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 シーリン過去編1:成人

 題に名が載ると独自調査の部分別累計アクセス数が周りと比べ1割程増えるヒロインの昔話

 シーリンが成人した時の話

 14歳最後の銀色の月が新月の日から始まる物語




 わたしの名はシーリン。

 両親はわたしが幼い頃亡くなったと何度も聞いているわ。

 わたしを育ててくれたドカチーニが、事ある毎に、何度もわたしに二人の話をするから。

 同じ時を一緒に過ごしてきたと思うくらい両親の事を知っている。


 だけど心の中でわたしのおとうさんはドカチーニよ。

 心の中のおかあさんはエドゥの城下町に引っ越してしまった大切なヒト。

 おかあさんはエドゥの城下町へ無事に着いただろうか?

 絶対に無事に着いたに決まっている。



 明日わたしは成人する。

 一番嬉しい事は髪を結い上げても「子供のくせにおしゃれして生意気」と周り女のヒト達から陰口を言われなくなる事。

 これからは堂々と「二口女ふたくちおんな」と呼ばれ続けた頭の傷を隠せるわ。

 傷口を隠す髪の結い上げ方は既に研究済みなの。

 この髪型なら、どこから見ても、傷口は見えない自信があるわ。

 けっ……結婚だって出来るのよ!

 明日から『おとうさん』の事は『ドカチーニ』って呼ぶわ。



 扉を叩く音と共に「シーリン入るぞ」とおとうさんの声が聞こえた。

 わたしは「少しだけ待って」と言って、返事を待たずに開けようとする扉を抑えたの。

 待ってよ!

 今夜はまだ未成年なのよ。

 一日来るのが早いわ。

 気が早すぎるわ!

 心の準備が出来ないじゃない!


「すぐに終わるぞ?」

「わたしは初めてなのよ?すぐに終わるなんて言わないでよ!」

「初めてだったか?いつも一人でしているだろう?」

「してないわよ!変な事言わないで!」

「毎日欠かさずやってきていたからな。今日は俺が……」

「それ以上変な事は言わないで!」


 おとうさ……ドカチーニの破廉恥!!

 乙女に言うような言葉じゃないわ!

 髪の毛を急いで編み込まないと!

 ドカチーニが間隔を開けて「まだか?」と五回聞いて来た時に、わたしの準備が出来たわ。

 月明りで少し暗い中、母の形見と呼ばれている鏡でもう一度自分の姿を確認して、わたしは高鳴る心臓の音を自分自身で聞きながら扉を開けたわ。



「お待たせ。ドカチーニ」

「全くいつまで待たせるのだ。明日からはこれを使え」

「なにこれ?」

「お前も成人だからな。今まで冒険者になる為に修行をしてきたのだろう?俺のお古だが、常に共に戦い大事に使ってきた、相棒と言える小刀だ。それと明日から斡旋屋の仕事も頼むな」



 わたしに古い小刀を一方的に渡した後、右腕を『あばよ』とばかりにあげて、ドカチーニが自分の部屋に帰って行ったわ。

 わたしは何が起きたのか分かるまでに時間が掛かったわ。

 自分の部屋の入口に立ったまましばらく放心していたの。



 いつ移動したのか、わたしは寝台に腰掛けた状態で、自分の気持ちを持て余らせていた。

 怒りなのか悲しみなのか分からないけど、わたしの中で嫌な感情と悪い考えが渦巻いて、気が付いたら朝になっていた。



 成人の日の朝日がまもなく昇る。

 朝一番に鳴く鳥の声が聞こえてきている。


 今日成人するにあたって三つ決めた事が出来たわ。


 今後は絶対に『おとうさん』なんて呼ばないわ。

 わたしの事を大人の女性として見るまで、わたしだってドカチーニを男性として見ないわ。

 少しでも大人の女性として見えるように敬語を使い続けるのわ。

 わたしは、自分の決意を髪へと一緒に編み込んで、いつもの朝と同じように洗濯へと出た。



 洗濯を終えて、初めての正式な斡旋業の始まり。

 今までおとうさ……ドカチーニのやる事を見てきたから、きっと問題なく出来るわ。

 受付には今までと同じようにおとう……ドカチーニがいるわ。

 わたしは、無理矢理笑顔を作って、とっておきの挨拶をしてあげたの。


「おはようございます。館長」


 昨夜のわたしのように今度はドカチーニが固まったわ。

 成功ね。

 一晩何て呼んだら良いか考えたのだから。

 わたしが彼を「館長」と呼んだのは初めてだし、普段敬語なんか使わないから。

 昨夜のわたしと同じくらい心に痛みを与えてあげられたかしら?


