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坊主の秘密は語られない

 氷運搬2日目。

 不死山のふもとと言うべき草原の道をホルスたんに牽引された大八車が行く。

 ここからは徹夜だった俺とシーリンさんが荷台に寝転がりながらの移動となる。

 高原の為かシーミスの港町に比べても朝は涼しく気持ちが良い風が吹く。

 シーミズの港町の朝一番の空気は気持ちが良いが、ここの空気はその上をいく。

 何かが違うと思っていたが『潮のかおりがしないのだ』と気付いた。


 ベスとアンは元気でやっているだろうか?

 ベスは大分怒っていたけど、アンが朝方まで俺達の準備する様子を見ていた。

 きっと大丈夫。

 帰ればきっとベスの機嫌も直っているはずだ。


 駄目だこれ以上考えるなユークリット!


 両腕を腰に当てて顔に青筋を立てている赤い瞳と青い瞳の鬼達しか思い浮かばないだろう?

 斡旋屋へ帰った時、俺の妄想くらいにベスが元気で動けたら嬉しいけどな……

 あれから2日しか経っていないのに、怒られたとしても俺は2人に会いたくて仕方が無い。



 薄目を開けて周りを確認すれば、朝からたすきおじさんが見張り役をしている。

 ここなら草原の草も低いし、いきなり魔物に襲われる危険は少ないだろう。

 それでも真面目に索敵をさぼらない。

 たすきおじさんは自分の仕事に対して本当に真摯だ。

 おじさんの計画では、順調に行けば、今日の夕方には氷穴へと着く予定だ。


 隣を見ればシーリンさんが俺の傍で寝転がっている。

 少し手の位置を変えるだけでも触れられる距離だ。



 俺はドキドキしながらシーリンさんが腕を絡ませてくるのを待った。

 シーリンさんが腕を絡ませてくるのを待った。

 腕を絡ませてくるのを待った。

 くるのを待った。



 ……待った……



 彼女には俺へと腕を絡ませてくる気配が全く無い。

 船上での行為は一体何だったのだ!?

 あれは徹夜の準備で半分死んでいた脳が俺に見せた幻覚だったのか?

 俺の脳よ!

 どうせ幻覚を見せてくれるなら、愛しき俺の二次元嫁で再現してくれ!


 あれが幻覚だったのかを確認するため、シーリンさんに聞いてみようか?

 だが聞いて良いものかが分からない。

 幻覚だと確実にシーリンさんからのきついお仕置きを受ける現実が俺を待っているだろう。

 ちょっとだけ、肘を張って、彼女が腕を絡めやすくしてみよう。



 シーリンさんが寝ている側、左腕の肘を張ってみた。

 マジで触れちゃう5ミリまえ。

 彼女からの反応が返ってきた。

「船上では男避けとしての役割。ご苦労様でした。」

「男避けですか?確かに男ばかりの中で女性が1人寝ていたら色々と危ないですよね。」

「今は必要ないのであなたに腕を絡めたりしませんよ?」


 読まれている。

 『シーリンの心を覗く者は等しくシーリンに心を覗かれている』

 俺は冷や汗が出る思いだ。

 少し露骨過ぎたかも知れない。


「あなたの心を読んでなどいませんよ。態度が露骨過ぎて分かり易いだけですよ?」


 こういうのを『心を読まれている』って言うよな?

 俺の手のひらが少し湿っている気がする。

 冷や汗が出る思いから出ているにランクアップだ。



 そこへホルスたんとたすきおじさんが俺達2人の会話に参加してくる。


「筋肉兄貴は坊主頭だからな。お前達の男避けにはぴったりだろう。」

「何故ですか?」

「なんだ。お前はそんな事も知らないで坊主にしているのか?」

「たすきおじさん。ユークリットさんに『坊主頭』の真相を語る事は、彼の姪達から許されておりません。わたしは内緒にして欲しいと依頼を受けています。」

「そう言えば、こいつは常識記憶喪失と言っていたか?」

「そうです。自分で言うのは恥ずかしい言葉ですが、私は常識記憶喪失者です。」

「そう言えば、そんな事あたいも聞いたのさ。常識記憶喪失って何なんなのさ?」



 俺は周りのヒトに「異世界から来た」と言うべきなんだろうか?

 非常に迷う所ではあるが、まだ黙っていた方が良いだろうな。

 今現在、誰も俺の事を『異世界から来た』と疑っていない。


 現実的に考えろユークリット。


 お前が日本に居る時、いや学生時代、「異世界から来た」と言った者の末路を思い出せ!

 宇宙人も未来人も超能力者も居るが異世界人だけは居ないアニメを思い出せ!!

 異世界人は視聴者だと言う意見もあるようだが、俺はこの異世界の視聴者では無い!


 心配なのはネモだな。

 あいつの口から普通に「オレは異世界人だ」と軽い口調で出てきそうだ。

 斡旋屋に帰ったら必ず口止めをしておこう。


 奴を口止めするなど簡単だ。

「ブラックさんとホワイトさんを廃棄するぞ?お前は24時間。俺から2人を護れるかな?」

 と脅すだけだ。


 同郷人と言っている俺まで変人扱いされては困る。

 心配なのは、実行した時、俺の命をネモが24時間狙ってくるようになる可能性だけだな。


 おっと、今は『ネモ』の事よりも『坊主頭』の事が先に片付けなければいけない事だ。

 なんとなく、悪い予感がする。

 俺の悪い予感は良い予感も含めて当たらない事の方が多い。

 それほど心配する事も無いだろう。

 逆に考えれば何も起きない前兆だろ?



