番外編26:シーリンのお見合い
毎日更新時代の日曜日の作品です。
時間……足りません。
ネタ……出てきません。
更新……だけはしたいです。
という私のわがままだけで作られた番外編です。
どうか読み終わった後は忘れ去って頂けましたら幸いです。
今回の話は近い未来か遠い未来か。
いつか必ずどこかの世界線で現れる未来の話。
同じ世界でありながら、同じ世界でないかも知れない話。
シーリンさんが困った笑顔をしています。
こんにちわ『シーリン笑顔マイスター』ユークリットです。
午後の余暇、厨房の奥にある執務室でお茶を頂いている時、嵐が訪れました。
いえいえ。
本物の嵐では無いですよ。
嵐のようにしゃべりまくるおばさんです。
斡旋屋の裏口から勝手に入り込み、執務室の扉を開けっぱなしにして、シーリンさんへマシンガントークをぶっぱなしております。
食堂への入口から殺意の波を動かしている鬼がこちらを睨んでいます。
私などの小心者は震えて心の中まで敬語となっておりますが、おばさんは気付きません。
おばさんはシーリンさんに見合いを持ち込んできたようです。
これからは『お見合いおばさん』と呼ぶ事にします。
時は少しだけ戻ります。
………………
今日も早々に運ぶ荷物が無くなった俺は、裏庭で槍の訓練に明け暮れていた。
午後、シーリンさんが洗濯物を取り込みに来ると、俺も休憩を兼ねて彼女を手伝う。
手伝いの後に出てくる、お茶が目当てだ。
斡旋屋に戻ると今日もフィーナさんの診療所は快調のようで患者が列を作り並んでいる。
一つ問題があるとすれば、ほとんどが自傷してまで、マリーの治療を受けに来る筋肉ばかりと言うところだな。
洗濯物を持ったまま執務室へ。
今日もベルガーさんは地下で巨大戦闘人形をいじっているようだ。
洗濯物をたたみ終わる。
休憩にお茶をいただいているところでシーリンさんに突然命令された。
「ユークリット。隠し階段を隠しますよ。急いで!!」
言われるまま執務室の巨大な机を動かして隠し階段を隠すと裏口の扉が開く音がする。
「お邪魔するよ」
と声が聞こえるとその直後に執務室の扉が開け放たれた。
そこに現れたのが『お見合いおばさん』だ。
お見合いおばさんは執務室に入ると机の上の羊皮紙を薙ぐ。
羊皮紙は机の周りの床へと見事に散乱した。
「今日は良いヒトを厳選したからね。あんたももう良い年なんだから。最後の機会かも知れないんだよ?」
「わたしは、まだ結婚する気はありませんから」
「そんな事言っているとずっと独り身だよ? とにかく姿絵だけでも見ておくれよ」
机の上にずらりと並ぶ男性の姿絵。
現代日本で言うお見合い写真だな?
「それであんたは誰だい?」
「私は斡旋屋でお世話になっているものです」
「そうかい。シーリンの良いヒトって訳でもなさそうだね」
お見合いおばさんが俺の坊主頭を見ながら言う。
シーリンさんの笑顔に「何を言えば良いか分かってますよね?」と浮かんでいる。
この『シーリン笑顔マイスター』をなめないでいただきたい!
分かっていますよシーリンさん。
完璧な答えをこの『お見合いおばさん』に返して見せましょう。
「私がシーリンさんの良いヒトだなんて。そんな事ある訳ないじゃないですか。それが本当ならば今頃、港の海の底か、帆船の帆柱に磔にされていますよ」
「あんた。もしかしてシーリンの傍にいるために頭を丸めているのかい?」
「これは、うちの娘が伸びてくると剃ってくれるのですよ。一度この髪型にするともう、この髪型で無いと落ち着きませんね」
「あんた。漢だね。娘が居るって事は逢えない嫁にって貞操を守ってるんだね」
俺の脳裏に逢いたくても逢えない二次元嫁達が思い浮かぶ。
「ええ。逢えないからこそ、心に刻んでいます」
「そうかい。あんたも苦労しているんだね」
「わたしはお茶を入れ直してきますね」
すれ違う時に珍しくシーリンさんがよろけた。
とっさにかばうとシーリンさんを抱きしめた形になる。
良い匂いだなぁ。
「いつも支えてくれてありがとう。あ・な・た」
シーリンさんの甘い声。
先程と同じ笑顔で「何を言えば良いか分かってますよね?」と訴えてくるが、これは警告。
どうやら先程は答えを間違えたらしい。
次は答えを間違えるとデッドエンドが待っていそうな選択肢だ。
二次元嫁を愛する同士達よ!
俺に選択肢を与えてくれ!!
1:「シーリンさんがよろけるなんて珍しい。明日は嵐ですかね?」
2:「くんか。くんか。相変わらず良い匂いですね。役得、役得!」
3:「何も問題無いさ。おまえを支えるのはいつも俺の役目だろ?」
流石は二次元嫁を愛する同士達だ。
選択死しか与えてくれん。
どれを選んでも失敗すればデッドエンドが待っている。
1番が無難に見えるが、どれを選んでも選択失敗=死のイメージしか思い浮かばない。
二次元嫁を愛する同士達に答えを求めたのが間違いだった。
こんな三次元ラッキーに手を貸すか?
俺なら貸さないね。
絶対にだ。
やはり自分が選ぶ道は自分で切り開くべきだとベスとアンの時に学んだではないか!!
