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不死山の裾野

 出発するにあたり、たすきおじさんが提案した大八車移動計画は単純で分かりやすかった。


・上り坂は2人で牽引する。

・その後の平地(ゆるい登り)や下り坂は、俺かホルスたん、どちらかが一人で牽引する。

・登り坂が来る毎に牽引するヒトを交代する。

・長い短いは時の運で文句は受け付けない。

・牽引していない間は荷台の上で少しでも眠って魔力を回復する事。


 港から最初の移動を始める時は先に牽引する事をホルスたんが譲らない為、俺が譲った。

 しばらくは港から続く水路(運ばれた氷はこの水路を舟で運搬されるらしい)の隣を進む。

 初めてこの土地に来た俺だって、平地が長く続くのは確定した事実として目視確認出来る。

 それでも彼女は譲らないのだから、これ以上は時間の無駄だと俺は判断した。



 タゴノウラ港は小さい町で、すぐに城門を出る事になる。

 シーミズの港町と違って城壁も万里の長城では無く、ただの木の柵だ。

 魔物の出現が少ない場所らしく町の外でも大規模な農業が行われている。

 しばらくはタゴノウラ港へ続く水路に沿って長閑のどかな田園風景が続いた。

 俺は思ったよりも揺れる荷台の上で横になりながら『ぼーっ』と景色を眺めていた。



 移動を初めてすぐに問題が起きた。

 たすきおじさんは「自分で歩く」と息巻いていたが、彼に合わせると進む速度が落ちる。

 彼は強制的に荷台へと乗せられた。


 彼に新たに与えられた任務は高い所からの索敵と言う名目だった。

 長閑な田園風景が続く。

 魔物の気配は全く無い。

 本当に名目だなと俺は思うが、たすきおじさんはサボる事無く索敵を続けていた。

 シーリンさんは自分が夜に行う予定である本当の索敵に備えて昼間は寝る事になる。



 ホルスたんは3人を大八車へと乗せたまま、一刻半(約3時間)の間に三里(約12キロメートル)以上の道を水路に沿って1人で牽引した。

 夕刻、到着した場所は、不死山から湧き出る水を利用した水路の終点だ。

 帰りにここで氷を舟に載せて、地図を割符へと変えたら、俺達の任務は終了となる。

 ここは小さな教会を中心とした、ちょっとした集落になっていた。

 どうやら俺達の大八車がこの場所へと一番に到着したようだ。


 ホルスたんは途中で先に出発した大八車3台を抜いたらしい。

 荷台でいつの間にか寝てしまった俺は抜く瞬間を見ていない。

 きっと抜かれた3台は2人で大八車を牽引していたはずだ。

 彼女に抜かれた時の相手の顔を想像するだけで、俺は笑みがこぼれた。



 もうじき太陽が沈む。

 これから先の道は本格的な登り坂がやってくる。

 農地が無くなりヒト族の世界の境界が線で引いてある訳では無いが終わりと感じる。

 もうじき陽が落ちて、夜が来る。


 規模が小さいとは言え、ここは集落だ。

 比較的安全が保障されているはずだ。

 この場で朝まで休息を取る選択肢もある。

 他の大八車は、ここで朝まで休息を取るのだと思う。


 たすきおじさんの計画では夜の間も俺とホルスたんが交代しながら大八車を牽引する。

 危険が増す夜の見張りはシーリンさんが担当する。

 たすきおじさんもホルスたんもトップを狙っているようだ。

 シーリンさんは、隊長であるたすきおじさんに従うとの事。

 最終的には、ここでは夕食と水分補給の休息のみで、そのまま出発する事になった。

 俺自身は『トップ』も『エース』も狙わなくて良いのだけど誰も聞いてはくれない。



 シーリンさんは「夜はヒト族の時間では無く魔物の時間。注意して下さい」と一言発した。



 陽が落ちて、銀色の月が昇り始めた。

 銀色の月はまだ満月に近く、足元にしっかりと影を作るほど道を明るく照らしている。


 右手に不死山ふじさんを眺めて、山の裾野を回る長い長い上り坂が続く。

 シーミズの港町から時々見えた不死山は綺麗な山だったが、近くから見る不死山は不気味だと思える程、禍々(まがまが)しい雰囲気を醸し出す霊峰だ。

