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銀色の月新月の日(ドカチーニ視点)

 時はユークリット達氷運搬輸送隊が斡旋屋に帰って来た時にさかのぼる。



………………



 お貴族様のきまぐれで氷運搬を命令された四人が無事帰って来た。

 シーリンとユークリットは返り血で汚れているが、大した怪我も無さそうで安心した。

 不死山ふじさんからの帰り道に商売をしつつ帰って来たと言うのだから大したものだ。

 隊長を務めた『たすきおじさん』と呼ばれる港湾施設の古株が、俺に相談があるらしい。

 だが、その前に俺の方から一言聞いておく必要があるな。

 俺の予想が正しければ道端に放置しておくような物では無い。


「帰りに商売をしながら帰って来たそうだが、今は何を積んでいるのだ?」

「ユイの漁港で手に入れたサクラエビだ」

「ユークリット。シーリンの指示に従って、大八車を氷室に入れてこい。今すぐだ!」


 俺は帰って来たばかりの二人へと指示を出した。

 予想通りだ。

 あんな高価な物を店の者しか使わない道とは言え、何も警戒せずに置いておくのは何かあった時に損害が大きすぎる。



 たすきおじさんからは氷室を貸す事への感謝の言葉をもらい、大八車を氷室へと入れたシーリンとユークリットは一度自室へと向かった。

 自室に向かう前にベスとアンの様子を聞いて来たユークリットへと一言だけ忠告しておく。


 二人はユークリットが出掛けるとすぐにベスが指示をして、アンが部屋の扉に飾る小さな看板を一生懸命作っていた。

 俺が同じ年頃のシーリンにやられたら立ち直れないと思う程強烈な言葉が掛かれた看板だ。


「ドカチーニさん。ベスとアンは?」

「自分の部屋に居るぞ。ただし覚悟を持って行けよ。かなりお怒りだぞ?」

「分かっています!謝って謝って謝りつくします!!」


 ユークリットの結果はすぐに分かるな。

 薄暗い廊下の先で土下座していやがる。

 あいつはこのまま放っておこう。

 ああ見えてベスもアンも頑固者だ。

 俺にまで被害が拡大したら手に負えん。



 シーリンは斡旋屋の仕事着に使う紺色の特注貫頭衣では無く、普通の白い貫頭衣を着て食堂へと戻って来た。

 俺の言う事を聞いて『今日は接客業はしない』と言うシーリンの意思だと受け取ろう。

 食卓には俺、たすきおじさん、ホルス、シーリンの四人が座った。



「それで俺に相談とは何だ?斡旋屋としての仕事か?冒険者としての仕事か?」

「そこなんだがな。どうにも今度の仕事は報酬をまともに受け取るには後ろ盾が必要になりそうでな。後ろ盾を頼みたい」

「お貴族様が相手では、斡旋屋としても冒険者としても、大した後ろ盾にはなれんぞ?」

「分かっている。今回後ろ盾を頼みたいのはフィーナ先生だ。彼女は貴族なのだろう?」

「ああ。彼女は貴族だが貴族であることをあまり良しとしていない。貴族で無ければ無償の治療が出来ないから貴族でいるだけだ。彼女を貴族との問題へと巻き込むな」


 たすきおじさんは明らかに落胆した顔をしているな。

 だが俺はフィーナを貴族同士の争いからは一歩でも遠ざけたい。

 それでも理由の一つくらいは聞いておこう。


「一応理由だけは聞こう」


 たすきおじさんからは、輸送隊に氷を早く運ばせる為に競争をさせ、最初の氷を手に入れると残りの氷を捨て、シーミズの港町へと船が帰った事を聞いた。

 当然とでも言うように他の輸送隊は報酬を受け取る為の割符を受け取っていないと言う。

 その為、彼は身の危険を感じて割符を飛脚でスーンプ城下へと送ったとの事だ。

 その割符はユイの漁港で受け取り、現在手元にあると言う。


 庶民を相手にしたお貴族様にとっては当然の行動と言った所だろう。

 たすきおじさんが懸念する通りだ。

 そんなお貴族様が相手では割符を持って行ってもまともに報酬を貰えるかどうか。

 ふむ。

 少し俺は考える。

 良い案は浮かばない。

 俺は良い案が浮かばなかったが、後二人廊下で俺達の話を聞いている人物が居た。



「あらあら。お困りのようね?あたしも今聞いたような貴族はゆるせないのよ?マリー時間が無いわ。ネモに執事として出掛ける準備をさせなさい。あたしの羽ペンを用意して。直筆でないと許されない方に手紙を書くわ。ドカチーニは羊皮紙を用意して。はい動く!」