「私などが御身に触れてしまい申し訳ありません!!」
土下座。
一歩左足から下がりつつ、ひざを付き、両膝を揃えて正座をする。
その後、両手を静かにひざの前に下ろしつつ背筋を伸ばしながら上半身を自然に前へ倒しながら平伏する。
作法など習ってはいないが、何かのアニメでやっていた茶道の真似事だ。
これを俺に思い出させた事だけは【二次元嫁を愛する同士達】へ感謝をしよう。
同時に同士達から与えられた選択死は回避したはずだ。
「きゃっ。急に居なくなるから転んでしまいました。大丈夫ですかユークリットさん?」
隙だらけの首に対しての見事なエルボードロップ。
軽量級とは言え完全に体重が乗った攻撃です。
どうやら半殺しで済んだようです。
けどシーリンさん。
俺が首も鍛えているから何とかなりましたが下手をするとヒト殺しですよ?
何はともあれデッドエンドは回避されたようです。
「まぁ。二人とも大丈夫?」
「ええ。少しよろけてしまいました」
シーリンさんが立ち上がり、俺が顔を上げると食堂の入口からこちらを覗く鬼を見ました。
ドカチーニさんが殺意の波を動かしながらこちらを睨んでいます。
「それで誰にするの? 今日は逃がさないわよ」
「こんなおばさん。誰も相手にしませんよ」
「そういえば、シーリンさんって俺より年上……」
正座したままだった俺の腹にシーリンさんの踵が突き刺さります。
後ろも見ずに正確な攻撃は相変わらず見事ですね。
ですが私の腹筋はその程度の攻撃ではびくともしませんよ。
「大丈夫よ。相手には二十歳って言ってあるわ。シーリンなら二十歳で通じるわよ」
「そんな。それは相手に対して失礼ですよ」
「私の国では25歳が『お肌のお肌の曲がり角ぉ』と言う替え歌があるくらい……」
再び同じ場所へと正確な踵攻撃です。
確実に腹筋の装甲を削ってきています。
ドカチーニさんの殺意の波が激しく動いています。
直接くれば良いではありませんか?
このままでは殺意で殺されそうなので理由を聞いてすっきりしてきましょう。
そう決めて、立ち上がりました。
「私は少し失礼しますね」
「どこに行く気ですか?」
「少し、ドカチーニさんのところへと」
「そうですか。よろしくお願いします」
これは『シーリン笑顔マイスター』的に言うとホッとした笑顔ですね。
ドカチーニさんに相談しに行くのは間違いではないようです。
私が部屋を出た瞬間からお見合いおばさんの本格的な攻勢が始まりました。
一人一人の詳細な説明をシーリンさんにしているようです。
殺意の波は執務室へと動いているようです。
私に向かっていない事に、一安心してとりあえずドカチーニさんに尋ねる事にします。
「そんなに気になるなら自分で行ったらどうですか?」
「ユークリット。お前は観察力が足りない。良く見ろ。姿絵の束が半分広げていないだろ?」
「ええ。シーリンさんも大変ですね。おかわりが待っているとは」
「莫迦たれ。あれは俺の分だ。あのおばさんは昔から苦手なんだよ」
何ですと!
有力な情報をゲットです。
ドカチーニさん相手にお見合いおばさんを上手に使えば………
「そうだ。ユークリット。お前に選択死をやろう。俺と真剣に戦うか、シーリンと真剣に戦うか、ベルガーと真剣に戦うか。おまけだ、フィーナでも良いぞ。お互い生死問わずでな?」
あぁ本当に選択死DEATHね。
ベルガーさんなら許してくれそうですが、許してくれない時は生き残る道が見えません。
フィーナさん?
許されなかったら死ぬより悲惨な運命をたどりそうではないですか。
シーリンさん?
許してくれる道が見つかりません。
あぁ一番楽に逝けそうなのはドカチーニさんですね。
確実に一撃で逝かしてくれるでしょう。
「何か、私が生き残れる選択肢は無いのですか?」
ドカチーニさんの口角がぐにゃりと上がる。
笑顔のつもりかも知れませんが恐怖しか感じませんよ?
「何。事は簡単だ。あのおばさんに『俺が坊主なのはシーリンの為だ』とだけ言えば良い」
「そんな簡単な事で良いのですか?」
「ああ。それだけでお前の選択死は回避される」
「分かりました。そのように言ってきます」
次から次へと絵姿の人物をシーリンさんへ紹介するお見合いおばさん。
完全に困り果てた笑顔を見せるシーリンさん。
私はドカチーニさんの言われた通りに実行しました。
シーリンさんがいつもの笑顔でその言葉に同調してくれました。
ドカチーニさんが俺に指示した選択肢は間違いなかったのだ。
さすがドカチーニさん。
自信が回復して心の中の敬語もおさまった。
「まぁ。そうだったの。それは失礼したわね。恥ずかしがらずに最初から言ってくれたら良かったのに。二人共お似合いよ。二人きりの所をお邪魔したわね。それじゃ失礼するわ」
絵姿を回収して少しがっかりした顔で去っていく『お見合いおばさん』。
ドカチーニさんは食堂に引っ込んでいた。
本当に顔を合わせたく無いようだ。
その後、地下施設の階段を開けて、お茶をシーリンさんと平和にいただいた。
この話題を振ろうとする度に警告の笑顔を向けられたが。
数日後、湾岸施設の筋肉有志連合による1人の男への私刑が行われた。
俺は知らなかったんだ。
坊主頭にそんな意味があるなんて。
港に停泊する一番大きな船の帆柱へ磔にされて、自分の無知を呪っていた。
海の底で無くて良かった。
そこだけはホッとしていた。




