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スケルトンとの対決

 氷運搬3日目。

 俺はシーリンさんが用意したロープを使って縦穴を昇りきった。

 そこへとアスリートフォームのホルスたんが泣きながら俺を抱きしめてきた。

 彼女の筋肉の硬さと胸の柔らかさの差が激し過ぎる!


 正直危なかった。

 ロープをしっかり掴んでいなかったら、今度は2人で仲良く縦穴に落ちていたところだ。

 俺の理性と気道をしっかりと保っていなければ胸の谷間で色々と落ちるところだった。



 俺の『理性』と『肺』と『右腕』良く頑張った。

 胸の極楽な柔らかさで頭を完全に包まれた気持ち良さに負けず、ロープを握り続けた。

 俺の右腕は最強魅了魔法『パフパフ』にも負けない『快楽耐性』を会得していた!


 柔らかな2つの山に囲まれて、声を出すのも困難だが、俺は何とか彼女へと意思を伝える。

「ホルスたん。落ち着いて。このままだと今度は2人で縦穴に落ちてしまいます。」

「悪かったよ。すぐにどくよ。あたいはあんたが無事で嬉しかったのさ!」


 ホルスたんが私から離れます。

 こんな時と場所と状況で無かったのなら、ずっと『パフパフ』してもらいたかったですね。

 無事に切り出された氷のある氷穴に戻るとシーリンさんがロープを使い上がってきました。

 彼女はロープを片付けて、氷穴を出るように私達へと促します。


 私は『自動機械人形』の事を気にしながらも、稼働に3ヶ月掛かるとの事なので今回は諦めて氷穴を出る事にしました。

 未練がましく竪穴をもう一度覗く私に対するシーリンさんの笑顔が凶悪で怖かったです。

 私の体中に出来た擦り傷へと彼女が軟膏を『塗る』と言うより『ねじり込んでいた』時のとてもとても楽しそうな笑顔とは対照的でした。



 大八車まで行くとたすきおじさんにも「無事で本当に良かった」と抱きしめられた。

 輸送隊で私を抱きしめてくれないのはシーリンさんだけだが、彼女にその事を言ったら俺へと唾棄だきしてくれるだろう。

 俺が酷い『め』には会うだろうが、彼女の行動には『め』が足りない。

 ヒトによってはご褒美かも知れないが、残念な事に俺にはその趣味は無い。



 そんな莫迦ばかな事を考えている俺の横でたすきおじさんとシーリンさんが真面目に話し合いをしている。

 荷車牽引係の俺とホルスたんは二人の話し合いを黙って聞いていた。

 どうやら、ここへ来る時に遭遇したスケルトンの話のようだ。


「かなりの強敵です。残念ながら、わたしでは討伐は難しいですね。」

「そうか。おれとしてはなるべく早く氷を運搬したいのだが……」

「わたしと交代して冒険者の小隊が向かいましたので、討伐していると嬉しいのですが……」

「他の輸送隊の事を考えると倒しておきたいな。」

「倒せる見込みがあるのはユークリットが振る大剣だけですね。」


 なにやら怪しい雲行きで俺の名前が出てきたな。

 シーリンさんや本職の冒険者が倒せないスケルトンを相手に俺が戦う?

 ジョーダンはバスケットシューズだけにしてくれ!

 2人が俺の方へと視線を同時に向けた。

 俺の心の中で言った使い古された寒いギャグを聞いた訳じゃないよな?


「受付嬢。一度様子を見て来てくれるか?」

「それが良いですね。何をするにも、まずは情報が必要です。」



 大八車を出発させる前に、シーリンさんが斥候へ行き、わずかな時間で帰ってきた。

 その間にたすきおじさんは冒険者へと護衛を頼んでいるが「小隊を二隊は氷穴に駐屯する必要がある」と言って、俺達の護衛について来た若い冒険者達も手放そうとしてくれなかった。



「状況は最悪の部類でした。冒険者が五人、新たなゾンビへと存在を変えています。」

「この場に居る冒険者の助力も得られない。俺達だけでは抜けられそうに無いか?」

「無理ですね。ゾンビ五体だけなら、わたしが何とか出来るかも知れませんが、あのスケルトンとは装備の相性が悪すぎます。救いはスケルトンが生者へと反応する距離が短いため、ゾンビとスケルトンを分断出来そうな事くらいです。」


