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番外編13:スーンプ城迷宮案内・入口近くの水場

 昔々の迷宮の話。

 【もぐり】と呼ばれる冒険者の卵の話。

 ある男の若き日の冒険譚ぼうけんたん




 俺がスーンプ城郭の堀の中。

 迷宮の近くにある木の上に無断で移り住んでから一ヶ月が過ぎた。

 本来、迷宮に入るには成人後、冒険者として登録する必要がある。


 地下迷宮は地上の常識がまるで通用しない世界だと聞いている。

 俺は未成年なので【もぐり】と言われる冒険者の卵だ。

 正規の冒険者からお目こぼしされて迷宮へと潜っている。

 俺のような【もぐり】は、なぜか必ず一人か二人組だ。

 行き止まり区画で無い限り、三人以上で行動すると冒険者から文句を言われる。

 理由までは教えてくれない。


 迷宮内は区画と呼ばれるものの集合体だ。

 おおよそ十間(約18メートル)の立方体を一区画として、常にかねの状態で繋がっている。

 矩の状態とは直角と言う意味だそうだ。

 俺は難しい言葉は苦手なので、素直に『直角』を使おう。



 もぐりの俺が迷宮内で出来る事はごみ拾い。

 芥と言っても、一般的な芥ではない。

 上級冒険者が地下深くから帰る途中、雑魚と遭遇して倒した時に出る、持ちきれないと捨てた俺達【もぐり】には宝物の芥だ。

 初心者冒険者について回る俺にはそれすらもほとんど拾う事は出来ない。

 今までで一番の拾い物は【小刀】くらいなものだが、非常に役に立っている。



 迷宮内の不思議は色々ある。



 まずは、第一の不思議、迷宮内は薄暗いが見えなくなる程暗くない。



 俺に関係する事しか分からないが、第二の不思議、魔物がく。

 区画毎に湧く魔物の種類がある程度決まっているらしいが、俺は自分が使っている水場の事しか良く知らない。

 かえるが良く湧くから肉には全く困らない。

 蛙の後ろ脚が現在俺の主食だ。


 俺の行く水場は、大路おおじと呼ばれる迷宮内の冒険者の良く通る道からは少し外れた場所にあるため、普段冒険者は用が無いと来ない。

 ほぼ毎日、大路から先は近場を巡る初級冒険者の後をついて水場に向かい、水場で蛙取り。

 蛙を必要なだけ取って、水を確保したら大路まで帰る時も近場を巡る冒険者について帰る。

 水場は行き止まりにあり俺と同じ【もぐり】のたまり場になっている。



 第三の不思議が一区画で戦える人数が五人までと言う事。

 これは【もぐり】が水場にたまるので分かった事だが、六人目からは蛙に触る事すら出来ない。

 見えない壁があるかのごとく、全ての行いをはじき返す。

 【もぐり】が六人以上いる時は、交代しながら蛙を取る事になる。



 第四の不思議が、第三の不思議にも繋がるが一区画に入れるヒトが二十人までと言う事。

 ただし、二十人入ると蛙が一匹も湧かなくなる為、水場に入れるのは十人までと【もぐり】の間で不文律が出来ており、水場が十人以上になった時はその一つ手前の区画で順番を待つ事になる。



