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汚水(聖遺物30%入り)処理再び

 俺は現在、自分がやれる事を全力で行っている。

 魔力回復も兼ねてベルガーさんが作った特製スープを飲んでいるシーリンさんに対して、誠意を込めて土下座をしていた。

「明日の朝、洗濯が出来ない状態になっているようなら何をしてくれるのかしら?」

 その言葉に顔を上げて答えようとする。

 魔力が足りていない為に、顔色が悪いせいか、笑顔に口で説明できない威圧を感じる。

「誰が顔を上げて良いと言いましたか?」

「言われてなどいません。どうか。平に。平に。」


 子供達はスープを飲んで、少しの間とはいえ昼寝をする事により、動く事が出来るまでに魔力を回復した。

 俺は子供達を少しでも綺麗にしてあげたかった。

 風呂とは言わないまでも、昼の太陽で温められた中水の溜池で体の垢を落としてあげたいと思ってしまった。

 だが溜池では一度、ベスとアンの一件でやらかしている。

 今のシーリンさんの態度からも俺の信用度はゼロに近い。


「仕方ないですね。朝までに元に戻って無いようでしたら、あなたから大切なものをいただく事にしましょう。」

「ベスとアンは返して下さい。毛布は買い取りますから。」

 現在、訳あってベスとアンはシーリンさんの部屋に泊まっている。

「それも良い考えですね。」

 顔を上げる事が出来ない。

 どんな笑顔をしているのか想像するだけで恐ろしい。

 シーリンさんがいつも王女編みにしているのは角を隠しているって訳じゃないですよね?


「何を失うかは、その時のお楽しみにして下さいね。溜池を使っても良いですよ。」

 なんとか掃除用の桶と雑巾を借りて、子供達を中水の溜池で綺麗にする事に承諾を得た。



 全員の貫頭衣を脱がせて溜池に入れる。

 男子が7人、女子が3人だった。

 銭湯と言い、子供達と言い、最近は他人の股間をチェックする頻度が上がっている。

 種族(ハーフやクォーターが多い)も様々だが、男子が多く少し意外ざんねんだった。

 全身の垢がふやけるまで全員を大人しく溜池へとつからせる。

 ベスとアンはお留守番だ。

 他の子供達と違って、動けるまで回復する事が出来なかった。


 子供達が溜池につかっている間に掃除用の桶で彼らの貫頭衣を洗濯する。

 予想通りの汚さだ。

 生地もだいぶ傷んでいる。

 破らないように気を付けてもみ洗いをする。

 日が落ちるまでに乾くかどうかは微妙だが、洗わないよりはましだろう。


 全員分の貫頭衣を洗い終えて物干しの空いているところへと干すと、自前のてぬぐい3枚を渡しながら子供達に命令する。

「お互いの体をこすりあいなさい。こすっても垢が出てこなくなるまでですよ?」


 子供達は、男子4人と3人、女子3人のグループに分かれて垢をこすり落とし始めた。

 全員が凄い楽しそうだ。

 この光景を見られただけでこの後に待つ地獄の水汲みに耐えられるってものだ。



「お前ら今までよく我慢していたな……かゆくなかったのか……」

 溜池の表面は垢が浮いていると言うより垢で埋まっていた。

 3割しか聖遺物が無いとすると今回は完全に汚水だな。

 おっといかん。

 何か変な気が紛れ込んだ。

「ついでだ。1人ずつそこに並んで下さい。」

 やばい。

 半分地が出てきている。

 子供と接すると地が出やすいな。

 井戸の水を直接掃除用の桶に入れて、溜池の入口に立たせた子供に頭から水をかける。

「冷たいですよ。我慢して下さい。」

「つめてぇー。けどきもちぃー。」

「最後の仕上げです。髪の毛に絡みついた垢を落としましょう。」


 井戸で水を汲み、溜池まで持って行き、子供に頭から水をかける。

 子供達に掛け湯ならぬ掛け水を使う事によって溜池の水を溜める事も出来て一石二鳥『だが移動分だけ疲れる』と、思いながらやっていると、いつしかバケツリレーが形成された。