 たすきおじさんは少しだけ悩んだ後に指示を出す。


「護衛の冒険者は付かない。選択肢は二つある。後続の輸送隊と冒険者を待つか。自力で樹海を突破するかだ。おれは、後者を取りたい。そこで筋肉姉御。」

「なんだい?」

「悪いが一人で大八車を牽引してくれ。おれも後ろから押すがあまりあてにするな。」

「荷物を運ぶ事はあたいに任せるのさ。ユークリットには絶対負けないのさ!」

「次は筋肉兄貴。お前さんは大剣を持って受付嬢と大八車の護衛だ。」

「おじさんが大八車を押すくらいにしか期待しないで下さいよ?」

「それだけ冗談が言えるなら大丈夫だ。みんな、任せたぞ!」



 俺達の大八車は氷穴を出発した。

 出発する前から、すでに俺のひざは笑っている。

 俺は『ひざの笑い』を隠す為にも魔物が出てくるまでは後ろから大八車を押し、代わりにたすきおじさんに後ろの警戒を頼んだ。

 シーリンさんは前方の警戒を強めている。



 氷穴へと向かう脇道から出て樹海のメインストリートに出ると、戦場はすぐそこだった。

 まだヒト族にしか見えない新しいゾンビが5体。

 こちらの生気を見つけたのか迫って来ていた。


 シーリンさんの予想通り、スケルトンは動いていない。

 素人の俺にでもスケルトンの怖ろしさが分かる。

 元冒険者4体は心臓を一突きされたのか、傷跡がそこにしか無い。

 残りの1体は切断された頭を首の上に載せている。


 元冒険者の5体全員が武器に対アンデット用と思われる鉄槌を持っているのが厄介だ。

 スケルトンとゾンビの距離が離れるとシーリンさんがゾンビの群れへと入って行く。

 ゾンビの鉄槌攻撃をダンスを踊るように回避しながら、小剣でゾンビの筋を斬っていく。

 瞬く間にゾンビの動きが鈍くなる。



 シーリンさんは動きが鈍くなったゾンビに対して、ゾンビが使っていた鉄槌を拾い、ゾンビの頭を徹底的に破壊して回った。

 5体のゾンビがミンチになるまで繰り返したシーリンさんには、ゾンビが新鮮な分だけ返り血の量も半端では無く、彼女は体の前面が半分以上真っ赤に染まっていた。


 シーリンさんが笑顔でこちらを見ている。

 あれはどう考えても「次はあなたの番ですよ?」と言っているようにしか見えない。

 血まみれの彼女の笑顔は俺に体の中で働く『マクロファージさん』を思い出させた。

 『マクロファージ』では無い『マクロファージさん』を思い出す。



 俺は大八車から大剣を抜き取り、彼女の隣に立った所で耳打ちされた。


「安心して戦ってきて下さい。あなたが負けてしかばねさらしても骨まで粉々に砕いて決してアンデットになんてさせたりはしませんから。」


 全く安心して戦えませんね!!

 だが俺は、シーリンさんが持つ鉄槌に希望を見た。

 ここに転がっている鉄槌は5本。

 道は岩がほとんどだが、砂地の部分もある。

 この距離からハンマー投げの要領で鉄槌を投げられないだろうか?

