日本時代を振り返る(俺と奴の交わり編)
海から引き揚げた俺の同僚は営業の仕事着……つまり背広をきっちり着ていた。
奴の姿に助け出した水夫たちは「貴族と関わるなんてごめんだ」と言って、ドカチーニさんからお礼をもらうと食事を済ませて斡旋屋をとっとと出て行ってしまった。
奴の目が覚めるまでは診療所で預かる事が決まり、空いているベットを使う事になる。
俺は何度も反対を表明したが、フィーナさんが許してくれなかった。
気は進まないが、仕方なくアルフィアさんと同じ病室にある空いたベットへ奴を運ぶ。
奴と共に海から引き揚げられた2体の人形はむしろ周りから恐れられているようだ。
ここまで精巧作られた人形を見た事が無いのだろう。
アニメ顔を見た事が無いヒト達には不気味に映るのかも知れない。
俺から見たら3次元の女の子よりも、ずっと可愛いのだが。
この2体の素晴らしく出来の良い人形は一応俺の部屋へと片付けておく。
俺が欲しい訳じゃないぞ!
斡旋屋の食堂に置いておくと色々問題が出てきそうだからだぞ!?
『2人はプリティー☆キュアッキラ☆』の『ブラック』と『ホワイトか』………
ほぼ等身大のこの人形はベスやアンよりも身長が高い。
作中の有名な決めポーズを2人セットで取っている。
くやしいが奴の2次元センスの良さには感服せざる得ない!
しかも俺のオタク脳をフル回転させても、こんな商品の情報など出てこない。
ここまでの徹底した仕事ぶり、普通にネットで絶賛されていそうなものだ。
俺が異世界に来た後に販売されたのか?
いや、これほどのクオリティを持つ作品だ。
事前予約とかが当然あるだろう……
ネットで祭りにならなければおかしいレベルの造形だ。
そんな物を俺が見落とすとは考えられるが、考えたくない。
まさか!?奴の特注品か?
奴は歩合制の営業。
何気なく給料の話になった時、聞けば俺の3倍以上稼いでいた。
少しだけ奴と俺との日本時代の交わりを思い出す。
俺の同期入社は3人。
奴もその内の1人だ。
だが奴は2年間大学で留年しているので、俺より年上の28歳。
フランス国籍を持つ白人の両親から生まれた、日本語しか話せない生粋の日本人だ。
両親が忙しく乳母に育てられた為、幼少期からフランス語に触れる機会が無かったそうだ。
もう1人の同期入社の女の事は記憶の底に封じておきたい。
奴は自分でステータスを決められる世界の如く、容姿にステータスを全振りしている。
どこからどうみても白人の一流外国人モデル。
完璧に整えられた少し長めの金髪、切れ長の瞳、筋の通った高い鼻、キリっとしまった唇、面長で小顔な事もあり、奴のスラリとしたスタイルを更に引き立てる。
そして俺と全く同じ高さがある身長。
股下の長さは奴が圧倒的に勝っているが、体重では圧倒的に俺が勝っている!
ふっ!これで1勝1敗1分け。
いつぞやのワールドカップ予選突破の目標だってクリアしているさ。
つまり俺は奴に負けてなどいない!!
