番外編12:庶民食勝負
毎日更新の最中。
時間……足りません。
ネタ……出てきません。
更新……だけはしたいです。
という私のわがままだけで作られた番外編です。
日曜番外編は本編と一切関りがありません。
どうか読み終わった後は忘れ去って頂けましたら幸いです。
今回の話は近い未来か遠い未来か。
いつか必ずどこかの世界線で現れる未来の話。
同じ世界でありながら、同じ世界でないかも知れない話。
「私の記憶が正しければ……ドカチーニの斡旋屋の厨房を1人で支えてきた『港の熊さん』。またの名は『引き籠りの熊さん』。彼を街中で見るのは幸運の予兆とも言われる、誇り高き熊族の料理人!ベェェェェェルゥガァァァァァァァァ!!」
「おおおっ」と観客席から歓声が上がる。
2メートルを超える熊族ベルガーが両手を組んで仁王立ちしている。
対して彼の前で、すました顔をしているが、ほほが赤く染まっている少女マリー。
頭の位置は彼の組んでいる両手の位置より低い。
「それに挑戦する少女は……子供の頃から貴族の食事をたった1人で作り続けた十代の若き料理人にして庶民の下の世話も厭わない看護師メイド少女。『フィーナ・フォン・ヤンゼンのメイド長』またの名を『紳士協定に護られしメイド様』マァァァッリィィィィィ!!」
「うおおおぉぉぉぉ!」
ベルガーの比にならない大きな歓声。
マリーの顔が完全に真っ赤に染まる。
今日のユークリットは右目に全く意味の無い眼帯を付けている。
「司会は私、ユークリットがお送りします。次に特別審査員の紹介です」
杖を突いた『たすきおじさん』が立ち上がる。
「まずは港湾施設に湧き出る俺の心の安息の水場。たぁぁすきぃっおぅじさぁぁぅん!!」
次に梅干しのような口をした『番台ばあさん』が椅子の上へと立ち上がる。
「港湾施設一番の娯楽施設とも言える銭湯。その番台に座り筋肉を見るだけで客を見分けるぅこの道うん十年の達人。ばぁぁぅんだぁぁいっばぁぁぁぁさぁぁぁぅん!!」
最後にぽっちゃりした体形がむしろ可愛いまで高めた『茶汲み娘』が立ち上がる。
「最後に紹介しますは、同じく銭湯の2階の遊び場にて茶汲み女を勤め上げ親衛隊の爺さん達に護られし娘。またの名を、ちゃくみぃぃぃぃっむっすっぅうめぇぇぇぇぇえ!!」
ここで更に「おおおおおぅぅぅぅぅ!」と大きな歓声が入る。
ユークリットが会場をぐるぐる回りながら観衆にルールの説明を始める。
「今回のお題は、庶民の三大食とも言える『スープ』『魚料理』『パン』の3種類の料理を100文の材料費で3人分作ってもらいます。どの食事にどれだけ銭を掛けるかは料理人次第です。材料の仕入れと発酵などの下処理は事前に終わらせておりますが、不正が一切無い事はこの私、ユークリットが確認しています。制限時間は四半刻(約30分)。各審査員は持ち点9点をそれぞれの料理に振り分けてもらいます。どちらの料理人が作ったのかは得点が確定するまでは分かりません」
会場の真ん中に止まるユークリット。
彼が意味の無い眼帯を取りながら両手を高く掲げて宣言する。
「庶民食勝負!製作ぅぅぅっ開始ぃぃぃぃぃ!!!」
ここまで派手に演出をしておきながら、勝負が始まると実に地味である。
なぜなら、料理人である2人が厨房に引き籠り、観衆からは料理する姿は全く見えない。
数分も我慢出来ない観衆が酒を頼み始めて、シーリンが両手にお盆を持って机の間を泳ぐように動き回り酒を配って回る。
観客席各地で巻き起こる「乾杯!」の音頭。
すでに勝負などそっちのけである。
厨房が使用中の為、酒の肴は乾き物と呼ばれる保存食しか出せない。
それゆえか普段の倍近くの乾き物が注文される。
四半刻が過ぎ、それぞれの料理が3人の特別審査員の前に並ぶ。
右手に並ぶのは、細かく野菜を切り刻んだトマトをベースとしたスープ。
体長1~2センチメートルほどの小魚を油で揚げ固めた魚料理。
ナンのように平べったいパン。
羊皮紙が添えてある。
『油で揚げた小魚をパンにはさんで、スープに少し付けながら食べて下さい』
と書かれていた。
左手に並ぶのは、1センチほどの赤、白、緑と色の付いた球が入った透明なスープ。
ピンと尾びれの先まで立った絶妙な焼き具合の鯛のように赤い魚。
そしてふんわりと柔らかそうなバターロールの形をしたパン。
特に食べ方の指示はされていない。
「2人の料理が時間通りに整いました。どれから食べるのも、どれだけ食べるのも特別審査員の自由です。では、実食して下さい!」
「このトマトスープは美味いんだが、少し味が濃いな」
「そうだね。体張って働く若い者には良いんじゃないか?」
「けど、濃厚で美味しいスープよ」
「この透明なスープ。この味はもしや……」
「あんたも気付いたかい? こいつはきっと出汁にリッシリ昆布を使っているよ」
