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番外編10:フィーナの昔話

 本来は本編で行う予定だった『迷宮の冒険』。

 毎日更新を続けていた当時、時間とネタが足りなくなりました。

 番外編で若き日のドカチーニとフィーナに少しづつやってもらう事にした名残です。

 準本編として『フィーナの昔話』他数話を『迷宮の冒険編』とします。

 サブタイトルを一文字引っ込めずに番外編へ載せています。

 フィーナの愚痴ぐちから始まる物語。

 昔々の物語。

 フィーナとドカチーニの出会いの話。



 俺が魔壁蝨まだにの毒をフィーナさんの魔法で救われた、昼食どき。

 フィーナさんの愚痴が続く。


「ねえ。ユークリット。女を三年も待たせるって、あなたはどう思うかしら?」

「そうですね。私も3年は長いと思います」

「そうでしょ! 全く、あたしはここに戻れた時から迎えを待っていたのよ! 扉には『ご自由にお入り下さい』とまで書いていたのに! あのヒトが何度か家の前にまで来たのは見たのよ。その度にあたしは胸を躍らせたのよ! それなのにあのヒトはしばらく家の前に居るだけで帰っちゃうのよ。信じられる? あたしが居る事を知りながら今まで放っておいたのよ!」


 近い。

 フィーナさん近いです。

 机を挟んでいるとはいえ、そんなに身を乗り出さないで下さい。

 私はヒトと目と目を合わせて話すのが割と苦手なのですよ!

 ほら、動揺して心の中まで敬語になってしまっているじゃないですか。

 それでも命の恩人です。

 目をそらすのをグッと我慢して返事を返します。

 注意しないといけないのはなるべくカタカナを使わない事。

 そうだ!

 この機会に私もカタカナの事を聞いてみるとしましょう?

 

「あんな豪放で鬼のようなヒトが臆病風を吹かせたものですね。戦闘中のドカチーニさんは私の知る格闘技を極めんとする鬼と髪型以外はそっくりそのままですよ」

「あのヒト、今は髪型をきっちり整えてるみたいだけどね、昔は頭の上でくくれるくらいの長さでばっさり切って、何も頓着して居なかったのよ。せっかくあんなに格好良いのに!」

「恰好良い??」

「ええ。格好良いでしょ?」


 フィーナさんが席に座ります。

 少し、私の心も落ち着きました。

 それにしても、ドカチーニさんが格好良いという事には違和感を感じる。

 頭に思い浮かぶドカチーニさんが、某有名ゲームのあの方の姿と割と一致するのだ。

 夏の祭りでコスプレしたら話題になっただろうがドカチーニさんが格好良い?


「昔のドカチーニさんの方が今より更に強そうですね」

「そうなの! あのヒトは鬼のように強かったわ。だけどね。心は仏よ。あら、いけない。『仏』なんて言葉を使ったらまた神殿に文句を言われるわ。内緒にしてね」


「【仏】と言う言葉を使ってはいけないと初めて知りました。私は少々常識の記憶を失っていまして、失礼をしたら申し訳ありませんが教えて下さい」

「あらあら。そうなの? 記憶をいじる魔法はあるらしいけど、結構秘匿されていて、一般人には知られていないのよね。ごめんなさいね。あたしでは治してあげられないの」

「いえ。治してもらうほどの事では無いので、少し常識を教えて下さい」

「良いわよ。あたしが知っている事なら聞いて? 知らない事は教えられないけど」


「カタカナってどういう時に使うのですか? ヒトの名前はカタカナですよね?」

「あらあら。そこから忘れているの? それは大変ね。神殿関係者や教会関係者とはなるべく話をしないように気を付けなさい。カタカナはね、神の祝福を受けたモノにしか使ってはいけない言葉なの」

「それでは、ヒトの名やパンやワインとかは神の祝福を受けているのですね?」

「そうよ。カタカナは神の言葉を人間に分かりやすくした言葉と神殿では言っているわ。本当か嘘かは、あたしには分からないけど、神はたった36文字で全ての言葉を表すそうよ。ヒトはこんなにも文字の種類を使わないと分かりあえないのにね」


 36文字?

 アルファベット26文字とアラビア数字10文字なのか?

 ふと思い、この話題に踏み込もうとするがフィーナさんが右手を掲げて『それ以上は聞くな』と言うジェスチャーをする。


「あんまり、神殿には関わらないでね。あいつらは何をするか本当に分からないし、ドカチーニが良い顔しないわよ? あのヒト、神殿が大っ嫌いだから。カタカナは神に祝福された言葉とだけ覚えておけば良いわ。神の敵にも付いている時があるけど知らない方が良い事ね」


 神関係の言葉にカタカナが使われているって事かな。

 カタカナの事はあまり聞かれたく無いようだし次の話題に移ろう。


「どうして、ドカチーニさんは神殿を嫌っているのですか?」

「あら。あたしも大っ嫌いよ。そうねぇ。それを語るにはあたしとドカチーニの出会いから語る事になるわね」


 瞳を少女のように輝かせながらフィーナさんは昔話を語り始めた。



………………


 あたしとドカチーニが会ったのは子供の時。

 その時のあたしは、小さいながらも食べ物屋を開く両親の元、一人娘としてお店の手伝いをしていたわ。

 ドカチーニは残飯をあさりに来る、浮浪児の一人ね。


 残飯だって捨てている訳じゃないのよ。

 家畜の餌として売れるの。

 だから、残飯箱をあさるドカチーニに何度か会った事があるけど、その時はほうきを手にして追い払っていたわ。

 ドカチーニはその頃から体が大きくてね。

 体の小さいあたしは彼が恐かったのよ。

 暴力を振るわれたら絶対に敵わないと思っていたの。

 だけど彼が暴力を振るう事は無くてね「へへーん。捕まえるものなら捕まえてみな」だったかしら?