 どうやら見知らぬお貴族様はフィーナの機嫌を損ねたようだな。

 こうなったフィーナは俺でも止められない。

 全く俺の周りには頑固者が多くて困る。


 フィーナは俺が用意した羊皮紙に直筆で短い文章を書くと封蝋ふうろうをして、ネモへと渡した。



「ネモ。マリー。陽が沈む前に必ず皇室の別邸にこの手紙を届けなさい。その後は返事を受け取るまでその場で待機よ。必ず何らかの返事をいただけるはずよ」


 ネモとマリーが連れ立って斡旋屋を出て行くが、陽が沈むまでに皇室の別邸へ行くのは時間的にぎりぎりだろう。

 徒歩では間に合わない可能性が高い。



「なぁフィーナ。何をした?」

「ちょっとした事よ。代わりに何を要求されるかは返事次第ね。理不尽な事は無いと思うわ」

「皇室の別邸へと手紙を送るのがちょっとした事か……」

「ありがとうございます。フィーナ先生。」

「まだお礼は早いわ。あたしにもどうなるかはまだ分からないの。色よいお返事がいただけると嬉しいのだけど」

「フィーナ先生は本当に貴族なのかい?あたいにはお貴族様には見えないよ」

「あらあら。あたしは金銀無い土地も無い配下も居ない立派な貧乏お貴族様よ」

「本当かい?」



 ホルスが何かを言いたいが我慢しているような顔をしているな。

 何だ?

 彼女はお貴族様が嫌いなのか?

 まあお貴族様を好きな庶民の方が滅多に居ないとは思うが。

 だが、彼女自身がそわそわした感じでフィーナを嫌悪している感じでは無い。


「ホルス。言いたい事があるならはっきり言って良いぞ?」

「そうかい?なら言わせてもらうよ。あたいもこの斡旋屋の住人になれないかい?」



 俺が全く予想しなかった『言いたい事』だ。

 今年の夏は斡旋屋の住人が増える一方だな。

 話をした事もほとんど無い相手だが、俺はホルスの事が嫌いじゃない。

 どのみち、こんなにもヒトが増えたのだ。

 今更、一人二人増えた所で変わりはあるまい。

 気に入らなければ、また追い出すだけだ。

 俺の直感は、こいつは『居つく』と言っているがな。



「もうすぐ新月だ。部屋代は来月からで良いぞ。前払いだ。部屋代千文、朝食夕食の賄いを付けると二千文で合わせて三千文だ。今月の新月まで賄いは無しだ。それまではここで食べるなら食事代を払え。貴重品を預けるならば一日四文、一月百文で請け負っている」

「分かったよ。三千百文でお願いするよ」

「良し。決まりだ!ホルス。これからよろしくな。シーリン後は頼んだぞ」


 俺は右手をホルスへと差し出した。

 互いに握手を交わす。

 俺が思った通り、彼女は仕事人の良い手をしている。


「よろしく頼むのさ」

「では館長。早速引っ越しの手配をします。ホルスさん今後もよろしくお願いします」

「シーリンも頼むよ。荷物は布袋一つだからさ。今から取って来るさ!」



 言うが早いか、ホルスも斡旋屋の食堂を出て行く。

 シーリンもホルスの受け入れ準備をする為に席を立つ。

 食卓には俺とフィーナとたすきおじさんが残った。



「たすきおじさん。あたしにはもっと詳しく話をしてくれるかしら?」



 フィーナへたすきおじさんが今回の氷運搬の事の顛末を俺に話すよりも詳しく話した。

 彼女は疑問点があるところは、きちんと彼へと質問をして、彼はしっかりと答える。

 俺は基本的に黙って聞いていたが、フィーナは一つの結論に達したようだ。



「まずは皇室からの返事待ちね。悪いようにはしないわ。あたしに任せてくれるかしら?たすきおじさん。勿論あなたも割符を持って話し合いには同席してもらうわよ?」

「皇室ってあの皇室なのか?それにおれがお貴族様の話し合いの席に行くのか?」

「そうよ。相手から直接質問されない限りあなたは居るだけで良いわ。ドカチーニ、そろそろ夕食を食べにお客様が来るわよ。あたし達はあなたの執務室を借りるわね。ネモとマリーが帰ってきたら執務室へ通してちょうだい」

「分かった。後は任せたぞ、フィーナ」

「ええ。任せておきなさい。あたしの娘シーリンちゃんと娘婿ユークリットに手を出した罰をそのお貴族様に教えてあげないとね」



 フィーナよ。

 娘のシーリンまでは許すが、娘婿がユークリットだと?

