人生初のサプライズ企画か?
夜空で輝く小さな光が集まり窓から部屋の中を照らす。
昼間と比べれば真っ暗闇だ。
それでもトレーニングへ励む体の影を床へはっきり映しだすほど明るい。
星の明かりで影ができるなんて、日本で暮らしていた時は考える事すら無かった。
月が無ければ星々は明るい。
と言っても、ここでは月の無い空を見る方が難しいかもな。
全身へ珠のような汗がびっしりと連なっている。
良い汗をかけた。
就寝前、日課の筋肉トレーニングを終え、俺は2人の娘の寝顔を見て幸せにひたる。
2つ並んだ顔は、ほほの肉も盛り上がり、だいぶ女の子らしさを取り戻した。
初めて会った時の印象は男女の見分けすらできないただの『餓鬼』だったからな。
性別確認のため見たお股は、肉が薄過ぎて、大事なめしべが花弁を閉じてなかった。
一本筋のつぼみを形成できずパックリと開花し、俺の眼に桃色の中身を焼き付けた。
俺はあの時、2人のお股へゾウさんが付いていると思っていたしな。
その証拠と言えるか分からないが、今どうなっているかは確認していない。
女性と分かっているのだから、次はどんな言い訳もできない。
アクシデントで行水シーンを見てしまった時は息子との永遠の別れを悲しむ寸前だった。
娘の瞳から光が消えた分だけ光を増した【厚君】の怖さを一生忘れない。
厚君は俺が持つ短刀の事で幾度となく俺の命を守ってくれた大切な相棒だ。
何も引くものの無い美しさから勝手に国宝厚藤四郎の名を拝借した無銘の短刀。
娘達が持つと一瞬で最大の敵となる俺の懐刀……
普段は部屋で娘達を護っているのだ……厚君に斬られても「是非に及ばず」……ただし娘が手にしている時のみに限る……俺も煩悩時の変は起こさないよう気を付けるけどな!
閑話休題。
とにかく2人は知らぬ間に異世界へ送られた俺にとって唯一で無二の宝物。
血のつながりこそ無いが俺の家族だ、娘だ!
2人は俺との関係を【姪】と主張するが、いつかは親娘と認めさせる。
それが俺のささやかな野望。
隙があれば衣服の隙間から成長中の【ふくらみ】を観察する事は娘の成長を見守るオヤのツトメ……『イエス•ロリショタ•ノータッチ!』……どんな異論も認めない!
だから俺は女の子らしくぷっくりしてきたやわらかそうなふくらみをツンツンしたくてもグッと我慢して見守る。
………………
…………
……
紳士淑女の諸君へ言うのも野暮だが【ほほ】だぞ……別の場所を想像した奴は便所へ呼び出しだ……人気が無い場所でコッソリガッチリ握手しようではないか!
ただし二次元の幻女に限る!
漢字へ一本線が加わるかどうかは、それこそ越えられない【一線】なのだ。
俺にとっては『掛算の左辺と右辺が間違って表示されている』事が些細と思える大問題!
さて冗談はここまでにしよう。
俺が我慢する理由は『気持ち良さそうに寝ている子供を起こす訳にいかないから』だ。
本当だぞ?
思い返せば、2ヶ月前、俺は知らぬ間に異世界へとやってきた。
俺は異世界へ来る途中に神様と会わなかった。
だからと言うわけではないが、最初は素晴らしく出来の良い【サプライズ企画】だと勘違いしていたくらいだ。
だがこの世界には魔力と呼ばれるものがあった。
現代日本にはアニメや漫画、ゲームなど創作物の中にしか無い言葉だ。
この世界の魔力は簡単に説明すると、生命力と言えるかも知れない。
この世界の住人は魔力が無いと生きていけないくらいなのだ。
それこそ指先すら動かせない事実を俺は自分の目で見てきた。
ただし俺達地球人と違って、魔力を使って色々な事が出来る。
そこが、この異世界の住人の魔力と、俺達地球人の生命力との大きな差だ。
俺の体は魔力を供給されると大幅に身体能力が強化される。
だが世界を敵に回しても勝てるような強大な力では無い。
むしろ他のヒトにばれたら色々な意味で「命に関わる」と言われ脅されている程度の能力。
今は使用する事を固く禁じられており、その事に俺も納得している。
程度の差はあれ、この世界に暮らす一般人が全員持つ【魔法】だしな。
俺の場合は程度の差が「命に関わる」と言われたのだけどな……
俺は今、異世界初の旅を終えて考える。
これまで何度かこの異世界の魔族や魔物と戦った。
平和な現代日本では経験できない怪我をして、経験できない治療も受けた。
このままお気楽気分でいると俺は近いうち死ぬ事になる。
正確に言うと何者かに殺される。
この【異世界】は俺が現代日本で夢見てきた【異世界】とは少し違った世界だった。
簡単には【異世界無双】も【異世界ハーレム】も出来そうには無い。
ステータスも表示されないし、スキル獲得インフォメーションも流れてこない。
四次元ポケット的なアイテムボックスも現在の所は手に入れていない。
敵も味方も俺より圧倒的に強い存在ばかりだ。
加えて命の重さはかなり軽い。
どうにも現代日本人の俺には厳しい【異世界】である。
俺は2人の娘の寝顔を眺めながら決意を新たにする。
俺は2人を立派に育てる。
俺はこの世界を生き残り必ず幸せな老後を迎える。
俺は目の前へ突然【現代日本への転移ポータル】が現れても絶対に入らない。
俺はどんなに厳しくても『この異世界で生き抜く覚悟』を決めたのだ!
