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ようやく訪れた異世界ハーレム?

 拠点に着くとシーリンさんが真っ先に『来る途中の登り坂で林の中に獲物を狙う狼の群れが居た』事を冒険者へと報告している。

 冒険者の部隊を取りまとめているヒトが、8人の冒険者を即時に林へと送りだした。

 自分では何も出来ない俺は他の大八車を牽引しているヒト達の無事を願うだけだ。



 俺達も休憩を取る事と今後の予定を冒険者と相談する事になった。

 本来ならこれから夜になると言うのに氷穴のある樹海に入りたく無いのがお互いの本音。

 だが、一刻も早く氷を届けないといけない事も事実だ。


 休憩が決まった途端にシーリンさんとホルスたんが2人で散歩へと出掛ける。

 鈍い俺でも何をしに行ったのか理解したので、今後は「ついて行く」などとは言わない。

 男に比べると女性は不便な事も多いな。


 俺とたすきおじさんはどうして居たかって?


 言うまでも無い事でしょう。

 男はどこでもします。

 この異世界は揉むとウェットティッシュも顔負けの素晴らしい草があちこち生えています。

 現代日本で使っていた安物のトイレットペーパーにはもう戻れません。

 貫頭衣も実用的です。

 座るだけで準備が万端整う素晴らしい服ですね!

 そして大草原の解放感が裸族の私にはたまりません。

 どうやら私は興奮しても心の中が敬語になるようですね。

 落ち着け『俺』!!



 2人が帰って来るとホルスたんは俺と腕を組みそのまま俺へ寄り掛かって寝てしまう。

 彼女はまた魔力切れ寸前まで大八車を牽引し続けていたようだ。

 『ここには冒険者の男性も多くいる事だし、彼女の安心の為にも腕くらい貸してやろう。』

 などと、上から目線で思っているが、薄い皮のエプロンと言える鎧の上からでもはっきり分かる彼女の胸の柔らかな重みを感じて俺の中にある『野生』と『理性』が綱引きをしている。


 少し遅れてシーリンさんは俺の隣に座って休憩を取り始めるが腕は組んでくれない。

 彼女が横に来てくれたおかげで、心の中の綱引き大会は完全に『理性』が勝ちを収めた。

 俺がそんな莫迦ばかな事を考えている間、たすきおじさんは1人で冒険者と交渉を続けてくれていた。



 たすきおじさんが交渉している所は少し遠いが聞こえてきた内容を簡単にするとこうだ。

 冒険者側は「日程に十分余裕があるのだから安全の為にも明日の朝を待て」と言う。

 たすきおじさんは「一度掃除をしているならば時間が経つと何があるか分からないのだから少しでも早く行動するべきだ」と言う。

 どちらにも一理あるが、俺としては安全をとって欲しい。



 俺は一応樹海で危険な事を知っておこうとしてシーリンさんに質問をする。

「どうして冒険者の皆さんは夜に樹海に入りたがらないのでしょうか?」

「樹海にはアンデットが徘徊しているのですが、夜の方がより危険ですからね。」

「アンデット?神の祝福を受けているのですか?」


 カタカナは神の祝福を受けたものに使う文字だと聞いている俺は驚いた。

 それでもきっと『アンデット』は俺の想像する『アンデット』に間違いないはずだ。


「神の敵としてカタカナが使われていますね。カタカナは神の言葉をヒトに分かり易くしたものです。ですから、金色の月の魔人には多くカタカナの名前がついていますし、本来は色々な言葉もカタカナを使って表現できるそうです。神の言葉を神殿が隠しているだけですね。」



 カタカナの事も以前から気になってはいるが今は置いておこう。

 それより『アンデット』の情報収集だ。



「アンデットと言うのは、死んだヒトがよみがえった魔物ですよね?」

「ヒトが蘇ったと言うのとは少し違いますね。ヒトとしての知性を無くしている事が多いですし、死体が何らかの力、ほとんどのアンデットは魔力で動いている事が多いですね。」

「噛まれたらヒトに感染して、噛まれたヒトもアンデットになるとかは無いですよね?」

「アンデットによるそうですね。わたしも詳しくは知りません。シーミズの港町近くでアンデットが出る事は稀ですし、噛まれたヒトがアンデットになった事は聞きませんね。」

「では噛まれるくらいなら大丈夫なのですね?」


 あっ駄目な笑顔だ。

 何かシーリンさんがお怒りになるものに触れてしまったようだ。


「わたしは『アンデットによる』と言いました。『詳しくない』と言いました。ここは不死山ふじさんの樹海。アンデットの巣窟と呼ばれる場所です。居ないとは言っていません。」