 空の色より不死山の色の方が暗いからそう思うのかも知れない。

 夜空に暗黒の不死山が浮かび上がって見える。


 牽引しっぱなしになるホルスたんへとたすきおじさんが魔力補給の魔法を掛けた。

「おれが役に立てるのは、道を間違えないように地図を見る事と魔力補給くらいだ。」

 申し訳ないとばかりにたすきおじさんが声に出す。



 坂を上り始めて割とすぐに林の中へと道が続くところへとやってきた。

 シーリンさんは荷台から降りて、大八車の10メートルほど前を歩く。


 たすきおじさんは荷台の上で魔力不足で就寝だ。

 但し「分かれ道に来たら必ず起こせ」と約束させられている。


 ホルスたんも荷台で休むように言ったが、彼女は一歩も譲らない。

 俺は『彼女を突き動かす情熱が何なのか?』と気になったが聞ける雰囲気でもない。


 仕方なく、2人で大八車を牽引して、上り坂を上がっていく。

 大八車が3台、横へと並べて進める思ったよりも広さがあり整備された道が深い林に囲まれて続いている。



 上り坂が延々と続く。

 本当に時々下り坂もあったが、下った分また上るかと思うと、下り坂はあまり嬉しく無い。

 見通しの悪いコーナーを曲がっても再び上り坂。

 次のコーナーの先は平地などともう二度と期待したりしない。


 船から大八車を牽引し続けているホルスたんを少しでも休ませる為、俺は力を籠めて大八車を進ませる。

 だが彼女は自分の負担が少しでも軽くなる事を良しとしない。

 いつものように「ふんっ」と鼻息を吐くと俺以上に大八車を進ませようとする。

 少しでも俺が力を抜けばホルスたんが更に力を籠める事になる。

 彼女に負けないように俺も力を出し続けるしかない。

 終戦したと思っていた彼女との戦争いじのはりあいは、ここでも続いていたようだ。


 分かれ道が着て、たすきおじさんの指示を待つわずかな時間、ホルスたんはまさに『泥のように眠る』のだ。

 俺には、何が彼女をここまでさせるのかは分からないが、凄い根性だと尊敬する。



 彼女との戦争いじのはりあいは突然終戦した。

 いつものように結論から言おう。


 俺が勝った。


 初勝利だ。


 初勝利のはずなのに、まるで勝った気がしない。

 ホルスたんは全力を使い果たして倒れるまで大八車を牽引し続けた。

 現在は大八車の上でたすきおじさんと共に横になっている。


 1人でこの坂道を上るのは正直きついが、ここで俺が止まったら、結局は負けた気がする。

 大八車の進行速度は確実に遅くなった。

 それでも俺は一歩一歩坂を上り続けた。

 前を歩くシーリンさんの小さめの尻をただひたすら追い続けた。

 履いているのか履いていないのかの確定は今回もまだしていない。



 この異世界は元の世界よりも月明かりが明るい。

 周りに人工的な明かりが無いからそう感じるだけかも知れないが俺の感覚的に明るい。

 特に今は銀色の月が満月を過ぎてから間もない。

 道の上に自分の影が出来る程の明るさだ。

 他の2つの月に照らされて薄い影があと2つ伸びているのも異世界を感じる。


 それでも深い林の中は真っ暗で突然暗闇から何かが襲ってくる恐怖がある。

 時々、シーリンさんがその暗闇に『投げナイフ』形状的には『平たく刃の付いた棒手裏剣』を投げ込む。

 果たして彼女は何をしているのだろう?

 彼女は投げナイフを5本投げると補充に大八車へと戻って来る。


「何かあったのですか?」

「狼の群れですね。風下から近づいて来るので、一定距離に近づいたところで先頭の狼に手裏剣を投げて牽制をしています。彼らはしつこいのであきらめるまで根気勝負ですね。」

「大丈夫なのですか?」

「相手もわたし達の戦力を計っていると思います。今は牽制が上手く行っていますが、狼達があきらめた訳では無いので注意が必要ですね。」


 シーリンさんが斡旋屋で積んだ重い木箱を開ける。

 そこには投げナイフ(棒手裏剣)がぎっしり詰まっていた。

 100本はあるのではなかろうか?