俺は娘達の寝顔を眺めながら、現代日本で絶対に経験する事の出来ない、これまでの2ヶ月間を振り返っていた。
…………………
もう少しの間微睡の中に居たいが俺の五感がいつもと違う違和感を覚えた。
潮の香りがきつい。
あまり聞き覚えの無い鳥の鳴き声が聞こえる。
アニメで朝の表現に使われた事が無いであろう「アッ〜!」と言う推定海鳥の鳴き声。
801番的なアニメで使ったら斬新かもな……俺は絶対観ないが!
まぶたの裏へ喜色を浮かべて俺に布教する幼馴染の姿が浮かんできた……目を開けよう。
どこだ? ここは……
目を開けて眺める天井はコンクリート打ちっ放しと言うよりか、石膏を固めたような白い素材で出来ていた。
今まで俺が一度も見た記憶の無い天井だ。
形の揃った木箱を並べたベットのようなものから起き上がる。
木箱は白いシーツで覆われて1つにまとめられていた。
外見だけベットのような寝台の寝心地は最悪に近かった。
俺には現在自分が置かれている状況が全く理解出来ない。
まずは気持ちを落ち着かせる事から始めよう。
すでにルーチンワークとなっている朝一番で必ず行う準備運動を天井と同じ素材で出来た床の上で行いながら今日の体調を確認する。
寝床が悪かったからか、関節も筋肉もガチガチに強張っていた。
だが、カラッとした暑い空気の中、白い床がひんやりとしていて気持ち良い。
普段より気持ち良い汗が大量に出てくる。
考えなくても勝手に動く体は放っておいて、これからの事を考えよう。
最初に自分の置かれた状況の整理と体調の確認、その後は少しずつ周りの観察を行おう。
部屋の印象は全体的に白としか言えない。
暖かな気候や潮の香りを含めた雰囲気が南の島の長閑さをイメージさせる。
俺が『どこかへと拉致された事』だけは間違いない。
俺の脳内にこんな場所の記憶はどこにも無い。
眼に映るものがこれだけ日常から離れると、周りと比べて『出来が悪い』と学校の成績が客観的に教え続けてくれた俺の脳みその記憶力を、珍しく俺は疑いなく全面的に信じられる。
だが『監禁されている』と言う感じは全く無い。
手足が縛られている訳でも無く、逃げ出そうと思えば、いつでも逃げる事が出来そうだ。
油断をさせておいて、逃げた途端に後ろから「ズドンッ」なんて事もあるかも知れないが。
何よりも本当に雰囲気が長閑で、気持ちが緩む。
どこかサプライズ企画で南の島へとバカンスにでも連れて来られた気持ちにしかならない。
俺は一通りの準備運動と思考を終える。
強張りがとけた。
今日も体調に異常は無さそうだ。
拉致はされたが監禁されている訳では無い。
気持ちも落ち着いてきた……と思い込む事にしよう。
例えどんなに気持ちを落ち着ちつかせようと努力しても、今居る部屋と今着ている衣装にこれだけ異常がありすぎては、どうやっても気持ちは落ち着かないのも確かだが。
どれだけ自分に言い聞かせても、この状況で落ち着ける方が異常だ!
俺が着ている服が変わっている。
『一体俺の身に何が起きたのだ?』
俺は最後に残った記憶を検索する。
……
………
…………
思い出した。
俺は陸上の大会で自己新記録を出して良い成績を残し呪いを受けた。
会社の先輩後輩達が寄ってたかって、飲めない酒をしこたま俺の杯によそり、潰れても吐いても飲まされ続けた。
最後に「大丈夫か?」と優しい声でコップ一杯の液体を俺に【水】と思い込ませて【焼酎】を一気飲みさせた【憎き金髪野郎】だけは絶対に赦さない。
あれこそが完全に酔い潰れた原因だ!
