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「ふー、やっと着いた」


 上向学園の校門の前に立つ俺は一息ついてからそう呟いた。

 学校周辺には、そびえ立つ桜の木が満開に咲き誇っており、ひらひらと舞い散る桜の花びらが、いかにも春らしい情景を辺り一面に演出していた。


「……遠いな」


 家からここまでは、徒歩約三十分。

 中学時代帰宅部であった俺にとっては少々の運動だった。

 少し汗を掻いた額と首筋をハンカチで軽く拭いて、俺は上向学園の本校舎を一瞥した。


「やっぱでけーよな」


 上向学園は全校生徒、約千五百人を収容する高校だから校舎が大きいのは当たり前なのだが、それでもあまりの巨大さに仰天してしまう。

 そして、


「俺、これからここに通い続けるのかぁ……」


 先のことについて考えると何だかよく分からないが、少し緊張するのは俺だけであろうか。

  きっとそんなことはないと思う。

 そんな、判然としない緊張感を胸に抱きながら、俺は上向の校門を通り抜け――


「うわっ!?」


 想定外の大きさを見せる校舎に、目を奪われていたせいだろう。

 歩いている途中、誰かと――――ぶつかった。


「あっすいません!」

「いえいえ、こちらこそ」


 その声を聞いて、俺はぶつかった相手が女性であると、すぐに推察できた。

 がしかし、その女性がこんなにも美しいとは思ってもいなかった。


「だ、だ、だい、じょうぶ、ですか?」


 視線を上げ、澄んだ緑色の瞳と視線が合致。

 俺は思った。


 ――美しすぎる。


「ええ。ぶつかっただけですから」


 混じり気のない、緑色のロングヘア―を耳に掛け、大人しやかな笑顔で俺と相対する彼女。


「…………」


 そんな彼女のあまりの美しさに俺は、言葉を失ってしまう。

 ――こちらを見つめるパッチリと開いた緑色の瞳に、長いまつ毛。西洋人のように高い鼻に、小さくて艶めかしい口元が少し綻ぶ。

 『容姿端麗』というのは彼女のために用意された言葉である、と言っても過言ではないくらいの美貌だ。


「私、緑川実華と言います。」


 軽く目を瞑りながら、会釈する彼女は一呼吸おいて、続けた。


「これも何かの縁ですから、お名前を名乗って頂けると嬉しいのですが……」

「……あっはい! 俺、鬼川滉輝です!」


 返答を促され、慌てて俺は口を開く。

 ……危ない危ない。

 彼女の美しさに、しばしの間見惚(みと)れてしまい、二の句を継げることができなかったのだ。


「鬼川君も一年生何ですか?」


 『も』ということは、緑川さんも一年生ということか。

 落ち着いた態度と気品のある立ち振る舞いは、甚だ同学年と思えないが。


「はい」

「では、ご自分のクラスはもう確認されましたか?」

「いやまだです」

「そうですか……」


 そう言って、少し俯いた俺の顔を覗き込むようにして見つめてくる彼女。

 そんな彼女は、次の瞬間――


「――――鬼川君と同じになれたら私、凄く嬉しいです」


「……へっ?」


 天然なのか。それともあざといのか。

 どっちにせよ、予想外の爆弾発言に思わず息が漏れてしまう俺だった。

 驚きと戸惑いに振り回され、目を丸くする俺に対し、彼女はその美しい表情を全く変化させる様子はない。


「そ、そうですね! クラス一緒になったら、よろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 自分の大胆な発言を意に介していない様子からして、彼女は天然なのだろう。

 勝手にそう結論付けた俺は、右肩に背負っていた紺色の学校指定バックを左肩に背負い直して、


「じゃあ、俺行かないといけないんで、お先に失礼します」

「ええ、そうですね。引き留めてしまい、どうもすいませんでした」

「いやっ、とんでもないです」


 「ではまた」と付け加える彼女に会釈してから、俺はまた歩き出した。

 初志貫徹。

 固定されたような美しさを披露する彼女は、会話が終わっても、その美々しい笑顔を絶やさないでいることであろう。


「綺麗だったなぁ」


 ポカンと口を開けながら、俺は彼女の甘美な余韻に浸る。

 最後の最後まで華やかだった彼女の顔が、中々頭から離れないのだから、まぁしょうがな――


「何考えてんだ! 俺。駄目だ駄目だ」


 と自分に言い聞かせても、結局、消えない煩悩。

 脳裏にふと浮かぶ強烈な美形を、ブンブンと首を振って掻き消すのは実に困難だ。


 そうして俺はやっとのことで、上向学園の本校舎に入ることができたのであった。


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