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ベスとアンの魔力検証実験

 次の日の朝、木戸の隙間から差し込む光で目を覚ました俺は硬い床でこわばった体をほぐすようにいつもの準備運動をしながら2人の目覚めを待った。


 寝姿が骸骨すぎて本当に息をしているか少し心配になる。


 それと今日こそ忘れずに自分用の毛布買ってこないと。

 メモ帳が無いのが痛い。

 やるべき事をすぐ忘れる。

 部屋の隅で運動をしている最中に必ず起き出すベスとアン。

 おはようの挨拶を済ませると荷揚げ屋の仕事をゲットするために今日は俺だけ早く部屋を出発した。



 斡旋屋の朝は早い。

 斡旋の受付開始時間は日の出という事になっている。

 シーリンさんは日の出る前に洗濯を済ませているんだよな?

 実は双子とか?

 仕事が速すぎだろう。


 シーリンさんの居る受付にはもう3人並んでいる。

 急いで列に加わると、段々と列が伸び始めた。

 ぎりぎり受付ラッシュには間に合ったな。


 自分の順番が回ってくる。

「いつもの荷揚げ屋おね……」

「売り切れです。次の方どうぞ。」


 眩しい笑顔で一蹴と言うより、まさに蹴り出されましたよ?


「荷揚げ屋売り切れか?今日ははえぇなぁ。」

 次のおじさんも荷揚げ屋の仕事か。意外と人気あるのだな。

「はい。荷揚げ屋ですね?まだ空いてますよ。港に向かって下さいね。」


 あれ?俺の聞き違いか?


「シーリンさん!今、荷揚げ屋……」

「お客様。割り込みはご遠慮下さい。列の最後尾についてから話し掛けて下さい。」

 わーい。眩しさが一段と増した笑顔でサマーソルトキック(実際はされてません)だ。

 仕方なく後ろに並んでいる最中に娘……じゃなかった骸骨達が到着したので列を離れて2人の席へと向かった。


 3人分の賄いが届く間に、シーリンさんを怒らせた原因を考える『やっぱり、あれだな。昨日一昨日と連日で着た貫頭衣(泥沼染色仕様)を洗濯に出したことだな。あれを白くするなんて無理すぎる』難しい顔をしていると、ベスが尋ねてくる。

「何か心配事でもあるのですか?」


 心配事?今、新たに増えたよ。

 ベスがまた敬語に戻ってるよ。


「今日は荷揚げ屋出来ないみたいなんだ。」

「また冒険に行くのですか?」

 赤い瞳に静かな炎を宿す。

 そんなに冒険者が嫌いなのかな?

「いや。行かないよ。ドカチーニさん達は引退していて満月のみ冒険者として活躍しているみたいだから。俺も、他のヒトとは組みたいとは思わないし。」

「そうですか。良かったです。仕事は他にだって色々ありますから。」

 アンもコクコク首を縦に振っている。

 そこへドカチーニさんがやってくる。


「おう。待たせたな。食事が終わって、シーリンの仕事が片付いたら早速始めるぞ。」

「最近、私は扶養家族が増えまして、仕事をしないと不味いのですが?主に金銭が。1日毎今までの3倍の速さで銭が消費されるんですよ?赤で塗られて角生えてますよ!」

「赤の月の魔物か?お前にしてはよく知っていたな。確かに赤の角付きは強いからな。」


 赤の月の魔物に居るんだ。ちょっと驚いたがそこは置いておく。


「シーリンさんが、私に仕事をくれません。」

 昔流行った悲劇芸人風に言ってみた。

「あぁ。今日は実験するって言ってなかった?シーリンには伝えて置いたぞ?」

 はい。シーリンさんの機嫌が悪い事は確定。

 遠回しに「今日は仕事を休めって」と言っていたって事だったのですね。


「何をしたらシーリンさん喜ぶと思う?」

 娘…骸骨達に聞いてみる。

「知りません!」

 俺の周りは顔の表情分からない女性多すぎ。

 けど2人が怒っているのだけは分かるからね。


 そんな俺たちのやり取りを温かい目で見守っていたドカチーニさんが提案してくる。

「今回の実験は俺の依頼って事にしておく。ちょっと少ないけど三人で千文でどうだ?」

「はい!喜んで協力させていただきます!」

 骸骨2人だって凄く嬉しそうだ。

 自分達自身でお金を稼げるのが嬉しいのだろう。

 そこへベルガーさんが朝食を運んできてくれる。

 いつも美味しい食事をありがとう。

 

 『落ち込んだりもしたけど、私は今日も元気です。』


 ギリギリアウトかセーフなキャッチコピーを入れて今日の朝食を4人で取った。



 朝食後、裏庭に行くと石が山積みされていた。

 石は大きさと形が野球のボール程度に大体揃っている。

 ここには、俺、ドカチーニさん、ベルガーさん、シーリンさん、ベス、アンの6人が居るだけで、普段は開いている斡旋屋の木戸が全て閉められている。

「ユークリット。まずは思いっきり海に向かって投げてくれ。」


 1つ石を拾い上げ、海に向かってちょっと強めに投げる。

 いきなり思いっきり投げて怪我するのも嫌だ。

 まずはウォーミングアップ。

 それでも余裕で60メートルは越えたかな?


「ユークリット。普通に凄い飛距離だが、思いっきり投げてくれ。実験にならん!」

 ドカチーニさん顔が恐いです。まずは肩慣らしさせて下さいよ。

「あと、数球投げたら思いっきり投げますから。まずは準備運動させて下さい。」

 「そういう事なら」と納得してもらい、後4球投げた所で宣言する。

「じゃあ、思いっきり行きますね。」

 少し助走を付けて思いっきり投げた。


 よし!会心だ!