酔い潰れた俺を【綺麗な黒髪を持つ幼馴染】が膝枕をして介抱してくれていた気もするが、はっきりと思い出そうとする度に、記憶の奥底に鎮座する封印の扉が邪魔をして『彼女の事は忘れろ』と妨害してくる。
俺の最後に残っている記憶では会社で用意された部活のジャージを着ていたはずだ。
現在は白いなんかゴワゴワしたものへと着ている服が変わっていた。
昔教科書で見た貫頭衣と呼ばれる服だ。
下にティーシャツは着てないしパンツも靴下もはいていない。
貫頭衣が1枚か……
まぁ服装はあまり気にならない。
元々が裸族の俺だ。
部屋の中ではパンツ1丁がティーシャツ1枚に変わった程度の差でしかない。
俺のブラブラ自由に揺れる大事な息子もぎりぎり隠れている。
「服装に問題はないな」
些末な事と結論付けた問題は後に回して、どうしてこうなったのかを考えないとな。
「あの時か……」
酔って記憶が無いのだ。
自然と普段の行動が出てもおかしくは無い。
そして俺は某アイドルのように『泥酔して公園で朝を迎えても脱いだ服をきちんとたたんで置く』几帳面さを持ち合わせていない。
「飲み屋に放置したか……この服は誰かの優しさだな」
しかし同じ裸族としてのセンスを感じないな。
倫理を問題視してランニングシャツ1枚だけを着せるのなら可愛い女の子が良いだろう?
身長185センチの26歳体育会系筋肉男とでは雲泥の差がありすぎだ。
頭の中で、二次元の可愛い女の子と自分の現在の姿を並べた。
「これはひどい……この部屋に鏡が無くて本当に良かった………」
実像を見ずに済んだ事はアニメの神様へ感謝する。
着ている服の問題は今はどうにもならない。
とりあえず良しとしよう。
俺にはまだ知らないと気持ちを落ち着けられない大元が残っている。
『ここは一体どこなのか?』
本当にどこへと俺は拉致されてきたのだ?
もう一度白い壁で囲われた部屋を見渡した。
窓と思われる外とつながる四角い穴にはガラスが無い。
木戸が開いている。
そこから外を見た素晴らしい景色に俺は目も思考奪われた。
俺が普段見てきた日本の空と海とは全く相手にならない綺麗な青色の空と海が広がっている。
先日見た旅行パンフレットで紹介されている南の島の海のように美しい青い海が窓の外に見える限り広がっている。
空と海との間に冷たい雨は降っておらず、ただ感動しかなかった。
学生の頃「キ」を「ウ」と勘違いしていた事は幼馴染しか知らない秘密だ。
仕事の接待カラオケで知った驚愕の事実……確かに海では意味が通らない……
カラオケに行く友達はいなかった……いや、1人いたがアニソンオンリー耐久カラオケだったからな……金髪野郎め……この絶景に免じて罪一等減じてやる。
俺へ酒を飲ませた事だけは不問にしてやろう……3日間だけだがな!
しかしこの絶景……酔って寝ている間に観光名所的な南の島へ連れて来られたのか?
しかも、すぐ近くに木造の帆船まで停泊していて、まさに観光名所と言った雰囲気だ。
「やはりサプライズ旅行企画のようだな」
うちの会社では「社員の溜まった有給休暇消費を目的に社長からサプライズ旅行が贈られる」と先輩社員からの噂で聞いている。
社長はかなりの変わり者だ。
サプライズ旅行の噂は本当だったのかも知れないな。
どれだけ「飲めない」と断っても潰れるまで飲まされた呪い酒は俺が酔って寝ている間にこの地へ運ぶためだったのか?
特に差し迫った危険も無いし、プレゼンテッドバイ【社長のサプライズ旅行】と仮定しよう。
俺が最後に有給休暇を取った日がいつか思い出せないくらいだ。
社長がサプライズ旅行を俺にプレゼントしてくれてもおかしくは無い。
とにかく俺の知っている日本で無い事だけは確認出来た。
沖縄や小笠原諸島の可能性を否定できないが俺は訪れた事ないからな。
今はもう少し部屋の中を見渡そう。
他にも何か分かるかも知れない。
部屋の壁には窓の反対側に木の扉があるだけだし、床には木の箱を並べてシーツを掛けた寝台があるだけだ。
机も椅子もタンスもテレビも本棚もましてゲーム機も存在しない。
天井には電灯すら無い……壁にコンセント口すら見当たらない……
壁も天井も床も全く同じ素材で出来ているようだった。
部屋の中の印象は白。
木製の扉と木戸、シーツの下から半分のぞくベット代わりの木製の箱以外は全てが白い部屋だった。
部屋に何も無い事で俺は大切な事に気が付く。
自分の荷物が1つも無い。
財布・免許証・保険証・パスポートなどの貴重品すら無い。
かなり焦ったが、心配は要らない。
この部屋にはベット以外に何も無いのだ。
「ここが南の島の宿なら貴重品を入れる金庫とかも無いしフロントでの預かりかな?」
この部屋からこれ以上の情報は手に入りそうにない。
幼馴染が常日頃から言っていた「正しい情報が無いと正しい判断はできない」という考え方は俺も絶対的に賛成だ。
俺は自分の現状を更に詳しく確認する為にも部屋の外へ出る事を決めた。
木の扉は引き戸だった。
日本の引き戸に比べると建付けがかなり悪くて開けるのに苦労したが無事開けて外へ出る。