 俺は絶対に認めん。

 それにしても俺の執務室を最近はフィーナが勝手に使いやがる。

 それ自体は構わないが、ユークリットの件は後でフィーナと話し合う必要がありそうだな。



 その後、俺はシーリンもマリーも居なかったため夕食の給仕を買って出たが、思った以上に客の不況を買い二人の偉大さを知った。



 マリーがネモと共に斡旋屋へと帰ってきた時の酔っ払い共の盛り上がりと、共に厨房へと消えて行った時の怒号は建物が揺れるかと思うほどの大きさだ。


 一体いつから俺も店はこんなに騒がしい店になったのだ?


 元から騒がしくはあったが、客全体が一つになって騒ぐ店では無かった。

 フィーナが斡旋屋へ来てから店では文字通りの『半殺しの制裁』が毎日のように行われる。

 制裁が終わるとまた仲良く飲み始めるような莫迦ばかばかりが集まってきやがる。

 本当にこの夏は変化の大きい夏だったな。



 執務室での話し合いは閉店時間を過ぎても続いた。

 皇室からの返事は『翌日午前太陽が斜めの時間に話し合いの席を設ける』との返事だった。

 一体フィーナは何を書いて皇室へ送ったのだ?

 昨日の今日がまかり通るところが怖いな。

 フィーナを怒らせたお貴族様も皇室から突然呼び出された事に驚いている事だろう。

 明日の事もあり、たすきおじさんにはそのまま斡旋屋の空き部屋へと泊まってもらった。



 翌朝。

 日の出間近。

 俺が起きて食堂へ行くとシーリンが受付にいる。

 斡旋屋で一番起きるのが遅いのが俺だ。

 やはり俺の斡旋屋で受付をするのはシーリンが一番似合うな。


「おはよう」

「おはようございます。館長」

「たすきおじさんはどうした?もう起きたか?」

「彼はフィーナさんがネモさんとマリーを共にして出かけて行きました」

「そうか」

「何があっても遅刻だけは出来ないそうですよ?」

「行き先は皇室の別邸か?」

「間違いないと思います」

「そうか。今日もよろしく頼む」

「はい。任せて下さい」



 四人はすでに出掛けたか。

 俺はいつもの安楽椅子に座って用心棒稼業に専念だな。

 この椅子に座って朝ゆっくりと食堂を見るのも久し振りだ。



 ユークリットとホルスが仲良く港湾施設の荷揚げ屋の仕事を今日も請けるようだな。

 このまま二人結婚しちまえ。

 ユークリットの事は気に入っているが、シーリンの婿となったら話は別だ。

 この話をするならユークリットを俺よりも強い男に鍛え上げてからだな。


 あいつは坊主頭だ。

 誰とも結婚する気が無い可能性は高い。

 フィーナもその事は分かっているはずだ。

 シーリンとユークリットを結婚させたいなんて言うのは冗談のたぐいだろう。



 ユークリットが食事を持って自室に行きやがった。

 ホルスもついて行くのか?

 ベスとアンは結構頑固者だぞ?

 まぁ上手くは行かないだろう。


 ベルガーが朝食を運ぶたびに食卓からは溜息が聞こえてくるな。

 ここまで来るとマリーには斡旋屋から給金を出さないといけないな。

 欠く事が出来ない立派な斡旋屋の従業員だ。


 おっ。

 ホルスだけ帰ってきたのか?

