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あたいの角の使い方(ホルス視点)

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。


 2018/12/06累計2万PV、2018/12/08累計ユニークアクセス4千を達成出来ました。

 今までアクセスして下さった全ての読者様のおかげです。

 この前書きを読まれている読者様には一層の感謝を申し上げます。


 今回の番外編は短い期間でしたが前回の本編をいつものように三行で


・どこかのお偉い貴族様のわがままで不死山ふじさんの氷穴まで氷を採りへ行く一行。

・ユークリットは左腕に深い怪我を負い、自分の手で命を奪った事を自覚し茫然自失。

・そんな中でも輸送隊は依頼された不死山の氷を的地まで無事届ける事に成功した。

 

 毎日更新の最後の本編となります。

 色々と足りない未熟者ですが、最後までお付き合いを頂ければ幸いです。

                          2018/12/10 何遊亭万年

 シーリンが突然「狼が居るから気を付けろ」と指示をだしたのさ。

 突然って事は無いね。

 狼に襲われたと思われる大八車の横を通ってるのだからさ。


 氷を載せた大八車を牽引する最中、暗い林の影から狼があたいを襲ってきたのさ。

 その時のあたいは足がすくんじまって何も出来なかったよ。

 そいつをユークリットが槍を投げて狼の注意を引き付けて自分の身を犠牲にしてあたいを護ってくれたのさ。


 あいつが死んだ嫁に貞操を捧げて坊主頭にしているのは惜しいけど、誰のものにもならないってだけで、あたいはなんだかほっとするよ。

 あいつはこの旅の間、何度かあたいの横で寝たけど、何もしてこなかったよ。

 誠実な男だよ。

 坊主頭の意味を知らないなんて言っているけど、本当は知っているのじゃないかい?