今出てきた扉と同じ扉が薄暗い廊下の両側に6つずつ並んでいた。
両側に並ぶ扉は俺が出てきた部屋と同じ用途だろう……つまり客室。
廊下の突き当りの扉が開いていて明るくなっている……まずはそこへと向かうか。
廊下を歩き出すと、足の裏がここも部屋と同じ白い石膏を固めたような素材で出来ていると教えてくれた。
短い廊下を抜け突き当りの扉を出ると2階まで吹き抜け天井の広い部屋になっていた。
この広い部屋は廊下に比べると床が1段低くなっており『ここから先は履物を履いて下さい』と言う感じの黒光りするほど踏み固められ締まっている見事な土間になっていた。
白い廊下との境に、革製のブーツや草鞋、よく分からない履物らしい布袋などがいくつか整然と並べてある。
高さ的には2階にあたる部分の壁にはいくつも木戸があり、そこから差し込む光で今まで歩いてきた廊下より、この部屋の中は数段明るくなっていた。
部屋の中には2人掛けの長椅子が対面で置かれた長方形のテーブル。
これを1セットにして5セットほど互い違いで並べて配置されている。
右手側には2階へと上がる階段と階段下の壁のスペースには大きなボード。
大きなボードには羊皮紙と思われるものが何枚も張り付けてある。
正面には外への出入り口と思われる両開きの大きな扉が開けっ放しになっていて、結果的だが、この部屋一番の光源となっていた。
左手側にはオシャレなバーで見る様な木製のカウンターが続いていて背もたれ付きの椅子が手前に10脚ほど並んでいる。
「館長。彼が無事起きたようですよ」
この部屋一番の光源の影に隠れて発見が遅れた。
自分が居る場所からだと部屋の反対、外との出入り口扉近くのカウンターの内側に第1村人と言うべきか?
若い女性を発見した……いや、俺が彼女に見つかった。
女性がカウンターの内側にある安楽椅子の上で寝ていた初老の男性に声を掛けて起こす。
起きた初老の男性は今まで気づかなかった事が不思議なくらい圧倒的な存在感を放つ。
「おう。無事に起きたか? 悪いがお前の衣服は勝手に売らせてもらった。見たことも無い素材だったからな。好事家に売っぱらったら良い値段になったぞ! 手数料と今までの世話代を除いた残りをお前に渡す。俺のお古で悪いが革袋は腰に巻く革紐を合わせておまけでくれてやる。それと足の裏がやわそうなお前のには履物も必要になるな? 不思議な布靴も含めて売ったから素足だと困るだろう?」
見事に日焼けした褐色の肌を持つ初老の男性は理解の追いつかない俺を置き去りにして、カウンターの上に少し重みがある革袋と草鞋を置いた。
革袋と言うよりはベルトポーチであり、幅広の革紐は防具といった方が良さそうな実用品。
革袋はデザインこそシンプルなものの年代物で本物の存在感がある。
革紐は下腹部をしっかり守ってくれそうな心強さを感じる。
残念な事に俺自身が本物の革製品を手にした事が無いので真贋は分からない。
それとも映画の小道具を使っているのか?
そして草鞋は時代劇で見た感じそのまま、何かの草の茎を使って編んでいる物のようだ。
革袋を置いた彼の鍛え上げられた腕には大小様々な古い切り傷が幾つも残っていた。
彼が歩んできた人生を想像すると身震いしそうな凄みのある腕に息を呑む。
それともこれも企画の一環でメイクなのだろうか?
勝手に俺の所持品は没収されたのか?
やはり【サプライズ企画】の一環なのか?
後で俺の所持品は返してもらえるのだろうか?
初老の男性から渡された【初期装備】でこの企画を楽しめって事なのか?
この企画はチュートリアルは無しなのか?
俺の頭の中は疑問だらけだ。
俺は大きな戸惑いを感じつつもまずは現状を確認する事から始める事にする。
合言葉は「正しい情報が無いと正しい判断はできない」だ。
どこから見ても南の島の外人な人が流暢に日本語を話してくれているのだ。
自分の貴重品の行方は気になるが、せっかくなので、まずは企画に乗ってみようと思った。
そう思った途端。
いつも正しい情報を得ないまま行動する俺の前へ、周りからは表情が乏しいと言われているくせに、俺だけが分かる俺を責める時の表情をした幼馴染の姿が浮かび上がる。
乏しい表情と説明不足の言動で度々周囲から誤解を受けるあいつの言い分を説明してやったものだ……いかん絶対不可侵領域が侵食され始めている!
俺はあいつの翻訳機ではない俺はあいつの翻訳機ではない俺はあいつの翻訳機ではない……封印すべき記憶の扉の向こう側へあいつを蹴り戻し、きっちり記憶の再封印をする。
俺の人生へ様々な影響を与えてくれた幼馴染は様々ありすぎて現在では忘れたい存在だ。
一生忘れさせてもらえそうにないが……
とにかく今は現実へ戻ろう。
遺憾ながらあいつの言う通り情報は集めなければならない。
俺は目の前にいる初老の男性と向き合った。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「礼には及ばん。お前さんが死んだら今渡した革袋の中身をもらう為に助けただけだ」
最後は企画のイベント発言だよね?
