表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/214

 番外編14:魔力売りの少女

 今、わたしの前に夢にまで見た光景が広がっている。

 最後にこんな大人数で食事を取ったのはいつの事だろう?

 一つのお鍋のスープを分け合ってみんなで食べたのはいつの事だろう?

 少なくともわたしの両親が亡くなってからは、初めての事だと思う。

 みんなが笑顔になっているわ。


 そんな笑顔を作ってくれたのは『つんつるてんのお兄ちゃん』。

 彼が港湾施設で荷物を運んでくれた時に本名を聞いた気がするけど、もう忘れちゃった。

 わたし達は、あまり本名で名前を呼びあう事が無いの。

 だいたい見た目の特徴であだ名を付ける事が多いわ。


 わたしもつんつるてんのお兄ちゃんと話をしたいのに、金髪双子が両隣を占拠して、特に女の子が近づくのを警戒しているわ。

 彼女達は『あがり』を迎えたのね。

 『あがり』は、今の生活を終える事、つまり自分の魔力を売るのをやめられる事を言うの。


 代表的な『あがり』はこんな感じよ。

・成人を無事迎えて何らかの仕事へ正式につく事。

・つんつるてんのお兄ちゃんのように誰か良いヒトに拾われる事。

・最後に死んじゃう事。


 『あがり』の最悪は良いヒトに拾われたと思ったら、実は悪いヒトで今よりもっと悲惨な状況になってしまう事だと思うの。

 金髪双子はどうやら当たりのヒトを引いたようね。

 ほとんどは悲惨な結末になるばかりで、わたし達は誰かに拾われたりは滅多にしないわ。

 二人は死に掛けていたし、最後の賭けに出て勝ったのかもね。



 わたし達は協力しあいながらも基本的には競争社会。

 供給できる魔力が大きいヒトから売れていくの。


 わたしのように獣人の血が混じっているヒトの方が、例外はあるみたいだけど純粋な人間族よりも魔力が小さいと言われているわ。

 その代わりに人間族には無い能力を持っていたりもするんだけどね。

 だけど貴族に人間族が多いのは皇族の言う『魔力が大きい者は貴い』にあるらしいわ。


 だから金髪双子のように供給できる魔力が小さいと周りにばれていなければ、人間族の子から売れていく事が多いの。

 彼女たちは二人でたすき三本にしてさえ売れなかったのだから、かなり悲惨ね。

 今日はわたしも売れ残っていたので、おいしい思いを出来たのだけどね。



………………



 普段のわたし達の行動はこんな感じよ。


 昼過ぎに魔力が売れたらその場で少し寝て自分の魔力を回復してから、残飯を求めて食堂の残飯箱をあさりに行くの。

 この時に明日起きた時の分まで食べ物を確保するわ。

 早く売れれば売れる程、良いものが手に入るわ。

 最後まで売れ残って港に居たら、全く手に入らない時もあるわ。

 その時はひもじい思いをしながら夜を過ごす事になるの。


 夜に残飯箱をあさりに行かない理由は二つあるの。

 夏の間は昼まで日陰になる寝床を確保したい事が一つ。

 もう一つが、酔っぱらった大人がわたし達子供にとっては危険だからよ。


 数年前に出たお触れのおかげで、暗がりに連れていかれて無理矢理襲われる事も無くなったそうだけど(わたしが魔力売りを始めた時にはもうお触れが出ていた)、女の子の中には「簡単に銭を稼げなくなった」と言うヒトも居るし、どちらが良かったのかはわたしには分からない事ね。


 それでも、酔っぱらった大人は危険で、暴力を振るわれて怪我をする子供が多いの。

 昼間は良いヒトでもお酒が入ると悪いヒトになる大人は沢山いるわ。

 つんつるてんのお兄ちゃんはお酒を飲まないと言うのだから本当に良いヒトね。



 一日の食事を確保したら寝床に日が差すまで寝ている事が多いのよ。

 少しでも無駄に動いて魔力を使わないようにしているの。


 たまにたすきの回収するヒトが来て、たすき三本を四文銭六枚に換えていくわ。

 六文は回収するヒトの手間賃になっているらしいの。

 回収するヒトはだいたい満月の夜に手足を失った大人が多いわ。

 わたし達の街を体を張って護ってくれた勇者達ね。


 わたし達がたすき三本に六文も払うのは、そのヒトへの感謝では無く、単純に未成年は公式には港湾施設で働けない事になっているので、たすきの交換所で銭に換えられないから。


