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 番外編15:ベルガーの一日

 これは斡旋屋の地下にある秘密の部屋。

 引き籠りの斡旋屋警備員兼料理人。

 港町の熊さんベルガーの話。 




 おれの朝はシーリンが自室の扉を開ける音から始まる。

 太陽はまだ水平線の下にある夜と朝との狭間はざま

 彼女は周りに気を使い、静かに扉を開け閉めしているが、おれの耳はごまかせない。

 人間族よりは鋭敏な感覚を持つ熊族のおれは音にも敏感。


 シーリンは裏庭に洗濯に行く。

 おれは今日の食事の下ごしらえへと厨房へと向かう。

 部屋を出るとわずかにだが大きく息を吸ったり吐いたりと息遣いが聞こえてくる。

 どうやらユークリットも起きて毎朝行う運動をしている。

 フィーナの部屋からもマリーが動く気配が伝わってくる。

 ドカチーニはこの時間まだ寝ている。



 裏庭の井戸は木戸を開ける事で建物の中からも水を汲めるように出来ている。

 厨房に向かう途中、この木戸を開けて井戸にいる、水の精霊に挨拶。

 厨房に付いたら、かまどにいる、火の精霊に挨拶。


 この斡旋屋で精霊が見えるのはおれだけ。

 シーリンとフィーナは精霊の魔力を感知しているが見えてはいない。

 精霊は金色の月に属する種族だがシーミズの港町にも多く存在する。

 はかない存在なのか、見えるヒトがかなり少ないだけだ。



 その後は朝食の下準備。

 マリーが斡旋屋に来てからは楽になった。

 彼女は自分の手が空いていれば必ず手伝いに来てくれる。

 彼女はおれの背中に寄りかかりながら仕事をするのが好き。


 日の出前に洗濯を終えたシーリンが下準備の手伝いに来る。

 シーリンが来ると、交代するようにマリーが洗濯と花への水をまきに、裏庭へと向かう。



 日が昇ると斡旋屋の営業開始。

 シーリンは受付に行き、本日の斡旋業を開始。

 おれはせっせと朝の食事を作る。

 一刻(約2時間)ほど、働き続けると客がぱたりと居なくなる。

 客はみんな今日の仕事へと向かう。



 客が居なくなると、朝食に使った皿洗いと食堂の掃除をシーリンと分担して行う。

 基本的におれが食堂掃除でシーリンが皿洗いの時が多い。

 先に終わった側が残った方の手伝いに入る。



 朝食の後始末が終われば昼食の下準備。

 再び手が空いているとマリーが手伝いに来てくれる。

 彼女はおれの毛並みが好きなようで彼女から離れると怒られる。

 おれは話が下手だからマリーの話を聞くだけ。

 本当は意外とおしゃべりなのに斡旋屋の他のヒトとはしゃべらない。


 一度「他のヒトとなぜしゃべらないのか」と聞いた事がある。

 彼女は「だって、みんな野蛮人ばかりだもの」と返事。

 この言葉ドカチーニやユークリットはともかくシーリンに聞かせる訳にはいかない。


 マリーはおれと話す時だけ年齢通りの話し方。

 普段は周りへ気を使って丁寧に話している。


 マリーが厨房によく来るようになって変わった事がもう一つ。

 厨房のすぐ近くに居る、火の精霊と水の精霊ばかりでなく、風の精霊や土の精霊まで彼女の様子を見に来るようになった。

 彼女に精霊を見る力は無いようで、精霊達に気付いている感じは無い。

 だが精霊に好かれるという事は本当に裏表の無い良い子なのだ。

 ちなみにベスとアンは精霊に嫌われているというより恐れられている。



 昼食の時も朝食の時と変わらない。

 ひたすら料理を作るだけだ。

 火の精霊には本当に感謝している。

 彼の協力があるからこそ、おれはこの短時間で料理を客に出せる。



 昼の後片付けが終われば休憩時間。

 この時間がおれの趣味を進める時間。

 ドカチーニの執務室にある地下空間へと向かう。

 地下空間で土の精霊に挨拶。



 ここでやることは赤色の月の満月の夜に戦う【巨大戦闘人形】の製作。

 こいつは一流冒険者か上級衛士くらいしか持っていない。

 まともに動くのが赤色の月の満月の夜しかないので普段は格納庫が必要になる上、戦闘で壊れた部分が勝手に直る事はない。

 つまり維持費がとても掛かる。

