魔力の副作用?
鬼に連れられて厨房の裏口から入り調理場の奥へ。
陽が落ちた後の、裏庭と比べると、建物の中は格段に明るかった。
特に調理場は竈の火もあるが、他の部屋よりも多くの灯りが壁に掛かっている。
灯りは皿に油を入れて、何で出来ているかは知らないが、芯に火を灯したものだ。
俺は最初、火が油に燃え移らないか心配していたが、燃え移った所を見た事は1度も無い。
昔から使われている灯りのようだし全く問題が無いようだ。
調理場はベルガーさんが料理を作り続けている。
彼にお礼を言うくらいは目の前を歩く鬼も許してくれるはずだ。
「ベルガーさん。先程は、お湯を沸かして用意してくださり、ありがとうございました」
「気にするな。仕事だ」
ベルガーさんは次の料理を作り始めている。
これ以上彼に話し掛けるのは仕事の邪魔になりそうだ。
鬼の後を大人しくついて行く以外に俺の道は無い。
彼の背中がいつもより一回り大きく見えるのは、俺の目が錯覚を起こしているのだろうか?
俺はドカチーニさんの仕事部屋と思われる部屋に招き入れられた。
早く入って来いとばかりに、ドカチーニさんが部屋の中から手招きをしている。
俺の目には【地獄の鬼に手招きされている】ようにしか映らない。
出来る事なら逃げ出したいが、逃げ出した先は、更なる地獄が待っているだけだろう。
この斡旋屋に来てから初めて入る部屋だ。
部屋に入った瞬間に感じた。
この部屋は何か変だ。
何か決定的な違和感をこの部屋から感じる。
部屋には大き目の机と椅子が一組。
羊皮紙が机の周りにまであふれて山積みとなっている。
部屋にあるのはそれだけだ。
特別珍しいモノは他に何1つとして無い。
窓として使われる木戸も無ければ、入口も俺の部屋と同じ引き戸の扉だ。
俺はこの部屋の何に違和感を感じているのだろうか?
俺の答えが出るよりも先に、ドカチーニさんは扉を閉めると、いつもよりも低い声で、俺へ質問をしてきた。
俺の疑問よりも彼へと回答する事の方が優先事項だ。
「ユークリット。俺は回りくどいのが嫌いだ。単刀直入に聞く。お前はあいつらをどうするつもりなんだ?」
2人の骸骨達から【魔力補給】を受け、俺はここが【異世界】と確信した。
異世界では力の無い子供が死ぬのは当たり前の事なのかも知れないが、平和な日本から来た俺には、ただ単純に死に掛けた2人の子供を放っておく事が出来なかったのだ。
「まだ決めていません」
「ただの気まぐれで拾ってきたのか?」
「放っておく事が出来なかった。気が付いたら肩に背負って連れ帰って来てしまいました」
「そうか。放っておけなかったのか。お前はあいつらの面倒をこれからも見るのか?」
「正直に言って迷っています。私に彼女達を養えるか自信がありません」
「そうか。お前は正直なところが良いぞ。それならば俺がお前に言うことは一つだ。お前があいつらを放り出す時は、お前の事も俺は放り出すって事だ。それだけは良く覚えておけ」
ドカチーニさんの瞳は本気だ。
俺が彼女達を追い出す時は、俺も一緒にここを追い出される事になるだろう。
むしろ2人を残して、俺だけ追い出される事にもなりかねない。
「あの2人も私の部屋に置いて良いのですか?」
「あいつらの賄い料は一ヶ月で一人二千文。部屋代込で三人合わせて一ヶ月あたり七千文だ。今月はもうすぐ満月だ。今月の賄い料は半分にして二人で二千文の追加で勘弁してやる」
「はい。分かりました」
「銭の話に間髪いれず了承した事だけは評価してやる。今すぐシーリンに払っておけ」
最後ドカチーニさんは少し嬉しそうだったのか?