 あいつにとってはあたいに女としての魅力が無いだけなのかも知れないけどさ。


 荷揚げ屋として好敵手であるあいつ。

 あたいはなんだか気が付くと、数歩先を歩くあいつを見ちまっているのさ。

 あいつは、狼の腹を裂いて見事に撃退したはずなのに、その後の様子がおかしいのさ。



 あいつは今、どこか気が抜けているよ。

 左腕の傷が痛むって感じでも無いし。

 前を歩くユークリットに、いつも足りないと歯がゆく思う『覇気』ってやつが今夜は完全に無くなっちまっているのさ。


 物音に反応して槍を構えたりしているが、おびえているのが、あたいにも分かるのさ。

 それでも何事も無く氷を運ぶための舟が待つ水路の始まりの集落までたどりついたのはあたい達の運が良かったのかねぇ。



 門番が言うには「夜の間は門を開けない」って事さ。

 あたい達は集落の門の前で待つ事になったよ。

 その間あいつはあたいが話し掛けても上の空だったのさ。

 あたいは眠いのを我慢して心配して、あいつへ声を掛け続けたのにさ。



 朝日が昇って、門が開くと、たすきおじさんはすぐに宿の手配をしてくれたのさ。

 氷を舟へ届けて地図を割符に変えた後は、今日一日はここで休む事になったよ。

 明日の朝までこの集落で大休憩って事さ。

 あたいも魔力切れ寸前だったから、おじさんの提案に喜んで応じたのさ。


 たすきおじさんは、氷運搬の舟にいる偉いヒトと何やら難しい話をしているよ。

 おじさんが「話が長くなりそうだから先に休んでいてくれ」と言うからさ。

 あたい達は先に、たすきおじさんが手配した宿で休む事にしたよ。

 宿に荷物を置くと、シーリンがユークリットを連れて教会へと行くのがあたいは少し嫌だったけど、あたいも魔力の限界だったのさ。

 本当はあたいが行きたいけど、今回はシーリンに譲る事にしたのさ。



 昼飯にするという事であたいはたすきおじさんに起こされたよ。

 あたいは寝台に寝転がった瞬間からぐっすり寝ていたみたいだね。

 あたい達が泊る部屋は二階部分で四人同部屋だけど一応個室。

 たすきおじさんは宿代を大分奮発したようだよ。



 宿屋の食堂は一階にあるから、あたいは下へと降りたよ。

 食卓に並べられた食事を前にしてユークリットとシーリンが言い合いをしていたよ。


「だからあなたは莫迦ばかですか?その腕の傷で何が出来ると言うのですか?」

「高原には怪我人も残っているようですし、大八車へと氷を積んだら動けない怪我人が運べないじゃないですか?」

「どうしてわたし達が命の危険をさらして助けに行く必要があるのですか?」

「怪我人はどうなるのですか?」

「それが冒険者です」


 あたしが見る限りユークリットの怪我が治っていないよ。

 全身擦り傷だらけで、左腕には怪我の縫い跡が残ったままさ。

 縫い糸がシーリンの髪の毛かと思うとあたいは少し嫌な気持ちになるよ。

 ユークリットは新たに体中軟膏が塗られたみたいだけどさ。


「ユークリットは朝から何を怒っているのさ!それよりあんたは傷を治さなかったのかい?」

「ホルスたん今は昼ですよ?」

「あたいが起きた時が朝なのさ!」


 ユークリットの正しい指摘に苦しい言い訳をしながら、あたいは食卓の空いた席、シーリンの隣に座りながら聞いたのさ。


「残念な事にこの教会には回復魔法の使い手は居ませんでした」

「ポーションってやつはどうしたのさ?」

「残念ながら品切れのようでした」

「それで、あんた達は何を言いあっているのさ?」

「ユークリットが他の輸送隊で出た怪我人を迎えに行くと言っているのです。途中の林に狼だっているのですよ?」

「だから行くのです。シーリンさんは怪我人がどうなっているのか心配じゃ無いのですか?」

「その話とこの話は別の問題だと思いますよ」


 今まで黙って二人の言い合いを聞いていた、たすきおじさんが一言提案したのさ。


「受付嬢は冒険者として依頼を請ければ迎えに行っても良いと思っているのか?」

「わたしへの指名依頼の話ですか?そうですね。請けると思います。それが冒険者です」

「筋肉兄貴は怪我人を助けて何が欲しいのだ?」

「怪我人が居るから助けに行く。それではおかしいのですか?」

「ヒトとしては間違ってはいないが、あまり一般的な考え方では無いな。流石は常識記憶喪失者ってところだな」


 あたいも一言だけ口を挟む事にするさ。


「ユークリット。あんた『無料ただより怖いものは無い』って言葉は知っているかい?」

「ええ。知っています」

「きっと、あんたが命懸けで高原にいる怪我人を助けに行っても疑われてお終いさ」

「ええ。きっとそうなりますね」

「普通に考えたらそうなるな」


 ユークリット以外の二人はあたいの意見に賛成してくれたよ。

 彼だけが納得のいかない顔をしているのがあたいにも分かるさ。

 全くどういう育ち方をしたら、こんなお人好しに育つのさ。


「シーリンさんへの報酬は私が払います。シーリンさん。付き合って下さい!」

「また私に『付き合って下さい』等と言っていますよ?口調を改めて下さい。加えてあなたの懐事情を一番知っているのはわたしですよ?そんな事に銭を使ってどうやってベスとアンを養うつもりですか?あなたは本物の莫迦ですか?」

「それは……」


 あたいは二人のやり取りに少しだけ胸がチクリと痛んだよ。


「あんた達は教会へ、怪我を治しに行ったんじゃなくてさ、結婚式でもあげてきたのかい?」

「「違います!」」

「今の会話だけを聞くと、おれも夫婦だと疑うようなやり取りだったな」

「おじさん。冗談でも勘弁してください」

「では冗談は抜きで行くぞ。おれは怪我人を助けに行っても良いと思っている。他の部署とは言っても同じシーミズの港で働く仲間だ。今後の事を考えれば十分な成果になると思う」

「おじさん!」


 喜ぶユークリットを落ち着かせる様にたすきおじさんは彼の肩へと手を載せたのさ。


「但し、いくつかの条件を付ける。それを守れない時はこの話は無かった事にするぞ」

「はい!」



 その後、たすきおじさんから出た条件はこんな感じだったのさ。


筋肉兄貴ユークリットだけでなく筋肉姉御ホルス受付嬢シーリンの三人で出掛ける事。

・大八車は途中の林に捨てられているものを使う事。

・大八車が壊れて使えない時は諦めて帰って来る事。

・怪我人として運ぶ冒険者や荷揚げ屋からきちんと報酬をもらう事。

・今日から三日以内、遅くても四日以内にこの集落へと帰って来る事。

・決して徹夜の行軍をしない事。

受付嬢シーリンの判断には必ず従う事。


 今から出ても高原に着く頃にはもう夜中さ。

 たすきおじさんも結構無茶を言うよ。

 結構ぎりぎりの日程じゃないかい?

 だけどあたい達三人は出発を決めたのさ。

 ユークリットは食料と水、あたいはシーリンが使う予備の手裏剣を持ったのさ。

 たすきおじさんに見送られて、三人共ユークリットの槍を片手に持って集落を出発したよ。



 シーリン、あたい、ユークリットの一列になって三度目の登り坂の林の中を通ったのさ。

 陽があるうちにこの林を通ったのは初めてだって、あたいはすぐに気付いたのさ。


 何故って?