 脚のつま先から指の先までパワーが一直線に乗った。

 石は100メートルは飛んだと思う。


 全員がびっくりした顔をしているのが分かる。

 笑顔が崩れたシーリンさんを初めて見た。

「使ったのは身体強化の魔法だけか?それとも何か特別な魔法か?」

「いえ。自覚なしです。無意識で何か魔法を使ったのかとかも分かりません。」


 「ふむ」と考え込むドカチーニさん。

 シーリンさんの顔は既に元の笑顔へと戻っていた。

「俺は身体強化の魔法に自信があるんだがな。俺が投擲は得意で無いのを差し引いても先程の飛距離は大したものだ。」

 そう言いながら、戦闘モードになったドカチーニさんが石を投げる。

 80メートルくらいは飛んだか?

「引退したとは言え、これでも当時最高位の身体強化魔法だったのだがな。特殊な魔法を使われない限り、一番遠くまで投擲したんだぞ?それを軽く越えていきやがって。」

 寂しさと嬉しさが同居したような瞳で見つめられる。


 今日のドカチーニさんが可愛いです。


「よし、嬢ちゃんたち。ユークリットに魔力を分けてやってくれ。心配するな。シーリンがすぐにお前達の魔力を回復させるよ。」

 ベスとアンが俺に魔力を分けてくれる。

 その瞬間から凄い力が身体中を駆け巡るのが分かる。


 次の一投が周りは勿論、自分の度肝も抜いた。

 投げた石はどこに飛んでいったのか分からないくらい遠くまで飛んでいった。

 望遠の魔法を発動したシーリンさえ見失うほどまで遠く。

 大人3人が口々に言う「やばいな」「世界が変わります」「秘匿絶対」と深刻そうだ。

 心の中では『キターー!異世界無双俺にもキターー!』と叫んでいた。


 その後、何回投げられるかを調べる為に投げ続けた俺は、用意された石全てを水平線のかなたまで飛ばした所で今日の実験は終了となった。


 他の3人もベスとアンに魔力を貰って庭にある適当な石で挑戦したが俺のような劇的な違いは現れなかった。

 2人のオリジナルの魔力じゃないから他の人が駄目だったのか、俺だけに効く魔力なのかは今日中では結論が出なかった。



 寝る前のいつもの筋トレ。

 やはり魔力をもらうと筋肉に負荷を感じなくなる。

 ふと気付いたが、石を投げた先に船が居ないでいてくれる事を祈った。



 実験2日目。


 再び山のように積まれた昨日と同じ石。

 いつ用意したんだ?

 本当にこの斡旋屋のヒト達は仕事が速い。


 昨夜思いついた投げた先の船の心配をしたが「船はいない事をシーリンが確認している」とドカチーニさんが答える。

 この異世界が地球のように丸いかどうかは知らないが『海を見て判断するかぎり俺には丸い星だと思う』水平線の先はシーリンさんにも見えないよね?

 人に上手く説明する自信が無かったので、もう祈る気持ちで今日の実験に入る事にした。


 今日は最初にベスとアンの魔力をドカチーニさんへ注入する。

 結果は多少飛距離は伸びたが劇的な変化なし。


 次はシーリンさんの魔力を俺に注入して貰う。

 直接シーリンさんの肌に触るのは初めてじゃないか?『良い匂いがする』などと少し鼻の下が伸びていそうだと自分でも自覚する。

 娘……骸骨2人の瞳にどこか呆れたような冷たさを感じるのは気のせいか?


 結果は先日と同じで劇的な変化あり。

 どうやら俺の方が原因らしい。

 ドカチーニさんは鬼の形相で宣言する。

「絶対他言無用!ユークリットには魔力の補給を禁じる!下手に他人に知られるとユークリットの命に係わる。」

「どういうことですか?」

「お前の魔法を貴族や士族に知られた時、死ぬまで奴らの為に戦わされるか、拒否して死ぬまで奴らと戦い抜くか、拒否して大人しく奴らに殺されるか、どれかを選ぶ事になる。」

 まさかとは思うが、本当にそうなりかねない。

 どれを選んでもデッドエンドだ。

 ドカチーニさんは早々に実験を中止して再び街へと出掛けて行ってしまった。


 

 昼食時、骸骨2人が薄いほおを膨らませている。

 機嫌が悪いのか?

 それとも臨時収入で得た銭を使って特別に頼んだ果実水をほお一杯に入れて口全体で味わっているのだろうか?

 

 きっと後者に違いない……と良いな。

 2人の機嫌を悪くするような事をした覚えは……あった。

 シーリンさん相手に鼻の下を伸ばしたのがまずかったか?


 ベスに話し掛けても、激しく炎が灯った瞳を食べ物に集中していて何も答えてくれない。

 アンの方を見れば、涙が溜まった青い瞳を露骨にそらされる。


 お父さん……じゃなかった、おじさん泣きそうです。


 「シーリンさんに鼻の下を伸ばしてごめんなさい」と謝っても「そんな事を怒っているのではありません」と機嫌が直る事は無かった。


 昼からの実験が無くなった俺は、すっかり忘れていた毛布を買いに街に出た。

 勿論、娘……骸骨2人には行き先を告げましたが、完全無視です。

 『良いんだ俺なんて』と失意のまま1番近場で1番安い毛布を買って帰りました。

 おやすみの挨拶も返事がなくて失意のまま毛布にくるまってそのまま寝ました。

 魔力注入後の筋トレは無意味ですしね……

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