彼の笑顔は人間離れしていて怖い。
笑っているのか、怒っているのか、判断を間違うとえらい目に会いそうだ。
俺は追い出されるように、どこか不思議な感じのするドカチーニさんの仕事部屋から出る。
厨房でベルガーさんの邪魔にならないように、気を付けて通り抜け、食堂へ戻るとシーリンさんはいつもの受付に居た。
骸骨2人は1番隅にある食卓でうつ伏せになって眠っている。
酒が入って騒いでいる客もいて、周りはかなり騒がしいが、2人はぐっすりおやすみだ。
俺は、無事休んでいる2人を確認すると、シーリンさんの元へ向かう。
何となく飲み客達の視線が俺を追尾してくる気がする。
俺が受付の前に立つと、シーリンさんの方から、話し掛けてきてくれた。
「二人にはベルガーに消化の良いスープを作ってもらい飲ませておきました」
「ありがとうございます。おかげさまで2人はぐっすりと眠れているようです」
「受付に来たという事は、わたしに何かして欲しい事があるのですか?」
「はい。預けた銭束から2000文を払います。彼女達2人分の賄い料という事です」
「同じ部屋に住むのですか?」
「一応そういう事になりそうですね」
ここ【ドカチーニの斡旋屋】では1日4文、1ヶ月100文で貴重品を預かってもらえる。
この世界の1ヵ月とは銀の月の新月の次の日から新月までの事で多少のずれは無視される。
普段なら1ヶ月100文の方がお得で良いのだが、俺の場合は既に新月を数日過ぎていた。
それでも荷揚げ屋の仕事をこなした初日に、俺は100文を払い1ヶ月契約で貴重品を預ける契約をしていた。
100文の束銭は全て貴重品として預けてある。
自分ではしっかりと把握はしていないが2000文くらいなら既に預けてあるはずだ。
何せ毎日少しでもシーリンさんと話す為に、その日稼いだ【銭束】を必ず預けてきたのだ。
間違いなく銭は溜まっているだろう。
今思い出しても、あの日のシーリンさんは、普段の日よりも色っぽかったと思う。
何となくだが、段々と俺に対して態度が冷たくなってきている気がする。
食堂に来る他のお客様と比べると明らかに差が出てきていると思うのは俺の気のせいだろうか?
シーリンさんは常に笑顔で対応してくれるのだが、常に笑顔なのだ。
毎日顔を合わせているが、色っぽい仕草や笑顔は、あの日を最後に見ていない。
もしかして俺は既に【釣られた魚】なのか?
もう2度と【エサ】はもらえないのか?
「分かりました。後で館長に確認を取ります」
シーリンさんの一言で現実に戻ってきた。
俺は預けた銭がどれだけ残っているのかを確認する。
「私は、あとどのくらい銭を預けているのですか?」
「二千文を払った後の残りですか?」
「2000文払った後の残りです」
「ユークリットさんの預かり銭は残り三千九百文です。金銀は八両一分です」
「いつも銭の管理をありがとうございます。2人を自室に連れて行きますね」
思ったよりも銭が残っていた。
間も無く満月。
1日500文稼ぐとして、来月分の7000文には、手が届きそうだ。
俺の『ほっ』とした顔を見たシーリンさんが何を勘違いしたのかとんでもない事を言った。
「動けない二人にいたずらなんてしたら駄目ですよ?」
「そんなは事しませんから!」
ちょっとふざけた雰囲気に本気を9割含んだ感じの笑顔でシーリンさんに忠告された。
久しぶりに見る、ちょっと雰囲気が違う、シーリンさんの笑顔だった。
俺は少し嬉しくて大きな声を出してしまった。
周りで騒いでいる客の声の方がはるかに大きい。
そのはるかに大きい声の中にはシーリンさんと仲が良さそうに話をする俺へのブーイングも入っていた。
そろそろ、シーリンさんの前から本気で退散しないと【喧嘩イベント】に突入しかねない。
イベントでは無いな。
まさに本物の酔っ払いから【喧嘩】を吹っ掛けられる事になる。
俺はシーリンさんの居る受付から離れて、途中で2人を担ぎ、自室へ向かう。
受付から離れるのに合わせて飲み客の視線も俺から外れた。
ブーイングも止まった。
酔っ払い客達は、俺を見ていたのでは無くて、シーリンさんを見ていたのだな。
それなら納得だ。
それにしても骸骨2人は本当に軽すぎだ。
2人合わせても荷揚げ屋の荷物よりはるかに軽い。
俺は足で自室の引き戸を開けると2人を自分のベットへ寝かせた。
2人共ぐっすり寝ていて何をしても起きそうにない。
生きているよな?
息しているよな?
2人の寝顔を見ていると本当に心配になる。
瞼に肉が無さすぎて白目が出ている。
骸骨達に対して失礼だが、本当に不気味な寝顔だ。
周りに花を並べたら、俺には2人が死体にしか見えないと思う。
しかし困った事もある。
骸骨2人のこの長い髪の毛をどうしよう?
