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 番外編11:アルフィアの光明

 この話は銀色の月満月の夜に異原いはらで起きた奇跡の後日談。

 死の直前に帰還出来た女性冒険者の話。

 アルフィアが希望を見出すまでの話。



 銀色の月の満月の夜から奇跡的に帰還出来たあたしに更なる奇跡が待っていた。


 なんと、普通なら切断されてもおかしく無い右足の膝下が治ったばかりか、切断され巨人に持っていかれた左腕、左足までもが再生したのだ。


 あたしは自分の再生した手足を見て感動のあまり泣いた。


 教会……もはや神殿に行き【大量のお布施を払わないと治らない怪我】を無料で治療してくれたフィーナさん……いや、フィーナ先生には、命を懸けて恩を返していく覚悟だ。

 その為にもまずは一人の冒険者として働けるようにならないといけない。


 しかしフィーナ先生が言った通りあたしの地獄はこれが始まりだった事を痛感する。


 本当に自分の意志が手足に届かない。


 指一本すら動かない。


 れてもさわられた感触すら感じない。



 フィーナ先生は「常に手足がある事を感じなさい。常に動くと思いなさい。意志の力が魔力を手足に通すわ」と、あたしの治療をするにあたりおっしゃった。


 あたしは努力の末にたった一つとはいえ魔法を習得している。

 他のヒトに比べれば、魔力の扱いは得意な方だと思っていたが、そんな事は超越したところの話だった。 



 再生を果たしてわずかな時間で、次第に自分の手足だという、実感が無くなっていく。

 フィーナ先生に魔法を使える事が伝わると治療方針は若干変わった。



 先生は回診に来る度に「常に手足に魔力を通す努力をしなさい。新しい魔法を覚える気持ちで魔力を操りなさい。必ず魔力が手足に届くわ」と同じ言葉を繰り返すのだ。

 ただ「あたしは手足を失った事が無いから、又聞きだけどね」は患者あたしを不安にさせるから余分だと思う。



 今日、手足の再生治療してから何度目だろう?

 先生は半刻(約1時間)と間を開けずにあたしの様子を見に来ている気がする。 

 同じ言葉を必ず掛けていく先生。

 その言葉をあたしは全面的に信じる事にした。

 どんなに自分の腕や足に実感が無くても、絶対そこに手足はあり魔力が通ると強く信じる。



 今までどうやって手足を動かしていたのだろう?

 動く右手で確認してみるが、何も考えなくても手は自由に動く。

 魔力の操作も簡単に出来る。


 左腕は切断された部分で魔力が止まる。

 ここで自分の体は終わりとばかりに魔力が先に進まない。


 左足。

 こちらも切断された部分で魔力が止まり先に進まない。


 右足。

 膝までは完全に魔力が通るがその先へは魔力が上手く伝わらない。

 だが、わずかだが確かに魔力が通っているのを感じる。

 右足のひざから下を右手で触ると触られた感触をしっかり感じる。

 足の指も全く動く気配を感じないが、自分の右手で動かしてみたら変化があった。

 動かした部分に魔力が自然と通るのを感じた。


 もう一度、確認する。

 魔力を足の親指に通す気持ちで自分の右手で曲げる。

 本当にわずかな感触だが魔力が通った!

 

 次に右手の補助なしで親指を曲げようとするが上手く魔力は届かない。

 だがこの事があたしに光明を見せた。


 次に左手で試してみる。

 魔力を左手の親指に通す気持ちで右手で親指を曲げる。

 一瞬だが確かにわずかばかりの魔力を通るのを感じた。


 左足でも試した結果、右手を使い動かした時に一瞬だけ魔力がわずかに通るのを感じる。

 自分が魔法を使えるように訓練した日々に感謝した。

 魔力の動きを自分で感じる事が出来て本当に良かった。

 魔力の動きを感じる事が出来なかったら、間違いなくあたしの手足はただの重りになっていた事だろう。


 だが魔力が通る事を感じた、この左腕も左足も、間違いなくあたしの物だ。



 それから後は右手を使い魔力を通す気持ちでひたすら左手足を動かす事を繰り返した。

 外からはあたしの手足を再生させるために魔力を分けてくれた子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。

 子供達にも何かお礼を考えないといけないな。

 子供達は何をしたら喜ぶだろう?

 自分が子供だった頃を思い出しながら、ひたすら左の手足を右手で動かした。



 悪い事は続くというのは本当の事のようだ。

 その日の夜は金色の月の満月の夜だった。

 むしろ今日までに帰ってこれた事を幸運に思うべきなのか?


 金色の月の満月の夜を知らせる半鐘の音が街中に鳴り響いている。

 自分では全く動けないのに最悪だと思う。

 巨大な熊と言うと怒られそうだが熊族のベルガーに運ばれて地下へと避難する。

 ドカチーニの斡旋屋へとお世話になって三ヶ月くらい経つが、こんな地下施設がある事は初めて知った。


 地下施設は広くて、地下の割には快適だった。

 部屋全体から、あたしにでも分かるほど力強い魔力を感じる。

 本来、訓練で魔法を習得したあたしは他人の魔力を感じるのは得意では無いのだ。


 もしかしたら、精霊の力を分けてもらっているかも知れない。

 ドカチーニの斡旋屋には『もしかして精霊の力』と感じる場所が何ヶ所か存在する。

 この海のそばで真水がこれほど手に入るのは『水の精霊』の力としか思えない。

 そうだとしたら金色の月の満月の夜では他よりもここは安全だと思う。

 満月の力を得た天使の眷属が、ここを護ってくれているのだ。


 フィーナ先生は、自分の装備を地下で見つけると嬉しそうに装備を着込んで、外へと戦闘……きっと負傷者の治療に出て行ってしまった。


 自分で満足に動けず不安なあたしの世話を先生のメイドと名乗る少女マリーがしてくれた。

 一切、私語を交わさないが、下の世話まで完璧にしてくれたのがありがたかった。

 お礼を言っても「仕事ですので」と言うすまし顔が逆に可愛かった。


 地下施設でも不安で眠れないので、病室でやっていた時と同じ事を繰り返す。

 動かした瞬間だけ、わずかに魔力が動く。

 だが自力ではまだまだ魔力が全く届かない。



 余談になるが、あたしを異原いはらにおいていった、小隊は全滅したらしい。

 未だ帰還を果たしていないという話だ。

 冒険者の規定によれば、満月の夜に小隊を組んだ者が、次の新月までに帰ってこない時は、彼らの財産は全て生き残った者の物、つまりあたしの物となるはずだ。

 その辺りは、あとでドカチーニさんにしっかり聞くとして、明日になったら手足を動かす補助をしてくれるヒトを探そう。




 フィーナ先生が無事帰ってくる事を祈って、あたしは金色の月の満月の夜が過ぎるのを地下室で待った。

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