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 入学式が終わり、体育館でそのまま解散することになった。

 故に今は、下校中。


「やっぱり……空耳とは違うんだよな」


 横断歩道を渡りながら、俺はそう呟いた。

 昔からそういうところはあった。

 決定的な証拠がないと、中々納得できないのだ。

  かなり面倒な性格をしていると思う。

 何せ、自分で自分に言い聞かせることすら、できないのだから。


「内容も、よく分かんねーしな……」


 あの声の正体について考え始めて早くも十五分が経つが、それは未だに未解決のまま。

 そろそろ思考の辞め時なのだろうが、残念ながら性格上、それはできない。

 つくづく面倒な性格をしていると思う。


「どういうことだったんだろう?」


 俺は眉間に皺を寄せながら、空を見上げた。

 一番気がかりなことは、首が動かなかったことでもなければ、声が聞こえてきたことでもない。

 ――――一年G組から微かに感じた、謎の気持ち悪さだ。


「何か手がかりさえあればなぁ」


 何の手がかりもない。そして、この一件を解決したところで何の見返りもない。

 やはり、この案件だけは何回考えても、嫌気がさしてくる。


「もう、辞めるかぁ……」


 そう言った俺は、持て余した手をポケットに突っ込みながら歩いて――



 ――――殺せ。あいつはここに居てはいけない存在だ。だから、殺すんだ。君とあいつは相容れない存在なんだ。



「――ッ!!」


 金縛りにでもあったのだろうか?と思ってしまうぐらいに、足が完全停止してしまった。


「……またかよ!」


 まただ。またあの感覚だ。耳元で囁かれるかのような、あの悪辣で不気味な感覚。


「ぉ、お前は一体! 誰なんだ?」

「―――――」


 勇気を振り絞ってそう言ってみたのだが、やはりその後には沈黙しか残らなかった。

 まぁ鼻から期待などしていなかったから、別にいいのだが。


「クソッ!」


 しかし、理解しがたい。

 殺す。あいつ。ここに居てはいけない存在。相容れない存在。

 さっきからそんな言葉が脳の中で、渦潮のようにぐるぐると回っている。

 頭がおかしくなってしまいそうだ。


「…………意味分かんねぇ」


 やっとの思いでそう吐き出した俺は、片手で頭を抑えつけながら、ゆっくりと辺りの景色を見渡した。

 道の両端を挟むようにして立ち並ぶ住宅。

 灰色のコンクリート。

 そして、進行方向を隔てる、はげかかった白線。俺の瞳には、『日常の風景』が映る。

 どれも、風光明媚とは決して言えない風景だが、それを見ているとなぜだが気持ちが楽になって来た。


「とりあえず、帰るかぁ」


 そうだ、家へ帰ろう。そしてとりあえずゲームでもして、心を和ませよう。

 こんなこと、やはり忘れてしまうのが最善だ。度重なる超常現象に一喜一憂していてはキリがないし、帰るまでに日が暮れてしまう。

 そんなわけで、この案件について今度こそ考えるのを止めた俺は、また歩き出し――


「危なぁ!!」


 十字路を直進しようとした俺。

 焦燥と仰天に満ちた奇声が右から聞こえ、体を右に旋回させようとすると、


 ――ぶつかった。まただ。


 鈍い衝突音が鳴り、右肩に多少の痛みが走る。

 衝撃を吸収するような低めの独特な音や、衝突によって体に走った痛みがそこまでではなかったことから、ぶつかった相手は人だと推察できた。


「あのー大丈夫っすか?」


 見るとそこには、座り込んだ少女の後ろ姿。

 俺との衝突に耐え切れず、転倒してしまったのだろう。

 女の子だから無理もない。

 艶のある薄茶色のミディアムストレートの髪を風になびかせ、俺に背を向けたまま少女は立ち上がる。

 後姿だけでも、紺色の制服や学校指定のバックから上向の生徒であることが分かった。

 また、この時間に下校している時点で、一年生であることもおおよそ見当がつく。


「っあ! 大丈夫です! そちらこそ大丈夫ですか?」


 小鳥が鳴くような甲高い声を震わせる彼女は、制服を叩きながらどこか厳かな様子で、後ろを振り返った。

 そして、彼女の動く様子に何となく注目した俺には、それがなぜだかスローモーションに見えていた。


 ――まず初めに、彼女の頬が見えた。日に焼けたことが一切なさそうなくらいに白く雪のような頬だった。

 次に、彼女の鼻が見えた。指で摘み上げたような、小さくて愛らしい鼻だった。

 そして、彼女の片目が見えた。長いまつ毛に囲まれたそれは、髪の毛の色同様に茶色で恐ろしいほどに芯の強い瞳をしていた。


 そんな、彼女の全貌が見える前に、俺は痛んだ肩をさすりながら、


「いや、俺は全然だいじょ……」


 言葉を言い切ろうとした途中、凝視していた彼女の茶色の瞳と、俺の黒い瞳の視点が完全に合致した時――――



「――はぁ?」

「――はぁ?」



 困惑で満ちた二人の声が重なる。意識を無視した、反射的な発声だった。


 ――――そして、絶対に対峙してはならない俺と彼女の対峙が今、開幕する。


もっともっと、ぶち壊していきます。

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