 昼を過ぎて寝床に日が差してくると魔力を売りに倉庫への通路に移動するの。



 こういう毎日が延々と延々と続くの。



………………



 今日は普段の毎日と全然違う始まりだったわ。

 この時はまだ『つんつるてんのお兄ちゃん』と呼ばれていなかったけど、倉庫のお兄さんたちが『筋肉兄貴』と呼んでいるのを知ってたわ。

 その『筋肉兄貴』がわたしに言うのよ。


「命の危険がある魔力補給をしていただきたい。報酬は出張代を含めて銭束1本です。」


 わたし達にとって銭束一本は正直言って大金なの。

 それでも「命の危険」と言う言葉が引っ掛かったわ。

 わたしは最初断ったの。

 「美味しい話には気を付けろ」って先輩魔力売りに教わってたしね。

 断られても断られても、彼は全員に声を掛けて回ったわ。


 そんな中、彼の言葉に応じる子供が出たの。

 彼は喜んでわたし達のような子供に礼を述べて、銭束を先払いしたのよ。

 それを見た子供達が彼の元へと集まり始めたわ。

 彼は子供一人一人にお礼を述べて、銭束を先払いしたのよ。


 わたしは自分の目を疑ったわ。

 わたし達子供を相手に銭束を先払いする莫迦ばかな大人が居るとは思わなかったのよ。

 ほとんどの大人は甘い言葉で子供を誘って、良いように使って約束の銭は払わないのよ。

 他の大人と全く違う彼をわたしも少しだけ信じてみる事にして、参加したの。



 連れていかれた先は病院のようで、左側の手足を失った女のヒトが治療師のおばあさんに無理やり右足をひねられて声なき声を上げて気を失ったところを見せられたの。

 おばあさんは「丁度良いわ」と言って何事でもないように女のヒトの足を切り裂いたのよ。

 切り裂いた足に手を突っ込んで何かをした後、回復魔法を掛けたみたいだけどね。

 その時わたしは初めて回復魔法を見たわ。

 どんどん女のヒトの足の傷がふさがっていくの。

 この魔法があの時にあったのなら、わたしの両親は死なずに済んだかもしれなかったな。


 返り血を浴びて怖いと思ったおばあさんが、わたし達に陽気な顔をして聞くのよ。

「さあ、子供達。魔力を分けて頂戴。命の危険があるのは脅しじゃないわよ?」

 正直言って、おとぎ話の魔女ってこんな顔をしているのかなって思ったわ。

 魔女には、いつもの魔力補給の時と違い、本当に全てを奪われる感じで魔力を奪われたわ。



 魔女に体中の魔力を奪われて完全に動けなくなったわたし達をつんつるてんのお兄ちゃんが一人一人お姫様抱っこして食堂まで運んでくれたの。

 両親以外にお姫様抱っこをされたのは初めてよ。

 わたしをとても大事に運んでくれているのが分かって、とても嬉しかったわ。

 その後、美味しいスープを優しい笑顔のお姉さんと大きな熊族のヒトにいただいて、わたしは眠りに落ちたの。



 起きてからも信じられない事が続いたわ。

 つんつるてんのお兄ちゃんが、あまりの汚さに銭湯にすら入れないわたし達全員の体を綺麗にすると言うのよ。

 無理やり貫頭衣を脱がされた時は、どうなる事かと思ったけど、彼は洗濯場であろう溜池にわたし達を入れて、自分は洗濯を始めたの。


 ボロボロのわたし達の服を破らないように丁寧にもみ洗いしてくれたわ。

 太陽で温められた水はとても気持ちが良かったわ。

 てぬぐいを使って何年単位でこびりついたあかも落とせたの。

 最後に井戸の冷たい水で体を綺麗にしたのもとても気持ちよかったわ。

 裸ではしゃいで回るわたし達にお兄さんは自分も裸になって参加してきたわ。


 大人になると生えてくるところに毛は生えていないし、頭も坊主にしているお兄ちゃん。

 その時に彼は『つんつるてんのお兄ちゃん』へとなったのよ。

 彼はわたし達から出た垢を溜池から海に捨てる作業をしようとしていたわ。


 わたし達が出した垢だもの。

 わたしは一番に清掃へ参加したわ。

 それを見て、他の子供たちも水遊びでもする気持ちで清掃に参加したの。

 みんな笑顔よ。

 わたしも自然に笑顔になったわ。

 こんなに笑って遊んだのはいつ以来だろう?

 本当に楽しい一日。


 楽しい日はまだまだ続くわ。

 洗濯場の溜池を洗い終わると、つんつるてんのお兄ちゃんは一度建物に戻り、次に出てきた時には金髪双子と一緒で、わたし達には食事が出てきたの。

 わたしも含めてみんな金髪双子は死んで『あがり』を迎えたと思っていたから、みんなで祝ったわ。


 金髪双子の硬い挨拶を久し振りに聞いて、みんなで笑ったわ。

 今日一日で笑った回数は、両親が死んでから笑った回数より多いと思う。


 わたしも含めて女の子はつんつるてんのお兄ちゃんのところに行きたいけど、金髪双子はお兄ちゃんから離れようとしないのよ。

 二人がいやいやくっついているという感じは全くしないの。

 それどころか、あのどちらかというと大人しい感じだった金髪双子。

 わたし達女の子がお兄ちゃんに近づくと威嚇してくるのよ。


 二人がちょっと、うらやましいけど、二人には運があった。

 二人がちょっと、うらやましいけど、わたしには運が無かった。

 きっと、ほんのちょっとの違いだったと思うわ。


 つんつるてんのお兄ちゃんが「足りない奴はおかわりして良いぞ?」と聞くので、みんなで空の皿を差し出したわ。

 そうしたら大きな熊族のヒトが鍋ごとおかわりを持ってきてくれたの。


 笑って、綺麗にしてもらって、笑って、お腹一杯にして、笑って、最高の一日だったわ。

 また明日からも頑張れると思ったの。

 


 夜が来ると東の海から美しい金色の満月が昇ってきてたわ。

 お兄ちゃんが、呼ばれたわ。

 きっと戦いに行くのね。

 「どうか無事に帰ってきて下さい。」

 わたしはお兄ちゃんの無事を神様に祈ったの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ツンツルテンのお兄さんの無事を祈る子供の事が胸にグッときました とても面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