「私は海で漂流して常識的な事を忘れてしまったらしいのです。」

「わっはっは。お前は海で漂流したのか?そんな事もあったのか?それも含めて確かにお前は常識的では無いな。おれは長年倉庫整理をしてきたが重い荷物から運び始める野郎は初めて見たぞ。すぐ後にもっと凄い奴が来たけどな?」

「凄い奴って、もしかして、あたいの事かい?」

「おいおい、お前以外に誰がいるんだ?おれはお前以上に凄い荷揚げ屋を見た事ないぞ?」


 大八車を牽引するホルスたんの顔を見なくても鼻の穴が大きく広がっている事が想像出来るな。

 マッスルフォームに普段の凛々しい顔は似合うけど、鼻の穴を大きく広げた可愛い顔は筋肉もりもりの体との違和感が大きそうで、実際に見たら俺は彼女を見て笑ってしまいそうだ。


 実際にその顔を見て、笑ってしまい、あの筋肉で殴られたら最悪だ。

 彼女は暴力なんて振るいそうも無いが、気を付ける事に越したことは無い。

 絶対にマッスルフォームの時に喜んだ顔をした彼女は直視しないように気を付けよう。



「それで坊主頭にはどんな秘密があるのですか?」

「常識記憶喪失のお前に一つだけ忠告しとこう。絶対にお前から女性を逢引きに誘うなよ。」

「なぜですか?」

「おれからは『そういうものだから』としか答えられないな。」

「そうですね。そこは知っておいた方が良いですね。気を付けて下さいね?」

「だからなぜなのですか?」

「先日わたしに対して『付き合って下さい』等と言った後、自分がどのような目に合ったのかを、あなたはもう忘れたのですか?」

「あれは相手がシーリンさんだったからでは無いのですか?私は真実が知りたいのです。」

「どうしても知りたければ、ベスとアンに聞いて下さい。私には守秘義務があります。」


 守秘義務の言葉の使い方がおかしいとは思うが、たすきおじさんもシーリンさんも俺の疑問に答えるつもりはないようだ。

 話し方は可愛く無いが性格が素直で可愛いホルスたんなら教えてくれるだろう。


「なあホルスたん……」

「あたいもあんたが坊主頭にしている理由はなんとなく分かったよ。あたいもあんたが坊主頭でいてくれる方が良いからさ。あんたに答える気は無いよ?」

ちなみにベスとアンは、あなたが他人から『坊主頭の意味』を教えられた時には、ヒトの記憶を消す方法をフィーナさんへと相談しています。」

「フィーナさんは記憶が操作出来る魔法の事を知らないとおっしゃっていた気がします……」

「記憶を消すのに魔法が必要ですか?わたしはきっと楽しい実験になると思いますよ?」


 初めて体を横にして見るシーリンさんの笑顔は心の底から『実験ごうもん大好きっこ』の顔でした。

 股の下から景色を見ると違って見えると言う研究結果が出ていたはずです。

 四半世紀続き日本人が10年以上連続で受賞した権威ある賞の研究結果だったと思います。

 きっと横に寝転がって見ても、景色が違って見えるはずですよね?

 この笑顔は私の錯覚。

 私が『シーリン笑顔マイスター』でも読み間違える事は絶対にあるはずです。



 シーリンさんが隣に寝ていて、あらゆる意味でドキドキしていた俺もいつの間にか寝てしまい、昼食時を迎え、たすきおじさんに起こされる。

 再び整備された道から少し草原に入り、比較的見晴らしの良い場所で昼食と休憩を取る。


 最初にたすきおじさんが立てた運搬計画は完全に無視されていた。

 ホルスたんが倒れるまで牽引を続ける事が基本になってしまった。

 俺が代わろうとしても彼女がそれを認めない。

 2人で牽引する事はあっても、俺が1人で牽引するのは彼女が倒れ寝ている時だけだ。


 ホルスたんがそんな感じなので、たすきおじさんは彼女へと魔力補給をするのを止めた。

 万が一に備えて、彼は自分の魔力を使わずに取って置く事にしたようだ。

 今回の昼食もホルスたんの事を考えての昼食らしい。

 おじさんはホルスたんには聞かせ無いように「目的地まではあとわずか」と昼食の準備中に俺へ教えてくれていた。


 昼食準備中の女性陣?

 にぶい俺でも理解しました。

 お花を摘みに散歩に出掛けている最中です。



 昼の休憩が終わり午後からは2人で大八車を牽引している

 高原の草原の中を散歩しているようなものだ。

 牽引している大八車は少し重いけど、道は整備が行き届いていて思ったよりも運びやすい。



 一刻(約2時間)も経たない内に、不気味な樹海が目の前に広がってきた。

 草原と樹海の境に拠点キャンプが張られている。

 そこには、俺達より先に先発した冒険者達が集っていた。




 冒険者が拠点を張って大人数で待機をしている。

 今回ばかりは俺の悪い予感が外れそうにないと思いながら拠点へと立ち寄る事になった。

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