 とにかく試してみよう。


「シーリンさん。その鉄槌を私にください。」

「構いませんがどうするのですか?」

「少し試してみたい事があります。」


 スケルトンまでの距離はおよそ30メートル弱。

 この位置だとスケルトンはまだこちらへと反応していない。

 体の回転をスムーズに出来そうな砂地を選んでハンマー投げの要領で鉄槌をスケルトンへ向かって投げてみた。


 ハンマー投げは気分転換でしかやっていないし、投げるのは本物の大型ハンマーだ。

 全く自信は無かったが、自分が思っていたよりは遠くまで飛び、更に運が良い事にスケルトンへと命中した。

 相手の左腕が盾ごと吹き飛んだ。

 それでも相手はこちらへと向かって来ない。


 ここぞとばかりに残りの4本を投げたが、当たったのは最初の1本だけだった。

 1本当たっただけでも良しとしよう。

 相手は左腕と盾を失ったのだ。

 こちらが失ったのは草履だけ。

 砂地との摩擦の為か、草履ぞうりも結ぶ紐は千切れ、底も切れ切れだ。

 このまま草鞋を履いたまま戦った方が逆に足を取られそうだ。

 俺は『これから裸足生活か』と溜息と共に不安を吐き出してから、千切れかけた草鞋を脱ぎ捨てて大剣を担ぎスケルトンへと向かう。


 20メートルよりも近づいた頃だろうか。

 スケルトンが俺に反応して近づいて来た。

 俺は砂地である場で歩みを止め、大剣を右肩の上へと高く掲げて、一振りに懸けた。

 何かのアニメで見た事がある。

 『八相の構え』という奴である。


 相手の間合いに入る寸前、長さに勝る俺の大剣を振り落とす。

 それ以外に勝ち目が無さそうだ。

 『二の太刀要らず』

 言葉は俺の未だ衰える事を知らない『中二』を刺激するが自分でやりたいものじゃ無いな。


 スケルトンが少しずつ近づいてくる中、俺はアニメで会得した太刀筋のイメージだけは何度も脳内再生して固めていく。

 多少は裏庭での木人形との訓練が生きている。

 槍と大剣で自分が持つ武器は違うが、敵との間合いのイメージが自分の中に出来上がる。

 後はアニメと同じように大剣を振るえるかどうか。



 勝負は一瞬だった。

 俺の間合いに入ったスケルトンを左肩口から斜めに入った大剣の刃は様々な骨を砕きながら背骨と骨盤を両断して岩のように硬い地面で斬り止まった。

 地面と大剣が衝突した衝撃を俺は予想していなかった。

 両手が大剣を握り続けるのが困難なほどに痺れる。


 スケルトンは両断される衝撃を受けて、上半身の右半分が宙をくるくる舞っていた。

 彼(?)は残った両目(?)で狙いを定め、右手に持つ錆びた剣を俺の左腕、二の腕を深く貫き、骨で止まった剣は刀身の錆がもっとも酷い部分で折れた。


 アニメで刺された部分が『凄く熱い』と表現されるが、確かに痛いと言うよりも熱い。

 こんな事は死ぬまで知りたくも無かった。

 俺は武道で聞く『残心』と言う言葉を思い出していた。

 ほとんどのアニメでは『残心』などしない。

 相手を斬った時はそのまま勝った時だ。

 俺は『アニメと武道は違うのだな』と体で覚える事になった。

 腕へと刺さった錆びた剣は抜いておこうと手を掛けた所で大きな声で止められた。


「抜くな!!」


 シーリンさんが敬語では無い。

 あまり聞く機会が無い命令口調。

 俺は錆びた剣から右手を離した。

 シーリンさんが、その辺りに転がっている鉄槌を拾い、スケルトンを粉々にしている。


「とにかく樹海の中は暗いので、まずは樹海を抜けて冒険者達がいる拠点へと行きます!ユークリットは右手で左手が動かないように固定してついてきて下さい。良いですか?左腕を絶対に動かさないようにしなさい!」


 シーリンさんは、スケルトンを粉々にした後、ドカチーニさんから預かった大剣だけを大八車へと積んで、樹海の入口を目指した。

 最初は熱いだけだった刺された場所がズキンッズキンッと心臓に合わせるように痛みも増してくる。



 樹海を抜けて冒険者達の拠点に辿り着くと、有無を言わさずシーリンさんに猿轡さるぐつわをされる。

 口の端が痛くなるほど、きつくされた猿轡で全く口が動かない。


「ホルスさん。たすきおじさん。絶対にこちらに気を取られないようにして周囲の確認をお願いします。ユークリットはかなり痛いと思いますが我慢して下さい。」


 シーリンさんが慎重に俺の二の腕に刺さった錆びた剣を抜いていく。

 正直言って、覚悟していた程痛くは無かった。

 笑顔では無いシーリンさんを見れた分だけ得をした気分だ。



 だが本当に痛いのはこれからだったのだ。

 手にたっぷり化膿止めの軟膏を塗ったシーリンさん。

 彼女が傷口を広げながら、俺の腕の傷に残った錆びた剣の破片を取れる限り取っている。

 指で傷口の中を確認した後、どこから出したのか縫い針にしては長すぎる細く長い針のような金属の棒を2本使いはしの動きで見つけた小さな破片を取り除く。

 それを何度も何度も繰り返す。


 俺は、歯を食いしばって、痛みに耐える。


 俺は斡旋屋へ帰った時、ベスとアンへと「かすり傷は負ったけど無事だった」と報告しなければならない。

 絶対にうめき声を上げるものか!


 俺は『シーリンさん。俺が悲鳴を上げるまで傷口に軟膏を塗りこむ気ですね?』と疑いたくなるほど、彼女の指に傷口を丹念にまさぐられた。

 最後に彼女は箸代わりに使っていた細く長い針と彼女の長い髪の毛を3本ほど束ねて糸代わりにして俺の傷口を縫っていく。



 王女編みをほどいたシーリンさんを初めて見た。



 髪の毛は意外と長く腰付近まで伸びている。

 王女編みにする時の三つ編みでくせが付いているのか、緩くウェーブが掛かっていた。

 そして彼女の頭部には大きな傷口があり、その部分が見事にはげていた。



 俺の傷口を縫い終わると、彼女は王女編みへと素早く髪型を戻す。

 大きな傷口は見事なまでに隠れている。

 傷口がある事を知っている俺ですら、見た目には分からない。

 最後は極上の笑顔で彼女は俺に聞くのだ。



「何か見ましたか?」

「確かに見ましたが心の奥底に大切な思い出として誰にも話さず大事に仕舞っておきます。」

「そうですか?……素直なところは好きですよ……」



 何度も確認するが「素直に秘密を護るヒト」が好きであり、俺の事が好きでは無いからな!

 勘違いするなよユークリット!

 シーリンさんの方が、さっきのスケルトンより何倍も怖いだろう?




 刺された時よりも激しく心臓が『俺は生きている』と自己主張してくる。

 俺は自分自身へと何度も同じ事を言い聞かせて、自分の心臓を落ち着かせていた。

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