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 番外編5:とある小隊の銀色の月満月の夜(前編)

 ユークリットが初陣をはたした満月の夜。

 冒険者の小隊の数だけ物語があった。

 これはとある小隊の女性冒険者の話。



 この小隊に参加して初めての満月の夜がやってきた。

 あたしも二十歳を大分超えて中堅女性冒険者となっていた。

 この年まで冒険者一筋だ。

 今までに、様々な出会いや別れを繰り返している。

 正直、今回の小隊は外れだと感じている。

 あたしは、この満月の夜が終わったら、小隊を抜けようと思っている。


 今回あたしの仕事は斥候。

 普段の役割とは別の仕事。

 あたしの得意な武器は弓矢。

 今回あたしは斥候をするために普段より短い弓を使用している。

 動きやすさを優先した装備。

 近接戦用には小刀を一本右太ももに挿しているだけ。


 今も、小隊を離れて小高い岩の上で単独行動、討伐対象を探していた。

 討伐対象、攻略対象、様々な呼び方があるがとにかくこの夜に倒した証拠を持って帰らなくてはならない魔物を探している。


 他の隊員達は隊長と共に『あたしを見る事が出来るぎりぎりの距離』の所で隠れている。

 あたしの得意な魔法は【気配を消す魔法】であまり斥候向きとは言えない。

 単独行動には向いているが、探すことには長けている訳では無いのだ。

 本来、気配を消して相手の急所を弓矢で狙う、一撃必殺型の後衛なのだ。


 この小隊では他に適したヒトが居ないと言う理由だけで斥候をやっている。

 ただ小高い岩の上のような目立つ場所で捜索するには適した魔法ではある。

 隊長の命令で今回この場所での探索が命じられた。


 隊長からの命令は「三本角蜥蜴とかげを探せ」だ。

 もちろん、この蜥蜴は満月の夜の討伐対象に入っている。

 特徴は、額に二本、鼻の頭に一本生えた角で、この角が高く売れる。

 体長は尻尾の先まで含めて約五間(約9メートル)ある強敵で、あたしは今回の討伐に反対していた。


 あたし達に三本角蜥蜴、略して三本角との戦闘経験が無いからだ。

 満月の夜は必ず討伐対象を仕留めないといけない。

 その上、普段の時よりも確実に強くなる。

 あまり無理はしたくなかった。

 今回で隊を抜けるつもりだったのも関係しているかも知れない。

 だが隊長は「簡単な討伐方法を教わったのだ」と言って今回の討伐を押し切った。



 この岩の位置は魔物の通り道になっているそれなりに有名な岩。

 走り蜥蜴の群れを二回通り過ぎるのを見送った。

 単独の首長蜥蜴すらも見送る。

 命を優先するならば討伐対象にするには最高の相手。

 隊長には手信号で一応報告するが無視の方向のようだ。

 あたしは諦めて三本角が現れるのを待つ。



 来た。

 一応単独の三本角。

 大きさは少し小さめの四間ほどか?