体の下に敷いたままだと、ひっぱられて痛くないか?
俺はこんなに髪の毛を伸ばした事が無いから分からん。
分からないが、頭の上の方に持ってきて体の下には置かないようにしよう。
寝床の高さでは床に半分以上が広がってしまうが、こちらの方がまだマシだろう。
閃いた!
手ぬぐいを使って、彼女達の髪の毛を1つにまとめよう。
ベットから髪の毛がはみ出た所で結ぶと更に良い感じになった。
もう1人の髪の毛も同じようにてぬぐいで結ぶ。
最後に2人へと毛布を掛けて「おやすみ」と声を掛けた。
俺は2人の髪の毛の始末を終えて寝かせると、日課である、筋肉トレーニングを始めた。
既に日は沈んでおり暗い中でのトレーニングだ。
暗い部屋の中だと窓から差し込む月明りは意外と明るいものだと感じる事が出来る。
この時、ドカチーニさんの仕事部屋がどうして違和感があるのかが、分かった。
あの部屋は夜だと言うのに不自然に明るかったのだ。
窓すら1ヶ所も無いのに。
壁に灯りが掛かっていただろうか?
詳細は思い出せないが、この異世界の夜は灯りを灯していても割と暗い。
月明りの方が明るいと感じる事もあるほどだ。
あの部屋は現代日本の夜のように明るかったのだ。
まるで電灯で照らされているように。
それが俺の感じた違和感の正体だ。
今度、あの部屋に入る機会があった時は、もっと良く観察する事にしよう。
考え事をしているうちに、日課通りのトレーニングを終える。
既に何も考えなくても体が覚えているトレーニングだ。
だからこそ気が付いたとも言える。
全く筋肉に負荷が掛かっていない。
全くトレーニングをした感じがしない。
筋肉が疲れを訴え掛けない。
その後、2セット追加でトレーニングをしたが筋肉への負荷は掛からなかった。
俺は効果を全く感じないトレーニングを終えた。
これ以上はトレーニングを続けても時間の無駄だろう。
俺は自分が夕飯を食べていない事を思い出した。
骸骨2人の安らかな死に顔……じゃなかった……寝顔を見て思う。
彼女達の事を部屋に放っておく気になれない。
今夜は夕食を諦めて俺も寝ることにしよう。
月明かりを取っていた木戸を閉めようとした時にふと異世界の夜空を見上げたくなった。
夜空には3つの月が浮かんでいた。
この異世界に来て、初めてしっかりと夜空を、自分の目で見た気がする。
金色の三日月、赤色の半月、銀色の月はほぼ満月だった。
確か「銀色の月が満月の時と新月の時が休み」と聞いたよな?
それならば休みが近い。
俺は夜空に浮かぶ3つの月を眺めながら『あぁ異世界だ』と心の中で呟いた。
地球では絶対に見ることが出来ない現象を、自分の目で、また1つ確認した。
異世界へ来た高揚感と絶望感の両方を味わいつつ、いつの間にか、俺は眠りに落ちていた。
朝一番に鳴く鳥の声が聞こえてくる。
朝日が昇ってくるのはもうすぐだ。
『昨夜は遅くまで追加でトレーニングをしたけど全く意味の無いトレーニングになったな』
俺は最近の生活習慣で空が明るくなり始めると共に自然と目が覚めた。
太陽はまだ水平線の下だ。
昨夜は久し振りに夜遅くまでトレーニングをしていたが、目覚めた時間は変わらなかった。
俺は起き上がると、まずは自分が床の上で寝ている事に、驚いた。
いつもよりは体が強張っている気がする。
あの寝心地の悪いベットでも多少は役には立っていたのだと実感した。
俺の寝心地が悪いが役に立つベットの上に、現在、2人の骸骨が寝ている。
この部屋の窓と言うか木戸はベットの上にある。
朝の爽やかな空気を取り込む為にも俺は木戸を開けた。
その時に俺の上半身は2人の上をかぶさるように通る事になる。
『息しているよな?』
骸骨2人が生きている確認しつつ、起こさないよう、そっと木戸を開ける。
東の空が大分明るくなってきている。
日の出は間近だ。
『太陽が1つであることを感謝します』
本当に月が3つの異世界で良かった。
太陽が3つの異世界で、これ以上普段から暑くなると、俺は動けなくなる。
早朝の日課になっている準備運動をしながら今日の体調を感じ取る。
大丈夫だ。
今日はしっかりと筋肉に負荷を感じる事が出来る。
