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 番外編1:ユークリットの初銭湯

 番外編は基本一話完結になっております。

 毎日更新を続けた時の名残ですが楽しんで頂けたら幸いです。

 この話はまだ俺がこの世界を異世界と確信していなかった時の話。

 第4部分「見過ごせない事」までに起きた体験談。

 男のパラダイスを夢見て砕け散った夢の残骸だ。




 港の換金所でたすきを銭に替えて、ドカチーニの斡旋屋に帰る途中に一本の高い煙突を出した2階建ての港湾施設がある。

 ここが銭湯である事は確認済みだ。

 入浴料は大人1回8文。

 「つけ」と言う後払いもあるが現金払いが「いき」と言うやつらしい。

 初めて入るような所には少し抵抗感がある俺だが、風呂に入りたい欲望がそれを上回った。



 「ゆ」と書かれた暖簾のれんをくぐるとそのまま脱衣所になっていて上がり口は履物を脱ぐ場所になっており、そのままそこが番台となっていた。


「おや? あんた初めての客だね。入浴料は八文だよ。履物はここで脱ぎな。着物は脱いだらかごに入れて棚に並べな。文字は読めるかい? 篭には文字が書いてあるから自分のを覚えて他人の物と間違えるんじゃないよ。二階は遊び場になっているけど別で銭が掛かるよ。行くなら上で改めて銭を払いな。後は他人を見習って自分で学びな」


 四文銭を2枚用意して番台に置きながら、しわだらけのばあさんに質問をする。


「男湯はこちらで良いのですか? あと体を洗う物は売っていますか?」

「男湯? うちはそんな上等な銭湯じゃないよ。男も女も老いも若きもみんな同じ湯さ。てぬぐいは貸し出しはしているが売ってはいないね。貸出はてぬぐい一枚四文だよ」


 混浴……だと!?


 借りたてぬぐいは洗濯はしてあるものの使い古されている。

 全力で妄想しろユークリット!

 こいつを俺の前に使ったヒトが美しい女性である事を!

 追加の4文を番台に置いてワクワクしながら脱衣所へと上がった。


 現在脱衣所には男しかいないが、求めるモノは絶対にいるはず!

 急いで貫頭衣を脱ぎ篭へ入れ、脱いだ服の上に今日の稼ぎである銭束を無造作に置いた。


 正直、日本の治安の良さを基準にしてしまっていた。

 仕事上の付き合いで初めて行ったパチンコ屋の光景は俺の度肝を抜いている。

 パチンコの席取りに平気で財布や携帯電話など貴重品を置いていく国。

 冷静に考えれば盗まれても文句が言えない状況だと思う。

 だけどこの瞬間は俺の意識はまだ見ぬパラダイスへと飛び立っていたんだ!



 木戸になっているので中は見えないが希望の扉を開けて洗い場に入る。



 絶望した!

 見渡す限り男!