「不死山はアンデットの巣窟なのですか?」

「山を上れば上るほど強力なアンデットが居ると言われています。伝説ですが、頂上には不死者へと転生出来る妙薬の湧き出る泉があるそうです。」



 俺は『不死者』と『アンデット』はどちらも同じ言葉だよな?と思い質問を重ねる。



「不死者とアンデットは違うのですか?」

「どうなのでしょうか?わたしにも詳しい事は分からないのですが、ヒトとしての知性を保ったまま転生した者を不死者、知性を無くした者をアンデットと呼んでいるようです。」

「実際にその泉まで辿り着いたヒトが居るのですね?」

「途中で死んで、ただのアンデットになるか、不死者と転生を成し遂げるか、どちらにしてもヒト族の世界に帰って来る事は無いので分かりません。だから伝説なのだと思いますよ。もしかしたら不死者が隣で庶民に混じって暮らしているかも知れませんよ?」

「それは怖い話ですね。」



 話がそれてしまったが樹海のアンデットに話題を戻そう。



「つまり、樹海では何が起こるか分からないから用心しろって事ですね?」

「はい。その通りです。」

「どんな事に気を付けたら良いのでしょうか?」

「そうですね。アンデットは殺すと言うよりは壊す事が効果的です。」

「意味が分かりません。」



 おっ笑顔に『……』が付いているぞ。

 考え中の笑顔だな。

 あっ悪い事を思いついた笑顔だ……

 俺の腹の一点を『ツンツン』とつつきながら彼女は説明を続ける。

 嬉しそうな笑顔で俺のトラウマをえぐりながら。 



「血反吐を吐かせるまで同じところを突くよりも、歩けないように脚を切断したり、周りを認識出来ないように頭を潰したりする方が効果的という事です。」

「槍だとアンデット相手には有効な攻撃方法が無さそうですね?」

「そうですね。相性が悪いですね。そういう意味ではわたしもアンデットとの相性は悪い方ですね。冒険者達と一緒に朝出発になると良いのですが。」

「参考までに槍でどうアンデットと戦えば良いですか?」

「自分で考えなさい!と言いたいところですが、今回は余裕があまり無いので正解を答えますね。目を突いて相手の視界を奪う事が一番確実ですね。動きを止めるだけなら胸を突くのもありですが、穂先が体を突き抜けても、そのまま襲ってくる事もあるので注意が必要です。」



 裏庭にある木人形のちらばった傷跡を思い出す。

 うん。

 今の俺には相当難しい芸当だな。



「分かりました。目を狙って攻撃します。」

「あなたにその実力が無い事は分かっています。わたしの邪魔だけはしないで下さいね?」

「胸を突いて、動きを止めますね……」

「期待はしないでおきます。」



 相変わらず笑顔で辛辣しんらつな言葉をおっしゃる。

 事実ですけど。

 使い慣れてはいないし、振るだけでも大変そうだが、ドカチーニさんから借りた両手持ちの大剣を使った方がアンデットには効果的かも知れないな。

 きっと彼は俺がアンデットと戦う時の為に貸してくれたのだろうし……



 ホルスたんは、俺の肩に頭を預けて腕まで抱いてぐっすりだ。

 今なら彼女に悪さをしても気付かれないかも知れない。

 だがシーリンさんに気付かれると本人に気付かれるよりも間違いなく悲惨な結末を迎える。

 これも精神修行の一環だと思う事にする。

 俺は肘が感じ取る、柔らかな重みの感触だけを自然に楽しもう。

 こうして俺の『野生』と『理性』の綱引きは再び終わりを迎えた。

 今回も『理性』が勝った。

 シーリンさんが隣にいるだけで俺の『理性』は無敵だな!