「リッシリ昆布出汁なんて初めて味わいました。なんとも言えない美味しさですね」
「この丸い団子は………魚のすり身か」
「どうやら色の違いはすりこんだ野菜の違いのようだね」
「どれもこれも味が微妙に違ってとても美味しいです」
「この小魚の油揚げは香ばしくて美味いねぇ」
「そうかい? 歯が無いもんには少し食べ辛いね」
「かりかりしていて美味しいです」
「この焼き魚の塩梅。最高だ」
「本当だね。身もぷりぷりしていて最高の食感だよ。歯が無くてもいけるねぇ」
「こんな美味しい焼き魚初めて食べました」
「パンは形は珍しいけど、普通に美味しいくらいだな」
「そうだね。普通に美味しいってとこだね」
「私の普段食べているパンよりよほど美味しいよ」
「む、このパンに使われているのは伝説の……」
「あぁ、そうだね。牛酪だよ。手間の掛かる食材を用意したものだね」
「ふぁぁぁぁ。すっごく美味しいです。初めて食べました」
「特別審査員の皆さん。一通り食べ終わったようですが、私が見た事が確かならば………食事方法の指示を書かれた羊皮紙が添えてあったはずです。一つそれを試してもらえないでしょうか?」
「ふぉ。こいつは……」
「スープの味もパンに吸わせると丁度良いね」
「中にはさんだ小魚も味がなじんでとても美味しいです」
「三つ揃って完成する料理だな」
「そうだねぇ。この料理は一つ一つで評価するもんじゃないね」
「私も同意見です」
「さて、これにて本当に実食が終わったようです。では特別審査員の方に得点を出していただきましょう!!」
たすきおじさん、右手側4点、左手側5点。
番台ばあさん、右手側3点、左手側6点。
茶くみ娘、右手側4点、左手側5点。
「結果が出ました。右手側ベルガー。左手側マリー。圧勝でマリーの勝利です! 小さな料理人に皆さん拍手を!!」
拍手の代わりに、各テーブルで「我らが看護師マリー様に乾杯!」と音頭が上がる。
喧嘩の怪我も病気になっても酔っ払い過ぎても、湾岸施設にいる者は一度はフィーナに治療してもらっているし、マリーにもお世話になっている。
特に酔っ払いが吐きだした嘔吐物すらも厭わず献身的に対処するマリーは湾岸施設の猛者達すらも『紳士協定』と呼ばれる『お互い手を出すなよ? 出したら他全員でぼこぼこにしてやるぞ?』という不文律の協定で護られている少女の一人だ。
他の例に茶汲み娘なんかも隠居した爺さん達親衛隊による『紳士協定』によって護られている少女の一人である。
盛大に祝いの乾杯が行われる中、「俺も食べたいよな」と言う観客席にいた一人のつぶやきから「俺にも食わせろ!」と大合唱になった。
「おれの作った、この賄いで良いなら十七食分残っているぞ」
ベルガーの声に約30人の酔っ払い……観客達が反応する。
彼は100文の材料費で20人分の賄いを作っていたのだ。
「「「「「「「「「「「「「「誰が食べるか拳で決めるか!?」」」」」」」」」」」」」」
会場が大宴会から大乱闘へとあっという間に変わる。
それまで全く存在感を示していなかった館長ことドカチーニが一言声を上げる。
「お前ら! 武器を抜いたら俺がそいつをぶっ殺す。壊した物は弁償だ。後は好きにしろ!」
その言葉に会場は更に気合が入る。
「いつも通りだな! ここなら怪我してもフィーナ先生もいるから思いっきりやれるぜ!」
「爺さん達は引っ込んでな! 怪我するぜ?」
「年寄りをなめた事を後悔させてやるぞ。ひよっこ」
「俺は、あんた達を倒して、茶汲み娘さんを逢引きに誘うんだ!」
「そう言う事を言うのはやめろ!! 神の言葉をわすれたのか?」
「そうだ。それはデッドエンドフラグだぞ!?」
「くっくっくっ。筋肉の差が戦力の決定的な差ではないことを教えてやる。ひよっこども」
「ふぐぉうごぼぉ!」
「お前! なんで無抵抗で殴られたりしたんだ!?」
「良いんだ……これでマリーちゃんに看病してもらえる………」
「「「「「「「「「「「「「その手があったか!!」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「おのれ! 紳士協定は破らせない!!」」」」」」」」」」」」」
「あらあら。ヒートアップするのは良いけど死なない程度にね。死んだら治せないわよ?」
「「「「「「「「「「「「「はい! きっちり半殺しにします!!」」」」」」」」」」」」」
フィーナの言葉に会場の熱気は更に上がる。
マリーがフィーナに頭を下げて頼み込み、白い手袋を借りた。
その後、ベルガーの所へ行くと左手の白い手袋を投げつける。
「次は負けないんだからね!!」
マリーから出た年相応の言葉遣いにベルガーが「おう。俺も負けない」とだけこたえた。




