。



 俺はネモをフィーナさんの診療所へと連れてくる。

 フィーナさんが先程俺に言った事をネモへ説明すると「理不尽だ!」と奴は言い放つ。

 それに対して「異世界に日本の常識は通用しない」と言った俺の言葉で奴は承諾した。


「それじゃあマリー。悪いけどヤンゼン家へとネモの執事届を出す準備をしてくれる?」

「分かりました。ですがフィーナ様。ヤンゼン家とは縁を切ったのでは無いのですか?」

「大丈夫よ。今は帰る事も許されないし、ヤンゼン家の本家の人間では無くなったけど、一応分家の片隅には属しているわ。」

「分かりました。彼の執事登録申請を作っておきますので後でサインをお願いします。」

「ありがとう。届かないと困るから三通書いてね。送るのは別々のヒトにお願いして。」

「分かりました。では作成します。」


 相変わらずマリーは俺と話そうともしない。

 だがネモにも惚れるといった感じもしない。

 淡々と必要項目だけをネモから聞き出して、即座に登録申請を作成、フィーナさんにサインをもらうと斡旋屋から出て行った。


 マリー。

 優秀すぎるぞ。

 お前は12歳だか13歳だろう?

 確実に俺より仕事が出来そうで泣けてくるぞ?


 その後、フィーナさんにネモの容姿について尋ねても『絶世の美男子』と言うような返事は帰ってこない。

「たしかに顔は整っているとは思うけど。ドカチーニにの足元にも及ば無いわね。」

 どうもごちそうさまでした。




 同じ質問をしたベスとアンは……一切口を聞いてくれようとはしなかった。

 おじさん悲しくて落ち込みますよ?

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