 俺が井戸から水を汲むと子供達がバケツリレーをして最後の1人に水を掛ける。

 水を掛けながら効率良く垢が落ちやすいようにこすり落とす補助をするヒトもついていた。

 ヒトに言われなくても、自分で工夫するところは嫌いじゃないぞ。



 裸ではしゃぐ子供達を見ていて俺も理性の限界が来た。

 もう我慢出来ない。

 ここは異世界だ。

 きっと許されるだろう。

 俺も貫頭衣を脱ぎ捨て子供達と同じ姿になった。


 『裸族の俺だけが服を着てなんていられるかー!』


 心の中だけで叫んで、自分の野生を解き放つ。

 もしかしたら、俺の筋肉を見て子供達から畏敬の念を得られるかも知れないな。

 刮目せよ!

 俺の見事に割れた8パックを!


 だが子供はそんなところ見ていなかった。


「おれたちと同じつんつるてんだ。」

「本当だ。頭と同じでつんつるてんだ!」

「つんつるてんのお兄ちゃんだ!!」


 どこ見ていやがる(泣)。

 最近俺も良く確認しますが、股間から確認するのはこの世界の基本行動ですか?

 シーリンさん恨みます。

 本当は感謝するべきなんだけど。

 子供達に「つんつるてんのお兄ちゃん」と呼ばれながら、心の中で泣いて全員から垢のこびりつきを落とした。


 よし「つんつるてんのおじさん」じゃなかっただけ良しとしよう。

 うちの骸骨共は「お兄ちゃん」すら許してくれなかったじゃないか!

 子供達を綺麗にしているうちに大分水かさも元に戻ったが、次は垢を海に捨てる作業が残っている。

 「明日の俺は今日より強い!」

 いつもの言葉をつぶやきながら残りの足りない分を注いでいく。

 それが終わったら垢を海に捨ててを繰り返しだ。

 汚水(聖遺物30%入り)の処理再び。


 だが今回は前回よりもはるかに楽だった。

 子供達がなるべく水をこぼさないように手で自分達が出した垢をすくい上げて海に捨ててくれていたからだ。


 それを見た俺は、すぐさま適当な縄で子供達の髪の毛をしばり水につからないようにした。

 港で魔力補給をなりわいとしている子供は男も女も髪の毛が長い。

 せっかく綺麗にした髪の毛を汚い水につけたら、また汚くなる。

 俺は2度手間が大嫌いだ。

 考え無しの子供の行動にうんざりする。

 だけど子供達の取った行動は俺にとって、とても嬉しいものだった事も本当だ。


 子供達は水面に浮いている垢を綺麗にすると、水の中にふよふよと浮かんでするりと逃げていく処理するのに大変だった垢も『金魚すくい』でもするかのように無邪気に楽しみながらすくっていく。

 その姿を見るだけでも俺の心は温かい気持ちで満たされていく。



 俺はひたすら井戸から水を汲み上げるだけの簡単なお仕事をこなすだけで良かった。

「明日の俺は今日より強い!」

 いつしか子供達も「明日の俺は今日より強い」と一緒に口ずさんで垢の塊を追っている。

 朝まで掛かると覚悟していた仕事が日が沈む頃には終わってしまった。


 全員の貫頭衣もだいたい乾いている。

 子供達に貫頭衣を着せた。

 自分だけ汗だくで湿った貫頭衣を着るのは実に不愉快だが……今日は大丈夫だ。

 シーリンさんが魔力不足で倒れている。

 お盆は飛んでこない!

 ……多分……


 俺はまだ裸で居ても大丈夫だな。


 これから夕飯時だ。

 子供達を食堂に入れる訳にはいかないけれどもベルガーさんに頼んで外で食べられるものを作ってもらい裏庭で食べよう。

 うちの骸骨2人は復活したかな?

 ふと自分の部屋の窓を見てみる。

 獣のような瞳で見つめる、赤い瞳と青い瞳が並んでこちらをにらんでいた………



「片付け手伝ってくれてありがとうな。お前ら夕飯も食ってから帰れよ。」

 ベルガーさんに子供達の夕飯を頼んで、自室へと急いだ。

 予想通り食堂に入ってもお盆は飛んでこない。

「なんて格好で入ってきやがる!」

 とドカチーニさんの怒声だけが飛んできた。



 そして2人の骸骨の前で俺は今日何度目かの土下座をしていた。

 最近は土下座をする回数が急激に増えていて、何度目かと数えるのを脳が拒否する。


 だが、今回の土下座は普段とは全く違うものだ!