 ユークリットが部屋の中へと入れて貰えたようだな。

 あの三人はこれで心配無いだろう。

 もともと親娘おやこ以上のつながりを感じるからな。



 さすがにこれから仕事に行くとあって、食堂の朝は夜のような騒ぎが起きない。

 ユークリットをはじめとした、湾岸施設の男達が食堂から消えると、俺も河岸の市へと買い出しに出掛けた。



 今日はフィーナが居ないから地獄めぐりをしなくて済む。

 いつもよりも時間を掛けずに買い出しを終えて斡旋屋へと戻れた。

 俺は再び安楽椅子の住人だ。



 昼食の時間が終わり客が居なくなろうとしている時に、フィーナ達の四人が斡旋屋へと帰って来た。

 俺は首尾を聞こうと思ったのだが「ユークリット達が来てからまとめて話すわ」との事だ。

 ネモとマリーは自分の仕事へと戻った。


 準備だけは整った。

 話の内容は俺もまだ知らない。

 最近の荷揚げ屋の仕事を見ていると、そろそろユークリットとホルスも帰って来る頃だな。

 そんな事を考えていると本当に二人が帰って来るのだから不思議なものだ。

 たすきおじさんに呼ばれてシーリンも含めた三人が俺達のいる食卓へとやってくる。



 フィーナの横にたすきおじさん、後ろに俺が立つ。

 シーリンの横にホルス、後ろにユークリットが立つ。

 六人で一つの食卓を囲み短い話が始まった。


「今回の氷運搬であなた達へ提示された報酬は四両。莫迦ばかげた話だったので皇室の裁判官に立ち会ってもらって、あなた達の氷運搬での行動を全て報告したわ」

「それでどうなったのだ?」

「たすきおじさんが詳細な資料を作ってくれたの。しっかりと報酬を取って来る予定よ」

「ほう。幾らだ?」

「輸送隊がタゴノウラから氷穴まで行きシーミズの港町まで帰って来るまでの平均的な日数と死傷者の数から割り出した危険手当を考慮に入れて、輸送隊一隊で一日二両十日分で二十両。それに約束の最初に届けた者には二倍の報酬を与えるとの話で四十両取って来る予定よ」