 林の中が結構奥まで見通せるのさ。

 下草が覆い茂っているから、昼でも気を付けないといけないさ。

 だけど夜に通った時は、道しか見えないし林の中は暗くて、あたいはずっと怖かったのさ。

 明るい林が森林浴でもしているみたいで、あたいはなんだか遠足をしている気分さ。


「空気が気持ち良いねぇ」

「そうですね。シーミズの港町に比べると空気が清々しくて、その上、幾分涼しいです」

「狼は大丈夫なのですか?」

「安心して下さい。今のところは気配を感じませんね。とにかく陽が暮れる前に大八車までは行きましょう。大八車の状態をしっかり確認したいです」

「陽が暮れる前に着きそうかい?」

「この歩行速度なら間に合うと思います」

「それなら良かったよ」



 あたい達は遠足気分でその後の林も大八車まで行けたよ。

 夕方近くに大八車へ着いた時にシーリンの様子が変わったのさ。



「ユークリット。大八車の点検をして下さい。わたしは狼達を牽制します」

「狼が来ているのかい?」

「そのようですね。ですが学習をしたのか、わたしが手裏剣を投げる素振りを見せると距離を取ります。先日よりは手裏剣の消費量が少なくて済みそうです」

「そうかい?あたいにはさっぱり分からないけど、頼むよ?」

「あなたも大八車の牽引を頼みます。ユークリット。急ぎなさい」


 大八車の下を覗いたり、車輪を確かめたり、あたいにはユークリットが何をしているのかは分からないよ。

 だけど、あたいは自分の仕事をするだけさ。

 槍と予備の手裏剣を大八車の荷台に置いて、いつでも出発できるように準備したのさ。


「確認した所、大八車に目立った故障個所はありません。後は動かしてみないと私には判断出来ません。一つ言える事は、おじさんの用意した大八車に比べると少し品質が落ちる車です」

「分かりました。ホルスさん。牽引よろしくお願いします。ユークリットは彼女の護衛に付きなさい」

「イエス・マム!」

「頼みますよ」



 あたいの知らない言葉でシーリンへ答えるユークリットに腹が立ったのさ。

 二人で仲良く、あたいはものかい?

 あたいは時々『二人が何も言葉を交わさなくても分かりあえてる』と思う時があるさ。

 それをふと思い出したら、なんだかあたいは胸がもやもやしてきたよ。

 あたいは『速く歩くのさ』とばかりに、ユークリットの広い背中に角を突き立てながら大八車を勢いよく牽引したさ。

 

「ホルスたんつの!角が背中に刺さって痛いです!」

「あんたが遅いから後ろから押してあげているのさ。あたいに感謝して欲しいよ!」

「ホルスたん駄目。これ以上速く歩くと私の体力が持たない!」

「ちょいと駆け足ぐらいの速さで何を音を上げているのさ!情けないよ!?あたいは大八車だって牽引しているのにあんたは弱音を吐くのかい!?狼も来ているんだよ?」



 やっぱりユークリットじゃあたいの恋人にはなれないよ。

 あたいが恋人にする男はあたいだけを見てくれる男さ。

 そこは絶対に譲れないよ。

 急いでいる事だし、あたいのいらいらをユークリットへとぶつけさせてもらうのさ。



 ユークリットの背中を角で突くのが思いの外楽しくなってきて追い掛け過ぎたからかい?

 ほんの少しの間でユークリットの魔力が切れた見たいで「ぜぇぜぇ」と息を荒くしているのさ。

 信じられない光景さ。

 これだけの魔力を持った男が、簡単に魔力切れを起こしているよ?

 魔力切れを起こしているくせに身体強化魔法を意地でも維持し続けているのさ。

 本当にこの男はあたいと同じで莫迦なのかも知れないね。

 ユークリットはあきらかに歩く速度が落ちたよ。

 普段よりもずっと遅いくらいさ。

 あたいは荷台にユークリットを載せて大八車を牽引したのさ。


「一回目の登り坂では負けたけど二回目はあたいの勝ちさ!」


 その時は良い気分だったけど、荷台で横になってすぐに寝始めたユークリットを見て、あたいは思い返したのさ。

 ユークリットとシーリンは、あたいと違って徹夜かも知れないってさ。



 シーリンは時々手裏剣を補充に大八車へと戻って来るけど狼を一匹も寄せ付けないよ。

 自分の仕事を責任を持ってこなしているのさ。

 シーリンは凄いヒトさ。

 ユークリットの次の嫁がシーリンかも知れない事があたいにも分かるよ。

 なんだかんだと言いあいながらも仲が良くてお似合いの二人さ。


 だけどあたいは負けるのが嫌いさ。

 シーリンにだって、まだ負けた訳じゃないのさ。

 ユークリットがあたいだけを見てくれるなら、あたいの恋人候補にあげてやっても良いさ。

 あいつの死んじまった嫁は仕方が無いからあたいも一緒に受け止めてやるよ。


 そんな感じで強がってみてもさ、あたいは自分の角をあいつの背中に突き立てた事が恥ずかしくなって、高原までは残りの坂を黙って大八車を牽引したのさ。




 辺りは完全に暗くなっていたけど、二台の大八車を中心に拠点を作っている冒険者達の一行と無事合流した事にあたいは安心したよ。

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