本気にしか聞こえない名演技だ。
現状確認の為、気になる部分を先に聞いてみる。
「私はどういう経緯でここに来たのですか?」
「船から落ちたのか、海に浮いていたぞ」
「私の他には誰か一緒に来ていませんか?」
「俺が見たのは、お前さん一人だけだな」
「私の荷物はどうなったのでしょうか?」
「服以外は何も持っていなかったぞ」
ふむふむ。
サプライズ企画である事を考えると、やはり初期装備でこのイベントを始めろって事だな。
俺の貴重品は絶対にどこか別の場所で預かってくれているな。
しかしそれをこの場で聞くのは野暮になる。
遊ぶ時は全力で遊ばないとつまらない。
持っていた自分の所持品は没収されたが、こうやって【初期装備】を渡されている。
どう考えても、スタートラインを平等にして、企画をスタートさせているとしか思えない。
最後に現代日本文化と大きくかけ離れた俺の大好きな【異世界】の雰囲気がたっぷり漂うこのサプライズ企画。
俺は相手の返答にワクワクしながら尋ねる。
果たして【異世界企画】か?
それとも【南の島バカンス企画】か?
「ここはどこなのでしょうか? 異世界でしょうか?」
「ここはシーミズの港町。スーンプ城の海の玄関口だ。イースェでもクァイでも無いな。船から落ちてここに流れ着いたんじゃないか? 何にせよ、これからどうするんだ? イースェの神宮かクァイの城下町にでも向かう途中だったのか?」
シーミズの港町にスーンプ城、イースェの神宮、クァイの城。
清水に駿府に伊勢に甲斐。
清水はともかく自信は無いけど確か全部昔の国名だよな?
このサプライズ企画ネーミングだけはセンスが悪い。
昔の国名をなんか変に訛らせただけだ。
ネーミングセンスはともかくとして俺は【異世界企画】と断定した。
『キターー!』嬉しいぞ。
確実に【異世界企画】だ。
しかもクオリティーの高さが半端じゃない。
今まで『見てきたもの』『触ったもの』『感じるもの』全てが本物の迫力を持っている。
素晴らしい出来の【異世界企画】に正直、心が躍る、ワクワクする。
こんな現実感は最新のVRでも再現は難しいだろう。
これは俺も全力で企画に乗らないと損だ。
俺はテーブルトークRPGと言うマイナーなゲームが大好きだった。
テレビゲームが普及した現在、仲間を探すのが困難なゲームだ。
俺がゲームマスターでプレイヤーは幼馴染1人だけなんて当たり前だった。
テーブルトークRPGが、どんなゲームかと言えば、テレビゲームのRPGと同じ。
自分のキャラクターを作ってそれを演じる。
違うのは全ての進行を【人間】と【サイコロ】が行う事だ。
テレビゲームでは【機械】が処理する事だって【人間】と【サイコロ】で全て処理する。
中にはサイコロを使わないテーブルトークもあるようだが、俺がやったものは全て使った。
俺にとっては夢のようなゲーム企画を自分の身で体験しようとしている。
俺は全力でプレイヤーとして行動しよう。
まずはどんなゲームでもRPGの基本と言えば【仕事探し】からだよな?
「清水じゃなくてシーミズですか? とりあえず生きていくために仕事を探すことにします」
「そいつは良かったな。まさにここが仕事の斡旋所だ。お前は良い身体強化をしているな。かなり魔力が高そうだ。前の仕事は何をしていたんだ? 冒険者だったのか?」
再び『キターー!』テーブルトークのテンプレート導入。
いきなり冒険者の酒場スタート。
安直だけど、良いスタートの仕方だ、ゲームマスター!
ゲームマスターとは簡単に言うと司会者。
ゲームを進行する者の事だ。
プレイヤーは基本的にゲームを楽しむ側だが、ゲームマスターと一緒に物語を作り上げていく、そんな所がテーブルトークは最高なのだ。
さてここはどう答える?
迷っても答えは出ない。
日本でやっていた仕事の事を話してみよう。
ゲームマスターはここで俺を【異世界人】と認定するかな?
「工場で部品を組み立てていました。仕事の後は部活で陸上競技をしていました」
「何を言っているのかよく分からんが所変われば仕事も変わるのだろう。工場ってのは工房の事か? ここでは部活と陸上は聞いた事が無いな。とにかく魔力を計ろう。魔力次第で斡旋出来る仕事も変わってくるからな。身体強化の魔法を全開にしてこいつを握ってくれ」
初老の男性が見覚えのある器具をカウンターの上に置いた。
「握力計ですか?」
「お前はこれを知らぬのか? 簡易のものだが魔力計だ」
刻まれた目盛りに数字こそ書いては無いものの、どう見ても握力計にしか見えない。
魔力?
