番外編20:精霊の話
今回の話は近い未来か遠い未来か。
いつか必ずここの世界線で現れる未来の話。
本編でやるかも知れなかったベルガーの内緒話。
まだ辺りが薄暗い夜と朝の狭間の時間。
マリーはシーリンの洗濯が終わるのを待つ間、おれの仕事を手伝ってくれる。
彼女はいつもおれの背中を背もたれにして、おれが勝手に離れると怒る。
少しだけ仕事がやりにくい。
本来彼女はおしゃべりで色々な話をしてくる。
基本一方通行でおれは聞き役。
そんな彼女が今朝は珍しくおれに質問をしてきた。
「ねえ。ベルガー。この街にも精霊が沢山いるって本当なの?」
「見えるのか?」
「残念だけど私には見えないわ。だから聞いてるんじゃない!」
「そうか」
精霊の話は難しい問題。
下手に見えると知れたら、どこかの権力者に連れていかれる。
マリーはフィーナのメイド長だから大丈夫と思う。
精霊が見える事を公言するのは良くない事が多い。
「いると思うか?」
「いるとは思うわ。見えるって言うヒトがいるんだから」
「そうか」
「それに金色の月の天使様の眷属なのでしょ?」
神殿は金色の月の魔族……と言うと色々な所から怒りを買う。
天使達は『神の使い』と自らを名乗るし、神殿もそれを認めている。
ヒト族が天使族と戦っても勝ち目は薄い。
ヒト族よりも完全に上位の存在。
精霊はその天使の眷属。
天使はヒトに姿を見せる時もある。
天使の姿を常に見えるヒトもいる。
それは精霊も同じ事。
精霊の姿を常に見えるヒトもいる。
ただし精霊は自分からヒトに姿を見せる事はない。
「私は見えないけど精霊はいると思う。だって精霊の力を感じるもの」
「どんな時?」
「お花に水を上げる時は精霊にお願いすると花が元気に育つの」
「そうか」
「洗濯物だって『しっかり乾きますように』って精霊にお願いすると乾きが良いわ」
「そうか」
「私は何もしてくれない神様なんかよりも精霊の方が好きよ」
「フィーナは回復魔法を使ってるぞ?」
「フィーナ様の魔法は神様とは関係ないわ。フィーナ様神殿大嫌いだし」
「そうか」
「この事は秘密だからね。他のヒトに知られたら大嫌いな神殿に連れていかれちゃうわ」
「安心しろ。誰にも言わない」
「ちょっと良い事が起きたら、精霊が私に力を貸してくれたと思っていつも感謝するの」
「そうか」
ドカチーニの斡旋屋にいる精霊達が集まっている。
皆機嫌が良い。
皆マリーが好きでマリーも精霊が好き。
マリーは見えてないけど精霊にいつも感謝しているから彼らにも好かれる。
「精霊を見たいか?」
「勿論。私も見たいわ。けど見えなくても良いわ。フィーナ様と一緒に居たいもの」
「そうか」
「この先、精霊が見えてもヒトには言わない方が良い」
「そうね。精霊が見えるようになったらベルガーにだけは報告するわ」
「そうか。楽しみにしてる」
「フィーナ様にも内緒よ。ベルガーにだけなんだからね!」
これだけ精霊に好かれているマリー。
いつかは精霊が見えるようになる。
その時は、おれも精霊が見える事を、彼女に告げる。
マリーが言う通り、精霊が見える事は、他人に言わない方が良い。
シーリンが洗濯を終えて厨房に入ってくる。
「それでは、洗濯に行ってきます。失礼します。ベルガーさん」
「おう。手伝いありがとう」
彼女は自分の仕事に戻った。
精霊達が彼女の後を楽し気に追う。
俺も自分の仕事を続けよう。
彼女に精霊を見える日が来る。
おれと彼女と精霊達とで遊ぶ。
おれはシーリンと朝食の下ごしらえを続けながら、そんな未来を待ち遠しく思う。