 裸一貫『隠すものは何もない』と言う自分の気持ちを表した俺流の最上級の土下座だ。

 相手の怒り場所が分からない時にはとりあえず謝るに限る。

 特に女性に対しては。

 俺の限りなく低い女性スキルでもそこは間違えない。


 『とりあえず謝るってところで誠意なんてないよね?』と言った幼馴染の言葉は捨て置く。



「今日はお楽しみのようでしたね?」

 長い沈黙を破って、赤い瞳の骸骨がようやく口を開いた。

「子供達があまりに汚かっ……」

「知っていますか?数年前に出された御触書おふれがきに未成年者に対して性行為に及んだものは死刑となっていますよ?未遂でも局部切断の刑です。」

「冗談ですよね?」

 赤い瞳は完全に怒りに染まっている。すがるような気持ちで青い瞳を見るが、涙をこらえながらも『本当の事です』と言わんばかりに真剣な瞳をして首を縦に振っている。


「つんつるてんのお兄ちゃん。一緒にめし食べようぜ。すんげぇ美味しいぜ!」

 外から子供達の俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

 俺は大きな声で返事を返した。

「すぐ行きますから、今はみんなで楽しんでいて下さい。」


 赤い瞳がスッと細くなる『だからその目は不気味さが3割増すんだって!』言わないけど。


「呼んでいますよ?行ったらどうですか?私達にも出かける場所が出来ました。」

 青い瞳もこくこくと首を縦に振っている。

 出掛けて行こうとしている場所に『嫌な』予感しかしない。

「そうだよな!食事はみんなで食べた方が楽しいものだよな!さぁ2人も一緒に行こうか!」


 強引に2人を肩に担いで裏庭へと向かった。

 嫌がる2人の金髪少女を担いでいく裸の男。

 わめく2人を担いで食堂を通る時には食事中の客から注目をあびる。

 どこからどう好意的に見ても犯罪者です。

 皆さん『見苦しいモノを見せてごめんなさい。だけど通報だけはしないで下さい。お願いします。』と心の中で謝って駆け抜けた。



 中庭に着くと子供達が作っている車座へと加わった。

 2人の骸骨は、未だ裸な俺の両隣を占拠し、腕までがっちり組んでいる。

 両腕をおさえられたら、着替えも食事も出来ないですよね?

 目でうったえるが、2人ともに無視された。


「大丈夫だって。つんつるてんのお兄ちゃんをお前たちから取ったりしねぇよ。」

「それよりも二人生きていたんだ。もう死んだと思ったよ。」

「良かったな。良いヒトに拾ってもらえて。」

 口々に祝いの言葉を述べる少年少女。

 清々しく言葉に嘘が無い……と思う。

 赤い瞳の骸骨がお礼を言う。

「心配してくれてありがとうございます。隣のアンはしゃべることが困難な為、私が代表してお礼を述べる事をお許し下さい。」

「あははっ!相変わらずかったいなぁー。久し振りに聞いたよ。お前の挨拶!」

「本当だよね。どこのお貴族様だよ?それとも本当にお貴族様?」

「そんな事無いです!私達は市井の人間ですよ。」



 子供達の楽しそうな声が響く。

 俺が「足りない奴はおかわりして良いぞ?」と言えば全員が空の皿を俺に向けて掲げた。

 ベルガーさんにおかわりを頼むと鍋ごとおかわりを持ってきてくれる。

 「好きなだけ食べろ。」

 ありがとう。

 港町の熊さん。

 いつもあんたは最高だぜ!


 今日も色々あったが終わってみれば最高で最低の一日だった。

 良い事も悪い事も異世界であることをたっぷり味わえた一日だった。

 東の海から美しい金色の満月が昇ってきていた。


 その月はとても綺麗で「カン!カン!カン!」と何度も鳴り響く半鐘の音が耳障りだった。

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