異世界必須項目と言えなくないが……
この企画で魔力がどういうものかまだ分からない……だが握力に自信はある。
これも俺の異世界好きを考慮に入れて考えてくれたサプライズ企画の一環だろう。
今こそ数少ない俺の宴会芸『リンゴを軽々と握りつぶす握力』を見せる時!
ちなみに俺の宴会芸で盛り上げられた事はない……特にリンゴを握りつぶす行為は嫌われた……芸の後は俺だけで1人さみしくいただきました。
気を取り直し魔力計と言われて渡された握力計を思いっきり握る。
数字は書いてないので正確な数値が分からないけど付いている目盛りの4分の3は軽く超えたところまできた。
少しドヤ顔で初老の男性に魔力計を返す。
「こいつは驚いた。常人の倍以上の魔力があるな。これだけ魔力があれば冒険者としても活躍できるぞ。そう言えばまだ名前を名乗っていなかったな。ここの館長をしているドカチーニ。有望な若者は大歓迎だ。これからよろしく頼む」
「わたしはシーリンと申します。ここで受付をしております。よろしくお願いします」
ここまで黙って二人のやりとりを聞いていた女性が会話に参加してきた。
小麦色の肌が印象的なスレンダーで笑顔が素敵な女性だ。
「私の名前は……ユークリットと申します」
勿論日本人としての本名は別にあるがこの企画に合わせて、普段ゲームで使っている名前をとっさに答えた。
2人の名前を聞いて、日本人名よりも世界観に合っていると思ったからだ。
偽名を使っている人を信用できない?
普段のリアルな世界なら俺もそう思う。
だが時と場合があるだろう?
俺が読んでいるネット小説や漫画はペンネームだらけだ。
俺が知らないだけかも知れないが、本名で書いている奴なんて、正直言って見た事が無い。
ペンネームを使っている奴も信用しないのか?
世界にはそれぞれ世界観にあった【名前】があるんだよ。
今回はそれが【ゲームネーム】ってだけだ。
2人の名前を聞いた限りだが、【日本名】を使うより、この【異世界企画】に合うだろう?
「それでユークリット。冒険者登録するか? お前の魔力なら歓迎するぞ」
「冒険者とはどういった仕事ですか? どうも記憶も混乱しているのか社会常識がすっかり思い出せなくなっているようです。草鞋の履き方すら分かりません」
「記憶喪失か? 海に漂流した時亡くしたのか? 名前を忘れるとかはよく聞くが常識の記憶を無くすとは珍しいな。草鞋すら履けないのか? 話が長くなりそうだな。シーリンあとは頼むぞ」
そう言うとドカチーニさんは安楽椅子へと戻って寝に入った。
マントで隠しているがもしかしたら左腕が本当に無いのかも知れない。
そんなところがこの企画に本物と思える異世界の雰囲気を醸し出す。
ドカチーニさんがシーリンさんに説明を譲ってくれて良かった。
俺だって某格闘ゲームのラスボスを一瞬で倒して乱入してくるような恐いおっさんの雰囲気を纏った相手よりも、健康的な小麦色の肌で笑顔の素敵なスレンダー女性を相手にした方がずっと良い。
記憶の扉から這い出ようとする幼馴染を蹴り戻し、シーリンと名乗る女性へ語りかける。
「シーリンさん初めまして。とりあえず草鞋の履きかたから教えてもらえますか?」
「はい。良いですよ。まず履かせますので覚えて下さいね。足を出して下さい」
シーリンさんは俺の前に座り、草鞋を履かせてくれた。
色すら付いていない俺の貫頭衣は首元にも腋にも隙間が開きまくっていて、そこから肌が奥まで見える。
下から覗き込まれた時には、防御力は皆無だ。
その際は倫理的にテレビアニメ特有の『謎の黒い影』や『謎の光』が必須になる。
だが、この世界では青い円盤規格で『謎の黒い影や光』は入らない……はずだ。
シーリンさんは俺の足元しか見ずに草鞋を履かせてくれている。
彼女が目線を上げたら防御力が皆無の俺の大切なものはどう見えるのだろう?
少しいけない想像をしてしまったな。
亀さんの首を伸ばしては駄目だ。
真面目に草鞋の履き方を教えてくれているシーリンさんに失礼だからな。
失礼と思っても期待してしまうのが健全な男と言う生き物。
ちらりを期待してシーリンさんの首元を見るが貫頭衣は特別注文なのか色も濃い藍色。
それはそれで美しいのだが、俺の期待は打ち砕かれた。
体にもピッタリ合っていて首元にも腋にも一分の隙も無かった。
下半身も足首まで伸びた特別仕様。
唯一の隙は右側に大きく入ったスリットのみだ。
そこから覗く小麦色をした肌の魅力に俺の目は釘付けだ。
俺の視線に気付いたのかは分からない。
彼女は笑顔で顔を上げて俺と目を合わせて話掛けてくる。
決して俺の股の部分で視線を止めるような事はしない。
「草鞋の履き方分かりましたか?」
「一度では覚える自信が無いので分からない時はまたお願いします」
「はい。その時はまた教えますね。他に聞きたい事はありますか?」
「次こそは頑張ります。聞きたい事はまだまだたくさんあります」
何を頑張るかはシーリンさんには言わない。
草鞋の履き方も本当は一応覚えた。
俺に草鞋を履かせたシーリンさんが向いの席へ座る。
これからチュートリアルかな?
