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 番外編19:魔神イグシア

 毎日更新時代の番外編で日曜日を迎えた作品です。

 どうか読み終わった後は忘れ去って頂けましたら幸いです。


 幾多の困難を乗り越え、あれから4年の歳月が流れた。

 俺はついに魔神の城の玉座へとたどり着いた。

 そこに居るのは、俺の良く知る人物。

 俺の師匠とも言える大切な人物。

 4年前、彼は人間族である事をやめ、魔神イグシアとなった。


「よくぞ。ここまでたどり着いた。逢いたかったぞ。神殺しの鬼ユークリットよ!」

「ドカチーニさん。まだ間に合います。私と一緒にシーミズの港町に戻りましょう!」

「ぶぁっはっはっ! ドカチーニなどと言う名は捨てた。お前がシーリンを奪った時にな!」


 そうだ。

 俺には魔神イグシアを倒しドカチーニさんを連れ戻す理由がある。

 シーリン姫と娘のベスとアンの平穏を護るために。



…………………



 4年前、シーリン姫との婚礼の儀でドカチーニさんは魔神と化した。



 湾岸施設の皆から祝福されヴァージンロードを通ってドカチーニさんがシーリン姫を俺のもとへとエスコートしてくる。

 俺とシーリン姫の2人が揃い、神への誓いを果たしていよいよ、誓いのキスをしようとした時、それは起こった。


 ドカチーニさんの様相が変わる。

 額からは2本の鋭い角が生え、胸の中央には永遠に魔力を生成する魔力炉が緑色に輝く。

 完全武装したドカチーニさんの鎧は体と完全に一体化した。

 背中からは常に魔力を放出する円錐状の魔力放出機関が出現して稼働を始める。

 機関からは緑色の粒子が常に可視化されるほど巨大な魔力が放出されている。

 右腕には連射式のクロスボウが内蔵された特殊な小型の盾に折りたたまれた大剣。

 左腕は革製のマントが風の無い建物内で激しくはためいている。

 

 誰かが「魔神だ!!」と叫んだ。

 会場が完全にパニックになる。


「ベルガーさん。みんなの避難を支援して下さい。私はドカチーニさんを抑えます」

「ドカチーニ? 違うな。俺の名は魔神『イグシア』だ!」


 ドカチーニさんが右腕の大剣を展開させて斬りかかってくる。

 俺は覚悟を決めて何も無い空間に左腕を伸ばした。


「来い! ルイン!!」


 空間がゆがんで禍々(まがまが)しい槍が現れる。

 柄が燃え上がる、使用者本人も傷つける魔槍だ。

 だがこの槍を使う以外に今のドカチーニさんを止められる武器を俺は持っていない。



 ドカチーニさんの大剣による渾身の縦振り。

 これだけで通常の魔族も魔物も一撃で倒す事が可能だろう。

 だが俺も現在は世界最強の槍使いとなっている。

 俺はそんな恐ろしい攻撃を入り身でかわし、槍を短く持ち替え隙だらけの右ひざを突いた。

 ドカチーニさんの体と一体化した右ひざの装甲が砕ける。

 これで止まってくれればと思ったが、すぐに斬り上げる攻撃がきた。

 それを身を低くしてかわし、隙が出来た左側の前草摺を砕く。


「ほう。見事な体術だ。ユークリット。だが俺を倒さぬ限りシーリンを渡す事は出来ん」

「止めて下さい。ドカチーニさん。昔ならともかく今では私には敵いませんよ」

「ほう。口だけは達者になったな。後は刃で語るのみだ!!」


 俺の両腕もだいぶ槍の炎に喰われた。

 もう戦える時間はわずかだろう。


「ルイン! 俺の両腕をくれてやるからもっとよこせ。こんなものかよ、お前の力は!!」


 魔槍ルインの輝きが増し、俺の両腕も激しく燃え上がる。

 最後の一撃をドカチーニさんに向かって放った。

 狙いは顔面……だが本命はそれをガードするであろう大剣だ。


 狙い通りに大剣の腹で突きを防ぐドカチーニさん。

 魔槍ルインは、俺の腕を喰っただけの仕事を果たす。

 ドカチーニさんの大剣は刃の途中で砕けて折れる。

 ただ俺も全力攻撃だった為にその後の手加減が出来なかった。

 ドカチーニさんの右角を折り、右顔面を完全にえぐった。


「ここまでか。しばらくシーリンは預けるだけの力量は見せてもらった。完全に自分の嫁にしたいのであれば魔神の城の玉座まで来い。そこで待つ!」


 魔神となったドカチーニさんは転移の魔法と思われるもので空間を歪ませて消えた。

 俺の両腕も完全に燃え尽きて魔槍ルインが床へと転がった。

 戦いが終わり、気が抜けた俺はそのまま意識を失った。



………………



 次に俺が目を覚ました時は、3年後だった。

 シーリン姫との間に出来た子供のベスとアンは14歳になっていた。

 『相変わらず痩せすぎだ。2人共10歳くらいにしか見えないぞ。』

 無事なベスとアンを見てホッと安堵する。


「先生。お父さん起きたよ!」


 ベスがフィーナさんを呼んでくる。

 フィーナさんは泣きながら俺に謝った。


「ごめんね。ユークリットごめんね。あのヒトを止めるにはヒトのままでは無理なの。あなたの両腕はベルガーの造った機械の腕を付けさせてもらったわ。魔槍ルインを使うにはこうするしか無かったの。ごめんね。何でも言う事聞くから許してね」


 俺の両腕は機械になっていて、両肩には魔力を生み出す円錐状の炉が付けられていた。

 ドカチーニさんと同じように魔力が緑色の粒子として可視化されるほど溢れ続けている。

 肩とは別に独立して稼働する事が便利と言えば便利だ。


「フィーナさん。ではドカチーニさんと私が無事帰ってくる事を信じて下さい」

「それで良いの?」

「勿論です。ベス、アン。悪いがドカチーニさんを連れ帰る為に冒険に出る。許してくれ」

「私とアンとの指切りを忘れては駄目ですよ?」



  トラウマ回想(コピー&ペースト) 

 首をかしげながらベスが俺に聞いてくる。

「つまり、もし死んだら針を千本、口の中に刺してお仕置きした後、小指を切断して形見として大事に持っていろって事ですね? 分かりました。アンと二人で必ずやりとげます」

 ベスさんベスさん。

 それを実行している場面を想像すると絵面がひどい事になっていますよ?