「急にどうしたのだ?」

「いえ。わたしも成人しましたから。言葉遣いをしっかりしようと思いまして」

「そうか……」



 その日から銀色の月が満月になる前々日まで、おと……館長がわたしの隣について斡旋の仕事を教えてくれながら仕事をしたわ。

 その間、わたしは意地でも彼を「おとうさん」と呼ばなかったし、敬語もやめなかった。

 勿論冒険者の試験にも行ったわ。

 当然一発で合格したわ。


 合格したその日に館長へ迷宮に潜る事を伝えたの。

 彼は意外にも、あっさりと、了承してくれたわ。

 正直に言えば、わたしは「絶対許さない」くらい、言われると思っていたのに。

 その上「朝と晩、斡旋屋の仕事を手伝ってくれれば昼間は自由にして良い」と言ったの。


 朝と晩、斡旋屋の手伝いをするとなるとスーンプ城まで行く時間は無いわ。

 わたしは自然と近くにあるフクロ城の地下迷宮に潜る事に決めたの。

 人気が無い事は知っていたのだけどね。



「館長。翌朝、斡旋業が終わったら迷宮へと潜ります」

「なぁ。なぜ俺を『館長』と呼ぶのだ?今まで通り『おとうさん』で良いのだぞ?」

「わたしも大人になりましたから。館長がわたしを大人として見てくれるまで、わたしは『館長』と、呼び続けます」

「俺は十分、お前を大人扱いしているつもりだがな。迷宮に潜るなら先達として一つだけ忠告をしておく。先輩冒険者達の誘惑に乗るなよ。色々と甘い言葉で誘惑してくるがろくな事にはならないからな。一人で迷宮を潜れない奴に隊を組む意味は無い」

「分かりました。その忠告は必ず守ります」



 翌朝斡旋の仕事を終えると、ドカチーニから貰った小刀だけを持ち、迷宮へと向かったわ。

 港橋を渡って南へと向かうと、すぐに街並みが無くなり、沼地になるの。


 この沼地は「底が無くて落ちるとどこまでも沈んでいく」とか「子供が一人で歩くと沼地から手が伸びてきて引きずり込む」とか「ヒトを食べる大口蜥蜴とかげが住んでいる」とか色々な怖い噂を昔から聞いて来たわ。


 子供の頃は怖くかった、この沼地だって、もう怖くないもの!

 成人してもわたしの扱いが全く変わらないドカチーニはおかしいのよ!

 迷宮で、凄い成果を上げて、わたしへの見方を変えてやるのだから!


 

 平地に一軒だけ立派な二階建ての建物が建っているから初めてでも迷う事は無かったわ。

 ぬかるみの間を縫うように伸びる道を歩いて行くとトモウェイ川の河口へと無事到着。

 辺り一帯には、この建物とお城以外、何も建造物が無いの。


 フクロ城は、スーンプ城と比べると本当に小さくて、水上へと飛び出た変な城。

 河口の端に海へと飛び出るように城が建てられているわ。

 海そのものが天然の堀となり、城から溢れる魔物を防いでくれているのね。


 お城には木で組んだだけの物見櫓ものみやぐらがあるだけなのよ。

 昔、おとうさ……館長に連れて行ってもらったスーンプ城とは全然違うわ。

 それにしても物見の衛兵さんはきちんと見張りの仕事をしているのかしら?