この異世界企画を楽しむ為にもしっかり聞いておこう。
「先程言ったように私は記憶喪失です。基本的な常識から教えて下さい」
「はい。わたしの分かる範囲で色々と教えましょう」
やはりこの方の笑顔は良い。
癒される……どこかの幼馴染の仏頂面と大違いだ……
彼女の笑顔にぼーっと見惚れる俺の耳を澄んだ鈴の音がくすぐる。
同時に幼馴染の呪詛が聴こえてくるが幻聴だ……
「まずは何から話しましょうか?」
「はい! 街の中は安全でしょうか?」
「生きている以上、安全な場所はどこにもありませんよ……」
表情ひとつ変えない笑顔のままで何と言う言葉を吐くのだ?
安全地帯は無いから常に気を付けろと言う警告だろうか?
異世界企画だし、平和な現代日本の気分でいるな、と言う事なのだろう。
「……失礼しました。本当に聞きたい事は魔族の事ですね。城壁でしっかりと護られた街ですから魔族や魔物と住み分けは出来ています。絶対に居ないとは言えませんけど」
「魔族? 魔物? 申し訳ありませんがそれすら私は分かりません」
「失礼しました。あなたは記憶を失っていましたね。魔族や魔物はヒト族と……主に我々人間族へ敵対する者達です。逆にヒト族は人間族へ協力的な者達の総称です」
「なるほど。きっと魔族は凶悪な姿をしれいるのでしょうね」
どうやって魔族を表現しているのだろう……やはり着ぐるみか?
少しだけ魔族と会うのが楽しみだと思う俺に意外な言葉が返ってくる。
「外見から魔族を判断できませんよ。人間族の中にも魔族はいますから」
「それではどうやって魔族と判断したら良いのでしょうか?」
「そうですね……やはり一番簡単なのは話をする事でしょうか。魔族の多くがヒト族と別の言語を使います。ヒト族の言葉を使う魔族もいますから気を付けてください。同様に魔族の言葉を理解するヒト族もいますから……そう考えると自分の直感が一番ですね」
「はははっ……直感ですか……」
俺の笑顔はひきつるが、シーリンさんは見惚れる笑顔のまま無茶を言う。
彼女が使っている言語は間違いなく日本語だ。
魔族が使う言語は英語かドイツ語か、それとも他のマイナーな言語か……
ますます魔族へ会うのが楽しみになってきた。
「大丈夫ですよ。この街にいる限り魔族と突然遭遇する事は滅多にありません。ヒト族の中には魔族を一目で見分ける方もいます。そして見つかると、魔族は街から排除されます」
「なるほど」
「当然と言うべきか、魔族を見抜く方はヒト族の領域外で活動する冒険者に多いです」
「冒険者ですか」
「はい。ユークリットさんも魔力をヒトより多くお持ちですから、冒険者を目指してみてはどうでしょうか? 命懸けですが桁違いに稼げますよ」
「はははっ。私は一度も命懸けの仕事をした事がないので不安しかありません」
「一流冒険者も逃げ出しそうな体をお持ちなのに……そうでした。記憶を失っていましたね。わたしの想像ですが記憶を失う前は冒険者だったと思いますよ。そうですね……街から街へと商品を持って移動する商人や船乗りも冒険者に分類されます。不安でしたら、そこから始めてみたら良いと思います。大きな集団になりますし、危険は減ります。その分、稼ぎも減りますけど。あなたの体格ならば容易に参加できると思います」
眩しい笑顔で冒険者を薦めてくる。
こうなると異世界企画の自由度が気になるのは俺だけなはずがない。
少し探りを入れてみようか。
「他に私へ適した仕事がありますか? できれば街中が良いです」
「そうですね……冒険者と同じように魔族や魔物と戦いますがヒトが住む領域を守る衛兵や衛士と呼ばれる仕事があります。冒険者との違いは基本的に魔族の領域へ出て行かない事です。衛兵は徴兵されているヒトがほとんどで稼げません。衛士に就くのは主に下級貴族や士族です。あなたが狙うとしたら衛士が個人的に雇う衛士補ですね。衛士補でしたら街中で生活できますし、稼ぎも街中ではかなり良いと思います……やはり冒険者と比べると稼ぎが少ないです」
「なるほど。ありがとうございます。私は危険の少ない仕事がしたいですね」
「危険の少ない仕事ですか……他に街の仕事は沢山ありますが、安全なほど稼ぎは少なくなります。この斡旋屋は街中の仕事を多く扱っていますから、いつでも相談へのりますね」
「はい」
「ユークリットさんが文字の読み書きできるようでしたら、一覧表をお貸しします。良い仕事がありましたら、いつでも斡旋しますね」
「記憶喪失ですから読み書きも自信がないです」
「試しに一度目を通してください」
そう言うとシーリンさんは何枚かの羊皮紙をまとめたものを俺に渡してくれた。
街中で請け負える仕事が書いてあった。
「この文字なら読めます」
「それは良かったです。文字が記憶を取り戻すきっかけになると良いですね」
「ありがとうございます」
本格的に仕事一覧へ目を通しながら、彼女との会話を反芻する。
一番驚いた事はこの異世界企画に【魔族】と【魔物】が居る事だ。
本物の臨場感がたっぷりのこの異世界企画。
魔族や魔物はどんな感じで出てくるのだろうか?