 一日二両って事にユークリットが驚いていやがる。

 死傷者の数が結構出たからだろうが、確かに相場の二倍は越えるな。


「裁判官はこれに納得しているけど相手が納得していないの。だからまだ報酬が確定していないのよ。悪いけど裁判が終わるまで報酬は待っていてね?」

「私は大丈夫です。何とか3両持っていますので……今月も支払いが金銀ですが……」

「あたいも大丈夫だよ。家賃の三千文なら十分稼いで持っているよ」

「わたしも問題ありません。たすきおじさんとフィーナさんには悪いですが、裁判を引き続きお願いします」

「分かったわ。たまにはあたしに任せておきなさい。せっかく貴族である肩書を持っているのに『今使わないでどこで使うの?』なんて思っているのだから」

「フィーナ先生。よろしくお願いします」



 たすきおじさんがフィーナへ深々と頭を下げてお願いをした。

 とにかくフィーナが動いた事で報酬が十倍にはなりそうだって事だよな。

 一体何をしたのか後でフィーナへ聞いてみよう。

 とりあえず今日で輸送隊は解散となった。

 ユークリットは貸していた大剣を「きちんと整備してから返す」と言ってくる。

 こいつのこういう所は本当に嫌いじゃない。

 たすきおじさんはサクラエビを売った収入を四人で分けた。

 利益が一万文近く出たらしい。

 一般庶民が稼いだ額としたら大したものだ。




 次の新月までの数日間はあっという間に過ぎた。

 斡旋屋へと住むヒトが増えたが日常が帰って来たと愛用の安楽椅子の上で感じていた。




 今日は楽しい新月だ。

 新たに住人になったホルスを始めとした全員が既に家賃を納めている。

 後はユークリットを残すのみだ。


 あいつは昨夜全財産をシーリンに頼んで下ろした。

 ユークリットが家賃を『銭』で払いきれない事はシーリンへ確認済みだ。

 あいつは今月も『金銀』で家賃を払う事になるだろう。

 自室で足りない銭束の本数を数えるあいつの姿が目に浮かぶようだ。



 俺はユークリットを何とか冒険者として育てたいと思っている。

 今まで『弟子』なんて者を考えた事は無かったが、ユークリットを弟子として育てたい。

 今月も冒険者として得た金銀で家賃を払うはずだ。


 ユークリットは「一般庶民として銭で暮らして行きたい」などと普段から言っている。

 根っからの臆病者だが、冒険者として大成する奴の多くは臆病者だ。

 臆病だからこそ、十分な準備もするし、警戒も怠らない、無理もしない。

 俺はあいつになんと言って冒険者の道へと誘うかを考えないとな。


 俺とシーリン、ベルガーの三人しか知らない事だがあいつが最初に着ていた服などは百両を越えた金銀で取引されている。

 しばらく遊んで暮らしても使い切れないくらいの金銀をあいつには黙って預かっている。

 あいつがここを出て行く時はまとめて払うがそれまでは内緒だ。

 俺は『あぶく銭』でヒトが幸せになったところを見た事が無い。


 冒険者としてあいつが途中で死んでしまっても、ベスとアンは俺の斡旋屋で最後まで面倒を見る。

 そのくらいの金銀はあいつからすでに預かっているって事だ。

 この事は今度フィーナにもこっそり伝えておかないといけないな。

 銀色の月の満月の夜に俺達小隊が全滅って事も考えられない訳では無い。

 あいつが「私が死んだらベスとアンはどうなるのですか?」と言って譲らない時の切り札ってやつだ。



 最後にようやくユークリットが現れた。

 あいつは左腕にベスを抱え、貫頭衣の腰の部分をアンに摘まませて廊下を歩いてくる。

 新月の打ち上げの準備は出来ている。

 後はユークリットが家賃を納め次第、新月の宴会へと突入だ。


 ユークリットはベスとアンを空いている食卓へと座らせて俺の所へとやってきた。

 黙って三両を俺の前に置く。

 シーリンに聞く限り、こいつの持つほぼ全財産だ。


「どうした?今月も金銀で払うのか?それに家賃は二両でお釣りが来るぞ。残りの一両はなんなのだ?」

「ベスとアンが留守中お世話になりました。この礼に金銀で払うのは失礼かも知れません。ですが私には他に返せるものがありません。少ないかも知れませんが納めて下さい」


 本当にこいつのこういうところは嫌いじゃない。

 ここで断るのは野暮ってものだ。


「ありがたく頂いておく。さてユークリット。俺の質問に答えてもらおう。お前は今月も家賃を『銭』で払う事が出来なかったな。このままで本当に庶民としてやって行けるのか?」

「その事についても相談があります。この場は皆さんも新月の宴会を待っていますし、後で相談させて下さい」

「それは斡旋屋の仕事としての相談か?」

「斡旋屋で仕事を探す相談です」


 少し今までと目付きが違うな。

 今回の旅がこいつに何かを感じさせる事が出来たのかも知れない。


「よし。後で聞く。まずはお前も席に着け。ベルガー。飯を配れ。宴会の始まりだ!」



 ベルガーとマリーが協力して宴会の食事を配る。

 俺は自分も席に座りながら食堂を見渡した。

 前々回の新月は俺とシーリンとベルガーしか居なかった。

 それが今はどうだ?

 端の食卓から、俺、シーリン、フィーナ、マリー。

 次の食卓にアルフィア、ネモ、ブラックとホワイトは数に入れて良いものかは知らんが席を埋めている。

 その隣の食卓にはユークリット、ベス、アンが狭そうだが三人並んで座り、向かいの席にベルガーとホルスが座っている。

 変わらないのは今月も冒険者達は新月に一人も帰って来ていない事くらいか。

 本当にこの夏で俺の斡旋屋が大きく変わったものだ。


 ベスとアンは餓死寸前のところをユークリットが保護してきた。

 フィーナとマリーはユークリットが魔壁蝨まだにに噛まれて俺の踏ん切りがついた。

 ネモとブラックとホワイトはユークリットの同郷人だ。

 アルフィアだってユークリットが機転を利かせて港の子供達を連れて来なければ手足の再生はされていなかっただろう。

 最後のホルスもユークリット関係者だ。

 おいおい。

 本当にユークリットがここへ漂着した事で俺の斡旋屋が変わったのだな。



「長い挨拶は必要ないだろう。来月も皆が仲良くやって行ける事を望む。本来ならば休みになるところをベルガーとマリーの好意で賄いが出る。二人に感謝して食事を頂こう。いただきます!」