俺が一通りの準備運動をしている途中で、骸骨2人は目を覚ました。
寝ている状態から起き上がるのも大変と言った感じの2人。
だがきちんと起き上がり赤い瞳の骸骨が声を出した。
「おはようございます。昨夜はありがとうございました。久し振りにまともな食事と寝所をいただきました。私の名前は……ベスと申します。この娘はアン。アンは声を出すのが困難な為、私が代わって挨拶をすることをお許し下さい」
赤い瞳の骸骨が【ベス】で青い瞳の骸骨が【アン】という名前だとわかった。
この異世界の住人にしては珍しく自分の名前を名乗ったな。
それでは俺も彼女達へと名前を名乗るとしよう。
「おはようございます。私の名前はユークリットです。昨夜の事は気にしないで下さい。むしろお互い忘れましょう。私はあなたがたを男の子だと思っていたのです」
2人共、顔も身体も肌が赤く染まるのが、元が白い分だけ良く分る。
昨夜、俺が丹精込めて、こすり磨き上げた身体だ。
くすんだ肌の色は、元の白磁のような美しさを取り戻している。
俺は現代日本では「お巡りさんここです!」と呼ばれて逮捕され「違う! 俺は骨にしか触っていない!」と取調室で延々と冤罪を訴えねばならない行為を昨夜、延々と行ったからな。
完全に冤罪とは言えませんから、通報だけは勘弁して下さいね?
「3人が共に起きたところで朝食を食べに行きましょう」
話題を変える為にも、これからの事を、骸骨2人に提案する。
俺の言葉に2人は肉がついていない顔の為に余計に大きく見える瞳を更に大きくして驚く。
ベスの赤い瞳には少し怒りの色が見える気がする。
彼女の力強い真っ赤な燃えるような瞳が、俺にそう思わせているだけかも知れない。
アンは逆に綺麗な青色の瞳が暗くなり、おびえている感じに見える。
「私が自分の勝手を満たす為ですから」
骸骨2人の俺に対する警戒が強まっている気がする。
脳内に『お巡りさんここです!』と警報が鳴り響く。
いや、ここでは『衛兵さんここです!』になるのか?
どちらにしても2人の心をほぐす事から始めないとな。
「実は昨夜のうちに2人分の賄い代金をすでに半月分払っているのです。それを無駄にしない為にもどうか朝食に付き合って下さい」
「そのような事をしていただいても私達には何も返せる物がありません」
俺は『君の頭にある純金製のサークレットは何?』と思ったがあえて触れない事にした。
「今まで1人で食べていた朝食を3人でにぎやかに食べられるだけでも私は十分幸せですよ」
「そのような事で……いえ、何でもありません。ありがたく頂戴します」
どうにか一緒に朝食を取ることは了承してもらえたようだ。
ついでに2人へと俺自身の興味を満たす為の実験に協力してもらう事を提案したいと思う。
俺は昨夜のトレーニングで感じたことを確認する為、2人に協力してもらいたい。
昨夜は、追加で2セットのトレーニングをしたが、全く無駄に終わったと感じている。
『魔力を使って筋肉を使っていると筋肉に負荷が掛からず鍛えられないのでは無いか?』
その事を確かめる為の実験だ。
「実は私の実験に付き合ってもらいたい気持ちがあります。実験は短くても半年は掛かると思われます。その為にもしばらくの間、共に生活をして頂きたいのです」
「人体実験ですか?」
皮付き骸骨髪の毛おばけの真っ赤な瞳が燃え上がり金色の髪が逆立っているように見えた。
「確かに人体実験ですが、私が直接身体をどうこういじる訳ではありません。多少では済まない苦労を2人には掛けるかも知れませんが……」
「どのような実験ですか?」
「まずは2人には健康な体へとなってもらわないといけません」
「内容は教えていただけませんか?」
「今はまだ私の推測なので、あまり言いたく無いですね」
ベスが瞳を閉じて考え込む。
次に瞳を開けた時には赤い瞳に決意の感情が読み取れた。
「アンも一緒に面倒を見て頂けるのでしたら、私も覚悟を決めます。アンも良い?」
アンと呼ばれた青い瞳の骸骨がコクコクと首を縦に振る。
「ありがとう。元々2人居ないと比べる事が出来ない実験です。2人共面倒を見ますよ」