着ぐるみでないとしたら立体映像とか?
実用化されたと聞いた覚えはないが、試作品が使われているかもしれない。
ドラゴンとかが出てきたら胸熱だ。
今から楽しみで仕方が無い。
選ぶ仕事は、シーリンさんの話を聞く限り、この企画は冒険者を選択するのが王道だ。
彼女は何度も俺へ冒険者を薦めてきたしな。
だが俺はプレイヤーとしてのいたずら心がうずいて並べられた依頼の中で誰も選択しないであろう【船から倉庫へと荷物を運ぶ仕事】を選んだ。
シーリンさんはどんな反応をするか?
まだ見ぬゲームマスターさんは俺のわがままへ対応してくれるかな?
伝えてみよう。
「はい。分かりました。その仕事ならば空きがあるはずです。今日はもう日が傾いていますので明日の朝からとなりますがよろしいですか?」
「はい……よろしくお願いします……」
全く変わらぬ笑顔で躊躇なく承諾してくれたシーリンさん。
もしかしてゲームマスターは先程並べた無数の仕事イベントを全てカバー済みですか?
これだけ臨場感たっぷりの【異世界企画】です。
どんなに人気の無さそうなイベントにも手は抜いたりしていないのですね。
最後にこの企画を続ける事で、起きそうな問題点を聞いておきましょう。
「あとは衣食住の問題をどうするかなのですが」
「それについては問題ないと思います。今月分の家賃は朝食夕食を賄ない付きで、すでにいただいています。あなたには衣服の替えをあと二着、館長から渡すように言われています」
「衣服の替えってこれですか?」
自分の貫頭衣を指して尋ねる。
シーリンさんが変わらぬ笑顔で答える。
「はい。同じものです。後で館長にお礼を言っておいて下さい。ユークリットさんは読み書きが出来ますので、代筆の必要がありません。仕事を紹介する時に楽ができそうです」
少しでも彼女の好感度が上がるなら嬉しいけど、きっと企画参加者全員ができるな。
服は同じものか……
同じ1着なら、上よりも下が良かった。
俺の希望はともかくとして、この上1枚には希望もある。
女性も同じ服事情かも知れない!
シーリンさんの服を見る限り期待は持てないが……
羊皮紙で使用されている字は日本語だったが、どこか違和感があった。
少し不安がある。
「字は書けますが、記憶違いがないか不安なので試しに書いてもらっても良いですか?」
「はい。分かりました。名前・種族・年齢を教えて下さい」
「ユークリット。人間。26歳です」
「二十六歳ですか? わたしの一つ下ですね。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
シーリンさんが書いた文字は名前がカタカナ、他が全て漢字で書かれていた。
そうか。
数字が漢字表記。
アラビア数字を一度も見なかった。
俺はこの事へ違和感を覚えたのか。
「書いてもらって良かったです。多少普段から使う文字は違いますが次から自分で書けそうです。色々と安心したらお腹が減りました。何か食べ物をいただけませんか?」
「時間が少し早いですが賄いの夕食を出しますね。海を漂流してから目覚めたばかりですし、明日から仕事もあります。今日はゆっくりと休んでください」
用意してもらえた夕食を猛烈な勢いで食べた俺は、与えられた自室に戻り寝ることにした。
明日からのイベントは楽しみだが、今日はとにかく疲れた。
シーリンさんの言葉に気になる部分があり、俺はそれを思い出す。
「今月分の家賃は朝食夕食を賄ない付きでいただいています」
『今月分?』いやいや企画で言っているだけだよね?
有給休暇って、そんなにあったっけ?
1ヶ月とかはテレビレベルの企画になるよね?
最近のカメラとか小さいから見つからないだけでもしかして本当にテレビ企画?
最後は【どっきり】でテレビに映るの?
テレビ企画とかは嫌だな。
せめて映すなら顔にモザイク掛けて声を変えてくれ。
だが、うちの社長ならばテレビ企画に社員を無断で売りかねない。
そんな事を考えているうちに、気力が尽きたのか、いつの間にか眠りに落ちていた。
この時はまだサプライズの【異世界企画】と信じ少しも疑っていなかった。
旧国名 本当は『駿府』では無く『駿河』が正解です。
尚、2019/01/09誤字脱字報告にありました「呪い」のルビは意図しての事です。
初めての誤字脱字報告であり嬉しくもありましたが、直さない事をご了承下さい。