 一般冒険者や下級衛士では手が出ない品物。

 だから巨大戦闘人形を所持して戦う事はほまれ

 地下迷宮へと潜る冒険者には他にも素晴らしいうま味があるが長くなるので省略。


 おれはこいつの部品を満月の夜に街の外、異原いはらへ出た時、少しずつ集めている。

 大きな部品はなかなか見つからないが、小さい部品はそこら辺にいくらでも転がっている。

 他人に見られると面倒なので、この地下で造り始めた。

 ある程度組み立ててから気付いたが、こいつを地上に出す通路が無い。

 どうするかは完成してから考える。


 巨大戦闘人形の全高は完成すれば約三間(約5.4メートル)。

 人形の骨格部分はかなり出来てきた。

 壊れやすくて、繊細な、買うと値段が高い手の部分は無い。

 異原にばらばらの部品は転がっている。

 自分で組み立てているが手は複雑。

 未だ完成には遠い。


 需要が多い装甲部分もまだ手に入らない。

 高価な部品で唯一手に入れたのは運転席。

 異原で偶然見つけた時の喜びは忘れない。

 だが人形の背部に付く運転席に、おれの巨体は入らない。


 胸部に収まる【自動機械人形】が無ければ【巨大戦闘人形】は動かない。

 これが凄く高価で手に入らない。

 【自動機械人形】は単体でも冒険者に人気が高いのと、もともと希少なので値段が高騰。


 足りないものだらけでいつ動くか分からないが、いつかはこれを動かすのがおれの夢。

 試行錯誤の毎日で正解かもわからないが噛み合う部品をつなげる。

 こいつを一刻ほどいじると休憩時間が終わる。



 厨房に戻って夕食の下準備。

 この時も洗濯物の取り込みと花への水やりを終えたマリーが現れる。

 彼女の話を聞きながらの下準備は楽しい。

 彼女が背中に寄りかかってくるのだけは少しだけ動きにくくて面倒。

 一度「食事を作ってみるか?」と聞いた。

 瞳を輝かせて喜んだように見えたが「食事時はフィーナ様のそばに居ないといけません」と言われて断られた。

 本当は料理がしたいのだろう。



 夕食時間がひたすら料理をする一番長い時間。

 酔っ払いのさかなを作る事も含めると朝と昼の時間を足したより長い。

 だが朝と昼ほど時間に追われる事が無い事が救い。

 急いで作る必要は無い。



 夕食の片付けをシーリンと共にやり終えると一日の最後の仕事に入る。

 氷室がある倉庫から厨房にある冷蔵庫に入れる氷と食材を取ってくる。

 夜遅く誰も外を出歩いていない時間に初めておれは斡旋屋の建物から外に出る。



 遠回りになるが裏庭を通らずに氷室がある蔵へと向かう。

 おれは夜目が利く。

 斡旋屋の外壁に破損部分が無いかを調べながら氷室に向かうのもおれの仕事。

 この時に斡旋屋の周りを自由に動き回る風の精霊に挨拶。

 彼女は船を動かす時に喜んで協力してくれる時もある。

 彼女はきまぐれ。 

 彼女が手伝ってくれる時は船旅も非常に楽。



 明日の準備を整えたところでおれの一日が終わる。



 金色の月の満月の夜にたまたま精霊と仲良くなって、彼らはおれに協力してくれている。

 彼らはおれが気に入らなくなれば、いつの間にか居なくなる。

 ささやかだが毎日の挨拶だけは忘れずにするのもおれの仕事……いや役目。

 みんなは知らないがおれから見れば、彼らは立派にドカチーニの斡旋屋の従業員。

 それに精霊達はマリーを気に入ったようだ。

 まだしばらくは斡旋屋にいると思う。



 館長のドカチーニは何をしているのかって?

 彼の仕事は用心棒と物資の補給。

 特に物資の補給は街を自由に歩き回れないおれには出来ない仕事。

 それに食材の目利きも良い。

 ユークリットは正式に斡旋屋の従業員ではない。

 あいつは港の港湾施設で荷揚げ屋の仕事を普段はしている。




 今日は最後までおれのつまらない一日に付き合ってくれてありがとう。

 今度はシーリンの一日でも追うと良い。

 おれの一日よりきっと面白い。

 その時の対価は自分の命。

 彼女に気付かれたら死を覚悟。

 

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