 食堂に居る皆で「いただきます」と挨拶が返り、あとは無礼講となった。

 酒の飲むものがほとんどいない宴会が始まるとすぐにユークリットが俺の元にやってくる。

 こいつは俺が今一番望んでいた言葉を言ってきた。


「ドカチーニさんお願いがあります。ベスとアンには内緒にする条件で冒険者としての少しずつ仕事を斡旋して下さい」

「何か気持ちの変化があったのか?」

「金銭の問題もありますが、ベスとアンを立派に育てるには、私自身が強くならないといけないと今回の旅で感じた事が一番です」

「そうか。ではベスとアンには黙っておく条件として俺の『弟子』になれ」

「むしろこちらからお願いしたいくらいです。よろしくお願いします!」


 深々と俺へ頭を下げるユークリット。

 俺は『こいつをどう鍛えていくか』頭の中はそればかりを考える。

 明日からが楽しみで仕方が無い。




 今日は俺にとって近年で最高の新月の日になった。

 ここまで私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございました。



 長いあとがきになります。


 2018/12/16累計PV25000ユニークアクセス4500を達成出来ました。

 読者様には本当に感謝の気持ちで溢れておりますが、突然増えたアクセス数に私本人は戸惑いを隠せません。

 とてもとても嬉しくて光栄な事であり、来年以降も毎日更新を続けようかと迷うところです。


 しかしながら私は部分別累計を独自で集計をしております。

 2018/12/16現在 第1部分 691  第2部分 405  第3部分 324  第4部分 307

 となり、それ以降は徐々に減って行きますが減少幅は落ち着きます。

 その後『8の月』の長い番外編で 第74部分 107 → 第98部分 52 と一気に半減します。

 初日・2日目のアクセス数は現在最新部分で 第117部分 27

 最近でもっとも少なくなった 第97部分 14  から比べたら倍増しております。

 あのエッセイ以降、最新話を読む読者様がいきなり倍増したのですから、別作品とは言えランキングに載ると言うのは凄い効果があるものだと実感しました。

 ですがここが私の書く妄想しょうせつの限界なのかも知れません。

 それでも私はこの妄想しょうせつを続けたい。


 読者様が増える転機になったエッセイをきっかけにして『読者様に愛される作品』を見に行きました。

 とある作家仲間様から他人のアクセス解析が出来る事を教えていただき、私は真実を知りました。

 『読者様に愛される作品は第1部分から第4部分までに9割以上の読者様が残る。私に足りないのは分母では無くて分子だった』

 手に取って(目を通して)もらえた時点が掴みであり、第1部分から第4部分までに読者様が半減する事が悪いのだと知りました。

 完全に私の実力不足です。

 120話書いて、どれだけ自分の文章力が上がったかは分かりませんが、現在自分が一番だと思う事をやりたい。

 私は括弧内で最後に句読点を付けない事を知ったのすら最近の事と言う文章力の無さです。

 この先の本編を続けるにあたり、このままだと読者様が確実に『0』になる。

 そうしない為の過去本編の改稿です。

 4ヶ月掛けて少しくらいは上がったと信じたい文章力で過去本編を改稿したい。

 下手くそな文章で離脱していく読者様を少しでも減らす努力をしたいと思います。



 自分が決めた目標の『年末まで毎日更新を続ける事』だけは達成できました。

 今年は最後に一回、番外編を12/28に予定しています。

 毎週更新を始めるのは2019/01/25金曜日19:00からの予定です。

 一ヶ月以上更新しない事を避ける為だけに今年最後に一回だけ番外編を予約更新します。



 私はこれから本編の大幅な改稿を始めます。

 改稿にあたり、ここまで私の拙い妄想しょうせつを読み続けていただいた皆様に約束をします。


・必ず毎週更新の予約をしてから改稿作業をします。

・時間は今までよりも掛かると思いますが本編制作を続ける事もやめません。

・改稿にあたり、最初から読み直しが必要になるような事はしません。

 ・具体的には今まで出てきていないキャラクターを増やす事は絶対しません。

 ・世界設定や大きな話の流れを変えたりはしません。

 ・例外はホルスたんとの出会いの矛盾点の解消と、ネモが一日に二人いる事の解消です。

 ・他、改稿中に決定的な矛盾点を見つけた時のみを例外とさせていただきます。

 ・改稿にあたり主な作業は文章自体の推敲と、場面場面における細かいエピソードの追加。

 ・現在書かれている事までの伏線になるようなエピソードの追加等を計画しております。

 ・改稿して一話があまりにも長くなる時は分割を考えていますが実行するかは未定です。

 ・第1部分を改稿しましたので気になる読者様は確認をしてもらえると嬉しいです。

・最後にわがままですが、この作品以外にも書きたいものがあります。

 ・私の脳内お花畑から突然生まれる妄想を不定期で落とす事をお許し下さい。

 ・『冬の童話祭』とか色々な企画にも参加してみたいです。


 以上の事を読者様に約束をして今後は毎週更新とさせていただきます。



 毎日更新の最後の挨拶となりますが、

 最新話まで読んだ後感想まで下さった読者様、

 ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新でした。

 最後までお付き合いして下さった皆様からのアクセスを感謝して毎日更新を終わります。


 色々と足りない未熟者ですが、来年もお付き合いを頂ければ幸いです。

                          2018/12/17 何遊亭万年

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