 わたしには寝ているように見えるのだけど。



 私が遠視の魔法を使って確認すると、やはり見張りの衛兵は櫓の上で寝ていた。

 ここから見える全ての櫓を確認したが、誰一人として、起きて見張りの仕事をしてないわ。

 少し唖然としてしまったけど、気を取り直そう。

 今は丁度休憩時間なのかも知れないでしょ。



 ろくな櫓すら無いお城よりも入口にある二階建ての迷宮の斡旋屋の方が立派ね。

 大きさだけなら、ドカチーニの斡旋屋の母屋と同じくらいの大きさね。

 氷室の倉庫があるだけ、わたし達の斡旋屋の方が大きいわ。

 少しだけ中を覗いてみようかな。

 一人で潜るつもりだったし、わたしに用は無いけど、最初だし少し寄っても良いわね。

 城へと続く橋の手前に斡旋屋がある事だし、ちょっとした寄り道ね。



 迷宮の斡旋屋の中は、うちの斡旋屋の昼間の時間と、全く違ったわ。

 受付とかお客が座るテーブルとか、施設は同じようなものだけど、お客様が違うの。

 こんな時間から、衛兵さん達のように揃いの武装をした、酔っ払いで一杯なのよ?

 このヒト達は今日お休みなのかしら?

 もしそうなら、こんな何も無い所なのに、結構繁盛しているのね。


 受付のお姉さんがわたしを見つけたみたいで手招きをしているわ。

 酔っ払い達もわたしの方を見始めたみたいだし、まずは受付に行こう。


「お嬢ちゃん、ここはあなたのような子供が来るところじゃ無いの。冒険者に依頼があるのならシーミズの港町にある斡旋屋で依頼しなさい」

「わたしは冒険者です。冒険者としてここの迷宮へとやってきました」


 角が一ヶ所も欠けていない真新しい冒険者の証を見せて、受付のお姉さんに宣言したわ。

 少しほうけた顔で、昼間から酒に酔った、お姉さんがもう一度尋ねてきたわ。


「お嬢ちゃん。それ本物なの?今言った事をもう一度言ってくれるかしら?」

「わたしは冒険者で、このフクロ城の地下迷宮へと探索に来ました」

「もう一度!」



 溜息をついて、わたしが同じ事をもう一度言うと、斡旋屋全体から雄叫びのような大きな声が上がったの。

 その後のわたしは、昼間から『祝いの宴会』に巻き込まれながら、お姉さんから迷宮へついての約束事を教わって迷宮探索初日が終了したの。

 何度も宴会場から脱出して迷宮に行こうとしたけど許してもらえなかったわ。

 何かというと「迷宮に潜るには一日講習を受けないといけないのよ」と、酒をぐいぐい飲みながら、お姉さんはわたしが迷宮に潜るのを止めたの。

 お酒を無理矢理飲まされるような事は無かったけど一日中酔っ払いの相手をさせられたわ。



 わたしが酔っ払い達から解放された時はもう陽が傾いていたわ。

 最後に迷宮の斡旋屋を出る時、お姉さんに「明日は銀色の月の満月の夜だけど必ずここへ来なさいな。あなたは現在唯一のフクロ城の地下迷宮所属冒険者なのよ」と言われたの。

 今から迷宮に潜ったら、夕食の時間に完全に間に合わないわ。

 今朝の意気込みが完全に空振りに終わり、わたしは意気消沈して、家路を歩いたの。



 ドカチーニの斡旋屋へ帰り着く時には夕飯を食べに来たお客が来ていたわ。

 ドカチーニからは「最近お前が手伝ってくれるから助かる」と言われていたのに。

 今日は一人でやらせてしまったわ。

 厨房からドカチーニがお盆を片手に現れた。


「よう。お帰り。そんなに酒の匂いをさせて早速祝杯でもあげたのか?」

「違います。館長、夕食の支度に遅れて申し訳ありません」

「正直、そんな事はどうでも良いのだが……何とかならぬか?そうだな『館長』では無くてだな……前のように、俺の呼び方は、おっ『おとうさん』で良いだろう?」

「お断りします。館長も成人したわたしを一人の女性として見て下さい」

「一人の女性と言ってもだな……俺にはお前を子供としか見れぬのだ」

「そうですか。良く分りました。着替えたらすぐに手伝いをしますね」