 シーリンさんが『手裏剣』と言っているし、俺も『手裏剣』と呼ぶ事にしよう。


 シーリンさんの手裏剣で狼もあきらめてくれれば良いが……

 狼か……鎖に繋いであった犬の鳴き声すら怖かった俺に対処出来る相手では無いな。

 全てシーリンさんにお任せします。

 どうか俺の出番がきませんように。



 狼の俺達への追跡は朝日が昇るまで続いたらしい。

 一定距離に近づくと手裏剣が飛んでくるので、相手も様子を見ていた感じらしい。

 俺が「らしい」と言うのは、俺には狼の気配が全く分からなかったからである。


 ドカチーニさんの忠告通り、シーリンさんがついてきてくれて良かった。

 これがドカチーニさんだったら『狼が全滅する』か『俺達が喰われる』かの闘争だ。

 確実に狼が全滅するだろうけど、こちらに怪我人が出る可能性は否定できない。



 朝日が昇る頃に俺も大きな坂を上りきったと実感する。

 周りの景色が高原の平野になり、林がいつの間にか消えて草地になった。

 多少のアップダウンがあるものの、今までに比べれば平地と言っても良い見晴らしだ。

 右手を見れば巨大な不死山ふじさん全貌ぜんぼうを見る事が出来る。

 狼は林が切れたおかげなのか、ようやく俺達の追跡をあきらめたらしい。



 辺りが明るくなると、たすきおじさんとホルスたんも起きだした。

 4人が同時に起きているところで、しばらく休憩、みんなで朝食を取る事が決まった。

 大八車を道から少しだけ外れた草地へと停めて他の大八車の進路を妨げないようにする。

 今まで一度も他のヒトとすれ違った事は無かったので、俺は要らない心配だと思うけど。

 そういう真面目なところも『たすきおじさん』の魅力の一つだ。


 シーリンさんとホルスたんの2人が散歩に出かける。

 頬に当たる風が気持ち良い草原だ。

 俺もついて行こうとしたら、二人に思いっきり拒否された。

 シーリンさんが「あなたのする事は大八車とたすきおじさんを護る事です」と俺に言う。

 確かにその通りと思い、俺はたすきおじさんと共に残る事にした。



 2人が散歩から帰って来るまでにたすきおじさんと2人で食事を並べる。

 保存食なので、固く焼しめたパン、干し肉、乾燥させた野菜と潤いは全く無い。




 食事中、昨夜倒れるまで頑張ったにも関わらず、ホルスたんの悔しがり方は半端ない。

「次は負けない!何故って?あたいが決めた!」

 といつものぎりぎりな台詞セリフを俺に向かって吐いて、朝食を豪快に食べていた。

 いつも私の拙い妄想しょうせつを読んで下さりありがとうございます。


 長い後書きになります。


 2018/11/26に、この小説を毎日更新した事で生まれたエッセイを投稿しました。

 2018/11/27昼12:40分頃確認した所「小説を読もう!」日間エッセイ部門でランキング1位となっておりました。

 この後書きが読まれる頃には、今回のエッセイがその席に居る事は無いと思います。


 たった一日とは言え、ランキングの1位を取れた事。

 この妄想しょうせつで無い事が残念ではありますが、私の一つの勲章になりました。

 今回のエッセイを書けたのは、ここまで読み残って下さった読者様のお陰です。

 余暇にまとめ読みして下さっている読者様もこの後書きに辿り着く事を祈ります。


 現在私は一つの岐路に立っています。

 部分別の累計で前回番外編の始まった第74部分が61人。第97部分では14人です。

 掲載された日数の違いもあり一概には言えませんが凄い勢いで読者様が減って行きました。

 自分の実力不足が一番の原因ですが、やはり心折れそうな減り方です。


 今回のエッセイが望外の反響を呼び、感想返信で次回の本編制作が遅れに遅れています。

 私としては沢山の感想をいただく事が出来て嬉しい悲鳴でもあります。

 番外編は火・木・土・日にさせてもらおうかとも考えました。

 

 しかし莫迦わたしは思いつきました。

 良く考えたら、残りの14人は、あの長い番外編を生き残った勇者ばかりだと(笑)。

 どうにもならなくなるまで私は毎日更新を続けようと。


 ただ一点。

 年末年始は全く妄想しょうせつを書く時間がありません。

 次回の本編で『8の月』が終わる予定です。

 何とか残りの日数で『8の月』の終わりまで辿り着きたいと思います。

 年末が私の毎日更新を続けるどうにも出来ない限界となります。

 それを考えると長々と番外編をやる時間は本当にありませんね。 


 今回エッセイの反響で沢山の『読者様から愛される作品』を読む機会を得ました。

 私とは文章の面白さ、読みやすさ、共に根本的な所から違います。


 『8の月』が完結した後は、本編だけでも大改編の作業に入らせて頂きたいと思います。

 その作業の間は金曜日19:00に番外編(今までと同じ文章レベル)を更新するだけになる予定です。

 毎日更新する度に読んできて下さった、読者様には大変申し訳なく思います。

 今まで完全に自己流で書いてきた私に『読者様に愛される作品』の勉強をする時間を下さい。

 作品の方向性を変える事はしませんが、文章の書き方、場面の見せ方、キャラクター同士の掛け合い、その他もろもろの勉強をさせてもらいに行かせて下さい。


 いつもと同じ挨拶にはなりますが、

 最新話まで読んだ後感想まで下さった読者様、

 ブックマークをしてまでお読み下さる読者様、

 毎日更新する度にアクセスして下さる読者様、

 余暇が出来た時に一気読みして下さる読者様、

 タイトルとあらすじに釣られて試し読みされる方、

 全てのアクセスして下さる皆様に『やる気』燃料をいただいての毎日更新です。

 皆様の日頃よりのアクセスを本当に感謝しております。


 色々と足りない未熟者ですが、今後も末永くお付き合いを頂ければ幸いです。

                           2018/11/28 何遊亭万年

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