入社当初は全く気に入らない奴だった。
俺はイケメンが大嫌いだ。
だが行く場所、行く場所、行く場所、不思議と休日はどこに行っても奴と会う確率が高い。
最初のうちは有益な休日を過ごす為に、お互い無視をしていたが、同好の士と知って意気投合し、自然と行動を共にするようになった。
付き合えば付き合うほど、奴が本当に容姿へ全ステータスを振っている事が分かった。
奴は初見相手には圧倒的にモテた。
服装は休日であろうとも背広。
しかも、背広のグレードは給料に合わせて年を重ねる毎どんどんアップしていく。
街を歩けば、逆ナンやタレントへの勧誘が続発。
それを奴はことごとく断っていく。
理由を聞けば「オレ30になったら魔法使いになるんだ」である。
莫迦がいた。
しかも俺が大好きなタイプの莫迦が。
普段なら行かない声優イベントへ奴に誘われて初参加。
そこで奴の恐ろしくも素晴らしい姿を目にする。
オタティーシャツならぬオタ背広である。
俺の感覚としてはフェラーリF40をイタ車にするくらいの衝撃だった。
しかも、イベント声優の演じたキャラが刺繍で半立体化している仕様だ。
裏地もばっちり決めているようだが、俺にも見せてはくれなかった。
奴曰く「オレの嫁の夜の姿は例えお前でも見せる事など出来ん!」である。
イベント会場に向かう間も奴のファッションはぶれない。
この痛い背広を着たまま、大きな街の駅も繁華街も平気で歩いて会場へと向かう。
正面から来た女性が奴に見蕩れながらすれ違い、振り返って幻滅している姿が笑えた。
同じ事をする女性が会場へ着くまでに何人も現れるのだ。
開演すれば、オタ芸と言われるダンス(?)も完璧に周りと一体化している。
1人だけ背広にネクタイの完全装備なのが異質を放っているといえば放っていたが。
俺は完璧なアウェー状態だったが、初めての声優イベントは凄く楽しかった。
全て奴のおかげだ。
莫迦がいた。
しかも俺が大好きなタイプの莫迦が。
会社の慰安旅行で行った海。
やはり奴は半端なくモテた(会社員は除く)。
3歩歩けばパーティーメンバーが増える(女性限定)勢いでハーレムパーティーを築く。
奴のボディーは本来リミットぎりぎりのボクサーが更に2階級落とした感じだ。
俺から見れば必要な筋肉も落ちたガリガリだが、脂肪は全くついていない。
筋が直接見えているだけなのだが、一見『痩せマッチョ』に見える、奴の体の方が好み女性が多いらしい。
ブーメランパンツすらも良く似合うのが奴の恐ろしいところだ。
俺の筋肉には女性は寄って来ない。
『マッチョはモテる。但しイケメンに限る。』
後半の方がより大事なのだ。
俺の傍には記憶の底に封印したい同期がパーカーを着てたたずんでいた。
パーカーの下も水着ではない『ラッシュガード』だ。
目の保養にもならない……まぁ水着を着ていても目の保養にはならないが……
俺は奴のモテっぷりをパラソルの下でひざを抱えて眺める。
隣の同期とも会話が1つも無い。
眼鏡を通してじっとこちらを見ている同期の幼馴染が「話し掛けてきて」「話をしようよ」と無言の圧力を掛けてきているが、俺はあえてそちらを向かない。
2人でパラソルの下、静かに皆の荷物番だ。
そこに奴が大量の女性を連れて戻ってくると『ネクタイを首に締めた』立派な裸ネクタイの完成だ。
奴は一言「やはりネクタイをすると落ち着くな」と最高の笑顔を女性達に振りまく。
奴の周りから女性が消えた。
莫迦がいた。
しかも俺が大好きなタイプの莫迦が。
しかし決別の日は必ず訪れる事を俺と奴は知る事になる。
見解の相違ってやつだ。
俺は異世界無双が好きで、奴は異世界ハーレムが好きだった。
『異世界無双するからハーレムになる』と『異世界ハーレムの為に無双がある』。
第三者から見ればどうでも良い議題で、二人の意見は真っ向から対立。
朝まで平行線の議論を繰り返し、俺と奴は『永訣の朝』を迎えた。
それ以降、行く場所のどこで会おうとも目すら合わせない。
俺は胸にぽっかりと開いた穴を埋めるべく、十種競技へと邁進した。
その結果として自己新記録を更新したのだから、感謝するべきなのか?
とりあえず奴が目覚めた時は隣にいよう。
「ここが異世界だ」と言ったら奴は信じるだろうか?
そんな事を考えながら奴が眠る病室へと向かった。
いつも私の拙い妄想を読んで下さりありがとうございます。
毎日毎日のお礼の後書きに、うんざりされている方も居られるかも知れませんが、お礼を書かせて下さい。
本日確かめますと、ブックマークが2つ増えておりました。
その上過分な評価までしていただいております。
本編が始まったタイミングでのこのブックマークと評価に喜びを隠しきれません。
毎日更新を頑張る事でお礼とさせていただきたいと思います。
評価点を頂ける事、ブックマークが付く事、また感想を送って頂く事も本当に「やる気」へと変換されるのだと、書き始めて実感しております。
ありがとうございました。
評価点やブックマークなど付けなくても、一日一回アクセスをして下さる読者様。
何日かに一回でも一気読みして下さる読者様。
試し読みして下さる読者様。
全てが「やる気」へと変換されます。
始めて2ヶ月と経たない作家の卵と言えるかどうかも分からない未熟者ですが、末永くお付き合いを頂ければ幸いです。
2018/10/09 何遊亭万年