 再び手信号を送ると「討伐する攻撃して引き付けろ」と帰ってきた。

 隊員達がこちらに移動してくるのが分かる。

 あたしは気配を消すのを止めて弓矢で攻撃をする。

 弱点の目を狙ったのだが少し遠すぎたか外してしまった。

 だが三本角はこちらに気付き、あたしが乗っている岩に向かって突進を開始した。


 三本角の弱点は胴体。

 頭が固すぎて、小さな瞳くらいしか有効な攻撃を与えられる所が無い。

 そして突進を繰り返す為、突進を止めないと、胴体を攻撃する機会が生まれない。


 あたしは三本角が突進してくる間、矢継ぎ早に瞳を狙った攻撃を繰り返すが高速で移動する小さな目標に一度も当たる事は無かった。

 瞳を外れて頭に当たった矢は致命傷どころか一本として刺さる事が無い。


 三本角が岩と衝突。

 その衝撃は凄まじく、岩の上に居たあたしは三本角の居る方へ向かって落ちてしまった。

 自分の体より大きい岩とぶつかった三本角はさすがに朦朧としている。

 そんな状態にもかかわらず、岩から落ちて背中を打って動けなかった、あたしの右足を『運が悪い事に』その巨体が踏み抜いた。

 今日の運の悪さを神へ恨む。


 あたしは声にならない悲鳴を上げた。

 本当は大きな声を出して叫びたかったが、周りの魔物を集める事になりかねない。

 痛みをこらえて仲間の到着を待った。



 右足こそ踏み抜かれたものの、弓を折られた訳では無い。

 この距離で朦朧としている相手にあたしが目標を外す事は無い。

 右足のお返しとばかりにきっちりと三本角の両目を矢で潰した。



 仲間達が到着する『これで助かった』と思った。

 両目を潰された三本角は簡単に討伐されて、今解体作業を行われている。

 もっとも高価な額の角二本と、討伐証拠である鼻の頭の角を切断したところで隊長があたしのところへとやってきた。


「よくやってくれた。言った通り簡単だっただろ? お前のおかげで更に楽に討伐できたよ。だがまぁなんだ。足が折れたお前は足手まといだから街へ帰れ」

 そういうと、あたしが胸にさげている、冒険者の証を奪い取る。

「お前が街まで帰れる保証は無いからこれは預かっておく。俺達はさっき通った首長蜥蜴を追うから。それじゃあ街でな」

「ちょっと待ってよ! 討伐対象は倒したんだからみんなで街に帰ったって良いでしょう?」

 三人は振り返る事無く、その場を立ち去る。

 角を奪われた蜥蜴と冒険者の証を奪われたあたしだけがその場に残された。



 ここから街の城門まで約半里(約2キロメートル)。

 一応添え木をしたが、右足は完全に変な方向に曲がり、引きずるだけでも激痛が走る。

 痛み止めに効果があるという葉を噛みながら移動を開始する。

 普段ならどうと言う事無い距離が千里の道に感じる。


 あたしを捨てた小隊のヒト達を呪いながら【気配を消す魔法】を使い帰路につく。

 だが【気配を消す魔法】も万能では無い。

 腰まで高さがある下草の中を移動するあたしの目の前に偶然現れた走り蜥蜴には魔法の効果が無かった。


 突然のかみつき攻撃に対して、とっさに左腕を差し出して防御する。

 あたしの薄い防具を軽く破って歯が肉に食い込む。

 思わず後ずさった右足に噛まれた以上の激痛が走り地面に倒れ込む。

 突然の動きに、腕から口を離して距離を取る走り蜥蜴。

 救いは、あたしの状況を理解したのか走り蜥蜴が仲間を呼ばなかった事だ。

 どうやらこいつは一匹であたしを食べる気らしい。

 弱った獲物認定されたようだ。


 弓を構えたかったが、すでに左手は弓を握るだけの握力を持っていなかった。

 弓を捨て、左足はひざを立てて右足はひざをつき、左腕を盾代わりにした走り蜥蜴との戦闘が始まる。


 絶望的な戦いだがやるしかない。

 あたしが勝利するには相手の油断を狙った一撃必殺しかないと感じた。

 右足に挿している小刀を出したいのを我慢して相手の油断を狙う。


 普段は下に見ながら戦う走り蜥蜴との戦いが見上げて戦う事になる。

 勝負は短いものだった。

 あたしの左腕を深くかみついた相手に対して体ごと地面に倒れ込む。

 前回と違い、今回はそれでも左腕から口を離さなかった。

 好機と感じ、相手に対して両足で胴体部分を挟み込んで確保した。

 激痛が走る右足がどうなっているのかも気にしていられない。


 死角から隠し持っていた小刀を逆手に持って相手の首へ何度も何度も突き立てる。

 あたしが息絶えるよりも少しだけ早く相手が息絶えた。

 安堵するあたしの前に絶望が現れたのは、その後すぐの事だった。

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