 そんな捨て台詞せりふを残していつも退散して行ったのよ。

 その頃は、まだお互い顔は知っていたけど、名前を知らなかった程度の付き合いだったわ。



 転機が訪れたのはあたしが十三歳の時だったかしら。

 来月十四歳の誕生日って時ね。

 それは今でも覚えているわ。


 お客様の一人が熱いスープを自分にこぼしてしまったの。

 あたしはあわててお客様の手当てをしたわ。

 その時ね。

 あたしが回復魔法を発動したの。

 あたしに先天的な魔法を使う才能があったのがその時に分かったの。



 お客さんの噂話で、あたしの回復魔法を、神殿関係者が調べに来たわ。

 そこであたしが回復魔法を使える事を確認出来ると「神殿に来るように」といい始めたの。

 神殿に来るって意味は『神殿で暮らす』って意味よ。

 あたしの両親は勿論断ったわ。

 勿論あたしも両親と離れて暮らすなんて嫌だったし、両親も同じ気持ちだったわ。

 三回あたしを迎えに来て両親が同じ回数断った時に神殿のヒトが言ったの。


「あなた方にきっと、神罰が下るでしょう」



 それから先は神殿の圧力が掛かったのかしら。

 それまで食材を売ってくれていたお店が食材を売ってくれなくなったの。

 それでも市場を変えながら食材を手に入れていたのだけど、最後にはどこも売ってくれなくなったし、その頃にはお客もお店に来なくなっていたの。



 いよいよどうにもならなくなった時にね。

 来たのよ。

 あいつらが。


「どうやら神罰が下ったようですね。娘さんを我々に預ければ神もお許しになるでしょう」


 そういうのよ。

 本当におかしくて笑い転げて罵倒したかったわ。

 けどね、あたしの両親は神殿の脅しに折れなかったわ。

 きっとあたしの意地っ張りは両親譲りね。

 翌日にあたしも覚えきれないような罪状を突き付けて両親は神殿に連れて行かれたの。



 両親はすぐに帰って来たわ。


 ………首だけになってね………


 あたしは気が狂ったように泣いたわ。

 けどね周りの大人は誰も助けてくれなかったわ。

 遠巻きに見てひそひそと話をしているだけ。

 そんな中、神殿関係者があたしに声を掛けてきたの。


「神殿に来なさい。そうすれば両親の罪も許されるでしょう」


 今度は怒りで気が狂いそうになったわ。

 泣いて怒って抵抗するあたしを助けてくれたのがドカチーニよ。

 神殿関係者の後ろから股間を蹴り上げると、あたしの手を取ってその場から逃げたの。


「俺は中途半端が嫌いだ。助けた以上、お前の事は最後まで護る!」


 あたしの手を引きながら、そんな事言うのよ。

 その時はもう物語に聞く『騎士様に助けられるお姫様』にでもなった気持ちだったわ。



 常識の記憶を失ったと言っていたけど【スーンプ城の地下迷宮】は知ってるかしら?

 そう知らないのね。

 城があるところにはほとんど地下迷宮があるわ。

 月の魔族や魔物から護るのが城壁。

 地下迷宮からの魔物の侵略を護るのが城と言っても良いわね。


 地下迷宮なんて一度制圧すればもう平気だと思うわよね?

 そこが地下迷宮の不思議なところで何度制圧しても魔物がどこからともなく現れるの。

 ヒト族は逆に考えたわ。

 いくらでも資源が湧いてくる便利な場所ってね。



 スーンプ城の地下迷宮は城の外郭にあってね、城側の入口と街側の入口以外は堀で囲まれているの。

 堀の中はヒトの手があまり加えられていないから、ほとんど自然にかえっていてね、もう城壁の外と区別が付かないほど、下草は生えているし、木々が成長しているわ。


 城の入口側と違って、街側の入口は少し警備が甘くてね、月に何度か魔物が街に出てきたりするものだから、他に住む場所が無いようなヒト達のたまり場になっているの。

 簡単に言えば貧乏人の集まる場所ね。

 神殿から逃げる為に来たのだから、普通はそこに住むと思うでしょ?

 ドカチーニはね堀の中に住んだの。

 しかも城側よ。

 街側からは冒険者が地下迷宮に潜りに来るの。

 けど城側は基本的に魔物があふれるのを止めるだけ。

 迷宮入口近くでそれでいて城側通路から外れた木の上に秘密基地を作ったのよ。

 下から見てもあまり分からないように上手に隠してね。



 あたしは他のヒトに見つからないように常に木の上で暮らしたわ。

 ドカチーニが迷宮から、必要な食糧や水を取ってきてくれて、あたしが出した不必要なものを始末してくれたわ。

 あたしはあのヒトに『隠すものは無いほど』何から何までお世話になったの。

 それと「フィーナ」って名前は彼に付けてもらった名前なのよ。



 半年も経てば、世間はもうあたしの事なんて覚えてないくらいになっていたけど、ドカチーニはもう半年、あたしを隠したの。

 あたしが成人した時に「フィーナ」の名前で冒険者登録して、あとは二人で地下迷宮に潜りまくったわ。



………………



 夢見る乙女の瞳でそこまでフィーナさんが話したところで、シーリンさんから「引っ越しの受け入れ準備をしたいので聞きたい事があります」と声が掛かる。


 フィーナさんの昔話……と言うより惚気のろけ話が中断される。

 このままでは、いつまでも話が続きそうだった。

 ナイス!

 シーリンさん!

 そして『ごちそうさまでした』フィーナさん。

 あらゆる意味でお腹が一杯です。




 後日、彼女のドカチーニさんとの惚気話は沢山聞く事になるが、それはまた別のお話。

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