2人から少しだけ『ほっと』した感情が読み取れた……気がする。
何せ2人はほとんど肉が付いていない。
骸骨の表情は瞳にしかほとんど現れない。
その上、俺はヒトの目を見て話をするのが苦手なのだ。
「では実験をする前段階として半月間はしっかりと食事をして体力を養って下さい。朝食を食べに行きますよ。昨日のように私が担いでいくのが良いですか?」
真っ赤な瞳に怒りの炎を再び宿して皮付き骸骨が答える。
「ご心配なく。私もアンも自分の足で行きます」
ベス本人はにっこり笑って返事をしたつもりだろうが口の周りにある表情筋はほとんど動いて居らず、ただ瞳が細くなっただけだった。
骸骨の不気味さは3割増した。
ベスとアンの2人は肩を組んで廊下を移動している。
前の1人が2人分の体重を支えながら後ろの1人が1歩2歩と歩みを進めると交代して先に進んだ側が今度は2人分の体重を支えて後ろが前に2歩進む。
俺はその動きをハラハラしながら後ろから見守ったが、彼女達にはいつもの事なのだろう。
ぶかぶかの首筋から本来見えてはいけない、胸にある桜色の突起物もチラチラと見えたりするが、骸骨達には黙っておく事にしよう。
正直に言っても良い結果が得られる気が全くしない。
人間知らないでいる方が幸せな事は幾らでもあるのだ。
俺としては『あばらが浮いた洗濯板でも突起物は意外と自己主張が激しい事を新しく知り得る事が出来た』と知識が増えた事を純粋に喜ぶとしよう。
ちっ違うぞ!
俺は二次元幻女さえいれば良いからな!
三次元の幼女は俺の幻想を砕くだけの存在だからな!
骸骨達は、俺の視線に気付く事無く、手慣れた動きで交互に進みながらも、俺1人が移動する数倍の時間を掛けて食堂へとたどり着いた。
俺は普段ならまだ人が少ない時間に仕事の受付や食事をしていた。
日の出と共にドカチーニの斡旋屋の斡旋業の受付が始まる。
普段は、その時間に仕事の受付を、済ませるのだ。
この時間になると食堂は、斡旋を受けに来たヒトや食事をしに来たヒトで、混み出した。
4人掛けのテーブルが空いていたので、俺の対面に2人を座らせて、賄いの朝食を頼んだ。
厨房からベルガーさんの「あいよ」と大きな声で返事が聞こえる。
俺は賄いが届くまでの間に今日の仕事を受けたかった。
しかし俺が席を離れて、2人の席に他の誰かが相席になるのも嫌だったので、おとなしく賄いが届くのを3人揃って席で待つことにした。
しばらく待って賄いが届くと、俺の食事はいつもと同じ【焼き魚定食但しパン】だった。
だが彼女達の食事は【ミルク粥但しパン】だ。
彼女達の体調を気遣い、俺と違うメニューである事に気付き、ベルガーさんにお礼を言う。
「ベルガーさん。気を使って下さり、ありがとうございます。」
ベルガーさんは『気にするな』とばかりに背中越しに右手を上げながら、厨房へ次の料理を作りに、颯爽と戻って行った。
俺は心の中で『ありがとう港町の熊さん』と更に礼を繰り返した。
骸骨達と3人で食べる初めての朝食。
俺は最初に2人の行儀の良さへと驚いた。
あんな、今にも死にそうな浮浪児だったにもかかわらず、きちんとスプーンを使い、ミルク粥を音がたたないように注意して食べている。
腕がプルプル震えて、上手く口まで運べない事は、愛嬌だ。
2人との会話そのものは無いが、俺は久し振りに幸せな気持ちで、朝食を取る事が出来た。
俺達が使っている食卓は4人掛け。
もう1席が余っている。
相席相手を気にしていた俺だが、幸いにも相席相手はドカチーニさんだった。
ドカチーニさんは俺の隣に座ると開口一番。
「嬢ちゃんたち。こいつに捨てられたら俺に言ってこい。代わりにこいつを斡旋屋ここから放り出してやるからな。俺は中途半端に情けを掛ける奴が大嫌いなんだ」
真面目な顔で言うドカチーニさんだが、強面が余計に引き立って、まるで鬼の顔だ。
そんな強面を真っ赤な瞳の皮付き骸骨ベスも瞳を逸らさずに真っ向から受け止めていた。
青い瞳をした皮付き骸骨のアンはベスに隠れるようにドカチーニさんの強面から逃げる。
2人がどう思ったのか分からないがドカチーニさんの言葉に対して、2人は先日のお礼以上の答えは返さなかった。