「おう。頼むな」



 自室に戻るとわたしは、悪態を吐きながら、急いで着替えたわ。

「子供ってなによ!?子供って!!絶対に二度と『おとうさん』なんて呼ばないから!」

 ドカチーニへ聞こえたのかは分からない。

 わたしは彼に『わたしの秘めた気持ち』が届くように大きな声で叫んだの。

 わたしの叫びは、その後一緒に仕事をした彼の様子から見て、聞こえていなかったと思う。



 仕事の後は、必然的に明日の満月の話になったわ。

 わたしは「迷宮へ来るように言われている」と言うと、彼は「分かった」とだけ答えたの。

 なぜか少しだけ寂しかったわ。



 翌日、銀色の月の満月の宴会を終えると、わたしはフクロ城の地下迷宮へと向かった。

 お姉さんは「迷宮の斡旋屋で待機しているだけで良いのよ」と言ってきたけど、わたしは昨日説明を受けた護符の内、一番の護符を手にして迷宮へと潜ったの。


 一番の護符の正式名称は『ポイントガード』と言うらしいわ。

 効果は『消費魔力の軽減』という事らしいわ。

 他にも色々と不思議な効果がある事も教えてもらったけど、今のわたしには関係ない事ばかりだったわ。

 あと一つだけ、わたしに関係する護符の効果をあげるなら、わたしが死んだら護符は迷宮の入口へと戻るらしいって事ね。

 自分でも「らしいらしい」ってくどいと思うわ。

 だけどこの護符の効果については本当に信じられない事ばかり言われるの。



 海の上の橋を渡って門をくぐると迷宮の入口へとすぐに着いたわ。

 噂に聞いていた程、迷宮の入口は大きくなかったわ。

 迷宮の入口になる階段の広さはわたしが両手を広げても両側の壁には届かないくらい。

 一人で通るのには広いけど、戦闘をする時は少し狭い、と思うくらいの広さね。

 迷宮の入口を見るだけで『神が創った』と誰もが感じるなんて嘘ね。

 誰もが感じない理由として、少なくとも一人、わたしが神を感じる事は無いわ。



 わたしは少し緩んだ気持ちを今一度引き締め直して迷宮の階段を降り始めた。

 階段を降り始めると、すぐに辺りは暗くなり、入口と奥から差し込む光を頼りに進む事になったわ。

 奥からも光が差し込む事には少しだけ疑問に思ったけど、行けば分かる、と思い直したの。


「ひゃん!」


 天井から水滴が背中に落ちて変な声を出してしまったわ。

 誰も居ない迷宮で本当に良かった。

 情けない声を誰かに聞かれないで済んだもの。


 薄暗い中、手探りで壁を触ってみると、大分水が流れている。

 手のひらで水を受ければ、すぐに溜まるほどよ。


 今まで緊張しすぎていたのかも知れないわ。

 意識してしまえば、はっきりと聞こえてくる壁を伝い階段を落ちる水の音も、天井から落ちてくる水滴の音も、緊張していたわたしの耳には全く届いていなかった。



 天井から壁から水がしたたり落ちる階段を降りて行くと、急に階段が広がり、辺りの明るさも増した。

 わたしの目の前に『神が創った』迷宮が突然姿を現したの。



 神が創った階段を降りて行き本当の迷宮の入口がわたしの目の前にある。

 天井を伝わって来た水が「滝」……と言うには水の量が少ないわね。

 そうね「水の暖簾のれん」を作っていたわ。

 全く濡れずにここを通るのはわたしには不可能ね。


 神が創った部分とヒトが作った部分は明らかな差があったわ。

 見た目にも材質が違ったわ。

 そして何よりも神が創った部分からは水が漏れていない。

 最後までヒトが作った部分だった天井から伝わった水が壁にも階段にも流れているけどね。

 階段の広さは歩測で約十間(約18メートル)。

 おとう……館長から聞いていた通りの広さだわ。




 水の暖簾をくぐり抜けて、わたしの迷宮探索が始まった。

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