 獣人の着ぐるみを着たヒト達の性別は良く分からないが多分男。

 銭湯ですら着ぐるみを着たキャストを配置している事には頭が下がる。


 ガクリと膝を落とし両手を付く「 orz 」ポーズの俺にすぐさま怒声が飛ぶ。

「早く扉を閉めろ! 湯気が逃げるだろうが!」

「すみません!」


 一言謝りを入れて絶望の扉を閉めた。

 絶望の排出口は塞がり濃度が急速に増していく気分だ。


 中に居るヒト達の一点をチラチラ確認するが股間には俺と同じものを全員がぶら下げていた。

 しかも基本は力仕事をしている男達だ。

 みんな良い体してやがるぜ。

 筋肉祭りだ。


 番台のばあさんにも「他を見習って自分で学びな」と言われたしな。

 と自分に言い訳をして一人一人の有無を確認していくが無いものを見つける事など出来なかった。

 血走った目で一人一人のある一点を確認している俺に、時々熱い視線を返してくるヒトが居る事にその時の俺は気付く事が出来なかったんだ……


 有無の確認をしながら番台のばあさんに言われた通り他のヒトを見習って作法も覚える。



 基本は日本の銭湯と同じだ。

 似ている部分を箇条書きする。

・まずは体を洗ってから湯に入る。

・体を洗う為の湯は入る為の湯とは別に専用で用意されている(湯舟からは湯を取らない)。

・湯船の前全体が洗い場になっていてどこで洗っても良いようだ。

 残念だが、シャワーも石鹸も無い。てぬぐいで体を綺麗に拭いてから掛け湯だ。

・湯船に入る時はてぬぐいを頭の上に乗せて入る(更に銭束が載っている)。


 日本と大きく違うところを箇条書きする。

・混浴(真偽を確認できず)。

・三助と呼ばれる背中を流したりマッサージをしてくれるヒトがいる事(有料)。

・潜り戸のようなものが何か所か付いているが基本三助と一緒に入る事(料金上乗せ)。

・腰に今日の稼ぎを紐で提げている事(湯船に入る時にはてぬぐいの上に載せる)。

・湯舟に入る時には「冷者でござい」と声を掛けてから入るところ。


 他にもあるかも知れないが、とりあえず見て分かったのはこんな所だ。



「冷者でござい」

 と断って湯船に浸かると、隣のヒトが声を掛けてきた。

 港湾施設で話を出来るヒトが未だに皆無な俺にとっては嬉しいことだ。

「お前。最近荷揚げ屋を始めたばかりの新人だな。銭湯は初めてか?」

「はい。そうです。ユークリットと言います。よろしくお願いします」

「そうか。まぁお前の名前なんてどうでも良いんだが、今日は色々諦めろ」

「どう言う事でしょうか?」

「銭湯では男女『の』交わりは禁じられている。破れば最悪死罪だ。他の銭湯には三助部屋や湯女部屋ってのがある所もあるがここには部屋があっても、湯女ゆなが居ない」


 湯女と言う聞きなれない言葉も気になったが強調された『の』の方に寒気を感じる。


「後は、おれ達が伊達や酔狂で今日の稼ぎを身に着けてる訳じゃない、って事だ」

「よく分かりませんが次回からは自分も稼ぎを腰に下げる事にします」

「そうしておけ。何があっても騒ぐなよ。皆、一日の疲れを取りに来ている。今回は自分が悪かったと反省しろ。男同士でも目に余れば私刑だ。ぼこぼこにされて追い出されるぞ」

「ご忠告ありがとうございました。話は変わるのですがここは混浴では無いのですか?」

「お前は港湾施設で仕事中に女性を見た事があるか?」

「…………」


 俺はこの問いへ即座に答えられなかった。

 これまでシーリンさんと銭湯ばあさん以外に見た記憶が無い。

 絶対に他にも居るはずだが、俺の行動範囲では見当たらない。

 てぬぐいに対する希望も打ち砕かれた。

 混浴だ。

 今度ダメもとでシーリンさんを銭湯に誘ってみよう。


「さて、おれは巻き込まれる前に行くが自分の身は自分で守れよ? どうやら衆道の気は無いようだが、熱い視線を全方位にまき散らしていたお前が悪い」


 この時にもらった先輩の忠告はすぐに実感する事になる。



 サワリ。

 先輩が出て行った後に隣に来たヒトと腿の内側が接触したので「すみません」と一言謝って少し離れる。


 サワリ。

 今度は反対側のヒトと腿の内側が接触。

 少し込み始めたか?


 同じように「すみません」と謝って丁度中間になるように距離を取ろうとしたが距離を取る事が出来ないばかりか両隣密着状態へとなっていた。

 ステレオ状態で聞こえる「お兄さんの熱い視線はお湯以上にあたいの体を熱くさせたわ」の野太い声。


 これか!


 先輩の忠告を守り、思わず出そうになった悲鳴を出さないように口を押えた。


「まあ。可愛い仕草。そそるわ!」


 何が「そそる」だ!

 むしろ「そそり立つ」になっているじゃないか!


 湯舟はまだ空いているところが多いのに俺の周りにヒトが増えて人口密度が増している。

 都会になった俺の周りでは高層ビルが建ち始めているのは気のせいか?

 全員息が荒いのは湯で温まったせいだよね?


 5.1chスピーカー状態になる前に「お先に」と言って湯を出る事にした。

 湯自体は気持ち良かったのでもっと長く入って居たかった。

 希望の扉を開けて脱衣所へと戻る。

 薔薇色の湯気を浴室へと閉じ込める。



「あんたが迫りすぎるから出て行っちゃったじゃない!」


 脱衣所にまで聞こえてくる声が響く。


「うるせぇ。黙りやがれ! この〇〇〇野郎!」


 の返しと共に洗い場が途端に賑やかになった。

 肉と肉が激しくぶつかり合うような音が聞こえてくる。

 殴り合いの喧嘩が始まったと確信するが絶望の扉を再び開ける気にはなれない。

 先輩の忠告を守って静かにしていて良かった。



 だが俺の苦難はまだ続いた。

 着替えの上に置いていた銭束が全て無くなっていた。


 盗難イベントか?

 こんなイベントは要らないぞゲームマスター!


 それでもバラになった銭を置いて行ってくれたのはゲームマスターの優しさか?

 先輩荷揚げ屋との約束を守り、こいつも騒がない事にした。

 銭湯で大きな声を出すのは三助を呼ぶ時と喧嘩する時くらいのものだった。



 湯上りの牛乳代は残してくれたんだ。

 今回は勉強だと思い、良しとしよう。

 これもイベントの1つだ。

 2階の遊び場に上がるのは今度来た時の楽しみってやつだ。



 混浴も確証は得られず、一日の稼ぎも残った気力も根こそぎ取られて散々ではあったが銭湯の湯は気持ち良かった。

 明日も来よう。

 今度は腰に稼いだ銭ぶら下げて。


 さて、どうやってシーリンさんとの銭湯フラグをたてようか?

 この異世界企画。

 女性が少なすぎだよな?

 最初のルート選択をやはり間違えたのだろうか?

 このルートの異世界無双や異世界ハーレムの入口を探さないとな。


 この瞬間だけは最初の選択で冒険者を選ばず荷揚げ屋を選んだ事を後悔していた。


 女性との出会いが少なすぎるぞゲームマスター!

 俺はノンケだ!

 ストレートだ!

 男の裸も熱い視線も要らない!

 チェンジを要求する!!



 こうして俺の初銭湯は終わった。

 得たものは少なく失ったものは大きかった。

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