 たすきおじさんが帰って来た。

 どうやら、明日の朝に出発で話がついたようだ。

 樹海を夜に移動するのが危険な事。

 後続の大八車との差がつき過ぎていて、俺達だけ氷を氷穴から出すのが早くなりすぎる事。

 2つの理由から、たすきおじさんが自分の主張を曲げて冒険者に賛同した。


 おじさんは「行って帰って来るだけなら今からでも陽があるうちに行ける」と愚痴をこぼしていたけど。

 一番の理由が『氷が溶ける量を減らしたい事』なのが、荷物を一番に考える、たすきおじさんらしい考え方だった。

 だがおじさんが輸送隊の中で一番に氷を舟に届ける気は変わらないようだ。



 冒険者達には「明日の朝まで我々の天幕テントで休憩をしたら良い」と誘われたが、シーリンさんがかたくなに彼らの誘いを断り続けた。

 俺達一行は冒険者達が作った拠点がある場所を樹海から盾にするようにして、隣に大八車を置き、そこでまとまって寝る事になった。



 シーリンさんが夜通しの見張りに立つと主張するが、たすきおじさんが代わりを務める。

 たすきおじさんいわく「おれは樹海の中では役に立て無いから、冒険者も居て、比較的安全な今夜の見張りをやらせてくれ」との事だ。


 樹海と草原の境とは言え、シーリンさんはアンデットに警戒しているのだろうか?

 今、俺はホルスたんとシーリンさんに囲まれて寝転がっている。


 異世界で女性に囲まれて寝るとは、この旅に来て本当に良かった。

 男避けに2人共俺に腕を絡ませて寝始める。

 ベスとアン?

 2人は娘ですよ?

 俺の中では2人共女性には含まれません。



 右腕はホルスたんの為に。

 彼女が革の前掛けを着たままなのは残念だ。

 それでも柔らかい重みが俺の右腕を天国へといざなう。

 彼女はすでに夢の中の住人だ。

 あれだけの距離、大八車を牽引し続けたのだから、疲れていて当然だ。

 この異世界では『魔力が切れていて当然だ』となるのか?


 左腕はシーリンさんの為に。

 俺の手首と肘をがっちり固めて、身動きが全く取れません。

 少しでも自分の意志で動かすと激痛が走る素晴らしい関節技が左腕を地獄へと誘います。

 俺が寝ている間に寝返りを打ったら『腕が折れて目が覚めた』なんて事は無いですよね?

 


 シーリンさんはまだ起きているだろうな。

 一応寝る前に『どうして冒険者の天幕で休息を取らなかったのか』を聞いておこう。



「シーリンさん。どうして天幕で寝るのを嫌がったのですか?」

「わたしもアンデットに詳しい訳ではありません。ですが『目についた近くにいる生きた者から狙う』との噂を聞いています。冒険者の拠点を樹海の間に挟めば、彼らが襲われている間にこちらが対処する時間を稼げます。」


 こんな事を言う時でも笑顔のシーリンさんは本当に素敵です。


「なるほど。そこは納得しましたが、私の左腕が全く動かないのですが?」

「あなたが動かない限り、腕が折れたりしませんよ?」

「船に乗っていた時のように優しく腕を組んでいただけると嬉しいです。」

「あの時は船が突然揺れた時に間違って折るのが怖かったからしなかっただけですよ?」


 先程から全く同じ笑顔のシーリンさんは本当に素敵です。


「わたしは常に1人で稽古を重ねてきましたので、関節技の方法は知っていますが実践した経験は足りていません。しっかりと極まっている事が確認出来て何よりです。」


 私はどうやら関節技の実験台にされていたようです。


「これからも関節技を磨く実験台になって下さいね?」

「……イタっ!はい。私で良ければ喜んで!!」

「ありがとうございます。これから楽しみですね?」


 答えを返すのに刹那の間があっただけで、関節を締め上げて私へと痛みを与えてくる彼女に他に返すべき言葉があったでしょうか? 



 最後まで全く同じ笑顔のシーリンさんは本当に素敵です。



 それから俺は朝まで眠れぬ夜を過ごした。

 左腕の地獄を和らげる為、右腕の天国を味わおうとする度に絶妙なタイミングで左腕の地獄から痛みの使者がやってくる。


 シーリンさん本当に寝ていますか?

 彼女が本当に寝ていた時に『どんな地獄が待っているか』と想像すると声は掛けられない。

 地獄の行軍を思い出せユークリット!

 起きながら寝るのだ。

 お前なら出来る!!



 朝までほとんど一睡も出来なかった。

 あの後、ホルスたんが寝返りを打って俺を抱き枕にするふかふか天国を。

 シーリンさんがそれと匹敵するだけの地獄の痛みを与え続けてくれた。

 俺の利き腕では無い左腕を選んでくれたのがシーリンさんの優しさです……多分。




 俺は一晩中、天国と地獄を耐え抜いた。

 そんな俺に『快楽耐性』も『痛覚耐性』もスキル獲得インフォメーションは流れて来ない。

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