 第五の不思議、迷宮に物を置いておくと、どんなに貴重な物でも翌日には消える。

 噂では、絶対に消えない貴重な品もあるそうだが、俺は知らない。


 格言に「ヒトを殺したら迷宮に捨てな。まさに事件は迷宮入りだ」とあるくらいだ。


 こいつのおかげで毎日の排泄物を捨てても問題なく迷宮が処理してくれる。

 だが落とし物や忘れ物にだけは気を付けないといけないな。

 とは言っても、俺の荷物は水袋、食料袋、排泄物処理袋と小刀と貫頭衣だけ。

 忘れ物するほど荷物も無い。



 今日も初級冒険者のいくつか後ろの区画を付いて行き、水場へと到達した。

 どういう理屈かは知らないがこの行き止まり区画の水場には上流と下流が存在する。

 俺はいつものように排泄物を下流の片隅に放置すると、蛙取りを始めた。


 俺は普段通りに俺の頭の大きさと同じくらい巨大な蛙をつかまえる。

 食べるのは後ろ足で、他は捨てる。

 勿体無いが、今は自由に火が使えない身なので、生でも食べられる部分しか食べない。

 次の蛙を出現させる事も含めて、長く苦しませないように必ず止めをさす事を忘れない。


たこだ。蛸が出たぞ!」


 一人の【もぐり】が突然大声を上げる。

 蛸といってもヒトと同じ位の大きさがある、この水場で出る最強の魔物だ。

 だが食べ物としては蛙より美味いと俺は思っている。


 出現した蛸は一匹。

 【もぐり】でも五人でやれば十分勝てる。

 この蛸の時は早いもの勝ちだ。

 蛸に攻撃をした順番に戦闘する権利を得られる。



 俺は一番に蛸へと小刀で切りつけた。

 大人の正規の冒険者には噂で聞いただけだが、神に祝福を受けた【ポジション】と言う名の役割分担があるらしいが、俺達【もぐり】にはそんなものは無い。


 好きなように戦い、逃げたい時に逃げる。

 だが、皆で逃げるにしても一人は残って、戦えないヒトを逃がす事をしないといけない。

 別に俺がやる必要は無いのだが、俺が一番体が大きくて頑丈だ。


「逃げたい奴は逃げろ。蛸を食べたい奴は協力してくれ!」


 俺は他の【もぐり】の協力を仰いだ。

 きっちり五人、蛸を食べたい奴が残った。



 腰付近まで水に浸かったヒトと水の中を自由に泳ぎ回る蛸とでは機動力が全然違う。

 追いかけても蛸には絶対に追いつかない。

 こちらが攻撃を仕掛けるには誰かが蛸に襲われるのが一番手っ取り早い。

 誰が襲われるかは運だ。

 【もぐり】同士の約束事で蛸に襲われたヒトが一番多く蛸の足をもらえる。

 無駄と思いつつも俺は襲われる確率を少しでも上げるために気合を入れて叫ぶ。


「こっちだ。蛸野郎。こっちにこい!」


 俺は今までの経験から蛸が狙うのは大概、体の一番小さい奴だと思っている。

 俺はそいつに向かって、最大速度で移動する。

 ぎりぎりで間に合った。


 自分の左腕を差し出して蛸の足を絡ませる。

 蛸の足に付いている吸盤も痛いが大したことは無い。


 一番痛いのは、足の奥に付いている口に噛まれた時だ。

 これで指や最悪手足を失った【もぐり】が沢山いる。

 自分がそうはならないように、小刀を蛸の口目掛けて刃を立てる。

 蛸の口の間に小刀を差し込んだら、自分の左手でも蛸の足をつかみ、声を上げる。


「今だ! 蛸を蛸殴りしてくれ!」


 冗談のような言葉だが、本当にこれからやる事だ。

 全員で蛸を囲って、俺以外の全員で一斉に蛸殴りをする。

 俺は蛸の口に噛まれないように注意するだけ。

 蛸はいよいよ、俺の胴体にまで足を絡めてきた。

 後は臨時とはいえ仲間の【もぐり】の活躍を信じるだけだ。


 幸い今日は俺の他に刃物を持っている【もぐり】がもう一人いた。

 蛸の頭を腋に抱えて蛸の目の辺りを滅多刺しにしている。

 蛸の足は統制を失ったようにばらばらに動き始め、俺の拘束を解いた。

 刃物を持ったそいつのおかげで今日は比較的簡単な蛸退治となった。



 分配は俺三本、刃物を持った【もぐり】二本、他が一本ずつとなった。

 頭も食べられるのだが、食べる場所によっては腹を下すので俺は食べない。

 他のヒトに権利を譲ると、蛸の足の下処理に入った。



 水場で蛸と蛙の足の皮をむき水で清める。

 これが終わると足を食料用の袋に詰めて、今日の食料調達はお終いにする。

 一番上流で水を汲むと、巡回する初級冒険者が来るのを待った。




 今日はあいつに良い土産が出来た。

 木の上で俺の帰りを待つ『ドカチーニ』と言う名をくれたあいつに。

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