 アンも首を縦にブンブン振らない。

 うちの子にヤンデレ属性やメンヘラ属性は要りませんからね?

 健やかに成長して下さい。

「嘘ついたら、本当に実行しますよ?」

 目を細めて笑うのやめようね?

 『不気味さが3割増しだ』と何度も言っているよね?

 実際に口に出した事は無いけど。

  トラウマ回想終わり



「勿論だ。絶対そんな事にはならないぞ!」


 俺はドカチー二さんと同じく名を捨て、ヒトを捨て鬼の仮面を被り覚悟を決める。

 こうして俺はみんなに見送られて俺はドカチーニさんを取り戻す旅に出た。


 魔神の城へたどり着く道すがら困っているヒト達を助けて行くうちに『明王・武士不動』と呼ばれるようになった。

 神殿は『仏』を認めていない。

 鬼を模する俺を神の使徒としてではなく、密かに『仏の使い』とみてくれたのかもな。

 魔神の城に1年掛けてたどり着き、物語は冒頭へかえる。



…………………



「よくぞ。ここまでたどり着いた。逢いたかったぞ。神殺しの鬼ユークリットよ!」

「ドカチーニさん。まだ間に合います。私と一緒にシーミズの港町に戻りましょう!」

「ぶぁっはっはっ! ドカチーニなどと言う名は捨てた。お前がシーリンを奪った時にな!」

「私も人間をやめました。全てはあなたと共にみんなの元へ戻る為に!」


 ドカチーニさんの姿は4年前のままだった。

 右角は折れ、右側の顔は骨が直接出ている。

 眼窩がんかには不気味に赤く輝く謎の光。

 魔力が溢れ緑色に光る左目との違いが不気味さを強調する。 

 4年前と変わらず胸の中央には永遠に魔力を生成する魔力炉が緑色に輝く。

 完全武装したドカチーニさんの鎧は4年前に俺が壊した左前草摺と右ひざの装甲が治る事無く剥がれたままだ。

 背中には常に魔力を放出する円錐状の魔力放出機関。

 緑色の粒子が常に可視化されるほどの巨大な魔力量を4年前と同じく放出している。

 右腕には連射式の弩が内蔵された特殊な小型の盾に折りたたまれた大剣。

 4年前と大きく違うのは大剣が途中で折れて半分ほどの長さになっている事だ。

 左腕は革製のマントが風の無い建物内で4年前と同じく激しくはためいている。



 朝一番の鳥の鳴き声が俺の耳に届く。


「時間がありません。そろそろ始めましょうか?」

「そうだな。やはり俺とおまえは運命の赤い糸で結ばれていたようだ!」

「そうですね! 戦う運命にあった!!」


 ドカチーニさんの背中の円錐状の機関が展開して緑色の粒子が増大する。

 俺も両肩の円錐状の機関を展開して後方へと移動、粒子の放出を推進力へと換える。


 勝負は一瞬だった。

 二人が同時に突進しあった。

 俺の腹には、普通では有り得ないほど太い大剣が背中まで突き抜けている。

 魔槍ルインもドカチーニさんの胸の中央にある魔力炉を完全に貫いていた。

 完全に相打ちだった。

 ごめん。ベス。ごめん。アン。ごめんなさい。フィーナさん。シーリン姫。ベルガーさん。

 せめて魂だけは2人で皆の元に戻るから。

 意識が無くなるまでの刹那、ドカチーニさんと見つめ合いながら無言で語り合った。



…………………



「おお、ユークリット、ドカチーニよ。死んでしまうとは情けない……」


 あれ?

 フィーナさん??

 死んだヒトは生き返らせる事が出来ないのでは?

 周りを見渡せばベスもアンもベルガーさんもシーリン姫もみんな居る。

 となりには魔神の姿では無くなったドカチーニさんも静かに寝ている。


 ベスとアンが何か細い金属を研ぎながら数を数えている。


「九百九十七……九百九十八……九百九十九……千本! 針は用意出来ましたよ?」

「待て。ベス! 俺の両手は既に機械だ。小指は無いぞ!?」


 首をかしげながらベスが俺に聞いてくる。


「足にも小指はありますよね? それを形見に大事に持っていますから」


 アンもぶんぶん縦に首を振りながら両手の指に針を挟めるだけ挟んで持っている。

 シーリン姫も足の小指を切断する為だろうか紐できつく縛り上げてくる。


「まずは口の中に針を刺しますね! 結構ありますが千本刺すのを頑張りますね?」

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・

「待ってくれ!! ベス。アン。止めてくれ!!!」



 自分の寝言で起きた。

 俺の悲鳴のような寝言を聞いてベットの上の二人が起き出した。


「夢を見ただけだよ。ちょっとだけ怖いな」

「私とアンが夢で何かしたの? けど夢に出れたのは嬉しいかな?」


 良かった。

 現実のベスとアンは、やはり俺の天使だ。

 本当に夢で良かった………

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